一般社員892名と管理職300名の意識から探索する 人事異動やキャリア開発の効果を高めるための情報共有のあり方

人事異動やキャリア開発の効果を高めるための情報共有のあり方
執筆者情報
HR Analytics & Technology Lab
所長
入江 崇介

近年、人事異動やキャリア開発の場面においても、HRテクノロジーやHRアナリティクスの導入が進みつつあります。その成功のためには、人事管理部門の意図のみでなく、現場の社員や管理職が、人事異動やキャリア開発において、どのようなことを実現したいか、あるいはどのようなことが知りたいかなどを考慮することが欠かせません。
本稿では、そのための参考として、異動やキャリア開発に関する現場の社員や管理職の意識について、インターネット調査の結果をもとにご紹介します。


はじめに

近年、以下の例のように、人事異動やキャリア開発の場面でHRテクノロジーやHRアナリティクスの導入が進みつつあります。

(例)
● タレント・マネジメント・システムを導入し、社員個々の経歴や保有スキルを確認できるようにし、異動候補者を検索しやすくする

● 職種別に活躍者の特徴を抽出し、その特徴への類似度をもとに異動候補者の職種別の活躍確率を求め、活躍確率の高い職種への配置転換を行う

● 異動候補者と異動先の上司やメンバーとの性格特性の相性を確認し、相性の悪い職場への異動を回避する

● 育成対象者が今後得るべき経験やスキルを定義し、過去に携わってきた職務や保有スキルとのギャップを確認し、育成計画を具体化する

これらは、人事異動やキャリア開発に関わる業務の効率性を高める、あるいは施策の効果を高めるために、有効な取り組みであることは間違いありません。一方で、これらの取り組みは、どちらかといえば「人事管理部門の視点」から行われているもので、現場の社員や管理職の視点を取り込むことで、よりよい施策にしていく余地があると考えられます。

ここからは、現場の社員や管理職の人事異動やキャリア開発に関する意識について、調査結果をもとにご紹介します。なお、調査概要は、図表1のとおりです。

図表1 調査概要

人事異動に関する印象

まず、一般社員と管理職、それぞれが抱く人事異動に関する印象は、図表2のとおりです。

図表2 人事異動に関する意識(一般社員と管理職)

※「あてはまる〜あてはまらない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「あてはまる/ややあてはまる」の選択率


主たる結果は、以下のとおりです。

● 一般社員と管理職、いずれにおいても肯定的な印象についての「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は50%を超えている

● 一般社員と管理職、いずれにおいても否定的な印象についての「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は50%を下回っている

● 管理職と比較して、一般社員は肯定的な印象について「あてはまる/ややあてはまる」の選択率が低く、否定的な印象についての選択率が高い

● 中立的な「管理職や経営幹部になるために欠かせないものである」という印象の「あてはまる/ややあてはまる」の選択率は、管理職で高い

また、図表3は、「キャリア開発のために有効だと感じた経験」に関する回答結果です。

図表3 キャリア開発のために有効だと感じた経験(一般社員:複数回答形式における選択率)

人事異動に伴うと考えられる「過去に経験がない分野の仕事に取り組んだこと」と「過去に接点のない人々と仕事に取り組んだこと」の選択率が高く、それぞれ3割を超えています。

これらの結果から、意に沿わない異動などに対する否定的な印象が一部あるものの、チャンスであるという肯定的な印象ももたれていることが確認できます。

人事異動の際に考慮してほしいこと、把握したいこと

では、異動にあたって、異動対象者である一般社員の方は、どのようなことを考慮してほしいと考えているのでしょうか。また、受け入れ先の上司となる管理職は、異動者についてどのようなことを把握したいと考えているのでしょうか。それらの意識に関する調査結果は、図表4です。

図表4 人事異動の際に考慮してほしいこと(一般社員)、把握したいこと(管理職)

※一般社員については、「必ず考慮してほしい〜考慮されなくても構わない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」の選択率。管理職については、「把握したい〜把握する必要はない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「把握したい/やや把握したい」の選択率


いずれの項目に対しても、一般社員の「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」、管理職の「把握したい/やや把握したい」の選択率が5割を超えています。また、選択率も概ね一致しています。

なお、一般社員の「必ず考慮してほしい/考慮してほしい」と比較して、管理職側の「把握したい/やや把握したい」の選択率が低いのは、「勤務地や勤務時間など、制約事項」と「上司と本人の相性(管理職とメンバーの相性)」です。

