研究レポート

2040年働き方イメージ調査からの考察 vol.1

働く人々の将来展望と自身の希望

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働く人々の将来展望と自身の希望

社会の急速な変化が続くなか、私たちは未来の「働く」をどのようにイメージしているのでしょうか。生成AIの進化、人口減少・高齢化、そしてコロナ禍による価値観の変化——こうした環境の変化は働き方にも大きな影響を及ぼしています。今回、「2040年働き方イメージ調査」を通じて、働く人々が抱く未来像と自身の希望、その間に存在するギャップを探りました。本稿ではその調査結果から見えてきた、日本社会の将来展望と個人の意識との差異、そしてそこから読み取れる課題と示唆について考察します。

執筆者情報

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技術開発統括部
研究本部
組織行動研究所
研究員

久米 光仁(くめ こうじん)
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調査の背景・概要

弊社では、2013年から2019年にかけて「2030年の『働く』を考える」プロジェクトを推進し、2030年に焦点を合わせて、働くことに関する調査・研究・有識者インタビューを行いました。

それから時を経た2025年現在、私たちの働く環境には大きな変化が訪れています。特に、生成AIの登場とその急速な変化は、従来の常識を塗り替える勢いで技術革新を加速させており、業務の効率化による労働生産性向上が期待されています。

また、国内の人口は今後減少が加速することが見込まれています。1990年代から少子高齢化が議論されるようになって久しいですが、2008年の1億2808万人をピークに人口は減少しています。2040年には、団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者人口に数えられるようになり、高齢者人口の割合は総人口の34.8%に達すると見られています(内閣府, 2024)。加えて、「2030年の『働く』を考える」プロジェクト時点では想定していなかった大きな変化として、新型コロナウイルス感染症の影響が挙げられます。パンデミックは、リモートワークの急速な普及や働く場所・時間に対する意識変化、仕事と生活の境界の見直しといった、新たな働き方の潮流を生み出しました。こうした変化も、2040年に向けた働き方の見通しに大きな影響を及ぼしているといえます。

このように、技術革新や人口動態の大きな変化が進行する時代において、人々が2040年の働き方や環境をどのように捉えているかを探るために、「2040年働き方イメージ調査」を実施しました(図表1)。

本稿では、調査結果のうち「2040年の予測」と「自身の働き方の希望」に注目し、将来の日本社会のイメージと回答者本人の意識のギャップを読み解きます。

<図表1>調査概要「2040年働き方イメージ調査」

1. 変化(1) 2040年に「増える」と予想された働き方

はじめに、2040年の日本において、特定の働き方・活動を行う人の割合が現在と比べてどう変化するか(あなたは、2040年の日本において、以下のような人の割合は今と比べてどのようになると予想しますか)について「減る」~「増える」の5件法で尋ねました(図表2)。

回答者が最も増えると予想したのは「65歳以降でも働く人」で90.0%(「増える」「やや増える」の合計、以下同様)にのぼりました。少子高齢化や人手不足を背景に、65歳を過ぎても働くことが当たり前になると考えられているようです。次いで「転職する人」が82.8%、「介護をしながら働く人」が80.1%と続き、1つの企業に縛られない柔軟なキャリアや、介護と仕事の両立が一般化すると見込まれています。これらの項目に「増える」と回答した割合が高いことは、現在直面している人手不足・少子高齢化といった社会課題が2040年でも継続しているという認識の表れといえます。

<図表2>2040年に「増える」と予想された働き方<各項目単一回答/n=1,941/%>

あなたは、2040年の日本において、以下のような人の割合は今と比べてどのようになると予想しますか。(「増える」「やや増える」の合計)

これらの背景には、労働市場の変化が挙げられます。少子高齢化で国内の労働力人口が減少することが見込まれているなか、高年齢者雇用安定法改正といった法整備も背景に、60~65歳で一律仕事を辞めるという年齢による線引きはあいまいになりつつあります。実際、65歳以上の労働力人口比率(人口に占める労働力人口の割合)をみると、2023年では25.2%(総務省, 2023)となっており、上昇傾向にあります。これは70代以降も同様の傾向が確認できます。平均寿命・健康寿命も伸長しており、健康であれば年齢にかかわらず働き続けることができる社会になりつつあるという側面があります。一方で、物価上昇や年金制度への不安、退職後の生活資金の不足といった経済的な理由から、「働かざるを得ない」状況に置かれる人が増えることも背景として考えられます。こうした「働ける」と「働かざるを得ない」という2つの側面が、「65歳以降でも働く人」が増えるという回答が多いことの背景と考えられます。

次に、「転職する人」についてみると、2023年に転職希望者が初めて1000万人(総務省, 2023)を超えており、転職をキャリアにおける選択肢の1つとして捉えている人が以前と比較して多いことが分かります。また、人手不足のトレンドはここ数年継続しており、それにともない企業側の採用意欲が高まっています。求職者にとっては、より多様な求人のなかから自身に合った条件や働き方を選べる環境が整いつつあります。実際に2024年のリクルートエージェントの求人数をみると、コロナ禍前の約2倍にも達しています(リクルート, 2025)。

