職種を変更する異動者の適応促進のために 異動決定時のコミュニケーションの効果を探る

執筆者情報
経営企画部
シニアスタッフ
荒井 理江

職種を変更する異動が、仕事人に与える影響は大きい。
新たな知を習得する機会の獲得などのメリットがある一方で、キャリア断絶のリスクや、新しい職種への不適応リスクなど、負担を強いる場合も多い。
職種を変更する異動を、職場や人事はどのように支援したらよいのか。異動決定前後のコミュニケーションに着目し、実証的に検証した研究結果について紹介する。


はじめに

日本企業においては、適材適所を実現するため職種を大きく変更する人事異動を行うことが多々ある。しかし、こうした異動が個人に与える負荷は決して小さくない。手放しではなく、少しでも異動後の適応・パフォーマンス向上を手助けするために何ができるだろうか。本稿では、特に異動決定時のコミュニケーションの影響に着目してみたい。

職種を変更する異動の功と罪

日本企業において、ローテーションなど職種を変更するヨコの異動は長く主要なHRM手法であった。弊社が行った調査によると、専門性を変更する異動の目的は、「幅広い知見の習得」「適材適所の実現」「欠員補充や増員対応」「全社視点の習得」「幹部候補人材の育成」などが挙げられる*1。

また、近年職種を変更する異動が取り上げられる背景には激化する環境変化への適応や、新価値の創造もある。例えば個人を本人の専門性と関連が低い業務へ異動させることによって、異なる余剰知識の活用が起こり、新価値の創造につながるという研究結果もある*2。

では、個人にとって、職種を変更するような幅の広い異動の意味は何か。メリットとしては、「一皮むける経験」を積む機会獲得*3、「不確実性をこなすノウハウ」および「問題への対処と変化への対応」といった「知的熟練」の蓄積*4、「異なりを越えて知識が豊かに構造化されていく」熟達の促進*5、ネットワークに対し個人が何らかの投資を行うことで転職・地位達成・組織成果などを得る(「ソーシャル・キャピタル」の獲得)機会*6にもつながり得る。一方でデメリットもある。非連続なキャリアを促す結果、キャリアの見通しが見えにくくなることによって自身のキャリア形成への意欲・関心が低下する*7、専門性の蓄積が阻害されたり異動後の追加訓練や、関係性の再構築のコストが発生してしまう*8、などだ。特に組織ではなく専門性にコミットしている人材にとっては負荷が大きいことが想定される。

そのため、職種を変更する異動は極力場当たり的ではなく、戦略的・意図的に行うべきである。また、職種を変更する異動を行う場合には、異動の動機付けや、適応・立ち上がりに留意する必要がある。

予期的社会化への着目―異動が決定したときにはすでに適応が始まっている

新しい仕事への適応は、「組織社会化」の枠組みで論じられる。組織社会化とは、個人が新しい組織に適応したり、組織が新規参入者に文化を継承するプロセスのことである。

「組織社会化」は、組織に参入する手前から生じているとされる(予期的社会化*9、予期プロセス*10)。事前に現実直視を促すことが、適応を円滑にするという研究もある*11。異動は、実際に異動する前から異動先の業務や組織についてある程度知識または認知・イメージがあることが想像される。例えば、社内ポジションイメージ(栄転か左遷かなど)、雰囲気の良し悪し、自分の専門性や仕事能力とのフィット感など、事前にさまざまなメッセージを受け取るものである。なお今回、職種など業務を大きく変更するヨコの異動をした人を対象に調査を行い、異動決定時に、異動にネガティブな印象をもっていた人にその理由をフリーコメントで確認し分類したところ、
・希望していない仕事内容・勤務条件だった(17%)
・異動自体を希望していなかった(13%)
・印象が悪い部署・仕事だった(13%)
・左遷・数合わせだと感じた(11%)
・不安だった(9%)
・異動先の役割や業務が不明瞭だった(7%)
といった観点が抽出された。これらの結果からも、異動決定後、実際に組織に参入する前から、より正しく現実を直視し理解することの意義が感じられる。「予期的社会化」について、研究上は採用領域に光が当たる例が多いが、職種を変更する異動に関しては、予期的なプロセスにも着目する意義があるのではないか。そこで本稿では、異動決定時の社会化支援のプロセスや適応支援の可能性を探索してみたい。

分析方法

半年前〜3年以内に、職種など職務内容を大きく変更するヨコの異動を経験した一般会社員515名に対してインターネット調査を行った。調査概要の詳細は図表1のとおりである。

分析に使用した概念は、図表2のとおりである。

結果変数には「異動後の適応感」を用いた。仕事・職場・会社に対する適応感を確認する項目で因子分析を行った結果、1因子にまとまった。次に異動前の組織社会化の状況、特に異動する現実を捉えられているかどうかの度合いとして、異動決定時に異動理由の説明を受け理解していたか(異動前:理由認知)、および異動先での活躍イメージを認識できていたかどうか(異動前:活躍見込み)について、尺度化した数値を用いることとした。

また、異動後の組織社会化を促進する組織支援として、異動先の上司などからの新しい職務に対する説明や情報提供の有無(異動後:役割説明)を取り上げた。

また、職種など業務を大きく転換する異動の適応においては、本人の専門職志向の強さが影響すると考えられるため、キャリア志向の変数を用いた。キャリア志向について因子分析を行った結果3尺度に分かれたため、それぞれ「独立専門」「承認意欲」「従順貢献」として用いることとした。

