組織による支援が個人のキャリア形成に及ぼす影響とは 主体的キャリア形成における、組織の役割

昨今、副業解禁など、働き方改革をキーワードに、さまざまな取り組みが進められようとしている(朝日新聞デジタル;2016)。こうした取り組みは、個人がキャリア形成を行っていく上で、多様な選択肢を提供することになるだろう。組織が主導するキャリア形成から個人が主導するキャリア形成への移行という以前から主張されてきた流れが (Arthur, Inkson & Pringle, 1999; Baruch & Peiperl, 2000; Baruch, Szucs & Gunz, 2015; Clarke, 2013; Lips-Wiersma & Hall, 2007)、大きく加速しようとしているように思われる。

本稿は、主体的キャリア形成(※)に対し、組織がどのような役割を果たすことができるのかを論じたものである。本来、主体的キャリア形成とは、個人が自身によって自身のキャリアを形成することであって、究極的には、組織が介在しなくてもよい。しかし、キャリア形成における組織の存在は、いまだ大きいと考えているし、その果たす役割は重要であると考えている。

※主体的キャリア形成の定義は次に論じている。ここでは、端的に自分自身で自分のキャリアを形成すること、という理解で構わない。キャリア自律、自律的キャリアもほぼ同義の言葉として捉えている。


はじめに

まず、本稿において主体的キャリア形成をどのように捉えているのかを明らかにしたい。

前稿「主体的なキャリア形成とはなにか 」にて、主体的キャリア形成を責任から捉えることを論じた。何がしたいかではなく、何に対して責任をもつかをベースに、主体的キャリア形成を捉えることを提示したのである。本稿においても、この捉え方に従っている。つまり、主体的キャリア形成とは、キャリア上生じることに対し、責任の範囲を自身で決定し、それによってキャリアを形成していくこと、である。

やや抽象的な話で理解しにくいため、1つ例えを用いたい。組織で働いていれば、自分がやりたいかやりたくないかにかかわらず、仕事を提示され、それに従事することがあるだろう。与えられた仕事である、という点で、その仕事は自ら選びとったものではない。しかし、その仕事を自分のこととして捉え全うしようとすることは、その仕事に対し責任をもつということを選んだのだ、といえるだろう。この時、自身の責任の範囲を、自らの意思に基づく行為や選択を超えて拡大することを、能動的に決断したのである。逆に、責任を拡大しない決断も可能である。言われたことなので言われたとおりにのみ仕事に取り組み、何か過失が生じた時に、言われたとおりにやっただけだ、とする場合である。それを責任ある態度とはいわないだろう。

キャリア形成上の意思決定や選択、行為とは、こうした責任の範囲の決断なのではないかと見ているのである。単にやりたいことをやるということではなく、そして、やりたいことをやるから責任が発生するのではなく、自らが責任をもとうとする範囲をどこまで広げようとするのか、その決断によって行為が変化すると考えている。

キャリア形成における責任に着目することで、欲望のままに生きることや、その場その場のやりたいことを優先する享楽的生き方、また、状況に流されながら生きていくことではない、主体的キャリア形成を捉え、論じることができるだろう。一方、組織との関わりのなかで主体的キャリア形成を論じる上でも、責任に着目することは重要であろう。やりたいことをやる、という捉え方では、あくまで個人の価値観や志向が重要なのであって、個人に焦点を当てることになる。しかし、キャリア形成における責任に着目することで、組織と個人の関係のなかで論じることができる。なぜなら、鈴木(2014)が中期キャリアを取り上げて論じているように、キャリアに関する課題のいくつかは、組織に責任があるのか個人に責任があるのか、という責任の所在の問題として捉えることができるからである。

さて、再掲すると、本稿においては、主体的キャリア形成とは「キャリア上生じることに対し、責任の範囲を自身で決定し、それによってキャリアを形成していくこと」である。つまり、この範囲が広ければ広いほど主体的であるし、小さくなれば主体的でなくなっていく、というものである。そして、この責任の範囲を決定する、ということに対し、組織が関わってくるのである。

キャリア形成における責任と組織の関わり

まず、当たり前のことでありながら、見落とされることが多いこととして、人は、だれしも初めから責任ある個人ではない、ということに触れなければならない。

子どものときには多くの行為に対し、その責任が免除されているように、キャリアにおいても、新人と呼ばれる時分は、責任が免除されていると捉えられる。これは直観的にも理解しやすいだろう。私たちは、よく「社会人として一人前になる」という表現をする。これは、責任を引き受けることができるようになる、という意味として解釈できるだろう。新人のときは、先輩や上司の言うように行動することを求められるし、時に失敗したとしても許容される。つまり、積極的に責任を引き受けなくてもよいと見なされているし、徐々にその範囲を拡大することが期待されている、といえるだろう。

