研究レポート

メンバー特性を踏まえたマネジメント

上司によるマネジメントとメンバーの離職意思との関連 -メンバーの価値観に着目して-

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上司によるマネジメントとメンバーの離職意思との関連 -メンバーの価値観に着目して-

若年就業者の離職は企業のみならず若年層のキャリア形成にも影響を与える課題として注目を集めています。離職に悩む企業の多くはさまざまな対策を取っていますが、そのなかでも上司の果たす役割の大きさは疑う余地がありません。一方、上司のマネジメントの効果とメンバーの特性がどのように関連しているのかは明らかになっていないところが多くあります。

そこで本レポートでは、上司によるマネジメントとメンバーの離職意思との影響に、メンバーの「価値観」がどのように関連するのか、また会社としてのビジョン発信や成長機会の担保が個人の離職意思にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを試みた研究をご紹介します。

※本研究の詳細は、“坂本・渡辺(2024)・上司によるマネジメントとメンバーの離職意思との関連-仕事に対する価値観に注目して-・経営行動科学学会第27回年次大会発表”をご参照ください。

執筆者情報

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主任研究員

坂本 佑太朗(さかもと ゆうたろう)
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マネジャー

渡辺 かおり(わたなべ かおり)
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1. 若年就業者の早期離職課題

若年就業者の早期離職は、企業や若年層のキャリア形成に影響を与える課題として捉えられています。社会人3年目までの従業員(N=435)を対象とした調査(リクルートマネジメントソリューションズ,2023)では、勤めている会社を辞めたいと思った理由(2つまでの複数選択)としては、「仕事にやりがい・意義を感じない」が最も多く、次いで「給与水準が満足できない」、そのほか「やりたい仕事ができない」「会社の将来性に不安がある」や「今後のキャリアが描けない、目指すキャリア形成につながらない」「成長できる見通しが持てない」等が挙げられています。辞めたいと思った理由として「仕事に関するやりがい」が上位であったことは、かつてよりも若年従業員の仕事に関するやりがいや意義への感度が上がってきているとも解釈できます。

また川崎・伊藤(2021)は、離職と勤続年数の関係について調べ、勤続年数が10年未満の従業員では労働条件よりも自己成長できる環境かどうかが、勤続年数が10年以上の場合は、福利厚生や労働時間の管理が離職との関連が強いことを明らかにしています。

これらを踏まえると、若年就業者の離職意思軽減の手段として、 1)メンバーのやりがいを高めるようなマネジメントや、2)メンバーのキャリア支援や成長機会の担保を組織で行うことは重要な視点であると解釈できます。

2. 上司によるマネジメントの効果はメンバーの特性によって変化する

上司がメンバーに対して仕事のフォローや称賛をするようなマネジメント行動は、メンバーの離職意思を軽減させるといわれています(尾形,2012)。マネジメントは上司とメンバーの個と個の相互作用でもあると捉えると、上司によるマネジメントの効果はメンバーの特性によって変化すると考えられます。メンバーの「特性」として性格特性がありますが、これに加え昨今は実際の行動により関連が深い個人の価値観の役割の重要性も指摘されています(縄田他,2015)。離職問題においても、「離職」という具体的な行動に関連する個人の考え方としての価値観に着目することは有効であるといえるでしょう。

そこで本研究では個人の価値観として、自己成長の視点を含めた「働く目的」の重視度合いを取り上げました。「働く目的」はSPI3 for Employeesに含まれる尺度で、従業員個人が組織とどのような距離感をもって成長したいかという観点から、「自己成長」と「組織貢献」のどちらを重視するかを1~10の得点で表しています。先に従業員個人の成長という観点の重要性に触れましたが、会社への貢献よりも自分自身の成長を重視するのが「自己成長」、自分の成長を大事にしないわけではないがどちらかといえば組織への貢献を重視するのが「組織貢献」となります。

<図表1>メンバーの価値観である「働く目的」の尺度概要

3. 研究概要

調査対象、使用した変数、分析手法は図表1のとおりです。

本研究では上司によるマネジメントと若年就業者の離職意思との関連に、メンバーの価値観がどのように影響するのか、また会社としてのビジョン発信や成長機会の担保が個人の離職意思にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とします。

