研究レポート

採用選考プロセスが候補者に与える印象とは?

新卒採用における採用CX(候補者体験)向上のヒントをひも解く(後編)

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新卒採用における採用CX(候補者体験)向上のヒントをひも解く(後編)

前編では、採用CX(Candidate Experience)の定義および海外における採用CXに関連する過去の研究事例についてご紹介しました。後編では、日本における採用CXについて考察します。しかし、日本における採用CXの歴史は浅く、関連する研究事例が十分に蓄積されているとは言い難い状況です。そのため今回は、国ごとの採用CXの傾向の違いを検証した海外の研究事例に触れた後、弊社が独自に実施した調査結果をご報告します。

執筆者情報

https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/authors/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/ae37d81a45dc46e0b343d100e0f5292f/kai_0Z3A6945.webp

技術開発統括部
研究本部
測定技術研究所
研究員

甲斐 江里(かい えり)
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採用CXに関する国ごとの違い

前編でご紹介したとおり、海外においては採用CXに関連する研究事例が数多く存在します。そのトレンドの1つに、地域(国)ごとの候補者の反応の違いを比較する研究があります。例えば、Andersonら(2010)は過去の候補者反応に関する研究を統合し、メタ分析を行いました。この分析の結果、候補者の反応は国を超えて一般化可能なこと、その背景には職務との関連性や選考プロセスの公正さといった共通した要素が影響しているであろうことが示唆されています。一方で、同研究では選抜状況や応募する職務レベルなどが影響して、国ごとの違いが生じる可能性があることも指摘しています。さらにERE Mediaのレポート(2023)では、性別・人種・世代といった属性によって、公平性に対する認識が異なる可能性についても言及しています。このように、海外の採用CXに関連する研究文献を解釈する際には、国や文化の違いがどのように反映されているかを慎重に検討する必要があります。

日本における採用CXについて

日本国内に目を向けると、林(2009)では候補者視点での採用選考プロセスの質と、内定者の内定後の意識形成の関連を明らかにしており、この研究は採用CXの概念に通じるものがあるといえます。しかし日本国内における採用CXに関する研究・調査事例は海外と比較してまだまだ少ないのが現状のようです。

また、日本の新卒採用は他国と比較して特徴的な側面を持つと指摘されています。例えば、既卒者とは別枠で採用が行われていること(リクルートマネジメントソリューションズ,2024)、大学卒業後すぐに正社員として初職に就く割合が高いこと(リクルートワークス研究所,2024)など、日本型雇用システムを背景として特殊な選考プロセスが確立していると考えられます。さらに、リクルートワークス研究所の調査によると、入社した後に社員が仕事をするうえで大切だと思う要素について、アメリカやフランスなどでは賃金や福利厚生に関する項目が最も重視されていた一方で、日本やスウェーデンでは職場の人間関係が最も重視されており、入社後の価値観や優先事項も国ごとに異なる傾向が見られることが分かります。

以上のことから、日本における採用CXで重視すべき観点は、海外の先行研究で示されている要素とは異なる特徴を有している可能性があると考えられます。

日本の新卒採用における採用CX調査

では日本の新卒採用で採用CXについて検討するにあたり、重視すべき観点にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、新卒採用選考を経験した学生に対してWEBアンケート調査を実施した結果をご紹介します。

調査概要

本調査では、採用CXの質を向上させることのゴールを「候補者が選考に参加したいと思うこと」、すなわち選考参加意欲と設定しました。採用CXを重視すべき理由としては企業ブランドイメージの向上など他にもありますが、今回は選考プロセスに直接関連するゴールに焦点を絞っています。次に、選考参加意欲に影響を与える候補者の評価観点として、妥当感・公平性・実力発揮感・納得感・誠実さ・参加しやすさの6観点を設定しました(図表1参照)。妥当感から誠実さの5観点については、海外の先行事例をもとにしつつ独自に整理しています。また、近年注目されるタイパ就活(タイムパフォーマンスを重視した就職活動を指す)の風潮も考慮し、「参加しやすさ」という観点を6点目に追加しました。これらの評価観点をもとに、日本の採用選考における主要な選考プロセス(全10種類)ごとに、各観点がどの程度評価されているのかを検討しました。

