各種調査データより 中国における日系企業のイメージと大学生が企業に求めること

JETROが行った「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2011年度調査)」では、回答企業(日系企業)のうち61.6%が中国での事業拡大の方針として「新規市場の開拓(営業・販売ネットワーク拡充)」を選択していました。新規市場の開拓には、高いマーケティング能力と研究開発能力が必要となり、このような能力を持つ人材を採用する場合、中国現地の大学を卒業した人材が主なターゲットとなります。

しかし、中国の大卒・大学院卒者(以後、大卒者)の数は2011年には年間660万名に達するほど増加しているにもかかわらず、世界各国の企業が優秀な人材の採用に乗り出しているため、日系企業は優秀な大卒者の採用に苦戦しています。このレポートでは、各種調査や中国の大学を卒業した筆者の経験から、日系企業がおかれている現状と、中国の大学生が企業に求めているものについてご紹介します。日系企業が優秀な大卒者の採用を実現するためのヒントとして、ご一読いただければ幸いです。


日系企業の現状

■中国大学生からの人気の低下が顕著に

中国の大手求人情報サイトである中華英才網では、ここ10年ほど、「中国大学生の人気企業ランキング」を行っています。2011年度は764の大学の約20万人を対象にこの調査が行われました。このランキング上位50社の資本の内訳の推移は図表01のとおりです。

図表01 中国大学生の人気企業ランキング上位50社の資本の内訳(2004−2011)

※出所:中華英才網「中国大学生の人気企業ランキング」(2004−2011)

このデータを見ると、中国企業の人気が高まっている一方、外資系企業の人気が下がっていることが分かります。特に、日系企業は2004年から1〜3社しかランクインしておらず、ついに2010年には上位50社から姿を消してしまいました。

中国企業の人気が高まっている背景には、大学生の安定志向が強くなり、中国国有企業への就職希望者が増えていることが挙げられます。そのような状況にもかかわらず、比較的安定しているイメージのある日系企業の人気があまり高くない実態がこのデータには表れています。

■離職率が高く、人材の流出が激化

中国の人材サービス最大手である中智の 「2010年上海における外資系企業の賃金の調査研究報告」によると、平均離職率は上海の日系企業で15.2%、欧米企業で6.3%であり、日系企業は欧米企業の2倍以上になっています。特に日系企業の専門技術員の離職率は3割にも達しています。

また離職の3大原因は、給料の安さ(40.7%)、昇進機会の少なさ(24.3%)、社内での給料の分配が不公平であること(12.2%)です。より多くの社員、また中国の大学生を日系企業に引きつけるためには、第一にこれらの問題に手を打つ必要があると考えられます。そして、より魅力的な企業となるためには、従業員や学生が本当に何を望んでいるのかを理解し、それに対応することも求められるのではないでしょうか。

中国の大学生が企業に求めるもの

■大学生が企業を選択する際の基準

それでは、中国の大学生が企業を選択する際に重視するのは、どのようなことなのでしょうか。図表02に2011年度に中華英才網が行った調査の結果を示します。

図表02 大学生が企業を選択する際の基準

※出所:中華英才網「中国大学生の人気企業ランキング(2011)」

「企業の将来性」、「福利厚生の充実」、「よい人間関係」などが上位に位置していました。企業の現時点の実力を示す「市場でのステータス」より、「企業の将来性」の得点が高くなっていることには、成長を志向する中国の大学生が自分の成長と企業の成長とを重ね合わせて考えることが表れているのかもしれません。

中国大学生の日系企業へのイメージ

■「安い給料」「ガラスの天井」「将来性がない」

前述のとおり、現在、中国における日系企業の人気は芳しくありません。「日系企業に就職するのは格好悪い」という風潮が、特に一流大学で広まっています。

多くの中国の大学生がもつ日系企業への評価と印象は「安い給料」、「ガラスの天井」、「将来性がない」などネガティブなものが多くなっています。例えば、2011年のある大学の学生への就職志望調査によると、卒業後日系企業に就職したいという学生はわずか18%でした。ネガティブな要因として選択率が高かったものは、「ストレスの高さと給料が一致しない」(36%)、「昇進が難しく、自身のキャリア発展に望ましくない」(33%)などでした。このことについて、もう少し具体的に確認してみましょう。

●「安い給料」

中智の「2010年上海における外資系企業の賃金の調査研究報告」によると、日系企業に就職した専門学校卒業生・高校生の平均初月給は欧米企業より50%以上高い一方で、日系企業に就職した大卒者の平均初月給は、欧米企業に比べ25%も低くなっています。また、「日経ビジネス」(日経BP社, 2011/01/16号)に紹介されていたとおり、管理職の年収については役職が高くなるほど日系企業と欧米企業との間に差が開き、上級管理職層では欧米企業の年収が日系企業の50%程度も高くなっています。

