ビジネスパーソン1000人超のデータから分かる 中堅社員や中堅リーダー時代の、成長につながる有用な経験を明らかにする

中堅社員や中堅リーダー時代の、成長につながる有用な経験を明らかにする

不確実かつ、あいまいで複雑な課題が増加するビジネス環境下において、ビジネスパーソンの育成や能力開発のあり方も大きく変化している。また、副業やプロボノ、ボランティアなど企業外の活動も注目され、それらを通じてビジネスパーソンとしての成長につながる可能性が指摘されている。本稿では、現場の中核的な人材として活躍が期待される、中堅社員や中堅リーダー時代の企業内外の経験に着目し、どのような経験がその後の成長につながるのかを明らかにするために、調査・考察を行った。


中堅社員〜中堅リーダー〜管理職の経験のつながりを明らかにすることを試みた

ビジネスパーソンにとって、割り当てられる、または自ら獲得する「経験」は仕事機会でもあり、企業から見るとその後の成長を左右する重要な育成機会でもある。近年、その経験をより育成に接続しようと、経験学習モデルやその実践に注目が集まっている。他方、どのような経験をどのように積み上げていくと将来的な成長につながるのかの研究は多くない。松尾(2013)は、成果をあげる管理職には「部門連携・部下育成・変革参加」の経験が重要であり、それらの経験が管理職としての職務遂行能力につながることを報告している※1。加えて、中堅リーダーを含む管理職となる前に有効な経験をすることの重要性や、経験からの学習には経路依存性、つまり「過去にどのような経験をしているかによって、現在の経験が規定される傾向」が存在することを明らかにしている。

2019〜2020年に実施した研究では、管理職と中堅リーダー1000名、中堅リーダーと中堅社員300名それぞれに定量調査を実施し、中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP)〜管理職(マネジャー前期)の間の成長につながる有用な経験の連鎖(つながり)を定量的に明らかにしようと試みた。また、有用な経験には、業務上の経験のみならず、越境経験も含んだ。加えて、日常的な上司による支援の程度、個人特性や指向についても併せて収集した。定量調査や研究デザインの詳細は、小方(2019、2020)※2を参照いただきたい。


<図表1>中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP)〜管理職(マネジャー前期)

<図表1>中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP)〜管理職(マネジャー前期)

※管理職(マネジャー前期)・中堅リーダー(LP)・中堅社員(MP)の役割定義については、「トランジション・デザイン・モデル2.0」(「成長につながる“トランジション”をデザインする」図表2)を参照

中堅社員時代に「自分のタスクのみに没頭せずに視野と幅を広げた経験」はその後の成長経験へと連鎖

結果、中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP)〜管理職(マネジャー前期)を貫く一連の有用な経験の連鎖がうかがえた(図表2)。


<図表2>中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP) 〜管理職(マネジャー前期)経験の連鎖

<図表2>中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP) 〜管理職(マネジャー前期)経験の連鎖

 
 
これは、各ステージでの経験の関係性を定量的に分析した結果の一部を抜粋して、簡略化したものである。成長につながる経験リストへの回答を分析して、同じような特徴を持つ経験としてまとめたものが、円で囲んだ経験カテゴリである。中堅社員の「仕事の範囲を広げる」「チーム全体を見る・代表する」経験は、中堅リーダーとしての「組織を代表する」経験と関係がある。また、その中堅リーダー時代に「組織を代表する」経験があると、その後に管理職としての「部下や関係者を動かす」「相互依存性や複雑性に対処する」経験につながることが示唆される。そして、中堅リーダー時代の「組織を代表する」経験には、中堅社員時代の経験に加えて、石山(2018)※3の言う「越境経験」、つまり副業やプロボノ、ボランティアなどにおいて「リーダーとしての視界を持ち、課題設定をする(E1)」「新たな役割を引き受けた(E3)」経験なども有効であることが示されている。

