研究レポート

~上司から部下へのPOSのトリクルダウン効果に着目して~

従業員の働きがいを高める“知覚された組織支援(POS)”についての研究

公開日
更新日
従業員の働きがいを高める“知覚された組織支援(POS)”についての研究

環境変化の激しい昨今において、企業と個人はどのような関係を築いていくべきなのでしょうか。個人においては、定年制の延長など職業人生自体が長期化する傾向にあり、自身のキャリアを自律的に形成していくことが求められています。企業においては、労働人口が減少し、人手不足が危惧されるなかで、多様化する労働者のニーズに応えつつ、従業員を支援する環境を整備しなければ、従業員が離職してしまう可能性もあります。

つまり、企業組織にとって、従業員の組織へのコミットメントや働きがいを高め、プロアクティブに仕事に取り組めるような環境を整え、従業員を支援することがこれまで以上に重要になってきています。こうした、従業員の組織へのコミットメントや仕事への主体的な取り組みを促す要因の1つとして注目されているのが、「知覚された組織支援(Perceived Organizational Support)」という概念で、頭文字を取ってPOSと呼ばれています。

本レポートでは、このPOSという概念に着目し、従業員のPOSが高まることで組織にとってどのような影響があるか、従業員のPOSはどのように高まるのかについて、実証的な研究内容をベースにご紹介していきたいと思います(※)。

(※)本研究の詳細は、“仁田光彦・藤桂(2024).人こそ最大の資産、支援こそ最大の投資―組織-上司-部下間関係における組織支援のトリクルダウン効果―.日本心理学会第88回大会.”をご参照ください。

執筆者情報

https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/authors/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/768c7d6b4ed748eab5aa146aa755959a/1906071542_2117.jpg

技術開発統括部
研究本部
測定技術研究所
所長

仁田 光彦(にた みつひこ)
プロフィールを⾒る

1.POS(知覚された組織支援)とは何か?

POSの理解のため、POSの促進要因や定義、その効果についてまとめたのが図表1です。POSは、Eisenberger et al. (1986)によって提唱された概念で、「従業員の貢献を組織がどの程度評価しているのか、従業員のwell-beingに対して組織がどの程度配慮しているのかに関して、従業員が抱く全般的な信念」と定義されています。つまり、「従業員にとって、組織が自分の貢献を評価し、自分の幸福を気にかけてくれているという知覚」を示しています。従業員は高いPOSをもつほど、組織に対する好意を高め、組織の目的達成のために貢献しようと努力するといわれています。実際、POSは組織にとってポジティブな効果を及ぼすことがさまざまな先行研究で明らかにされています( Kurtessis et al., 2017; Rhoades & Eisenberger,2002; Sun, 2019など)。総じて、従業員のPOSが高まることで、組織に愛着をもってとどまろうとする態度・行動、仕事にやりがいを感じながらプロアクティブに仕事に取り組む態度・行動も高まることが知られています。

では、POSはどのように高まっていくのでしょうか。さまざまな先行研究で明らかにされてきた、POSを高める主要因としては、HR施策、組織公正性、上司支援の3点が挙げられています(Baran et al., 2012; Kurtessis et al., 2017; Rhoades & Eisenberger,2002など)。つまり、組織としてのHR施策が充実しており、評価に公正さを感じられ、上司の適切な支援が得られていると従業員はPOSを高めることが知られています。

<図表1>POSの促進要因・定義・効果の整理

2.上司のPOSがメンバーのPOSに影響を与えるトリクルダウン効果

このように、従業員のPOSを高めることは、組織にとって、有用な効果がありそうです。さらに、先行研究のなかで、POSは上司からメンバーへ、その影響が伝播することが知られています(Shanock & Eisenberger,2006; Frear et al., 2018; Eisenberger et al., 2020など)。具体的には、上司のPOSが高まることで、メンバーのPOSも高まることが知られており、この効果は、雫がしたたり落ちる(トリクル)ように影響が伝わっていくということから、POSのトリクルダウン効果と呼ばれています。

こうした、POSやPOSのトリクルダウン効果に関する研究は、欧米では多く存在しているのですが、日本企業を対象とした研究はこれまでありませんでした。そこで今回は、日本におけるPOSの先行要因、POSの効果について、トリクルダウン効果を中心に明らかにすることを目的に研究を行っています。こうした関係性を明らかにすることで、企業から従業員への支援のあり方について検討していければと考えています。

3.研究概要

調査対象・手続き、質問紙の構成、分析手法は図表2のとおりです。

ポイントとしては、2点あります。1点目は、上司-メンバーのペアデータを用いていることです。今回、上司のPOSがメンバーのPOSに与える影響を明らかにするため、上司とその上司がマネジメントするメンバーを対象に研究を行っています。2点目は、1点目とも関わるのですが、マルチレベル分析という手法を用いている点です。今回のような階層性のあるペアデータを分析する場合、メンバーレベルのデータと上司レベルのデータを考慮して分析を行う必要性があり、マルチレベル分析という手法が用いられています。

