従業員はリスクを好むのか 成果給がもたらす2つの効果とは

成果主義の成功・失敗は何によってもたらされるのでしょうか。経済学の視点から、考察していきます。


成果給は効果なし?

一時期は盛んに取り上げられていた成果主義も、最近は以前ほど耳にすることはなくなった。少なくとも全体的な傾向としては、結局のところ成果主義はあまりうまくいかなかったという認識が多いようである。とはいえ、企業の人事管理において業績や成果に対するインセンティブの支給は過去にも行われてきたし、現在も行われている。むろん今後もなくなることはないだろう。個別に見れば、成果を重視した人事管理で成功しているという企業の例もないわけではない。

何が成功と失敗を分けるのだろうか。企業の人事管理に関心をもつ立場からすれば、つい人事制度の設計や運用の違いに原因を求めたくなるところである。だが、実はもっと単純で、かつ根本的な問題に目を向けるべきなのかもしれない。それは、そもそも従業員が成果主義的な処遇を好むタイプの人々なのか、ということである。

賃金の支払い方(賃金スキーム)の選択の問題とは、見方を変えれば、企業と従業員のリスク・シェアリングをいかに設計するかという問題でもある。仕事の成果は努力さえすれば必ず得られるというものではないし、偶然や外的な不可抗力に左右される可能性もある。その意味で、仕事には必ずリスクが伴っている。仮に、従業員に成果と全く関係のない完全な固定給を支払うとしよう。すると当然、成果があがろうがあがるまいが従業員の賃金には何の影響も及ばず、リスクはすべて企業が負うわけである。それに対して、成果給型のスキームでは、仕事の成果が変動するリスクを、賃金の上がり下がりという形で従業員にも一定程度負わせることになる。そうしたリスクを好んで受け入れる人もいるだろうが、好まない人も当然いるだろう。これは善し悪しの問題ではなく、リスクというものに対する個々人の態度、つまりリスク許容度(Risk tolerance)の問題である。この小論では、人々のリスク許容度と賃金スキームの関係について、経済学の分野で議論されていることをいくつか紹介してみたい。

「インセンティブ」と「選別」

経済学における議論では、成果給には主に2つの働きがあるとされている。1つは努力を引き出して成果創出につなげるためのインセンティブとしての機能である。これは直観的にも分かりやすいだろう。もう1つは、賃金スキームの違いが、それぞれに適合するような能力やリスク許容度の人材を引きつけるというもので、むしろ人材採用に関連して表れる働きである。この後者の働きは、一般に「選別」(Sorting)と呼ばれている。

まずはこの点について、フランスの研究機関で行われたある経済実験を、概略のみ簡単に紹介しておこう(Eriksson and Villeval, 2008)。この実験の被験者には、「企業」と「労働者」の役割がランダムに割り振られる。後者の労働者役となった被験者は、さらに「高スキル」と「低スキル」のグループにランダムに分けられる。ここで、高スキル(優秀)であるとは、努力することの負担が低いことを意味している。例えば、100%の努力を発揮すると、高スキルグループの被験者は12、低スキルグループの被験者は30の費用がかかるものと事前に定められている。被験者はそのルールを頭に入れた上で、以下のような16回の繰り返しゲームをプレイする。

前半の8回は固定給型のゲームを行う。ここでは、まず企業が固定給の金額と望ましい努力水準を決めて提示し、その契約を受け入れた労働者が、実際には自分がどれだけの努力を行うかを決める。後半の8回では、そこに成果給型のゲームが加わる。企業が条件を提示し、労働者が実際の努力水準を選ぶところまでは同じである。その後、労働者が実際に選んだ努力水準に基づいて、一定の計算規則によって支払う賃金額を決める。むろん、努力水準が高いほど賃金も高くなる。企業は固定給と成果給両方の賃金スキームを提示する。それを見た上で、労働者は努力水準だけでなく賃金スキーム自体も選択する。

この繰り返しゲームの結果、後半、つまり固定給と成果給を選択できる場合の方が、労働者が選ぶ平均的な努力水準は高くなった。また、選ばれた努力水準のバラツキも後半の方が大きかった。このような結果が生じた主な理由は、高スキル労働者(の役割を割り当てられた被験者)の多くが、成果給型の賃金スキームを選択し、かつそのスキームにおいて高い努力水準を選んだことによる。一方、低スキル労働者の方は後半でも固定給型を選ぶ傾向が強く、努力水準もさほど伸びることはなかった。つまり、賃金スキームに合わせた労働者の選別効果が生じ、かつ、成果給型を選んだ高スキル労働者にはインセンティブ効果も生じたというわけである。

