持続的成長につながる従業員満足とは 従業員満足度100年の軌跡

激しい環境変化、グローバル化の中で、「わが社は人が財産です」と話してくださる経営者・人事担当者の方に多く出会います。従業員に自律的で創造的なプラスアルファの活躍を期待して、人材マネジメントに当たられている企業は多いのではないかと思います。

今回は、企業の財産である従業員の職務満足に関する研究の変遷について、社会的な背景を踏まえながらひも解き、従業員満足という観点から人材を生かした企業経営について考えていきたいと思います。


従業員の職務満足とは〜職務満足研究の黎明期

従業員の職務満足に関する研究の多くは米国で発展してきました。従業員満足というと、満足度が向上することで生産性が向上するといったロジックを思い浮かべる方も少なくないと思います。しかし、職務満足研究が始まった20世紀初頭には、従業員の心理的要因が生産性に結びつくという概念はありませんでした。

当時の米国は、移民の増加による労働力の増加、世界恐慌によるコスト削減圧力と独占資本の成立、技術や設備の急速な進歩を背景に、かつての内部請負制から経営者の直接雇用による近代的管理へ変化を遂げていました。このような状況で企業課題となっていたのは、従業員の離職や不適応の問題でした。離職や不適応に関係する従業員の不満足感の原因を探り、いかに取り除くかということに関心が寄せられ、研究が始まりました。これが職務満足研究の発端といわれています。この時代の研究は、満足度というよりも不満足度研究と言ったほうが正確かもしれません。

職務満足という言葉を初めて使用したのは、R. Hoppock(1935)とされています。Hoppockは職務満足を「『私は、私の仕事に満足している』といわしめる心理学的・生理学的なもの、そして、環境の組み合わせである」と規定し、職務満足には仕事だけでなく、多様な要因が関連していると述べています。当時の研究では、仕事生活だけでなく、ひとりの人間が抱く満足感を生活全体で考えることが主流であり、家族や家庭生活といった仕事以外の要因が調査項目に多く含まれていました。

職務満足研究の全盛期

1950〜60年代になると、20世紀初頭から経営の主流とされてきたF. Taylorの科学的管理法に代わって、働く人の意欲や人間関係が企業経営に導入されるようになりました。その背景には、世界大戦後の技術革新の発展によって仕事の機械化が進み、作業の単調化に伴う勤労意欲低下などの問題が深刻になっていったことがありました。こうした課題に対して、ホーソン実験(1924〜1932)に端を発する人間関係論や、F. Herzbergの動機づけ-衛生理論(1957)の考え方が経営や組織管理上注目されるようになりました。

従業員の心理面での満足が、業務の生産性そのものに結びつくと考えられ始めたことを契機に、 職務満足研究も大幅に増加していきました。研究テーマの中心が離職や不適応から、生産性と満足度の関係にシフトするとともに、満足度の要因についても、仕事に内在する要因や労働条件に関するもの、個人の心理的な側面に関する要因の考察に重点がおかれるようになりました。

当時の生産性と満足度に関する研究の論点は主に2点です。1点目は職務満足と生産性の関係(相関)の有無であり、2点目は職務満足と生産性のどちらが原因でどちらが結果かという因果関係に関するものでした。いずれもさまざまな分析と見解が出されましたが、研究が進み、「満足度が高ければ生産性が向上する」という単純な関係性に疑問がもたれるようになると、1960年代をピークに職務満足研究数は減少傾向に向かうこととなります。

職務満足研究の発展期

1970年代の米国は、深刻なスタグフレーションに直面します。冷戦・ベトナム戦争による軍事費の拡大、2度の石油危機等によりインフレーションが加速し、失業率も高まりました。企業経営においては、それまで以上に業績を生み出す源泉が注目されるようになり、満足度研究もアカデミック分野における研究から、より実践的な実務分野における研究が盛んになっていきました。

研究数は一時期に比べて減少したとはいえ、メンタルヘルスやワークライフバランスといった今日的なテーマにおいても、満足度は主要な指標として重視され続けています。また、生産性との関係についても、かつてのように単純な関係構造を求めるのではなく、モチベーションやコミットメント、エンゲージメントなど組織行動に影響するさまざまな要素のひとつとして満足度を置き、高い生産性との関係を示すモデルの考察が多く見られるようになりました。

このようなモデルの中で広く知られているものとして、1990年代にハーバードビジネススクールのJ.L. HeskettとW.E. Sasserによって提示されたサービス・プロフィット・チェーンがあります。従業員の満足度が商品やサービスのレベルを高め、それが顧客満足の向上につながり、最終的に企業の収益性を生み出すというモデルです。こうした考え方は、満足度調査とともに多くのコンサルティングファームに取り入れられ、実際の企業経営に活用されています。

日本における職務満足研究

米国で発展してきた職務満足研究ですが、日本では1984年に西川一廉(かずとし)の『職務満足の心理学的研究』が発表されたことを契機に研究領域が進展しました。日本における研究も相当数に上りますが、米国における先行研究を適用した場合が多く、日本の職務環境をベースにした独自の研究はあまり行われてきませんでした。職務満足測定の尺度についても日本で独自に開発され広く用いられているものはあまりなく、実際に実施されているものはモラールサーベイとして、広く従業員の態度を問うものが多いようです。

日本企業における本格的な従業員満足度調査導入の潮流が見られ始めたのは、2000年前後からといえます。労務行政研究所の「人事労務管理諸制度の実施状況調査」の従業員満足度調査の実施率によると、2001年には従業員満足度に関する調査項目すら存在せず、2004年には14.2%、2007年には20.1%、2010年には23.1%と、従業員満足度調査の認知が徐々に高まってきたことがわかります。