●「ガラスの天井」

他の外資系企業に比べて、日系企業の中国現地法人の経営陣においては中国人の割合が低くとどまっています。中智が行った「2011年長江デルタ地域における日系企業の賃金の調査研究報告」によると、上海を含む長江デルタ地域に拠点を持つ日系企業の経営陣では、中国人の割合はわずか10%に過ぎません。一方、米国商工の調査によると、2003年の時点でアメリカ系企業の中国現地法人では経営陣の67.2%が中国人となっていました。

●「将来性がない」

真面目すぎる、勤勉すぎる、細かすぎる、というイメージに加え、日系企業は「中国市場で日系企業は必ずしも目立つ存在ではない」「日系企業が中国で展開するのは『日系 to 日系』に限定された狭いビジネスだ」という受け止め方がされています。その結果、日系企業は将来性がないと思われています。

日系企業に対する誤解

給料や福利厚生、また昇進機会や人間関係などについて、日系企業の実態と中国の大卒者が求めるレベルの間に、たしかにギャップがあるケースもあるようです。

一方で、日系企業に対する誤解も数多いように思います。例えば、日本の電器メーカーに就職した中国大学院卒業生は「日系企業は厳しく、個性が欠如していると思っていたが、実際に働いてみたら、全然違った」と語っていました。募集要件として明記されることが少ない昇進機会の情報や、実際に働いてみないと実感がわかない職場での人間関係の情報などについて、特に誤解が生じているケースが考えられます。その要因のひとつには、学生が日系企業での就職経験のない身近な家族や先輩に相談をすることで、日系企業について必ずしも正しくない情報やイメージを強化してしまうことが考えられるかもしれません。

また、上海の日系銀行の社員からは「私は上海の日系銀行で仕事をしていますが、家族のような職場が好きです。これは欧米企業とは全然違います。」という声があったり、上海のある日系自動車メーカーで営業職に従事する社員からは「私が新人の時、職場の皆さんからいつもサポートをしてもらい、とても安心感があった」という声もありました。このような「よい人間関係」についての情報は、もっと学生に伝えられてもいいはずです。

日系企業は、例えば、学生が企業を知る上で重要な採用活動であるキャンパス・リクルーティングとインターンシップ活動をこれまで以上に積極的に行うなどして、学生に正しい情報を伝える機会を作ることが重要であるといえるのではないでしょうか。

日系企業の採用活動の更なる強化に向けて

これまでに触れてきた問題を解決するためには、採用活動の方法や、人材マネジメント戦略に対して手を打たなければなりません。 例えば、以下のような方法が考えられます。

1.日系企業の優位性と将来性を正しく伝える

日系企業は自社の企業文化や強みを伝えることで、誤解をなくすことができます。そのことは、大学生が想像や推測だけではなく、事実に基づいた理性的な就職活動を助けることにもなります。具体的には、ブログなどでの情報発信や、寄附講座などを通じて、企業と学生との間で交流を行うといった方法がありえるでしょう。また、その際、企業の現状を説明するだけではなく、未来の戦略や展望についても学生に積極的に紹介することが重要です。そのようにすれば、学生の企業に対する自信を強め、学生と企業との距離を縮め、企業のブランドを高めることができるはずです。

2.制度と風土を改善する

(1)競争力のある賃金や昇進昇格制度を提供する

中国学生が外資系企業へ期待する就労条件のひとつに「高給」であることが挙げられます。「成果主義」を基本とし、個人の仕事の成果に相応する給料を得られるような、中国現地の労働市場に合わせた賃金制度や昇進昇格制度を制定したほうがよいと思われます。

(2)もっと柔軟、公正、調和的な企業風土を作る

外資系企業に就職を希望する優秀な学生は、自身の能力に対して高い期待感を抱く傾向があります。彼らは自分のキャリアの成功を強く望み、また周囲からの評価に対しては敏感です。柔軟、公正、調和的といった企業風土は、そのような学生のキャリア成功欲求を満たし、仕事に対するモチベーションを高めることができるはずです。逆に、もしこのような風土が実現できなければ、彼/彼女らの企業に対する誇りと忠誠心を低下させることになり、優秀人材の流出に至ります。

また、すべての優秀な人材に公平な成長機会を提供するだけでなく、それを通じて、彼/彼女らに会社からの期待の高さを実感させることも大切となるでしょう。

日系企業は、これまで築き上げてきた強みをもとにグローバル化を進めてきました。しかし近年、これまでの成功パターンが通用しないケースが出てきているようです。今後は更に、現地の文化への理解を深め、必要に応じて現地に適応した調整と積極的な働きかけを行っていくことが求められるのではないでしょうか。

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