このように考えると、キャリア形成における責任をどの程度引き受けようとするのかは、単に先天的な人格特性などによって決定されるものではなく、組織によっても影響されることが想定される。

では、組織は、キャリア形成における責任をもとうとする個人の態度に対してどのような影響を及ぼすだろうか。そして、より主体的であるようにするには、組織はどのような影響を個人に与えればいいのだろうか。次項では、これらについて、現在、取り組んでいる研究から一部を紹介しながら論じたい。

実証研究から見えてくること

まず、研究の概要について説明すると、組織による支援が、個人のキャリア形成において責任をもとうとする態度に対して与える影響を、定量的に検証している。ただし、組織による支援は従業員の知覚として捉えており、また2種類の支援の知覚を用いている。

1つめは、知覚された組織支援(Perceived Organizational Support:以下、POS)である。POSとは「組織が従業員の貢献を価値あるものとしている程度や、従業員のwell-beingに配慮してくれている程度に関する全般的な信念」(Eisenberger, Huntington, Hutchison, & Sowa, 1986; 高木, 2001 )と定義される概念である。もう1つは、組織的開発支援(Organizational Support for Development:以下、OSD)を用いた。OSDはKraimer, Seibert, Wayne, Liden & Bravo(2011)が提唱した概念であり、「職務スキルやマネジメント能力の発展を支援するプログラムや機会を組織が与えてくれているという全般的な従業員個人の知覚」(Kraimer et al., 2011)と定義される。この2種類の支援の知覚を用いることで、支援の種類によって、影響が異なるのかを検証した。

この研究から、本稿において注目される発見は、2つである。1つは、組織による支援は、キャリア形成における責任をもとうとする態度を強めもするし弱めもする、ということである。そして、もう1つは、支援の違いによって影響が異なる、ということである。

まず、1つめについて論じよう。検証の結果が示したことは、組織による支援は、組織への依存を生み、キャリア形成において責任をもとうとする態度を弱める働きをもつ一方で、直接的には強める作用も有していた。支援を受けることで、組織に任せてしまおうとする個人がいる一方で、支援を受けることで、それなら自分で責任をもってキャリアを作ろうとする個人も存在する、ということである。

この結果が示すことは、組織から支援を受けることは、主体的キャリア形成の文脈でいえば、必ずしも良い結果をもたらさない、ということである。組織が助けてくれることで、助けてくれるなら任せてしまおう、自ら責任を取るのではなく、組織に責任をもってもらおうとすることが起こりうるのである。

しかし、一方で、組織による支援は責任をもとうとする態度を促進もしている。ならば、責任をもとうとする態度を抑制せずに促進するためには、組織はどのように個人に関わればいいのだろうか。この問いに対し、示唆となるのが、2つめの発見である。

2つめの発見は次のようなものであった。POSが組織への依存を通じて責任をもとうとする態度を弱める働きと、直接的に態度を強める働きをもつ一方で、OSDは組織への依存を通じて態度を弱める働きはもつが、直接的に態度を強める働きはもたなかったのである。ここで注目されることはPOSとOSDの内容の違いである。

上記にあるように、POSはその定義のうちに貢献に対する評価を知覚するという要素と助力が得られるという知覚の要素を含むのに対し、OSDは単純に助力が得られるという知覚であり、評価の要素を含んでいない。このことが、POSとOSDによる効果の違いを生み出している可能性が考えられる。つまり、評価の知覚は、キャリア形成における責任をもとうとする態度を強めるが、助力の知覚は弱めるのかもしれない、ということである。

以上のことから、個人に助力を与えるというよりも、個人の行いに対し、しっかりと評価をすること、それを明確に個人に伝わるようにすることが大切だといえそうである。そうすることで、個人はキャリア形成に対する責任をもとうとするようになるのではないだろうか。この提言は、推察の域を出ないが、今後、検討していく意義があるだろう。

おわりに――主体的キャリア形成において組織が果たす役割

以上、主体的キャリア形成を「キャリア上生じることに対し、責任の範囲を自身で決定し、それによってキャリアを形成していくこと」と捉え、特に、責任をもとうとする態度に対して組織がどのように関わるかを論じてきた。そして、個人が自身のキャリア形成において責任をもとうとするためには、組織による評価がポイントになることを、研究の一部を紹介しながら指摘した。