リスク許容度と成果給

上記の研究は実験データによるもので、また高スキルであるか否かを「努力の費用」で仮想的に表現したものだった。しかしこればかりではなく、労働者のリスク許容度についても、賃金スキームの違いから選別効果が生じることが、より現実的なデータに基づく分析によって報告されている。

例えばBellmore and Shearer (2010)の研究は、カナダのある植樹業者の従業員について面白い発見を報告している。この企業の賃金スキームは植樹本数に比例する成果給(歩合給)であり、その支給額には日々かなりの変動がある。著者らはアンケートなどの手法を用いて、こうした賃金スキームの下で働いている従業員のリスク許容度を調べてみた。すると、そのリスク許容度は、一般の人々の平均値よりも明らかに高いことが分かったのである。つまり、この企業の成果給型の賃金スキームが、よりリスク許容度の高いタイプの人材を引きつけている可能性が示されたわけだ。

また、Grund and Sliwka (2010)は、ドイツの大規模な調査データを用いて分析を行っている。この調査では、職業上のキャリアなどに関してどの程度リスクを受け入れるタイプなのか、調査対象者それぞれに自己評価させている。また、それぞれの勤務先賃金スキームについての情報(成果評価があるか否か、賃金への成果反映があるか否かなど)も集めている。これらのデータを用いて分析を行った結果、リスク許容度が高い人ほど、成果給型の賃金スキームの下で働いている確率が高いことが明らかになった。

では、そのような選別効果が働いた結果はどうなるのだろうか。Cornelissen et al. (2011)の研究では、上記と同じドイツのデータを用いて、仕事満足度との関係も含めた分析が行われている。年齢や性別、所得などの諸要因を統計的にコントロールした上で得られた結果として、成果給スキームの下ではリスク許容度の高いタイプほど仕事満足度が高まっている一方、固定給スキームの下ではそのような差は見られないことが分かった。そして、平均的な仕事満足度は、成果給スキームの方が固定給スキームよりも高い。つまり、リスク許容度の高いタイプの人々は、成果給スキームに加わることで、自身も何らかの追加的な利益(経済学の概念でいえば「レント」)を得ていると考えられるのである。

何のための成果給なのか

ここで紹介した一連の研究から汲み取るべき示唆は、賃金スキームがもつ選別機能の重要性である。この点は、実務上も改めて意識されるべきではないだろうか。企業において成果給の導入が指向される場合、多くはそのインセンティブ効果に着目して、既存の従業員のやる気を高めることが期待されている。しかし、それ以前の問題として、そもそも従業員のリスク許容度が(平均的に)どういうタイプであるかを、よく考える必要があるだろう。

リスク回避的な傾向の強い組織風土に成果給を適合させるのは難しい。先に見た研究が明らかにしているように、もしリスク許容度の低い人材が組織の大半を占めているのであれば、成果給の導入は、単に従業員の仕事満足度を平均的に低下させるだけの結果に終わるかもしれない。また、従業員にさまざまなリスク許容度のタイプが混在しているような場合はどうだろうか。確かに、リスク許容度の高いタイプの生産性は向上すると予想される。しかし、それと同時に、成果給スキームの導入は個々人の努力水準のバラツキを広げ、かつ仕事満足度の格差を生み出す可能性がある。例えばチームワークや組織的対応が重要になるような事業において、それらが果たして良いことといえるのかどうか、一考の余地があろう。逆にいえば、賃金スキームの改革を通じて従業員の行動を変えることを目指すならば、短期的なインセンティブ効果だけでなく、人材調達面での中長期的な選別効果も含めて考えねばならないということだろう。


参考文献
Bellmore C. and B. Shearer (2010) “Sorting, incentives and risk preferences: Evidence from a field experiment”, Economic Letters 108: 345-348.
Cornelissen T., J. S. Heywood and U. Jirjahn (2011) “Performance pay, risk attitudes and job satisfaction”, Labor Economics 18: 229-239.
Grund C. and D. Sliwka (2010) “Evidence on performance pay and risk aversion”, Economic Letters 102: 8-11.
Eriksson T. and M. C. Villeval (2008) “Performance-pay, sorting and social motivation”, Journal of Economic Behavior and Organization 68: 412-421.


PROFILE
柿澤寿信(かきざわひさのぶ)氏
大阪大学 全学教育推進機構 特任講師
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 客員研究員

博士(応用経済学)。複数のコンサルティングファーム勤務、同志社大学商学部助教を経て現職。企業の内部労働市場に関する計量的研究を主に行っている。主な業績として『人事の統計分析:人事マイクロデータを用いた人材マネジメントの検証』(ミネルヴァ書房、共著)など。

※記事の内容および所属は掲載時点のものとなります。

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