<図表2>研究概要

4.結果と考察

分析結果をメンバーレベルと上司レベルでそれぞれ分けて示したものが、図表3です。研究としては、大きく分けて3点重要なポイントがあります。

まず、1点目について、赤枠箇所を見ると、分配的公正性がメンバーのPOSを高めることで、メンバー自身のパフォーマンスやコミットメントを高めることが確認されています。つまりは、上司から公正に評価されることで、メンバーのPOSが高まること、メンバーのPOSが高まることで、パフォーマンスやコミットメントにつながることが実証されています。

次に、2点目について、オレンジ枠箇所を見ると、上司においても分配的公正性が上司のPOSを高めることで、メンバーの分配的公正性を高め、メンバーのPOSを高めることが確認されています。つまりは、上司自身が公正に評価されていると感じることで、上司のPOSが高まること、上司のPOSが高まることで、メンバーの公正性も高まり、メンバーのPOSにつながることが実証されています。これら2点の結果をもって、日本においてもPOSのトリクルダウン効果が実証されたといえます。

さらに、3点目について、紫枠箇所を見ると、HR施策が充実している組織(家庭支援&能力開発充実型)は、上司のPOS、メンバーの公正性を高める可能性があることが確認されています。

それでは、こうした知見を踏まえて、我々はどのようなことを考えるべきなのでしょうか。

まず、従業員のPOSを高めることで、従業員のパフォーマンスやコミットメントに影響を与えることがあらためて明らかとなりました。人事実務において、とある人事施策の効果検証を行う際、従業員のパフォーマンス・コミットメントと人事施策の間には一定の概念的な距離があり、その関連性が小さく見えてしまいます。こうした場合に、両者を接続するPOSの概念を導入することによって、人事施策の効果を適切に検証できる可能性があります。つまり、従業員のパフォーマンスやコミットメント向上を検討する際に、POSというのは1つのマイルストーンとして考えることができるかもしれません。

そして、従業員のPOSを高めるために、公正な評価や上司自身のPOSが重要であることが明らかになりました。そう考えると、現場上司の影響が非常に大きいといえるでしょう。現場上司は組織の方針や戦略をメンバーに伝え、メンバーの評価を行う立場でもあります。メンバーにとって、組織と個人の間の立場として機能する現場上司自身が、POSを感じられる状況をつくることが、メンバーのPOSやパフォーマンスやコミットメントを高めると考えられます。

さらに、その上司自身もまた、組織のなかでは従業員の1人と考えると、上司への公正な評価が上司のPOSを高めるうえで重要な要素となっています。現代において、現場上司は非常に多機能を担うことが求められる多忙な職務です。こうした上司に対して、納得感をもった評価を行い、HR施策を含めた組織としての支援を行っていくことが、ひいては会社全体にポジティブな影響をもたらすといえるのかもしれません。

加えて、こうした上司にとっては、何か特別なメンバー支援ではなく、評価という管理職としての役割を全うすることがメンバーの被支援感につながる、という知見は多忙な管理職にとっては重要な示唆となるのではないでしょうか。

<図表3>マルチレベル共分散構造分析の結果

5.最後に

今回は、POSのトリクルダウン効果についての研究内容をシェアさせていただきました。あらためて、従業員の働きがい、コミットメント、パフォーマンスを高めるための重要な指標としてPOSという概念をご紹介させていただきました。そして、従業員のPOS向上のためには、現場上司がキーファクターとなり得る可能性が高く、組織が上司自身を支援することが重要になってくるといえます。昨今、従業員の働きがいに注目が集まるなかで、今回ご紹介した内容がお役に立てば幸いです。

引用文献

Baran, B. E., Shanock, L. R., & Miller, L. R. (2012). Advancing organizational support theory into the twenty-first century world of work. Journal of Business and Psychology, 27, 123-147.
Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S. & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied psychology, 71(3),500-507.
Eisenberger, R., Rhoades Shanock, L., & Wen, X. (2020). Perceived organizational support: Why caring about employees counts. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 7, 101-124.
Frear, K. A., Donsbach, J., Theilgard, N., & Shanock, L. R. (2018). Supported supervisors are more supportive, but why? A multilevel study of mechanisms and outcomes. Journal of Business and Psychology, 33, 55-69.
Kurtessis, J. N., Eisenberger, R., Ford, M. T., Buffardi, L. C., Stewart, K. A., & Adis, C. S. (2017). Perceived organizational support: A meta-analytic evaluation of organizational support theory. Journal of Management, 43(6), 1854-1884.
仁田光彦・藤桂(2024).人こそ最大の資産、支援こそ最大の投資―組織-上司-部下間関係における組織支援のトリクルダウン効果―.日本心理学会第88回大会.
Rhoades, L., & Eisenberger, R. (2002). Perceived organizational support: A review of the literature. Journal of Applied Psychology, 87(4), 698 -714.
Shanock, L. R., & Eisenberger, R. (2006). When supervisors feel supported: Relationships with
subordinates' perceived supervisor support, perceived organizational support, and performance. Journal of Applied Psychology, 91 (3), 689–695.
Sun, L.(2019). Perceived organizational support: A literature review. International Journal of Human Resource Studies, 9 (3), 155-175.

  • SHARE
  • メール
  • リンクをコピー リンクをコピー
    コピーしました
  • Facebook
  • LINE
  • X

関連する記事