最後に、「介護をしながら働く人」が増えるとの見立てについてみると、2040年は団塊ジュニア世代(1971~1974年頃生まれ)が、親世代である団塊の世代(1947~1949年頃生まれ)を介護する時期と重なるといえます。経済産業省の「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」によると、仕事をしながら介護に従事する人の数は2020年時点では262万人でしたが、2030年には318万人、2040年には270万人になると見られています。さらに、家族介護者1人当たりの要介護者数は2020年時点で1.07人とされており、2030年には1.08人、2040年には1.32人に達すると見られています。

2. 変化(2) 2040年に「減る」と予想された働き方

一方で、「管理職になることを希望する人」や「組織に帰属意識を持つ人」は約半数の回答者が減少すると見ています。さらに「仕事にやりがいを感じる人」についても減少予測が多く、エンゲージメントの低下が懸念されます(図表3)。

<図表3>2040年に「減る」と予想された働き方<各項目単一回答/n=1,941/%>

あなたは、2040年の日本において、以下のような人の割合は今と比べてどのようになると予想しますか。(「減る」「やや減る」の合計)

役職ややりがいを追求することを重要視する働き方が相対的に弱くなると見立てているといえます。働き手不足を背景に、企業はエンゲージメントを向上させるためのさまざまな施策を行っているのにもかかわらず、なぜこういった回答が目立ったのでしょうか。

管理職については、他のさまざまな調査でも「管理職になりたくない」と考える働き手が多いことが指摘されており、「管理職は罰ゲーム」と捉える議論も見られます。管理職をみていると、多忙であることや、責任やストレスが増えそうであること、自分には向いていないと感じるといった理由で、管理職への意欲がなくなっているのかもしれません。逆に、従来のように昇進を当然の目標とするキャリア観から離れ、プロフェッショナルなスキルを生かしたり、正社員にこだわらなくなったりする人が増えていく、と捉えている可能性があるともいえます。

帰属意識の希薄化について考えると、コロナ禍を経てリモートワークやハイブリッド勤務によって働く場所・時間が分散し、個々人が顔を合わせる機会が少なくなったことが一因かもしれません。対面で会ったことがない人がチームにいるという場合もあり、物理的に同じ空間に集まる頻度が下がれば、働き手にとって会社そのものへの帰属意識が希薄化していくと考えられます。

最後に、やりがいに関しては、物価上昇に対して賃金が伸び悩むなかで、報酬が伸びるという望みがないと、「頑張っても報われない」という状態になってしまう可能性があるといえます。兼業や地方移住など、本業の仕事以外にも自己実現をする機会が広がりつつあるなかで、「やりがい」を得られるのが本業の仕事だけではなくなることで、そもそも仕事に強い意味づけを求めなくなる人も増えるかもしれません。

改めて、2040年の日本においてどう働き方が変化するかの予想について、「変わらない」の回答も含めた全項目について再掲します(図表4)。

<図表4>2040年の予想<各項目単一回答/「増える」の降順/n=1,941/%>

あなたは、2040年の日本において、以下のような人の割合は今と比べてどのようになると予想しますか。

3. 予測と「自分の希望」とのギャップ

調査では、先ほどの一部項目(「日本で働く外国人」や「メンタルヘルス不調になる人」といった、なることができないもの、希望することが一般的に考えられないものを除いた)について、これからの自身の希望も尋ねました(図表5)。希望が最も多かったのは「転勤したくない」(55.9%:「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の合計、以下同様)で、「テレワーク中心で働きたい」(44.4%)が続きました。働く場所に縛られず、生活拠点を安定させたいという志向が強まっていることがうかがえます。転勤を望まない背景には、家族や地域コミュニティを重視する傾向や、キャリアを主体的に選択したいという価値観の広がりがあると考えられます。

<図表5>これからの自身の希望<各項目単一回答/「あてはまる」の降順/n=1,941/%>

これからのあなたの希望として、以下のことはどの程度あてはまりますか。

一方で、「65歳以降でも働く」「転職する」「複数の組織で働く」「外国で働く」といった項目は、社会全体では「増える」と予測されながら、自分自身は望まない人が多いというギャップが顕著でした(図表6)。

<図表6>2040年の将来予想と自身の希望の比較<各項目単一回答/n=1,941/%>※項目は自身の希望を掲載。

例えば、「65歳以降でも働く人」は90.0%が増加すると見ていますが、「65歳以降でも働きたい」と答えたのは32.5%にとどまり、その差は57.5ポイントに達しています。「転職する人」も82.8%が増えると予測したのに対し、「転職したい」は29.9%で52.9ポイントの差があります。実際に、上述のとおり転職希望者が1000万人を超えたというデータがある一方で、2023年の転職者数は350万人にとどまっており(総務省, 2023)、希望と実際の行動との間には大きなギャップが見られます。こうしたギャップには心理的な要因や、制度・環境面の制約など、複合的な要因が影響していると考えられます。

