研究レポート

経営層とマネジャー すり合わない面接評価

面接者の属性によって、評価観点はどのように異なるのか

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面接者の属性によって、評価観点はどのように異なるのか

本レポートでは、面接者の属性の違いが、面接の評価の観点に及ぼす影響について、実証的に検証した結果をご紹介します。

はじめに

本年もまた企業の新卒者採用活動のピークシーズンが到来し、この時期、日本の企業では、採用選考プロセスの中でも重要視されている採用面接が数多く実施されています。

この仕事をしておりますと、お客様との会話の中で、次のような採用に携わる人事の方々の悩みを耳にすることがあります。それは、「採用面接時に役員・経営層が高く評価する『とがった人材』『出る杭人材』は、いざ現場に配属されるとマネジメントに苦労し、現場マネジャーから不満の声が絶えない」というものです。このことは、面接者の評価が、社内における面接者の立場によって違うこと、つまり一般管理職と役員など経営層の間に生じる評価観点のズレに原因の一端があると言えそうです。

採用面接は、直接コミュニケーションを取ることで、被面接者が組織内での協働がスムーズにできる人物かどうかを判断できる非常に重要なツールである一方で、面接者の主観的評価であるが故に、人物評価のツールとしてとらえると問題点がないとは言えません。実際、面接評価のばらつき(分散)は、被面接者の特性によって生じるものよりも、面接者の特性によるものの方が多いことが、海外の研究でも(Graves&Powell,1996;Sculle N et al,2000)、日本の研究でも(今城,2005;小方ら2005)示されています。面接者ごとに評価の観点が異なるという事実がある以上、面接者の属性の違いが、面接の評価の観点に影響を及ぼすメカニズムを明らかにすることには大きな意味があると考えます。

そこで、本レポートでは、面接者の組織内でおかれている立場や職位、役割の違い、職種、業種によって被面接者をみる時に重視する観点がどのように違ってくるのかについて着目することにしました。これを明らかにするために、新卒者採用の面接経験者(面接者として)に実施した調査から、面接者の属性の違いによるデータ分析を試みています。調査概要については図表01の通りです。

図表01「新卒者採用面接における評価プロセス調査」調査概要

図表01「新卒者採用面接における評価プロセス調査」調査概要

調査の結果をもとに、面接者の組織内での立場・属性の違いによって、評価の観点がどのように違うのかについて、日本企業のビジネスパーソンが新卒者採用面接において重視する7つの力の重視度を比較することにより、検討することにしました。なお、本調査では、企業のビジネスパーソンが新卒者採用面接において重視する力として、「コミュニケーション力」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」「責任感」「創造性」の7つの力をおいています。「コミュニケーション力」から「責任感」までの6つの力については、経団連が毎年実施している「新卒採用に関するアンケート調査」で聞いている「選考にあたって特に重視した点(24選択肢から5つを選んで回答させる形式)」で、選択率が上位6位までにランキングされている選択肢※です。「創造性」については、上位6位内にはランキングされていませんが、従来通りのことをしていると成果・結果を出すことが難しいビジネス環境において、今後ますます重視されるであろう力として、本調査の選択肢に用いることにしました。以降、面接者の役職、職種、業種によって、新卒者採用面接において重視する力がどのように違うのかについて順番にご紹介します。

※2011年調査まで。2012年調査では「責任感」は9位

分析の方法は次の通りです。調査では、「以下は、多くの企業で新卒入社者に求めるものとしてあげられたものですが、あなた自身が新卒者の採用において重要だと思う順番を、1~7までつけてください。最も重要だと思うものが1、最も重要度の低いものが7となります。」という問いに対し、前述の7つの選択肢をおいて質問しています。各選択肢において、1、2をつけた場合にこの力を重視しているとみなし「1」のフラグを、それ以外の場合には重視していないとみなし「0」のフラグをたて、「〇〇〇重視度」というラベルをつけました。この「〇〇〇重視度」の平均値を使用し、比較検討を試みました。

面接者の役職による違い ~経営者・役員は職場の風穴を、管理職は実践力を求めている~

図表02 面接者役職別 新卒者採用面接で重視する力 <経営者・役員 N=30、管理職 N=326人>

図表02 面接者役職別 新卒者採用面接で重視する力 <経営者・役員 N=30、管理職 N=326人>

まず、冒頭のべた面接者の役職を、経営者・役員相当(経営者・役員)と係長・課長・部長相当の一般管理職(以下管理職)の2つに分けて、それぞれが7つの力のうち何にプライオリティをおいているのかについてご紹介します。

