業務デザインがコラボレーションに及ぼす影響 ゲーム理論モデル分析と行動実験による検討

公開日:2023/12/04
更新日:2023/12/04
ゲーム理論モデル分析と行動実験による検討
執筆者情報
コーポレート統括部
研究本部
組織行動研究所
主任研究員
仲間 大輔

本レポートでは、国際学術誌であるJournal of Economics & Management Strategyに掲載された共著論文(早稲田大学政治経済学術院の上條良夫教授との共同研究)の概要をご紹介します。詳細な内容については、論文をご参照いただくか、筆者までお問い合わせください。

論文情報:
Kamijo, Y., & Nakama, D. (2023). Designing division of labor with strategic uncertainty within organizations: Model analysis and a behavioral experiment.
Journal of Economics & Management Strategy, 32(2), 257-272.


1. はじめに

組織のなかでの業務がどのように設計されているのかは、働きやすさやパフォーマンスの大きな違いにつながります。実際、業務のデザインはマネジメントの中心的な課題の1つであり *1 、チームの有効性を高めるマネジメントツールであるとも考えられてきました *2 。多くの場合、業務のデザインには自由度があります。

例えば、経理業務を考えると、事業部ごとに担当を置くことも、会計区分(売上や原価など)ごとに担当を置くこともできます。また、営業マネジャーは、役割 (カバレッジやプロダクト)ごとのチーム編成にすることもできますし、顧客や業界ごとのチーム編成にすることも可能です。こうした場合、どのような考えに基づいて、業務を設計するべきでしょうか? 実は、こうした点についての体系的な知見はそれほど多くはありません。本研究は、こうした点――マネジャーはどのように業務を設計するべきか――に対する実践的なガイドを提供することを目的としています。

2. 業務デザインの類型

組織研究において、組織内の分業のあり方は機能別構造(Functional structure)と事業別構造(Divisional structure)の2つの類型に分けられることが知られています *3 。機能別構造では、取り組むタスクの類似性に基づいて作業ユニットが形成されるのに対して、事業別構造ではユニットの自律性(またはユニット内の作業の補完性)に基づいた業務デザインであると考えられます*4

これらを模式的に表したのが図表1になります。

図表1の左側の機能別構造では、メンバーは業務ごとにまとまります(図表1の例ではタイヤ担当ユニットとシャーシ担当ユニット)。このような組織形態において、全体としてのパフォーマンスを高めるためには、各作業ユニットの間でアウトプットが効率的に調整されている必要があります。例えば、会社全体でのクルマの生産のためには、タイヤとシャーシの両方が必要となり、どちらか片方があるだけではパフォーマンスにはつながりません。それとは対照的に、図表1の右側の事業別構造では、ユニット内に必要な業務が集められています(図表1の例ではタイヤ担当とシャーシ担当)。この場合、ユニットの内部での調整を効果的に行う必要がありますが、そこからのアウトプットは組織全体の成果にそのままつながります(図表1の例では2つのユニットでのクルマの生産の合計が全体的な生産高になります)。


<図表1>2つの組織類型


2つの組織類型



業務デザインの類型に関する先行研究では、外部環境の不確実性との対応関係について詳しく調べられてきました。そこでは、予測可能で安定的な環境においては、機能別構造は業務の専門化を促進し、組織をより効率的にするのに対して、予測困難な不安定な環境下では組織の柔軟性を促進する事業別構造において組織のパフォーマンスは向上する、とされます*5 。こうした予測は、少人数のチームを対象とした実験室実験でも確かめられています*6 。また、組織内の報酬体系との関連についても研究が行われており、メンバーの組織に対する貢献活動を引き出しやすいのは事業別構造であると考えられてきました*7

こうした先行研究に対して、本論文では、外部環境や報酬体系の影響ではなく、メンバー間の自律的なコラボレーションのありように注目します。各メンバーが自律的に行動をしている状況であれば(言い換えれば、マネジャーが完全にメンバーの行動をコントロールできない状況であれば)、どちらの組織構造においても、組織として成果を出すためには、メンバー自身で互いの活動をうまく調整し合う必要があります。それがうまくできなければ、非効率が発生します。例えばシャーシが足りない状況でタイヤ業務を一生懸命行ったとしても、その努力は組織としてのクルマの生産にはつながらず、無駄となります。つまり、自分がどれだけ努力すればよいかは、他のメンバーがどれだけ努力するかによって異なってくるということです。こうした場合、メンバーの努力水準や組織としてのアウトプットの水準は、これら2つの業務デザインの間で、どのように異なってくるでしょうか?