「勤務地や勤務時間など、制約事項」については、多様な人材の活躍を支えるためには不可欠なものではあるものの、管理職側はそれらの制約事項に対してすべてケアすることができない場合もあるため、このような乖離が出ていると推察されます。

また、「上司と本人の相性」に関しては、メンバーである一般社員にとって上司である管理職は原則1名であるのに対し、管理職のもとには複数のメンバーが所属する形になるため、一般社員側がより「考慮してほしい」と考える傾向になっているのではないかと推察されます。

このように一部で選択率が異なる点はあるものの、異動にあたって「考慮してほしい」、「把握したい」ということが、一般社員と管理職の双方にあることが確認されました。タレント・マネジメント・システムの活用と関係することではありますが、相互理解のために可能な範囲で人材情報が共有できる仕組みを整えていくことが必要だと考えられます。

人事異動やキャリア開発のために知りたいこと

人事異動によってそれまでとは異なる職場で働く際には、新しい環境での適応が求められます。また、キャリア開発のプランを描くためには、未知・未来のことについて想像する必要があります。このようななか、異動やキャリア開発のために、一般社員の方が知りたいと考えている情報についての回答結果は、図表5です。

図表5 人事異動やキャリア開発のために知りたいこと(一般社員)

※「あてはまる〜あてはまらない」の5段階のリッカート形式の選択肢に対する、「あてはまる/ややあてはまる」の選択率


「異動先で携わる仕事を遂行する上で必要な知識やスキル」「異動先の職場で行われている仕事の進め方」「異動先の上司の性格特性などの特徴」など、まずは異動というイベントが起こった際に、異動先への適応のために必要な情報、すなわち短期で必要な情報を知ることへの関心が相対的に高いことが確認できます。

そして、それに続いて、「どこに異動すれば、自分が望む仕事に携われるか」「どこに異動すれば、自分が身につけたい知識やスキルを身につけられるか」「自分のキャリアパスが明確に提示されているか」「さまざまなポストについて、過去にどのような人が携わっていたか」など、長期的な視野でキャリア開発について検討する際に必要な情報への関心も高いことが確認できます。

なお、ここまでで紹介した「人事異動の際に考慮してほしいこと」および「人事異動やキャリア開発のために知りたいこと」と、「私は、自分が将来歩みたいキャリアを具体的に描いている」および「私は、自分が将来歩みたいキャリアが実現できるか不安だ」というキャリアに関する意識への回答結果の関係について、相関係数を確認したものが図表6です。

図表6 キャリアに関する意識と、考慮してほしいこと・知りたいこととの相関係数(一般社員)

※表中の数値はピアソンの相関係数。−1〜+1の間の値を取り、絶対値が1に近いほど、直線的な関係が強いことを示します。また、+の場合は「一方が高くなれば、他方も高くなる」、−の場合は「一方が高くなれば、他方が低くなる」という関係にあることを示します。


どちらかというと、「私は、自分が将来歩みたいキャリアが実現できるか不安だ」との間で、「考慮してほしいこと」や「知りたいこと」の相関係数が高いことが確認できます。このことは、「キャリアが実現できるか不安だ」という思いの強さと、「異動の際に条件や環境を考慮してほしい」という思いや「異動やキャリア開発の際に必要な情報を把握したい」という思いの強さとの間に関係があることを示します。

厳密な因果は検証できていませんが、社員のキャリアに関する不安を払拭するために、人材情報や職務情報の共有化や開示が有効である可能性が示唆されています。

おわりに

リモートワークの導入やジョブ型雇用への転換などにより、これまでよりも拠点や職種をまたぐ異動の機会が減る可能性があります。一方で、人生100年時代のキャリア開発を考えた際に、現場の社員が積極的に自己申告や社内FA(フリーエージェント)制度を活用することによって異動の機会が増える可能性もあります。

いずれにせよ、一定程度、異動というイベントはこれからもあると考えています。その際、そのイベントについて、キャリア開発の機会と結び付けられること、あるいはスムースに適応できることなど、異動対象者の経験の価値を高めることがこれまで以上に必要になると考えています。

その際に、冒頭に述べたとおり、HRテクノロジーやHRアナリティクスも有効なツールになります。そして、それらをうまく機能させるためには、「情報の開示性を高めること」や社員や管理職にとって「分かりやすい」情報を提供すること、また情報を活用した対話の仕組みを整えることなどが求められると考えられます。その促進のために必要な知見について、今後も研究を進めていきたいと思います。

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