なお、尺度・項目間相関は-0.04〜0.61の範囲である。これらを用い「異動後の適応感」を結果変数とした重回帰分析を行った。

結果・考察

1.異動前の理由認知・活躍見込みの影響

結果は図表3のとおりである。属性、異動理由、キャリア志向の影響を確認したStep1では、異動理由(「定期異動」「抜擢」「本人希望」)、およびキャリア志向の主効果が確認されたが、異動前の状況と異動後の支援を加えたStep2においては異動理由の効果は見られなくなり、「キャリア志向:独立専門」が有意な負の主効果、「キャリア志向:承認意欲」「キャリア志向:従順貢献」、および「異動前:理由認知」「異動前:活躍見込み」「異動後:役割説明」について有意な正の主効果が確認された。

本人のキャリア志向の影響、および、異動前・後の異動理由の理解や活躍イメージの形成が適応に影響を及ぼしていることがうかがえる。

2.異動後の役割説明の効果

(1)「異動前:活躍見込み」が低い場合の適応促進

また、異動前に活躍するイメージが形成できなかった場合、異動後の適応支援によってフォローできるかが重要になる。そこで、変数間の交互作用を検討したところ、「異動前:活躍見込み」と「異動後:役割説明」との間に有意な交互作用が見られた(図表3 Step3)。

図表4は交互作用の様子をグラフにしたものである。「異動前:活躍見込み」が低い場合、「異動後:役割説明」があった方が、異動後の適応感が有意に高まることが確認できる。異動決定のタイミングでは自分の新しい職種で自分が活躍できるイメージを描けていなくとも、異動後に、新しい職務や役割に関して上司から説明を受けるなどの支援が得られた場合は、適応感が高まることを示す結果である。

(2)「独立専門」志向が高い場合の適応促進

「独立専門」志向は、異動後の適応感に負の主効果が確認された。しかし、異動前後の支援状況によって、負の効果が弱められる可能性もある。そこで、「異動前:理由認知」「異動前:活躍見込み」、および「異動後:役割説明」との交互作用を確認したところ、「異動後:役割説明」との間に有意な交互作用が見られた(図表3 Step3)。

図表5のとおり、「独立専門」志向が高い場合でも、「異動後:役割説明」の程度が高いほど、適応感が有意に高まることが確認された。「独立専門」志向の従業員においても、異動先で新しい職種・役割に関する説明を行うことで適応を促すことにつながるということである。

終わりに―意欲の火を消さず、機会としてデザインする

異動が決定した時点で、異動理由を理解し、自分が活躍できるイメージをもつことが、実際に異動した後の適応に影響を与えることが確認できた。また、異動先での活躍イメージがもてない場合や本人の独立専門志向が高い場合、異動先において、新しい職務の役割や内容を丁寧に説明するコミュニケーションが肝要だ。

近年は、個人の働き方改革やダイバーシティマネジメントなど、人事の個別支援のあり方が改めて問われている。また、専門志向の人材の育成・活用を前提としたHRMの設計もますます重要になる。異動という経験をどう捉え、前に進んでいく力へと変えてもらうのか。個人が所属組織に貢献したいと思う気持ちの火を消すことなく、異動を新たな機会として個人と組織双方の成長の一手としたい。本稿が異動決定時のコミュニケーション設計の一助になれば幸いである。

*1 リクルートマネジメントソリューションズ(2016)「RMS Research 昇進・昇格および異動・配置に関する実態調査」
*2 平野光俊・内田恭彦・鈴木竜太(2008)「日本的キャリアシステムの価値創造のメカニズム」『一橋ビジネスレビュー』56(1),76-92.
*3 McCall, M. W., Lombardo, M. M. & Morrison,A. M.(1988). Lessons of experience: How successful executives develop on the job. New York: The Free Press.
*4 小池和男(1997)『日本企業の人材形成』中央公論社
*5 笠井恵美(2011)「まったく異なる職務への異動が企業における熟達を促す可能性の検討」『Works Review』6,62-73.
*6 西村孝史(2011)「異動を通じたソーシャル・キャピタル形成: X 社, A 事業部の21名のインタビューと異動データ1,483件を用いて」『経営行動科学学会年次大会: 発表論文集』140-145.
*7 鈴木竜太(2009)「キャリアの不連続モデルの個人の視点からの考察(日本的キャリアシステムの再考, 経営行動科学学会第11回年次大会)」『経営行動科学』22(1), 58-61.
*8 平野光俊(2009)「内部労働市場における雇用区分の多様化と転換の合理性」『日本労働研究雑誌』586, 5-19.
*9 Chao, G. T. (1988). The socialization process: Building newcomer commitment. Career growth and human resource strategies, 31-47.
*10 Ashforth, Myers & Sluss (2011). Socializing perspective and positive organizational scholarship. The Oxford, handbook of positive organizational scholarship, 537-551.
*11 金井壽宏(1994)「エントリー・マネジメントと日本企業の RJP 指向性: 先行研究のレビューと予備的実証研究」『研究年報 經營學・會計學・商學』40, 1-66.

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.49 特集1「適材適所 偶発をデザインする」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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