研究レポート

エビデンスに基づいたオンボーディング施策の検討

新人・若手オンボーディングのメカニズム

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新人・若手オンボーディングのメカニズム

エビデンス・ベースドという視点やアプローチは、調査・研究的手法と親和性が高い。例えばある人事課題がなぜ・どのようなメカニズムで生じているかを明らかにすることも、エビデンス・ベースドな取り組みの1つだといえる。本研究は、昨今の新人・若手オンボーディングというテーマに焦点を合わせ、そのプロセスに必要な要素や構造を明らかにすることを目的としたものである。

※本研究の詳細は、内藤淳・湯浅大輔(2022)「若年就業者の組織適応に関するモデル化の試み~入社年次による多母集団同時分析を用いた検証~」人材育成学会第20回年次大会発表論文をご参照ください。

執筆者情報

https://www.recruit-ms.co.jp/assets/images/cms/authors/upload/3f67c0f783214d71a03078023e73bb1b/e9bc20e5463a4a72a3f9fadfb1825f95/2307071927_9500.webp

技術開発統括部
研究本部
部長

湯浅 大輔(ゆあさ だいすけ)
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先行研究と課題意識

近年、若手世代の価値観の変化、コロナ禍によるリモートワークの進展などさまざまな要因を背景に、若年就業者(新入社員や若手の従業員)の早期離職やモチベーションの低下の問題に直面する企業が増加している。若手就業者をいかに組織に適応させ、生き生きと働ける状態にするかという問題に向き合うことが、企業には求められている。

企業に参入した新しいメンバーが組織の一員として適応するまでのプロセスは「組織社会化」あるいは「組織適応」と呼ばれる。「組織社会化」とは「個人が組織の役割を想定するのに必要な社会的知識や技術を習得し、組織の成員となっていくプロセス*1 」と定義され、企業で成果を上げるために必要な知識・技術・価値観を個人が受容していくという側面が強調されてきた。また組織への適応は一連のプロセスを指すものであるにもかかわらず、適応が具体的にどのような過程を経て成り立つのかということに関する実証的な研究は少ないのが現状である。

そこで本研究では、「若年就業者自身の主観的な認知や態度」に着目し、組織参入後にどのような課題が存在し、いかに克服されるかについて、研究を行った。

メカニズム研究の手順と概要

研究の大まかな流れは、(1)仮説の構築、(2)変数の決定とデータ取得、(3)メカニズムの検証、の3ステップからなる。

(1)仮説の構築

定性的な情報もエビデンス・ベースドの前提となる重要なファクターであることから、著者らが行った若年就業者対象のインタビューに基づいて、新人・若手のモチベーショングラフ(図表1)や組織適応に重要となる5要素(図表2)を抽出し、先行研究との整合性を確認した。

<図表1>新人・若手のモチベーショングラフ

<図表1>新人・若手のモチベーショングラフ

出所:リクルートマネジメントソリューションズ(2022年)

<図表2>組織適応に重要となる5要素

<図表2>組織適応に重要となる5要素

(2)変数の決定とデータ取得

(1)で仮説的に構成した5要素に加え、プロセスや因果関係を含むモデル構築を目的に、以下の変数を設定した。組織適応の中長期結果を捉える変数として「勤続意向」「ワーク・エンゲージメント」「組織推奨意向」、また短期結果を捉える変数として「仕事に対する自信と承認」「成長実感」である。いずれも冒頭の課題意識に基づき、「若年就業者自身の主観的な認知や態度」に焦点を当てたものである。以上の変数を基にサーベイ項目を設計し、従業員500名以上の企業に新卒で入社した1~3年目の企業人1153名に対して、2022年2月にインターネット調査を実施した。

(3)メカニズムの検証

組織適応に重要となる5要素が、「成長実感」など適応の短期結果を経由して、「勤続意向」など適応の中長期結果に影響を与える、という因果モデルが成り立つかの検証を目的とし、共分散構造分析を行った。一方、本人の担当業務や職責、職場内の役割などさまざまな状況は、入社後の年数により異なるため、適応のプロセスには時期による違いが見られると想定される。そこで1~3年目の入社年次による多母集団分析を行い、因果モデルのパスの値に違いが存在することを追加検証した。

分析結果とその活用

共分散構造分析によって因果モデルを確認した結果が図表3である。本モデルから、オンボーディングのメカニズムについていくつかの解釈ができる。

<図表3>共分散構造分析による因果モデルの検証

<図表3>共分散構造分析による因果モデルの検証

・ 5要素が、図表のような矢印の順序構造になっており、「職場への信頼と働きかけ」が他要素の起点になっていること、また「経験からの学びと応用」が短期結果に影響を与える橋渡し役の要素になっていること
・「ワーク・エンゲージメント」や「勤続意向」などの中長期結果に対し、「成長実感」が媒介となって影響を与えていること

また、入社年次別の分析により、以下の示唆も追加された。

・「仕事の意味付け」は1年目が最も重要な役割を示し、年次を経るにつれて低下していくこと
・「仕事の意味付け」に影響を与える要素は、1年目は「職場への信頼と働きかけ」、3年目では「失敗を恐れない前進行動」と推移すること

上記のような、エビデンスに基づいたオンボーディングにおける一般モデルやメカニズムを想定すれば、実行する人事施策の最適化も行えるのではないだろうか。例えば、以下のようなことが考えられる。

・ 離職やエンゲージメントが低下することを防止するため、「成長実感」をコンディションチェックの項目に追加してモニタリング指標化する
・「仕事の意味付け」をうまく行えているマネジメント行動をヒアリングし、好例として現場に展開する
・ 3年目以降の「仕事の意味付け」を促進させる「失敗を恐れない前進行動」を見据え、業務やプロジェクトのアサイン、または異動配置によって若手の自発的な行動を引き出す経験を意図的に設計する

以上、研究的アプローチから一般モデルを構築し、それに沿った実態把握を行うことで、エビデンスに基づいた施策を検討できる例として参照されたい。

*1 Van Maanen, J. E., & Schein, E. H. (1977). Toward a theory of organizational socialization.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.70 特集1「エビデンス・ベースドHRM─対話する人事」より抜粋・一部修正したものである。

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