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研究レポート
日本・中国・シンガポール・インドの比較調査から
昨今、市場成長が著しいアジア地域に進出する日本企業は増え続けています。しかし一方で、日本から派遣された社員が、上司として現地従業員をうまくマネジメントできずに苦心する状況が散見されています。その問題に対応するため、日本企業は様々な支援施策に取り組んでいますが、実際は、その効果が十分に出ているとは言い難い状況もあるようです。たとえば優秀なローカルスタッフのリテンションについて、弊社が実施した調査(グローバル人材マネジメント実態調査2011)によると、約4割が、なんらかの人事施策を行っているものの、うまくいっていないと回答していました。さらに海外売上比率が50%以上の企業に限定すると、その割合は6割を超えます。
こういった現地拠点のマネジメント問題に対する示唆を得るために、この度、弊社では文化的価値観に着目し、異文化研究の第一人者であるG. HofstedeやGLOBEプロジェクトの国際比較研究などを踏まえ、2012年3月から4月にかけて中国、インド、シンガポール、日本の4カ国で、各地の従業員のマネジメントに対する考え方について調査を行いました。
今回のレポートでは、現在の上司の特徴について尋ねた項目のうち、現在の上司に対する信頼感・満足感との関係が強かった項目をいくつか抜粋し、国別に比較してご紹介します。
サービス統括部 HRDサービス推進部 トレーナーマネジメントグループ シニアスタッフ
図表01 「アジア4カ国のマネジメント特徴比較調査」調査概要
調査概要は図表01のとおりです。分析においては、回答者数の偏りも考慮し、現在の上司を信頼し、かつ満足していると回答した群(以下、満足群)と、現在の上司を信頼していないか、満足していない、またはその両方であると回答した群(以下、非・満足群)とに分け、現在の上司の特徴への回答結果を比較しました。なお、各国の満足群、非・満足群の人数は以下のとおりです。
また現在の上司の特徴については、設問の回答はAに近いか、またはBに近いかを、1~6の選択肢(1:非常にAに近い、2:Aに近い、3:ややAに近い、4:ややBに近い、5:Bに近い、6:非常にBに近い)から選択する形式となっています。今回は、各国の回答傾向(中心化傾向* など)を調整するため、1~3点(Aを選択)を0点、4~6点(Bを選択)を1点と変換した上で平均値を算出しました。また、0点がグラフの中央となるように、その数値から0.5点を減じて調整しました。そのため、グラフ上の得点の範囲は-0.5~0.5点となり、その意味は、マイナスの値であればA寄り、プラスの値であればB寄りとなります。
以降のセクションでは、満足群と非・満足群との間に差が見られた項目をいくつか抜粋し、部下を評価するときの観点、部下へのフィードバックの観点、仕事を進める上での部下への権限委譲の度合いの順にご紹介します。
* 中心化傾向:質問紙調査などで心理学的な測定を行うとき、質問内容に限らず「どちらともいえない」などニュートラルな選択肢が選ばれる傾向
まず、上司が部下を評価する観点について、2つのグラフをご紹介します。1つ目は、結果を重視するか、結果だけではなくプロセスも重視するかを確認する設問です。日本の得点は、満足群の平均が0.15(B寄り)、非・満足群は-0.05(A寄り)、得点差は0.20となりました。 一方で、中国、シンガポールでは満足群と非・満足群の間に日本ほどの差は見られず、逆にインドでは、満足群の得点が-0.22(A寄り)、非・満足群の得点が0.10(B寄り)で、その差が0.32となりました(図表02)。
図表02 結果だけでなくプロセスの良し悪しを評価するか
これらの結果より、日本では、仕事の結果だけではなく、そのプロセスも含めて評価する上司が部下からの満足・信頼感を獲得していることが示唆された一方で、逆にインドでは、プロセスの良し悪しに関わらず、結果を評価する上司が部下からの満足・信頼感を獲得しやすいことがうかがえました。中国・シンガポールでは、結果を重視するか、プロセスを重視するかは日本・インドほど上司の満足・信頼感に影響がないようでした。
2つ目は、部下に対し、成果が出た業務のみを評価するか、成果が出なくてもチャレンジした業務を含めて評価するかという設問についてご紹介します。こちらは1つ目の設問と似た傾向が見られました。日本では、満足群の得点が0.13(B寄り)、非・満足群の得点が-0.09(A寄り)で得点差は0.14となった一方、インドでは、満足群の得点は-0.23(A寄り)、非・満足群の得点も-0.05とA寄りではあるものの、満足群との差は0.18と4カ国の中で最も大きな数値となりました。なお、中国・シンガポールでは、満足群、非・満足群の得点差は日本・インドよりも小さい結果となりました(図表03)。
図表03 成果が出なかったがチャレンジした業務も評価するか