図表02をみていただくと、「チャレンジ精神」「創造性」といった力は、管理職の0.31、0.11と比べて経営者・役員の方が重視しており、0.50、0.20と約2倍近くであることが分かります。一方で、「主体性」(経営者・役員:0.17 管理職:0.27)をはじめとし、「協調性」(経営者・役員:0.13 管理職:0.20)「誠実性」(経営者・役員:0.20 管理職0.27)、「コミュニケーション能力」(経営者・役員:0.47 管理職:0.51)といった、日々現場で必要となる力については、いずれも経営者・役員よりも管理職の方が重視しています。

このことは、現場から離れており、新入社員と直接接する機会も少なく、実際に彼・彼女らを育成する立場にない経営者・役員は、現場・職場とは異なる視点でみているということを示しています。つまり、経営者・役員は、少し先の将来を見越し、組織・会社という全体視点で風穴をあけてくれるような人材を求める傾向があるのではないでしょうか。一方で管理職は、職場で実際に新入社員を育成する立場にあるので、自職場での育成や活躍のリアリティを伴い、より日々の仕事で必要となる即戦力を重視する傾向があると言えます。以上から、冒頭述べた顧客から聞かれた現象が、定量的に説明できたと解釈できそうです。

面接者の職種による違い ~今現在、即戦力として職場で活きる力を重視~

次に、面接者の職種※による重視する力の違いについてみることにします(図表03)。ここでは職種による違いに着目するため、主に他の職種との比較という観点でデータをみることにしました。以下、順番に各職種の特徴としてみられた傾向についてご紹介します。
※調査では、「これまでで最も長く経験した職種」として11職種の選択式で職種を聞いていますが、ここではある程度多くのサンプル数(40人以上)が確保できた4職種に限って比較検討を行いました。

図表03 面接者職種別 新卒者採用面接で重視する力
<営業・販売・サービス N=72、経営企画・事業企画・事業開発 N=59、スタッフ系※ N=119、研究開発・技術・設計 N=46>

※スタッフ系は総務・法務・広報・人事・労務・財務・経理を指しています

図表03 面接者職種別 新卒者採用面接で重視する力

<営業・販売・サービス>
他職種と比べて、「チャレンジ精神(0.39)」「誠実性(0.32)」「責任感(0.39)」を重視していることが分かります。営業・販売・サービス職など、顧客に対応する仕事の基本である誠実であることや、責任感を重視する一方で、商況の厳しい環境において利益をあげていかなくてはいけない状況では、それだけでは不十分である種のチャレンジ精神も求められるということでしょうか。営業職と聞くと一番にイメージする「コミュニケーション力」については、0.49と同職種内では最も高いものの、他職種との比較という観点では、決して突出しているわけではありませんでした。一方で、「協調性」「創造性」の重視度は各々、0.14、0.04と低いのが特徴です。一プレイヤーとして動くことがメインとなるこの職種では協調性の優先順位が低く、かつクリエイティビティもさほど重視されていないということかもしれません。

<経営企画・事業企画・事業開発>
「チャレンジ精神」の重視度が0.39と高いのが特徴です。これは、企業の経営環境が厳しく、変化のスピードが激しい中で、競争優位性のある戦略を策定し、ビジネスを創り出していく仕事には常に果敢に挑んでいく精神が不可欠であるということを表していると言えそうです。

<スタッフ系>
総務・人事・労務・財務・経理のように、関係部署と連携しながらミスなく確実に進めていくことが求められる業務や、法務や広報のように、外部とのやり取り、情報の公開が伴う業務において求められる「責任感(0.38)」や「協調性(0.26)」が他の職種と比べて重視度合いが高いことがうかがえます。加えて、そのような特徴をもった業務では、優先順位が低いであろう「チャレンジ精神」や「創造性」が0.24、0.12と重視度が低いのが特徴です。

<研究開発>
何を研究するのか、開発するのかによって多少の差はあるものの、この職種の本質的な部分である、無の状態から新たな価値を発見し生み出していくという業務の特性上、「主体性(0.33)」と「創造力(0.28)」、果敢にチャレンジしていくあくなき精神力「チャレンジ精神(0.37)」が重視されていることが数値として表れています。

以上のように、面接者は自身が最も長く従事した職種にとって、今現在、日々の業務で必要とされる力を重視して被面接者をみようとしているということが示されました。このことは、面接者の人材観は自分の職務経験に影響を受けるという、先行研究(今城,2010)からも納得いくものと言えそうです。

面接者の業種による違い ~将来を見越し、足りない力・備えておきたい力を重視~

最後に、面接者の業種による違いについてみることにします(図表04)。以下、順番に各業種の特徴としてみられた傾向についてご紹介します。
※調査では、回答者に16業種の選択式で業種を聞いていますが、ここではある程度多くのサンプル数(30人以上)が確保できた3業種に限って比較検討を行いました。