3. モデルと数理分析

本論文では、図表1の状況を数理的にモデル化しています。本レポートでは詳細は省略し、基本的なアイディアのみを説明します。

組織のなかの各人(図表1では4人)の作業が、どのように組織全体のアウトプットにつながっていくのかを考えます。本論文では、同種のタスクであれば単純に個々の生産量が合計される形でアウトプットが決まるのに対して、異なるタスク(タイヤとシャーシ)であれば、個々の生産量の小さい方がアウトプットになるとモデル化しました。

具体的には、機能別構造であれば、まず、業務ごとにまとまっているユニット内で各人の作業が単純合計されてユニットのアウトプットが定まり、次に2つのユニット(タイヤとシャーシ)のアウトプットの小さい方が組織全体のアウトプット(クルマ)を決定すると考えます。反対に、事業別構造であれば、まず各ユニット内で各人の作業の小さい方がユニットのアウトプットとなり、次に2つのユニットのアウトプット(クルマ)が単純合計される形で組織としてのアウトプットが決まるということです。

このようにモデル化すると、単純な数理分析からは、機能別構造は事業別構造よりも望ましいということが証明できます。組織としての「無駄」は、異なるタスクが結合されるとき(つまり、アウトプットが「小さい方の値を取る」とき)に生じるため、そのプロセスができるだけ後工程にある方が効率的だからです。

しかし、こうした分析結果は本当に正しいのでしょうか? 実は、業務デザインの構造が各人の行動に影響を与えることを考慮したゲーム理論的な分析を行うと、必ずしもそうとはいえないということが分かります。そこで、本論文では、行動実験を行うことで、この点についてさらなる検討を加えました。

4. 実験の方法と結果

4.1 実験手続き

160名の大学生を対象に実験を行いました。参加者は、4人1組で実験に参加し、抽象化された「経済ゲーム」をプレイします。「機能別構造」でのゲームを行った参加者は20組80名であり、「事業別構造」での参加者も同数でした。

実験では、4名はそのなかで2名ずつのユニットに分かれ、自身のタスクに対してどの程度組織のために「貢献」をするのか(自分の資源を組織のために用いるか)を決定します。各人の貢献量は、まず各ユニット内(2名)で集計され、その次に組織全体(2ユニット)で集計されます。その集計のルールが組織構造によって異なっており、前節で説明したような計算ルールが適用されました。組織全体のアウトプットは、各人(4名)に均等に分配される形で参加報酬に反映されます。こうした意思決定を10ラウンド行い*8、個人の貢献量(組織内での各人の貢献量の平均)と組織全体のアウトプットの推移を調べました。


4.2 実験結果

実験の主な結果を図表2に示しています。


<図表2>個人の貢献量と組織全体のアウトプットの推移


個人の貢献量と組織全体のアウトプットの推移


出所:Kamijo, Y., & Nakama, D. (2023). Designing division of labor with strategic uncertainty within organizations: Model analysis and a behavioral experiment. Journal of Economics & Management Strategy, 32(2), 257-272.