<図表2>研究概要

4. 結果と考察

離職という個人レベルでの事象に対し、組織(会社)が行うメンバーのキャリア支援や成長機会の担保の状況を変数として扱うために「マルチレベル分析」(multilevel analysis)(Raudenbush & Bryk, 2002)を行いました。

最初に、「上司によるマネジメント」「会社のビジョン・成長機会」「メンバーの価値観(自己成長重視)」「メンバーの価値観(組織貢献重視)」の4つの変数が離職意思に与える影響を確認しました。

その後「上司によるマネジメント」×「会社のビジョン・成長機会」、「上司によるマネジメント」×「メンバーの価値観(自己成長重視)」、「上司によるマネジメント」×「メンバーの価値観(組織貢献重視)」の3つの組み合わせが「離職意思」に与える影響を確認しました。

4つの変数の離職意思への影響ですが、「上司によるマネジメント」「会社のビジョン・成長機会」が離職意思に対して負の影響を及ぼすことが確認できました。また自己成長重視群は離職意思に対して正の影響、組織貢献重視群は負の影響があり、メンバーの価値観が離職意思に影響することが示されました。

<図表3>マルチレベル分析結果抜粋

マルチレベル分析結果抜粋

次に3つの組み合わせの結果ですが、「上司によるマネジメント」×「メンバーの価値観(自己成長重視)」が有意であったため、交互作用に関する単純傾斜分析の結果を図表4に示しました。自己成長群とそれ以外の群とでは、自己成長群の方が上司によるマネジメントの効果が小さいことを示しています。ただし自己成長重視群は図表3のように離職意思に正の影響を及ぼしていることを踏まえると、多少影響は小さいながらも自己成長重視のメンバーであっても上司によるマネジメントにより離職意思が軽減する可能性は十分に考えられます。

<図表4>「上司によるマネジメント」×「メンバーの価値観(自己成長重視)」の交互作用に関する単純傾斜分析結果

「上司によるマネジメント」×「メンバーの価値観(自己成長重視)」の交互作用に関する単純傾斜分析結果

本研究ではメンバーの価値観(働く目的)によって上司マネジメントの効果が異なるか、ということが焦点でしたが、上司によるマネジメントの効果はメンバーの価値観によって異なる可能性を示す結果となりました。また「会社レベル」でのビジョン・成長機会の担保が、従業員「個人」の離職意思を軽減するという知見は、データの階層性を考慮したマルチレベル分析を通してあらためて示された事実であり、これまでの離職研究の知見を補うものといえるでしょう。

最後に、実務に向けたインプリケーションを3点提示します。

まず、メンバーのやりがいを高めるようなマネジメントが離職意思の軽減につながることから、上司が意識的に積極的なコミュニケーションの機会を担保し、日々の仕事を通してのフィードバックやメンバーの成長につながるような支援を行うことが重要といえます。

次に、やりがいを高めるためには個人の特性を踏まえることが重要であることも確認されました。本人の価値観を捉えつつ、相手に合わせたコミュニケーションを行うこと、また離職意思が高めになりがちな「自己成長」を重視するメンバーには特に意識的にフォローを行っていくことが必要となります。

最後に、会社としてのビジョンを従業員が明確に認知できるよう繰り返し発信することや、従業員個人の成長機会を担保することの重要性も確認されました。若年就業者の離職問題を考えるうえで、上司によるマネジメントの重要性は以前からも指摘されていましたが、それだけではなく、会社としての支援も有効であることが示されたのは、会社としてこの問題に取り組むときの重要な示唆となるのではないでしょうか。

<引用文献>

リクルートマネジメントソリューションズ(2023).第一回新人・若手の早期離職に関する実態調査 https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000001212/#issue02
川﨑昌・伊藤利佳(2021).離職に影響を与える要因分析.目白大学経営学研究,19,27-41.
縄田健悟・山口裕幸・波多野徹・青島未佳 (2015).職務志向性に基づくチーム構成とチーム・パフォーマンスの関連性:最大値・最小値分析による検討.産業・組織心理学研究, 29(1), 29-43.
尾形真実哉(2012).若年就業者の組織適応エージェントに関する実証研究―職種による比較分析―.経営行動科学,25(2),91-112.
Raudenbush, S. W., & Bryk, A. S.(2002). Hierarchical Linear Models: Applications and Data Analysis Methods, Second Edition. Sage Publishing.

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