研究レポート

これからの時代の採用要件と面接評価 -何を・なぜ・どのように評価するのか-

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「何を評価するのか」と「なぜ評価するのか」

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
主幹研究員

今城 志保(いましろ しほ)
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「何を評価するのか」と「なぜ評価するのか」

米国の採用現場では、近年スキルベースの採用への注目が高まっている(Fuller, Langer, & Sigelman, 2022)。この流れは、学歴主義への反動と、人手不足が背景にあるといわれている。加えて、多くの人に就労機会を提供すべきといった理想にもかなう。スキルベースでの採用では、応募者が保有・活用できるスキルや能力をベースに採用が決められるため、学歴は低くとも特定の仕事で成果を出すためのスキルを備える人にとって、活躍の場が広がる。特にコロナ禍での医療従事者の採用において、スキルベースの採用へのシフトが多く見られた。

通常スキルといえば、職務に必要な特定の資格や知識をイメージするが、学歴主義からスキルベースの採用にシフトした場合、併せてコミュニケーション能力のようなソフトスキルが評価されているそうだ。米国において、高学歴者を採用している組織は学歴が高い人には社会的スキルが備わっていると想定していることから、その代替としてソフトスキルが評価されるようになったと考えられる。

この例から、採用で「何を評価するのか」は、仕事や組織によって異なることはもちろん、社会的文脈や環境変化の影響を受けやすいことが分かる。ただし、学歴主義であっても、スキルベースの採用であっても、雇用する側は、応募者が「仕事ができるか」「組織でうまくやっていけるか」を気にしているという点では、変わらない。スキルベースの採用におけるソフトスキルへの注目は、組織で他者とうまく協働するためにも重要な要件である。

図表1は、採用面接の評価内容として、著者がまとめたものであるが、ここでも、仕事との適合と組織との適合が評価内容の大きなカテゴリとして示されている。つまり、何を評価するかは時代や組織によって変化するが、評価の目的は変わらないということである。この点を意識することで、採用時に評価すべき要件を考えやすくなるだろう。

<図表1>面接評価内容に関する概念的枠組み(今城(2016))

面接評価内容に関する概念的枠組み

採用要件となる人物特徴の抽象度

日本の新卒採用では、入社後に配属が決定することがまだ一般的であることから、仕事との適合を入社時に評価することが難しい。加えて、応募者の学生にはそれまでの仕事経験がほとんどないことから、この点でも仕事との適合評価には困難が伴う。そのようななかでも、多くの日本企業は、応募者が仕事に就いたときに成功する可能性を高めるような人物特徴を評価してきた。いわゆるポテンシャル評価である。

具体的に、日本の新卒採用では評価内容を定める一般的な方法として、組織にあるさまざまな仕事に共通して求められる要件を想定し、その要件を仕事との適合として評価を行ってきた。このような仕事との適合評価を念頭に、欧米型の仕事との適合評価との相違をまとめたものが、図表2である。

<図表2>職務との適合評価と職務との適合潜在力評価(今城(2016)を著者修正)

職務との適合評価と職務との適合潜在力評価

図表2の考え方のベースにあるのが、人材要件の抽象度である。新卒採用に見られる「ポテンシャル」の評価も「共通要件」の評価も、人材要件の抽象度を上げることで可能になる。学生時代の積極性と、仕事での積極性は必ずしも一致しないかもしれない。営業としての積極性と、人事としての積極性も異なるかもしれない。しかし、それらの積極性には関連があるとの前提で、積極性を評価することが、抽象度の高い人材要件評価の一例である。他方、営業の積極性を「対人積極性」、人事の積極性を「課題への取り組みの主体性」とした場合、抽象度の低い、特定の仕事に限定した人材要件になる。

抽象度の高い人材要件の評価には欠点もある。上記の例で行けば、さまざまな場面で見られる積極性には関連があるとの前提を置いている。しかし、学生時代に積極的だった人が、仕事でも積極的であるというのはどの程度の確率で起こり得ることだろうか。これまでの研究では、人の行動は場面によってかなりばらつきが大きいことが分かっている(Tett, Toich, & Ozkum, 2021)。つまりある場面で積極的にふるまう人が、異なる場面ではそうでもない可能性がある。抽象度を上げることで、さまざまな場面に共通する特定の行動特徴の予測を志向することが可能になる一方で、特定場面での予測に比べると精度が低くなる可能性があることに留意する必要がある。

