研究レポート

調査データからの考察

「エンゲージメント」を確立するために

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「エンゲージメント」を確立するために

「エンゲージメント」とは企業と社員との間での確固たる信頼関係を意味します。社員は企業に対して貢献することを約束し、企業は社員の貢献に対して報いることを約束します。その約束に相当するものがエンゲージメントです。少子高齢化が進み、人材の確保が今後ますます難しくなるなか、高いレベルの人材を集め、自社への貢献意欲を高めることは企業の競合優位性を保つ上で重要なポイントとなります。

弊社は2008年の10月に、首都圏の20代から40代のホワイトカラー正社員1500名を対象に、エンゲージメントに関するインターネット調査を行いました。調査結果をもとに、弊社コーポレートサイトの特集&コラムにおいて「ホワイトカラーのエンゲージメントの状態」を紹介しました。ここでは「エンゲージメントを確立するためには、どのような環境を整備することが効果的なのか」について考察していきます。

エンゲージメントの強さの測定

本調査では、会社と仕事のそれぞれに対して「誇りをもっているか?」という質問の結果をもってエンゲージメントの強さを測ることにしました。なお、「会社に対する誇り」、「仕事に対する誇り」のいずれも、その傾向が強いほど離転職意思が低いことが調査結果から明らかになっています。

では、社員が会社にも仕事にも誇りがもてる状態、すなわちエンゲージメントが高い状態にするにはどのような取り組みをする必要があるのでしょうか? そのことを把握するために、本調査では

・エンゲージメントの強さと「自分自身の置かれている環境に関する認識」との関係
・エンゲージメントの確立に有効な施策

について明らかにすることを目指しています。

今まで色々な環境を整備したし、施策も打ってきたけれども思うような効果が現れないと考えている企業は、社員サイドの真のニーズを把握していないため、的を外した取り組みになってしまっている可能性があります。そのような事態を繰り返さないための手掛かりになればと考えます。

「自分自身の置かれている環境に関する認識」と エンゲージメントとの関係

まず、自分自身が置かれている環境をどのように認識しているのかをたずねました。具体的には14項目を用意し、どの程度あてはまるのかを5段階で回答してもらいました。全14項目に対して因子分析(※1)を行ったところ、各項目は(1)会社への共感、(2)成長実感、(3)安心感の3つのカテゴリに分類することができました。

【自分自身の置かれている環境に関する認識】

(1)会社への共感
・会社は今後も成長・発展していくと思う
・会社は今後も世間から高く評価されていくと思う
・経営層が打ち出す経営方針やビジョンは共感できる
・経営層の行う判断は信頼できる
・評価は適正かつ公平に行われている

(2)成長実感
・自分の能力やスキルが伸びていると実感できる機会がある
・現在の職場に貢献していると実感できる機会がある
・5年後のキャリアイメージをもつことができている
・自分の身近にロールモデル(目指すべき姿)になる人がいる

(3)安心感
・仕事と生活のバランスは保てている
・自分の生活に影響を及ぼす仕事上のストレスはない
・現在の仕事内容に見合った処遇が得られている
・現在の上司は信頼できる
・現在の職場の人間関係は良好である

※1
データの背後にある因子(共通要因)の構造を確認するための分析。項目のまとまりの状況を確認するために使う。

つぎに、「会社への共感」「成長実感」「安心感」の3つがエンゲージメント(「仕事に対する誇り」と「会社に対する誇り」)とどのくらい関係があるのかを見るために、相関分析を行いました(図表01)。「仕事に対する誇り」について見ると、「成長実感」との相関係数が0.64で最も高く、ついで「会社への共感」との相関係数が0.54となっています。「会社に対する誇り」については、「会社への共感」との相関係数が0.71、「成長実感」との相関係数が0.56で、いずれも0.50以上の強い相関関係が認められました。「安心感」も「仕事に対する誇り」「会社に対する誇り」それぞれと中程度の相関関係があることがわかりました。

図表01『会社への共感』『成長実感』『安心感』とエンゲージメントとの相関

図表01『会社への共感』『成長実感』『安心感』とエンゲージメントとの相関

相関係数は-1から1の間の数値であらわされ、絶対値が大きいほど関係が強いことを示します。

なお、「会社への共感」「成長実感」「安心感」のそれぞれと離転職意思との相関係数は、順に-0.49、-0.41、-0.44であり、いずれも中程度の負の相関が確認されました。