65歳以上で働くことには、経済的な必要性に加えて、社会参加や生きがいの確保といったポジティブな側面も指摘される一方で、現実には「働きたい」と思わない人が多数派であることが今回の調査から明らかになりました。この背景には、健康面への不安や、年齢により限定される就業機会、現在の職場における高齢者受け入れの体制の不十分さなどがあると考えられます。また、「65歳まで働いたのだから、これからは仕事以外の時間を大切にしたい」「今後は自分のペースで過ごしたい」と考える人も一定数存在します。つまり、「働ける・働くべき」とする社会的期待と、「働きたい」と思える環境や条件、そして個人のライフスタイルの希望との間にギャップが存在しているのです。

同様に、「転職」や「複数の組織で働く」「外国で働く」といった項目も、社会では今後当たり前になると予測されながら、個人の希望としては必ずしも多数派ではない点が注目されます。これは、流動的な働き方が一般的になりつつあるとされる一方で、現状の制度や雇用慣行、個々人の選択が、まだそういった潮流に追いついていないことの表れともいえます。特に日本社会においては、長期安定雇用を前提としたキャリア観が根強く残っており、自発的な転職やマルチキャリアを選択することは、未だに「リスク」として捉えられる傾向が強いことも影響しているかもしれません。

4. 2040年の社会変化に対する見通し

社会全体の展望について確率を尋ねた結果、「60~80%未満」「80%以上」の選択率合計が最多だったものは、「生涯未婚率が高まっている」でした(図表7)。未婚率の上昇をある程度見込んでいるようです。反対に、「20%」未満の選択が最多だったのは「出生率が高くなっている」で、未婚化の進行と出生率低下をセットで見込む傾向が強いことが分かります。また「暮らしが豊かになっている」「幸福感が高まっている」といったポジティブな項目は、いずれも高確率で起こると見る人が少なく、将来に対してやや悲観的な姿勢が浮かび上がりました。

この結果は、日本社会における将来展望に対する人々の認識が、総じて慎重であり、悲観的であることを示しています。実際に2020年の生涯未婚率は男性が28.3%、女性は17.8%(総務省, 2020)であり、皆婚社会が崩れつつあることが分かります。

そのような現状を背景に、未婚化・少子化は避けがたい未来として、多くの人が捉えているといえます。

<図表7>2040年の出来事の予想 <各項目単一回答/n=1,941/%>

あなたは、2040年の日本において、以下のような変化がどの程度の確率で起きると予想しますか。

さらに、暮らしの豊かさ、幸福感の向上といったポジティブな変化に対しては、多くの人が懐疑的な見方をしていることが分かりました。これは単に経済成長の停滞や社会保障制度への不安といったマクロ要因にとどまらず、個人レベルでも希望や展望を描きにくいという時代背景があると考えられます。ここ25年ほどの間、日本では実質賃金がほとんど上がっていません。そのようななかでは、長期的な見通しの立てやすさが薄れ、悲観的な予測になってしまうとも考えられます。

6. おわりに―2040年に向けた課題と示唆

働く人々が抱く将来展望に関する結果をまとめると、量的不足(人手不足)と質的課題(エンゲージメント低下)が同時進行する未来像を抱いていることが分かりました。労働参加の裾野が年齢を問わず広がる一方で、1社で働き続けるというこれまでのようなキャリア形成に執着しなくなるということを予測しています。場所や生活基盤を安定させつつ、業務そのものはリモートで柔軟に遂行したい――働き手の志向は組織内での立場よりも働く環境と暮らしの一貫性へシフトしていることがうかがえました。さらに、社会の進む方向と個人の希望には大きなギャップが見られます。こうしたギャップをどのように埋めるかが、今後の人材不足社会における政策や人材マネジメントにおいて重要になってくるでしょう。

現在は、暮らしの豊かさ、幸福感の向上といったポジティブな変化が見通せないという回答が目立っていますが、このようななかでは、未婚化・少子化の問題が解決しているという未来像を描くことは難しいかもしれません。社会全体で、個人が将来に期待をもてるような環境整備や機会の提供が求められているといえます。

組織には、高齢者や多様なバックグラウンドをもつ人材が活躍できる環境の整備が求められると共に、個々の働きがいをどう設計し、維持するかが問われています。今日においても働く人の希望を尊重しつつキャリア自律を後押しする制度と風土づくりが重視されていますが、2040年に向けて、それらがますます重要になっていくでしょう。

参考文献

内閣府 (2024). 令和6年版高齢社会白書.
総務省 (2023). 労働力調査.
リクルート (2025). 2024年度 転職市場の動向.
経済産業省 (2024). 仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン.
厚生労働省 (2024). 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について.

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