新卒採用での評価精度を高めるために

抽象度の高い人材要件評価の妥当性を高めるカギは、いくつかある。1つは、職務の成果につながる重要な行動を特定することである。クリティカル・インシデント法という方法では、職務遂行において非常に重要な課題解決の出来事に着目する。クリティカル・インシデントには、場面の特徴とその場面でどのような行動が課題解決の成否を分けるのかに関する情報が含まれる。異なる仕事の間の共通性を検討する際には、それぞれの仕事における場面と行動が一体化したクリティカル・インシデントを集めて用いることで、より精度の高い人物特徴の抽出が可能になる。例えば、営業職としての成功が、顧客先の担当窓口と相談をしながらではあるものの、先方の関係部署にも主体的に動きかけることだとしよう。他方、スタッフとしての成功は、社内関係者を巻き込んで、プロジェクトを主体的に推進することである場合、共通の要件として「直接利害の一致しない複数の人から理解と協力を得るための主体的行動力」が考えられる。

人材要件評価の妥当性を高めるもう1つのカギは、応募者が経験してきた学生時代の行動と、仕事場面での行動の共通点を意識することである。学生時代の経験については、応募者ごとに異なる場面での情報になるため、まずは、仕事場面での人物特徴を確認する。これは上記のクリティカル・インシデント法によって行うことができる。人材要件の定義に当たっては、行動特徴だけでなくどのような場面での行動かを併せて記述しておくことが望ましい。これによって、応募者が学生時代に該当する行動を発揮した場面と、人材要件に記述された行動が生じる場面の違いを意識することができる。上記の例で行けば、「直接利害の一致しない複数の人から理解と協力を得る」経験を、学生時代にしている人はあまり多くないかもしれない。そこで採用時の人材要件を、「自ら進んで他者から協力や援助を得ることのできるコミュニケーション能力」とすることで、ポテンシャル評価につなげることができる。

上記で挙げた2つのカギは、いずれも「行動が生じた状況」を意識することの重要性を示すものである。現実的な制約もあり、抽象的な人材要件による評価を余儀なくされることがあっても、行動と状況をセットで意識することで、妥当性をあまり下げることなく評価を行うことが可能になるだろう。

最後に著者がある会社で行った採用面接評価の妥当性の研究を紹介しておく。この会社の新卒採用では、入社前に配属は分からないものの、最も重視する職種として営業職を取り上げて、営業職の人材要件設定とそれを用いた構造化面接を導入した。構造化面接とは、事前に面接評価のための人材要件を明文化し、評価に必要な情報を得るための質問を用意し、応募者からの応答を評価するための指標の準備を行う設計された面接のことである。

入社後の活躍(業績考課)を結果指標として面接評価の妥当性を検証したところ、その時点で営業に就いていた人では、業績考課との相関が有意(r=0.23)であったのに対して、営業以外のスタッフ職では、有意にならなかった(r=-0.14)(今城, 2016)。この結果から、ポテンシャル評価は、入社後の活躍を妥当に予測することが示された。ちなみに、予測の精度は欧米での先行研究と比べるとやや劣るが、これはポテンシャル評価であったことによるものと考えられる。また、営業職に特化した人材要件であったため、職種共通の人材要件を設定した際の検証にはなっていないことに注意が必要である。営業以外のスタッフ職では、有意な相関が得られていないことから、やはりさまざまな職種での活躍を予測したい場合は、そのための人材要件設定が必要である。

上記の妥当性検証を行った会社では、面接官の事前トレーニングを時間をかけて行っている。また、一度の取り組みではなく、毎年面接が終了すると振り返りを行い次年度に向けた改善点を確認している。今回は、人材要件に焦点を合わせたが、採用面接の妥当性向上に向けては、さらに留意すべきことがある。こちらについては、あらためて紹介できればと思う。

Fuller, J., Langer, C., & Sigelman, M. (2022). Skills-based hiring is on the rise. Harvard Business Review, February 11, 1-6.
Tett, R. P., Toich, M. J., & Ozkum, S. B. (2021). Trait activation theory: A review of the literature and applications to five lines of personality dynamics research. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 8(1), 199-233.
今城志保(2016).採用面接評価の科学―何が評価されているのか―. 白桃書房

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