図表04 面接者業種別 新卒者採用面接で重視する力
<機械・電気機器 N=41、金融・保険 N=68、システム開発・ソフトウエア N=32>

図表04 面接者業種別 新卒者採用面接で重視する力

<機械・電気機器>
重視しているものとして、「チャレンジ精神(0.56)」「創造性(0.29)」があげられます。これは、一見、手堅く堅実なこの業界のこれまでの印象からすると意外な結果のように思われます。ですが、これまでそうだったが故に硬直性に対する危機感が強く、「チャレンジ精神」や「創造性」をもって、業界全体を変革し、盛り上げていってほしいという少し先の将来を考えた願望が反映されていると解釈することができそうです。「協調性(0.12)」「誠実性(0.15)」「責任感(0.27)」が比較的重視されていないことについては、これまで当然の力として備わっているものという前提意識が強く、「求める力」と言われた時に取り立ててあげることがなかったためではないでしょうか。

<システム開発・ソフトウエア>
「コミュニケーション力」が0.69と、他の職種に比べて非常に重視されていることが分かります。この業界に対して、「コミュニケーション力」などの対人面よりも技術力などの専門能力が重視されているという印象をもたれていると、この結果は意外にうつるかもしれません。システムやソフトウエア業界の技術発展のスピードが速くなるに伴って、顧客が求めているソリューションのレベルも日々高度化しています。顧客先に常駐することも珍しくはなく、日々多くの人からの高い要望をくみながら仕事を進めることを要求されることを考えると、求める力として「コミュニケーション力」を重要視しているということは、納得できる結果と言えます。

<金融・保険>
前述2つの業界とは対照的に、金融・保険では、この業界のイメージ通りとも言える「責任感(0.41)」や「誠実性(0.37)」が重視されており、逆に優先順位が低そうな「チャレンジ精神(0.31)」や「創造性(0.04)」といったものは、やはりあまり重視されていないようです。

このように、面接者が重視する力を業種別に検討すると、金融・保険のような例外もありますが、少し先の将来までを視野に入れた中長期的・願望的なもの、今後必要とされるが今足りていないという課題感があり今後必要となってくるものが反映されていることが示されました。

人材ポートフォリオを構築し 面接者の視点の違いを効果的に活用する

ここまでご紹介してきた、面接者の属性によって重視する観点が違うという事実は、本レポートの冒頭に述べたようなネガティブな側面だけでなく、ポジティブに考えることができそうです。どのような面接者が、どのような観点を、どうしてもっているのか、その差異について正しく理解することにより、それを面接評価の精度をあげられる可能性は十分考えられるからです。

“面接者の観点の違いを理解した上で、それを生かす方法を考える”。例えば次のような試みは考えられないでしょうか。仮に、全体の新卒採用人数のうち10%は組織にイノベーションを起こすようなポテンシャルを秘めた人材を採用したいとします。面接者の評価観点の違いを生かすことを考慮すると、従来のような、現場の管理職が一次面接を担当し、人事が二次面接を担当し、最終面接を役員・経営者が担当するといった形は最適とは言いがたいでしょう。組織にイノベーションを起こすポテンシャル、「チャレンジ精神」や「創造性」などの観点を重視する傾向をもった人をアサインし、かつ最適な方法で評価を行うことを考える必要があります。例えば、一次選考では、被面接者の考えをプレゼンテーションする場を用意し、その審査を職場で同じように風穴をあける存在として活躍している若手複数人に審査を担当してもらいます。そして、その後の面接は「チャレンジ精神」「創造性」という観点を重視する傾向が強い役員・経営者が担当するというように、他の要件の人材を採用するのとは、違う方法での選考を実施するというものです。

自社に必要な人材をポートフォリオに沿って整理し、面接者の評価観点の違いをうまく組み込み、上記のように必要な人材のタイプによって適した面接者のアサインを考え、その全体像を描くことで、多様な人材を効果的に選考することが可能になるかもしれません。(もちろん、選考だけではなく、採用した人材を効果的に育成するシナリオも併せて考えなくては、本来の目的は果たせないのは言うまでもありませんが)経営を取り巻く環境がめまぐるしく変化する中、企業が競争優位性を発揮していくための戦略、その戦略に沿った人材戦略、人材要件もまた、多様性・複雑性を極め、その変化のスピードも速いのが現状です。本レポートが、そのような変化の時代に、自社にとって必要な人材の選考、採用を考える上での一助となれば幸いです。

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