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研究レポート
マネジメント階層における役割機能と要件
最近、「次世代リーダーを育成したい」「経営を担える人材を育成したい」というご要望を多くいただきます。世の中の企業は、かつてないほどに優れた経営者、優れた上級マネジャーを求めるようになってきています。
しかしながら、上位のマネジメントを担える人材を育成するための王道や確立された手法は決して多くはありません。その理由の一つには、上位の階層へ移行する際に求められる要素や開発課題が、他の階層ほど明確になっていないことが考えられます。一般に、上位の階層になるほど、人格のような抽象的で統合的・網羅的な能力が求められるようになります。これは個別・具体的な知識やスキルなどと比べて開発困難で複雑な要素であり、開発課題として言語化しにくい性質をもっています。
弊社では、取締役クラスから係長クラスまでを対象として、より多くの個人が上位のマネジメントステージへスムーズに移行していくことを支援し、また、昨今の経営層育成や次世代リーダー育成といった課題に対して一定の方向性を提示することを目指して研究を進めております。本稿では、この研究の第一段階として、各階層に期待される役割および上位階層への移行期に個人が直面する変化と、それを乗り越えるために必要な要件を明らかにする取り組みについてご紹介いたします。
人は仕事を通して、学習し、成長していきます。企業においては、各階層(ステージ)で個人に求められる役割期待が存在し、昇進・昇格を契機に大きく変化します。その時々の期待に応えていくことが、個人の成長であるという言い方もできます。弊社では、組織におけるマネジメントの階層を係長から事業部長までの5段階に分け、個人がより上位のマネジメント階層に移行(Transit)する際――マネジメントステージの転換点――に、どのような変化に直面し、どのようにその変化を乗り越え成長していくのかに着目して研究を行っています。
例えば、部長だった人が事業部長に昇格すると、特定の機能だけではなく、バリューチェーン全体を見渡して、よく知らない機能までマネジメントしなければならなくなります。また事業部全体の向かう方向、未来を考え、従業員に対して魅力あるビジョンとして発信していかなければなりません。もしくは、事業部長が取締役に昇格すると、企業の全体最適という視点がより大切になり、今まで自分が愛着をもって担当してきた事業さえもスクラップの対象とする、というような冷徹さが求められることもあります。このように、マネジメントの階層が上がる転換点において、個人に求められる役割期待は唐突かつ急激に変化します。変化は連続的・段階的に起こるのではなく、非連続的に起こるのです。その変化にいち早く対応し、新たな職位で成果を上げていくためには、今まで通用していたやり方や過去の成功体験の一部を捨てて、新しいやり方を身につける必要があると考えられます。
この考え方のベースとなっているのは、アメリカにおける大企業のリーダーシップ開発のフレームワークとして提示された「パイプライン・モデル」です。ラム・チャラン、ステファン・ドロッター他は、GEが先行して構築したリーダーシップ開発のフレームワークを「パイプライン・モデル」と名づけました(※1)。
※1 “The Leadership Pipeline” by Ram Charan, Stephen Drotter, James Noel, 2001 (邦訳『リーダーを育てる会社 つぶす会社』 グロービス・マネジメント・インスティテュート訳 英治出版)
彼らの論によれば、「管理職は各転換点において、新しいマネジメント方法を身につけ、次の3つの職務要件を新たに習得し、それまでの古いやり方を捨てなければならない」とされています。 (1) スキル―――――――新しい責務をまっとうするために必要な新しい能力 (2) 業務時間配分――――どのように働くかを規定する新しい時間枠 (3) 職務意識――――――重要性を認め、注力すべきだと信じる事柄
このモデルを参考に、私たちは、典型的な日本企業のマネジメント階層をGrade1(取締役クラス)~Grade5(係長クラス)に分け、それぞれの階層に求められる役割機能と、その役割機能を果たすためにはどのような「知識」「スキル」「能力」「パーソナル特性」が必要とされるのか、という側面から仮説を立てました。また、その直前の階層から昇格してきた際(転換点)に、どのような大きな変化に直面するのか――つまり、ステージ転換にともなって特に求められる「知識」「スキル」「能力」「パーソナル特性」についても仮説を構築しました。以下にその一部をご紹介いたします。
なお、各転換点において直面する変化は、マネジメント階層のはっきりした大手企業において、ある程度共通のものであると考えております。
転換点においては、従来のやり方が通用しないために、一時的に個人のパフォーマンスは低下するかもしれません。しかし、新たに直面する変化がある程度予測可能なものであれば、マネジメントの移行期をよりスムーズに早く乗り切る方法を提示できる可能性があります。そして、その方法に則れば、個人は新たな役割において、より早くパフォーマンスを上げることができるようになるでしょう。言い換えれば、転換点に直面した個人として、どのような行動をし、何を身につければよいかという示唆を得て、学習が促進されることになります。企業としても、転換点に直面した個人に対する支援のヒントを得て、リーダー・経営者の育成に役立てることができます。
このような仮説が、現実に日本の大手企業にどの程度該当するかということを検証するために、現在、日本の主要企業の経営層(事業部長以上)の方々にインタビューを行っております。インタビュー対象の方々には、過去に階層をまたがる変化に直面した時のことを振り返っていただき、どのような変化に直面されたのか、またその変化を乗り切るためにどんな行動をとられたのか、どんなことが役に立ったのかということについて、具体的にお聞きしようとしています。また、数ある転換点の中で最も大きなものはどれだったのか、ということについても明らかにしていきたいと考えております。
このインタビューも含めさまざまな観点からベースとなる仮説の検証を精緻に行い、多くの方々の実感に即したモデルの構築を目指してまいります。本稿の第2段では、仮説の検証結果の一部をご紹介する予定です。
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