<図表1>本調査の概観

本調査の概観

なお、調査概要は以下のとおりです。

【方法】WEB調査会社を用いたインターネット調査(2024年8月)
【対象】以下すべてを経験したことのある大学生もしくは大学院生
       ・自由応募による就職活動
       ・内定獲得
       ・個人面接、適性検査(能力・性格とも)の選考プロセス
【サンプル数】797名
【属性】

<図表2>対象者属性

対象者属性

結果①:選考参加意欲に最も影響を与えるのは「誠実さ」の観点である

まず本調査では、6つの評価観点が選考参加意欲に与える影響を確認しました。具体的には、「働く上で必要な能力や資質を見極めていると感じられる」のように各評価観点が満たされている場合と、「働く上で必要な能力や資質を見極めていると感じられない」のように評価観点が満たされていない場合を提示し、それぞれの状況において選考参加意欲がどのように変化するかを5段階評価で回答してもらいました。その集計結果を図表3に示しています。この図では、各評価観点が満たされている場合に選考参加意欲が上がると回答した割合と、満たされていないと感じた場合に選考参加意欲が下がると回答した割合をそれぞれ示しています。注目すべき点は、満たされている場合・満たされていない場合ともに誠実さが最も高い割合を示している点です。つまり、他の評価観点と比較して誠実さが感じられる選考では最も参加意欲が上がりやすく、感じられない選考では最も参加意欲が下がりやすいことを表しています。一方で、海外の研究事例(Konradら,2017)では、採用選考プロセスの観点と内定承諾意向の関連性を調査した結果、誠実さに類する観点は、それ以外の観点と比較して、特別強い関連性があることは示されませんでした。この点は本調査結果との相違点であり、誠実さの重要性が日本の選考プロセスの特徴である可能性を示唆しています。この背景としては、海外ではジョブ型採用が主流であるの対し、日本の新卒採用では、依然としてメンバーシップ型採用が広く行われていることが考えられます。こうした日本の新卒採用の慣習は「就社」という概念で表現されることもあり、候補者にとって「どのような職に就くか」よりも「どのような企業に入社するか」が重視される傾向にあります。そのため、候補者がこのような慣習を念頭において採用選考に臨んでいる場合、企業イメージに繋がりやすい「誠実さ」の観点が重視された可能性があります。

<図表3>各選考プロセスの候補者の評価が選考参加意欲に与える影響

各選考プロセスの候補者の評価が選考参加意欲に与える影響

結果②:最も誠実さを感じやすい選考プロセスは個人面接である

では、誠実さは選考プロセスの具体的にどの場面で感じやすいのでしょうか。調査対象者に、各選考プロセスに対する6つの評価観点について5段階評価してもらった結果を図表4に示しています。この結果によると、誠実さを最も感じやすい選考プロセスは個人面接ということが分かります。また、同調査にて選考参加意欲が上下した具体的なエピソードを収集したところ、誠実さの観点では、面接官や採用担当からの丁寧な声がけや、目を見て話を聞いてくれるといった、企業側のこまやかな対応を挙げる回答が多く見られました。このように、実際に企業で働く社員とのちょっとした接点が候補者の選考参加意欲に影響することは、企業が選考プロセスを進めるうえで認識しておくべきでしょう。

<図表4>各選考プロセスへの候補者の評価(誠実さのみ抜粋)

各選考プロセスへの候補者の評価(誠実さのみ抜粋)

結果③:面接や適性検査では、参加しやすさが必ずしも重視されるとは限らない

次に、6つめの観点である参加しやすさについても考察します。図表5では、面接および適性検査の選考プロセスにおいて、候補者が6つの評価観点をどの程度重視しているかを5段階評価で回答してもらった結果を示しています。この結果から、参加しやすさの評価平均は面接場面では他の観点と比較して最も低く、適性検査場面においても妥当感に次いで低い評価平均となることが明らかになりました。これは、前述した「タイパ就活」という言葉で示される傾向を考慮すると、やや意外なものといえます。しかしこの点については、候補者が効率性を重視するのは、自分を適切に評価してくれる選考プロセスが確保されていることが前提であるためと解釈できます。つまり候補者は、他の評価観点を犠牲にしてまで参加しやすさを優先しているわけではないと考えられます。