つまり、中堅社員時代に、自分のタスクのみに没頭せずに視野と幅を広げた仕事経験が、中堅リーダーの他部署との利害調整を上司に代わって行うなどの「組織を代表する」といったストレッチ経験につながっている。そして、そのストレッチ経験は管理職の予行演習的なものでもあり、部下に加えて取引先や他部署といった関係者を動かす(「部下や関係者を動かす(M1)」)、相互に絡み合った複雑な問題を解決する(「相互依存性、複雑性対処(M3)」)というリーダーシップ・マネジメント経験にさらにつながるという経路が見えてくる。そして、管理職として有用な2つの経験は、先行研究で分かっている成果をあげる管理職に共通する「部門連携・部下育成・変革参加」の経験に必要な経験であるともいえ、ここで報告されている結果が成果を上げる管理職につながる一連の経験の連鎖を示唆していると捉えることができる。

なお、中堅リーダー時代の越境経験では、E1の具体的なものとしては「マンションの管理組合での理事長経験」「子どものサッカークラブでのコーチや運営企画業務」、E3では「誰もなり手がいなかった町内会の役員」や「副業における、自業務とは異なる性質の業務経験」などが挙げられた。これらの結果から、社外活動も社内活動と同等、または一定以上ビジネスパーソンとしての成長に寄与する可能性が示唆されるといえるだろう。

中堅社員時代の「仕事の範囲を広げる」経験には、上司による支援や本人の特性や指向も影響

次に、経験の連鎖の起点となっている中堅社員の「仕事の範囲を広げる(MP1)」経験に着目した。その経験を有する個人特性や指向、そもそもの仕事の特性や上司による支援のあり方の影響を明らかにすることを試み、回帰分析を行った結果を図表3にまとめた。

<図表3>「仕事の範囲を広げる(MP1)」経験への職務・上司支援のレベル、個人特性・指向の影響

図表3 「仕事の経験を広げる(MP1)」経験への職務特性・上司支援・個人特性による影響

これらから、中堅社員として「仕事の範囲を広げる」という経験をするには、「そもそもの仕事の難度の高さ」や「上司の支援」が必要であることがうかがえた。また、個人特性として、「開放的(Open-minded)であり、外向的(Extroverted)過ぎず、何でも自分で決めよう(Decisive)としない。また、自分の仕事はここまでと線を引く傾向(実務推進指向)があまりない」方が有利であることが示唆された。

越境経験も含めた、「成長につながる経験の連鎖」をデザインする必要性

最後に、本報告の限界と今後に向けた考察を行う。まず、本報告は次の点に注意して解釈を行う必要がある。まず、これらの解析結果は本人回答の定量調査を基にしていることである。本人が回答した「成長につながる経験」であって、他者から見て本当に成長しているのかという要素は加味していない。また、回答に際しては、中堅リーダー(LP)に中堅社員(MP)時代の活動を聞く構造となっているため、回顧的なバイアスが含まれていることに留意しなければならない。

他方、これまで明らかになっていなかった、中堅社員(MP)〜中堅リーダー(LP)〜管理職(マネジャー前期)の一連の経験の連鎖に関する示唆が得られたことは一定の収穫であるといえる。ただし、ジョブ型人事や自律型育成などが提唱されるなか、仕事や越境経験の重要性は変わらないであろうものの、仕事の任され方や、スキルや業務知識の獲得のあり方、本人のマインドセットなどは変化していくと想定される。その際に、図表3から示唆される、中堅社員として成長するために「タフな仕事をアサインされたときに、上司からのフォローが有用」「あれこれいろいろ目移りしない、自分でいろいろと決めたがらない人の方が有利」という結論からは、今後の経験がどうあるべきかについて議論の余地がある。つまり、中堅社員として成長する経験には、上司や周囲からのサポートの影響が色濃く残り、社外も含めたキャリアを描き自己決定しようとする傾向を持つ個人が「割を食う」側面もそこから見出されるからである。

以上、本報告をさまざまな角度から検討いただき、各社や各個人の成長につながる有用な経験を考える一助になれば幸いである。                   



参考文献
※1 松尾睦(2013)『成長する管理職─優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』東洋経済新報社
※2 小方真(2019)『管理職へのトランジションに向けた,中堅リーダーならびに越境経験と個人特性との関連性に関する研究』経営行動科学学会第22回大会発表論文集
小方真(2020)『管理職へのトランジションにつながる、メインプレイヤー時代の経験と職務・個人特性との関連性に関する研究』経営行動科学学会第23回大会発表論文集
※3 石山恒貴(2018)『越境的学習のメカニズム――実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』福村出版

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