図表2から明らかなように、個人の貢献量においても、組織としてのアウトプットにおいても、事業別構造は、機能別構造を上回るという結果となり、統計分析もそれを裏付けています。

さらに、最終ラウンドでの現象はエンドエフェクトと呼ばれ実験でよく見られるため、それを除いた分析を行ったところ、事業別構造では貢献量も組織のアウトプットもラウンドを経るごとに増加傾向にあることもわかりました。それに対して、機能別構造では、ラウンドを経るごとに両者は減衰していくことが示されました。

こうした結果は、単純な数理分析の結果とは異なるものですが、先行知見から導かれる行動の予測とは整合的なものでした。これまでの研究から、行動の調整には互いに関する多くの情報が必要であることがわかっています。人々の実際の行動を考慮すれば、補完的な作業(互いの調整を必要とする作業)はなるべく早い段階で近い相手(例えば、部署間よりも部署内)と行われるようにするのが望ましいと考えられます。

5. おわりに

この論文では、業務デザインの設計によってメンバー間のコラボレーションの効率性が変わり得ることを明らかにしてきました。

単純な数理分析と行動実験の結果の違いは、個人の自律性の程度が業務デザインを選択する際に重要なファクターとなることを示しています。個人の行動決定に自律性が少ない場合、言い換えれば、望ましい行動をマネジャーが指示できる場合であれば、機能別構造の理論的な優位性が見られるのに対して(数理分析の結果)、個人の行動が自律的であり業務デザインに影響されるような場合であれば、事業別構造の有効性が高まる(実験の結果)と考えられます。

ただし、本研究の結果の一般化には留意が必要です。本論文でのモデル化は単純なものであり、例えば組織の人数規模やメンバー間の能力差異の存在など、実際の業務デザインのうえで考慮すべき事項を含めた場合に同様の結果が得られるのかについては、さらなる検討が必要と思われます。

組織構造によって個人の貢献量や組織パフォーマンスに違いが生じたという行動実験の結果は、マネジャーがハンズオン型の支援のみならず、業務デザインを通じてチームをリードすることができることを示しています。マネジャーの負荷増大が懸念される現代の組織環境において、こうした結果は実務上の示唆を持つものであると考えています。



*1 Mintzberg, H. (2009). Managing. San Francisco: Berrett-Koehler Publishers.

*2 Wageman, R. (2001). How leaders foster self-managing team effectiveness: Design choices versus hands-on coaching. Organization science, 12(5), 559–577. doi:10.1287/orsc.12.5.559.10097

*3 Chandler, A. D. (1990). Strategy and structure: Chapters in the history of the industrial enterprise (Vol. 120). Cambridge, MA: MIT press.

Williamson, O. E. (1975). Markets and hierarchies: analysis and antitrust implications: a study in the economics of internal organization. New York: The Free Press.

*4 Raveendran, M., Puranam, P., & Warglien, M. (2016). Object salience in the division of labor: Experimental evidence. Management Science, 62(7), 2110–2128. doi:10.1287/mnsc.2015.2216

*5 Lawrence, P. R., & Lorsch, J. W. (1967). Organization and environment managing differentiation and integration. Cambridge, MA: Harvard University Press.

Pennings, J. M. (1992). Structural contingency theory: A re-appraisal. Research in Organization Behavior, XIV, 267–309.

*6 Hollenbeck, J. R., Moon, H., Ellis, A. P., West, B. J., Ilgen, D. R., Sheppard, L., ... & Wagner III, J. A. (2002). Structural contingency theory and individual differences: Examination of external and internal person-team fit. Journal of applied psychology, 87(3), 599–606. doi:10.1037/0021-9010.87.3.599

*7 Maskin, E., Qian, Y., & Xu, C. (2000). Incentives, information, and organizational form. The review of economic studies, 67(2), 359–378.

Burton, R. M., & Obel, B. (1980). A computer simulation test of the M-form hypothesis. Administrative Science Quarterly, 25(3), 457–466. doi:10.2307/2392263

Burton, R. M., & Obel, B. (1988). Opportunism, incentives, and the M-form hypothesis: A laboratory study. Journal of Economic Behavior & Organization, 10(1), 99–119. doi:10.1016/0167-2681(88)90029-7

*8 各ラウンドの終了後、参加者は、「同ユニットの別の参加者の貢献量」「自分のユニットのアウトプット」「別のユニットのアウトプット」「組織全体のアウトプット」「自身への配分額」等を知らされました。詳しくは論文をご覧ください。

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