<図表5>面接と適性検査において候補者が重視する観点

面接と適性検査において候補者が重視する観点

結果④:適性検査の検査時間の長さが必ずしも選考辞退に繋がるわけではない

結果③で示したように、適性検査においては必ずしも参加しやすさの観点が重視されるわけではありません。これをもう少し具体化して、適性検査の検査時間と選考参加意欲、ここでは特に選考辞退意向との関連について調査してみました。図表6は、候補者が企業から適性検査の受検依頼を受けた際に、検査時間がどの程度長ければ選考辞退を検討するのかを、企業に対する志望度(3段階)に分けて回答してもらった結果を示しています。なお回答は、時間(分)を直接入力してもらう、または「何分であっても選考辞退は検討しない」という選択肢を選択するという方法を取っています。この結果によれば、企業への志望度がある程度高い場合は検査時間にかかわらず80%以上の候補者は選考辞退を検討しないことが明らかになりました。この傾向は、適性検査の検査時間を短縮することが必ずしも候補者の離脱防止に繋がるとは限らないというHardy ら(2017)の見解と整合しています。一方で、図表6からは企業への志望度が低下するにつれて、検査時間が60分以内であっても選考辞退を検討する割合が増加することが分かりました。特に志望度が低い場合、選考辞退を検討する割合が26.9%に達しています。この結果は、候補者が参加しやすさをどの程度重視するかが、企業に対する志望度と関連する可能性を示唆しています。

<図表6>適性検査の検査時間と選考辞退意向の関連

適性検査の検査時間と選考辞退意向の関連

まとめ

本稿では、日本における採用CXの位置づけと、弊社が実施した調査結果について考察しました。弊社調査結果では、新卒採用における選考参加意欲に最も影響を与えるのは「誠実さ」の観点でしたが、海外では必ずしもそうとは限らない(Konradtら,2017)ことが分かりました。採用CXに関する日本での調査実績がまだ限られているなかで、採用CXの質を向上させるための観点の理解を深めていただけたのではないかと思います。ただし、選考プロセスを採用CXの観点のみで設計することには慎重さが必要です。採用選考において最も重要なのは、自社にとって本当に必要な人材の見極めです。そのため、見極めの観点と採用CXの観点の両方をバランスよく考慮することが、今後の採用選考設計には求められるといえるでしょう。今後は、日本でもさらに多くの調査実績・研究実績が蓄積されることで、採用選考が候補者にとって実際により良い体験となっていくことを期待します。

参考文献

Anderson, N., Salgado, J. F., & Hülsheger, U. R. (2010). Applicant reactions in selection: Comprehensive meta-analysis into reaction generalization versus situational specificity. International Journal of Selection and Assessment, 18(3), 291–304.

ERE Media. (n.d.). 2023 Special Report: Candidate Experience by Gender, Generation,

Race & Ethnicity. Retrieved from https://www.eremedia.com/reports/candidate-experience-by-gender-generation-race-ethnicity

Hardy, J. H. III, Gibson, C., Sloan, M., & Carr, A. (2017). Are applicants more likely to

quit longer assessments? Examining the effect of assessment length on applicant

attrition behavior. Journal of Applied Psychology, 102(7), 1148–1158.

Konradt, U., Garbers, Y., Böge, M., Erdogan, B., & Bauer, T. N. (2017). Antecedents

and consequences of fairness perceptions in personnel selection: A 3-year longitudinal

study. Group & Organization Management, 42(1), 113–146.

林 祐司, 新卒採用プロセスが内定者意識形成に与える影響ー製造業大手A社のデータを用いて,

経営行動科学, 2009, 22 巻, 2 号, p. 131-141

リクルートマネジメントソリューションズ. (2024). 【特集1】「『選び・選ばれる』時代の新卒採用」. RMS Message vol.76 (2024年11月). Retrieved from https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/

リクルートワークス研究所. (2024). Global Career Survey 2024. 「日本型雇用」のリアル ―多国間調査からいまの日本の雇用を解析する―. Retrieved from https://www.works-i.com/research/report/gcs2024_report1.html

リクルートワークス研究所. (2024). Global Career Survey2024 データ集. Retrieved from https://www.works-i.com/research/report/gcs2024_data.html

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