以上の議論から見えてくることは、2つあるだろう。1つは、主体的キャリア形成において、責任をもとうとする態度は、組織から影響を受けることであり、必ずしも個人だけの問題ではない、ということである。主体的な人だから主体的にキャリア形成できるのではなく、組織との関わりのなかで、主体的になりうるし、またならなくなることもある、可塑的なものとして捉えられるだろう。もう1つは、助力を与えることよりも評価することの重要性である。組織による個人のキャリア形成への支援は、スキル形成のための講座やキャリアパスの提示といった助力を与える支援になることも多いのではないだろうか。それらがもつ、例えばスキルの伸長などの効果を否定するものではないが、助力を与える支援は依存を生む可能性がある。キャリア形成における責任をもとうとする態度に対しては、評価を受けているという実感が大切であるのかもしれない。

主体的キャリア形成の問いは、個人の側面が強調されて論じられてきたし、組織というものが、一種の束縛として捉えられる傾向もあったといえるだろう(Inkson, Gunz, Ganesh & Roper, 2012; Roper, Ganesh & Inkson, 2010)。しかし、本稿で見てきたように、組織は単に個人を囲い込む檻のようなものではなく、個人のキャリア形成における責任をもとうとする態度を育む土壌ともなりうる可能性がある。それが、組織のなかで「一人前になる」という表現で言及されてきたことなのではないだろうか。

今現在においても、組織のなかでキャリア形成を行う個人は多く存在する(Clarke, 2013; 鈴木, 2014)。主体的キャリア形成の重要性が提唱されて20年ほどが経過しつつも、組織内でキャリア形成を中心に据えている個人が多い背後には、キャリア形成において組織が一定の機能を果たしている可能性が考えられる。現在取り組んでいる研究から、その可能性の一端が示されたといえるが、まだ、その内容が十分に解明されたとはいえない。組織は個人のキャリア形成と対立するものではなく、組織と個人が関わり合いながら、キャリアが形成されていく過程を明らかにしていくことが重要であろう。

引用・参考文献

Arthur, M., Inkson, K., & Pringle, J. (1999). The new careers: Individual action and economic change. Sage.
朝日新聞デジタル (2016). 『副業・兼業、拡大へ指針 政府、企業に容認促す,
Baruch, Y., & Peiperl, M. (2000). Career management practices: An empirical survey and implications. Human resource management, 39(4), pp. 347-366.
Baruch, Y., Szucs, N., & Gunz, H. (2015). “Career studies in search of theory: the rise and rise of concepts,” Career Development International, 20(1), pp. 3-20.
Clarke, M. (2013). The organizational career: Not dead but in need of redefinition. The International Journal of Human Resource Management, 24(4), pp. 684-703.
Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology, 71, pp. 500 - 507.
Inkson, K., Gunz, H., Ganesh, S., & Roper, J. (2012). “Boundaryless careers: Bringing back boundaries,” Organization Studies, 33(3), pp. 323-340.
Kraimer, M. L., Seibert, S. E., Wayne, S. J., Liden, R. C., & Bravo, J. (2011). “Antecedents and outcomes of organizational support for development: the critical role of career opportunities,” Journal of Applied Psychology, 96(3), pp. 485-500.
Lips‐Wiersma, M., & Hall, D. T. (2007). Organizational career development is not dead: A case study on managing the new career during organizational change. Journal of Organizational Behavior, 28(6), pp. 771-792.
Roper, J., Ganesh, S., & Inkson, K. (2010). “Neoliberalism and knowledge interests in boundaryless careers discourse,” Work, Employment & Society, 24(4), pp. 661-679.
鈴木竜太 (2014). 「組織内キャリア発達における中期のキャリア課題」『日本労働研究雑誌』, 653, pp.35-44.
高木浩人 (2001). 「POS (Perceived Organizational Support) 研究の展開」『愛知学院大学文学部紀要』, 31, pp. 17-25.


PROFILE
市村陽亮(いちむらようすけ)氏
株式会社リクルートキャリア
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 客員研究員

2011年、神戸大学において組織コミットメント研究に従事し、経営学修士号を取得。同年、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に入社。
ラインスタッフとして事業部のモニタリングや計上業務に従事したのち、新卒採用における斡旋事業のキャリアアドバイザー、リクルーティングアドバイザーを務め、2014年に退職。
現在は、神戸大学の博士課程に在籍。研究テーマは自律的キャリア、組織コミットメント、組織による支援の認知など。

※記事の内容および所属は掲載時点のものとなります。

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