これらのことから、日本では、チャレンジを評価しない上司よりも、チャレンジを評価してくれる上司に対して満足・信頼することがうかがえた一方、インドでは、成果のみを評価することで満足・信頼感が強まることがうかがえる結果となりました。また、中国・シンガポールでは、日本・インドほどこの観点が上司への満足・信頼感に影響を及ぼしていませんでした。
以上2つの結果より、日本においては、仕事の成果だけではなく、そのプロセスの良し悪しや成果につながらないチャレンジも含めて評価する上司が、部下からの満足・信頼感を獲得している一方で、インドにおいては、部下の仕事の最終的な成果を、途中のプロセスの良し悪しやチャレンジの姿勢よりも重視する上司が、部下からの満足・信頼感を得ていると考えることができるようです。
次に、部下への評価フィードバックの観点についてご紹介します。今回の調査では、フィードバック時に部下の強みに重点を置くか、改善点に重点を置くかという設問に対し、中国・インドは満足群の得点がそれぞれ-0.15(A寄り)、-0.19(A寄り)となり、さらにインドでは、非・満足群の得点が0.15(B寄り)となり、満足群との差は0.34となりました(図表04)。
図表04 部下のフィードバック時に、強みに重点を置くか、改善点に重点を置くか
このことから、中国・インドでは、部下は自分の「改善点」よりも「強み」に関するフィードバックを重視する上司に信頼・満足感をもつことが示唆されました。特にインドは、逆に部下の改善点のフィードバックに重点を置く上司は、不信頼感や不満足感をもたらすことがうかがえました。
最後に、仕事を進める際の部下への権限委譲の度合いについてご紹介します。今回の調査では、中国・シンガポールにおける満足群の得点はそれぞれ-0.21(A寄り)、-0.13(A寄り)、非・満足群との得点差はそれぞれ0.26、0.19と、日本・インドよりも大きくなりました(図05)。 さらに、中国とシンガポールにおける非・満足群の得点は、それぞれ0.05、0.06と、わずかながらB寄りとなりました。
図表05 部下への権限委譲の度合い
このことから、特に中国やシンガポールでは、部下を信頼して積極的に権限を委譲してくれる上司が、部下から満足・信頼感を得られることが示唆され、わずかながら管理者としての責任を優先して権限委譲を最小限にする上司は、部下からの満足・信頼感が下がる可能性もうかがえました。
以上の結果から、部下が信頼・満足感の度合いに影響を及ぼす上司の特徴は、国によっていくつか異なる点があることが分かりました。
<部下への評価の観点>
プロセス・チャレンジ重視の日本、成果重視のインドというように、異なる傾向が見られました。上司が部下を評価する観点は、人事制度の設計内容によって決まるものであり、一般には、それ自体を上司の裁量で自由に変えることはできません。しかし、人事評価の場面に留まらず、日常的に、上司が部下のどのような行動に着目し承認するかを意識することは、部下と信頼関係を築いていく上で重要です。その際、たとえば、業務の最終的な成果と、成果に至るプロセスや、成果につながらなかったチャレンジをどのようにとらえるかは着眼点の1つとなります。
<部下へのフィードバックの観点>
中国とインドでは部下の強みに重点をおくことが、上司への満足・信頼感と関係している傾向が見られました。評価面談の定石で言えば、部下の好みに合わせて、「強み」「改善点」のどちらか一方のみをフィードバックするというマネジメントは望ましくなく、必要なことはすべてフィードバックするべきです。しかし、その割合や伝え方は上司の裁量であって、その巧拙によって部下のモチベーションが上下することも起こり得ます。評価のフィードバックの際は、部下の特徴や志向に応じて、どのような順序で、どのような観点を特に丁寧に伝えるかを意識することが重要なポイントの1つとなります。
<業務を委任する際の観点>
特に中国とシンガポールにおいて積極的な権限委譲が、上司への満足・信頼感に関係していました。しかし、部下に任せるといっても、現実には上司にその最終責任がある以上、任せきりというわけにはいきません。大切なことは、権限委譲の度合いについて意図を含めて伝えるなど、信頼を損なうような誤解が生じないようにすることです。たとえば、上司が部下のためにと思って行っていることが、部下から、この上司は自分を信頼していないと受け取られないように注意すべきです。
上司に対する信頼・満足を損ねてしまう行為が国によってどのように異なるかを知ることは、ダイバーシティ・マネジメントをする上司にとって重要です。もちろん、個々の部下の価値観の特徴は国ごとに決めつけられるものではなく、個人差が大きいことに留意する必要がありますが、いずれにせよ、自分がそれまで慣れ親しんだマネジメント・スタイルだけで突き進もうとすると、時に予期しない不具合を生じかねません。したがって、上司は、このような各国の特徴を事前にしっかりと理解し、また自分が無自覚のうちに行っているマネジメント・スタイルを自覚した上で、個々の部下に応じたマネジメントを行うのが望ましいと言えるでしょう。
研究レポート 2024/09/30
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