事例紹介

従業員第一主義を公言し、持続的成長を遂げている企業のひとつに米国のサウスウエスト航空があります。1971年創業のサウスウエスト航空は、低価格とユニークなサービスで知られる民間旅客航空会社です。営業開始時は3機の旅客機でテキサス州内3都市を運航していましたが、今日では500機以上の機材で全米69都市を結んでいます。同時多発テロや燃料費の高騰、世界金融危機と航空各社の経営が厳しくなる中、2009年には37期連続で利益を計上しています。

その経営にはさまざまな特徴があります。大手航空会社がハブ空港を中心に路線を張り巡らせているのに対し、空港使用料の安価な地方空港同士を結ぶ路線網を運航することでコストを削減。さらに低価格で利益を確保するため、航空機材の統一、座席指定や機内食サービスの廃止、飛行機が空港に到着してから出発するまでの地上準備の時間を業界平均よりも30分短縮するなど、徹底的なコスト管理のもと、国の基準を上回る安全性を確保し、業界最高水準の定時離発着、顧客満足、業界最小の乗客1人あたり荷物紛失数を実現しています。

この成功を支えているのが、現場の従業員によるフレンドリーでユニークなサービスと、生産性意識の高さです。同社のサービスとは、顧客を神様扱いすることではありません。従業員にはタイムリーに「顧客にとってよかれと思ったことはなんでもする」ための裁量が付与されており、一人ひとりが事業主だと思って仕事に向かう姿勢が根付いています。得意の歌で機内アナウンスを盛り上げる、搭乗待ちの顧客をゲームで喜ばせるといった、各自が考えたユーモア溢れるサービスを提供します。中にはこうしたサービスを不快に思い、苦情を寄せてくる顧客もいます。しかし、経営者は、従業員が会社の信条に沿って誠心誠意対応している限り、顧客に他の航空会社を利用していただくよう返信することもあるといいます。経営者が従業員に敬意を払い信頼することで、従業員は自信を持って現場で最善と判断したサービスを尽くす。そういった信頼関係が根底にあるといえます。

働き方の面でも、一人ひとりが事業主という精神が表れています。客室乗務員が機内清掃を行う、パイロットでも預け入れ荷物を運ぶなど、一般的な役割を超えて必要だと感じたことは何でもします。家族的な団結力で仕事に取り組み、従業員1人あたりが担当した顧客数は他社の2倍以上と圧倒的な生産性を実現しています。仕事量は他社より明らかに多いものの、離職率は同業他社に比べて非常に低く、また、レイオフを行うこともありません。同社の給与水準は業界平均並みですが、新しいメンバーの採用と教育訓練にはひときわ時間と費用をかけているといいます。自社の理念・信条と、それを体現するために求められる人材の資質と働き方を熟知しているからこそ、適切な採用と育成が可能になっているのです。長期雇用と信頼関係に裏打ちされたコミットメントの高い従業員が、高い顧客満足と生産性を生み出し、サウスウエスト航空の持続的な成長を支えています。

人材を生かした企業経営とは

従業員の職務満足に関する研究が始まってからおよそ100年。時代の変化に応じて満足度に対する興味の焦点は徐々に変化してきたものの、常に組織行動に影響を与える重要な要素として注目されてきたことがわかります。従業員の満足度は、それが高ければ生産性や業績が上がるといった「魔法の玉手箱」とはいえません。しかし、従業員の会社に対する高い満足度やコミットメントが、創造的で付加価値の高い仕事の源泉となり、持続的成長につながる競争優位性を生み出している企業があることも事実です。

事例でご紹介した企業の他、従業員の力を企業経営に生かすことに成功している企業を分析していくと、共通して次の5つの要素が備わっていることが見えてきました(図表)。

(1) 企業(経営者)と従業員との信頼関係

(2) 競争優位性のベースとなる、明確な企業理念・信条

(3) 自社の理念・信条や組織風土にマッチした資質を持つ、人材の採用

(4) 戦略・方針に沿った業務プロセス・各種制度・組織体制

(5) 戦略・方針に沿った人材の教育・訓練


これら5つの要素が一貫性を持ち、好循環を続けることで、現場では理念や信条に基づく望ましい働き方が実践されるようになります。そしてその積み重ねが競争優位性を生み出し、戦略・方針の実現、持続的な成長につながっていくものと考えます。

図表

今回は企業の目線で従業員満足度について考えてきましたが、今の会社や仕事に満足し、イキイキと生産性高く働くことは、従業員にとっても幸せなことです。弊社では、従業員満足度調査の提供を通じて、さまざまな企業のお手伝いをしてまいりました。今後も、企業と働く人々の双方にメリットをもたらす重要な指標として、従業員満足度に関するサービス開発や研究を行っていきたいと考えています。



【参考・引用文献】

・ 労政時報3628号、2004  労政時報3700号、2007  労政時報773号、2010

・ 小野公一 『職務満足感と生活満足感』 白桃書房、1993

・ 西川一廉 『職務満足の心理学的研究』 勁草書房、1984

・ 産業・組織心理学会編 『産業・組織心理学ハンドブック』 丸善、2009

・ Heskett J.L., Sasser W.E., Schilesinger L.A., 山本昭二、小野譲司訳 「バリュー・プロフィット・チェーン」 日本経済新聞出版社、2004

・ Judge T.A., Church A.H., ‘Job Satisfaction: Research and Practice’, Industrial and Organizational Psychology, 2000

・ Freiberg K. Freiberg J, 小幡照雄訳 『破天荒!サウスウエスト航空-驚愕の経営』 日経BP社、1997

サウスウエスト航空(英語)

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