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研究レポート
従業員満足度を高める要因とは
近年、多くの日本企業が業績を落とし、回復の糸口をつかめないでいます。このような時、従業員が一丸となって苦境に立ち向かってくれたら、経営者はどれだけ心強いことでしょう。また働く一人ひとりも、楽ではない状況だからこそ、この組織この仕事で働く意味を考える機会が多くなるのではないでしょうか。「従業員満足」は古くて新しいテーマといえそうです。当HPでは6月号の特集でも「働きがい」と業績の関係を考察していますが、今月は、弊社商品である「ESサーベイ2」の2006年4月~2009年3月までの実施分のうち一定の基準を満たした190社分のリファレンスデータを用いて分析を行い、従業員満足度を高める要因を考察します。企業戦略としての従業員満足度向上について、あらためてご一緒に考えてみませんか。
従業員満足度の高い会社と低い会社にはどのような違いがあるのでしょうか。ESサーベイ2は「結果指標(満足度・負担感・会社の将来性)」と「要因指標(仕事・職場・上司・会社)」という構造を持っています。結果指標のうち仕事・職場・上司・会社に対するそれぞれの満足度を平均した「総合満足度」と各要因指標との相関係数から、満足度と関係の強い要因を探ります。
相関係数とは、2つの変数の相関関係を示す指標です。値は必ず-1~1の範囲に収まり、1に近ければ正の相関(片方の値が上がれば、もう片方の値が一定の割合で上がる関係)がある、-1に近ければ負の相関(片方の値が上がれば、もう片方の値が一定の割合で下がる関係)があるといいます。(図表01)に各要因指標と「総合満足度」との相関係数を表しました。
図表01 「総合満足度」との相関係数
仕事の側面においては全体的に正の相関が見られるものの突出した尺度はありません。これは仕事に期待することや指向・好みに個人差が大きいことと関係があると思われます。満足度向上の実践現場においては、部署や職種などごとに仕事の特性と従業員の指向との適合を考慮することが有効と考えます。 性格特徴と職務特性の関係が従業員満足度に及ぼす影響を調べた論文もご参照ください。職場の側面においては、課題面では<バイタリティ>、対人面では<相互成長>の相関が強く出ています。現状に満足せず改善や成長を目指す前向きな職場において満足度が高まるようです。上司の側面では、課題面よりも対人面と満足度の関係が強いようです。上司から自分への直接的な働きかけを含むだけに、満足感への影響が大きいのでしょうか。会社の側面では<評価・処遇>(適切な人材登用や異動、評価・処遇の納得感)、<組織体制>(合理的な資源配分と役割分担)、<執務環境>(能率的に働くためのハード・ソフト環境)の相関が強くなっています。経営トップ層の各尺度の相関が目立たないのは寂しいようにも思われますが、実は「経営トップの行動は、会社の将来性の中の<市場での発展>を高め、そのことを通じて従業員満足度を高める」という先行研究があります。今回の結果も先行研究と整合性のあるものといえるでしょう。
別の分析観点を2つご紹介します。ひとつは要因指標の各要素に対する「重視度」、もうひとつは、参考情報として別の項目で回答いただいている「人材ポートフォリオ」です。これまで見てきた結果指標・要因指標が企業の現状への認知を測定していることに対し、「重視度」や「人材ポートフォリオ」は現状認知の影響は受けつつも、従業員個々人が持っている指向や価値観が大きく反映されていると考えられます。個人の指向や価値観の集積という意味では企業文化・風土を表しているともいえるでしょう。従業員満足度の高い企業にはどのような文化・風土が形成されているのでしょうか。
重視度は仕事・職場・上司・会社の各側面においてそれぞれ重視する2~4要素を選択するもので、回答者のうちどのくらいが選択したかという選択率(%)で算出されます。興味深いのは「総合満足度」の上位企業と下位企業で重視される要素に違いがあることです。「総合満足度」の得点上位20社・下位20社の間で選択率に差がある要素を5ポイント差を目安に取り上げました(図表02)。
図表02 「総合満足度」上位20社・下位20社の重視傾向
それぞれに含まれている業種や職種の違いの影響も考えられますが、従業員満足度の高い企業、低い企業の文化・風土の違いが浮かび上がるような、大変興味深い傾向を見ることができます。満足度上位企業における従業員の意識の特徴をあえて文章にして述べると
・ 仕事においては、仕事の意味や成果が明確であってほしいと望むよりも、顧客満足や組織業績に影響力を持ちたいと望む当事者意識を持っている
・ 職場に対しては、責任を果たすという範囲にとどまらず、現状に満足しないバイタリティと相互に刺激を与え成長しあう風土を求めている
・ 上司に対しては、メンバー(自分)を信頼できる判断で導くと同時に育成してくれる上司よりも、変化をとらえ新たな課題を形成する外向きな上司を望んでいる
・ 会社に対しては、評価・処遇の適切さや執務環境より、経営トップからのビジョン発信や変革意欲に関心を向けている
となるでしょうか。このような文化・風土を持つ企業において従業員満足度が高まることは想像に難くありませんし、また、いわゆるぬるま湯ではない、業績につながる従業員満足であることが期待できそうです。一方で、下位20社において重視されている要素も、もちろん軽視されていいものではありません。紙幅の関係で表中には掲載しておりませんが、下位20社で重視されている要素についてその実現度合いを聞くと、上位20社の平均得点がすべて下位20社の平均得点を上回っています。つまり、それらがすでに充足されているために、それら以外の、よりエネルギッシュな要素に価値を感じることができるのかもしれません。
「人材ポートフォリオ」は指向のタイプを組織‐個人・維持‐変革の2軸によって4分類したものです(図表03)。
図表03 人材ポートフォリオ(組織と変革に関する指向)の4分類
「総合満足度」の上位20社・下位20社について、この4タイプの分布を比較してみました(図表04)。
図表04 指向タイプの分布比較
上位20社のほうが<TYPE Aプロデューサー指向>と<TYPE Bマネジャー指向>の割合が多く、下位20社では<TYPE Dエキスパート指向>の割合が多いことがわかります。最適な人材タイプのバランスは各社の事業構造など他の要因の影響も受けますので、上位20社の結果が最適な人材ポートフォリオの割合だということはできません。しかし、組織の成長をわが事として考え、変革・挑戦に取り組む人材が多いことは、組織に活力を生む要因となりそうです。
従業員満足度の高い企業ではどのような仕事の仕方をしており、どのようなコミュニケーションやマネジメントが行われ、どのような会社の仕組みがあるのか。また、どのような価値観や指向を持った人材が集まっているのか、データ分析によって考察して参りました。皆様の企業におかれましても、いきいきと高い成果をあげようと働く社員が増えることを願い、今回のレポートがその一助となればと思っております。
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