以上の結果から、エンゲージメントに関しては「安心感」よりも「会社への共感」や「成長実感」が強く関係しており、このふたつはエンゲージメントを考える上での重要な要素であるといえるでしょう。また、「会社への共感」は会社に対するエンゲージメントと、「成長実感」は仕事に対するエンゲージメントと最も関係しているのはもちろんのこと、「会社への共感」と仕事に対するエンゲージメント、「成長実感」と会社に対するエンゲージメントそれぞれも強い関係があることから、「会社への共感」と「成長実感」は両輪のようにバランスが保たれていることが望ましいと推察されます。

エンゲージメントの確立に有効な施策

今度は、エンゲージメントの確立に有効と思われる施策を19個提示し、所属する会社や職場がどの程度当あてはまるのかを5段階で回答してもらいました。因子分析の結果、各施策は4つに分類することができました。それをマズローの欲求段階説(※2)になぞらえて、(1)自己実現施策・金銭報酬、(2)承認欲求充足施策、(3)親和欲求充足施策、(4)安全欲求充足施策と呼ぶことにしました。

【エンゲージメントの確立に有効と思われる施策】

(1)自己実現施策・金銭報酬
・働きぶりやパフォーマンスに連動した報酬制度がある
・自己申告・社内FA、社内起業などのキャリア支援制度がある
・抜擢人事や選抜トレーニングの機会がある
・勤続年数に応じた手厚い保障(退職金・企業年金など)がある

(2)承認欲求充足施策
・自分の仕事の成果やアイデアを認められる機会がある
・仕事を通じての学習・成長の機会がある
・仕事に必要な裁量を与えられ、任せてもらえる
・仕事を通じて部下や後輩を育成・指導する機会がある
・仕事を通して社会に貢献していることが実感できる機会がある

(3)親和欲求充足施策
・職場の枠を超えて協力し合うことができている
・悩みを理解してもらったり、相談できる機会がある
・職場内外の人と知り合うための機会(業務外のイベントなども含む)がある
・チームワークよくお互いが協力し合える職場環境である
・上司がメンバーの様子や仕事の状況について、よく理解し把握している
・経営トップのビジョンや方針を聞いたり、直接話をする機会がある

(4)安全欲求充足施策
・休暇や勤務時間が個々の状況(出産・育児や疾病など)に応じて柔軟に選択できる
・勤務地が個々の状況(出産・育児や疾病など)に応じて選択できる
・安全快適に業務を行うための執務環境が整備されている
・業務遂行のために最低限必要なスキルの習得機会がある

※2
アメリカの心理学者マズローが、人間の欲求を5段階に分類したもの。低次から順に(1)生理的欲求、(2)安全や安定への欲求、(3)親和への欲求、(4)承認への欲求、(5)自己実現の欲求となっている。人は低次元の欲求がある程度満たされると、より高次元の欲求を満たすための行動をとるとされる。

そして、各施策とエンゲージメントとの関係性を見るために、相関係数を算出しました(図表02)。「仕事に対する誇り」「会社に対する誇り」ともに、最も関係が強いのは「承認欲求充足施策」、2番目に関係が強いのは「親和欲求充足施策」であることがわかりました。また、「自己実現施策・金銭報酬」「安全欲求充足施策」との間にも中程度の相関が見られました。

図表02 施策とエンゲージメントとの相関

図表02 施策とエンゲージメントとの相関

なお、各施策と離転職意思との相関係数は、いずれも-0.35から-0.40の間の値をとっており、中程度の負の相関があることがわかりました。

以上の結果から、どの施策も離転職との関係は同じくらいであり、いずれかの施策が現職に留まること(離転職しないこと)と特に強い関係があるわけではないと推察されます。一方、エンゲージメントとの関連については、「自己実現施策・金銭報酬」や「安全欲求充足施策」もさることながら、特に「承認欲求充足施策」と「親和欲求充足施策」がエンゲージメントと強く関係していることが明らかとなりました。ここから、承認欲求や親和欲求を満たすような施策がエンゲージメントに貢献しているという仮説も考えられるでしょう。

おわりに

優秀な社員や若手社員のリテンションについて、問題意識をもっている会社は、金銭報酬を含めたさまざまな施策を講じています。その目的を、離転職の防止だけではなくエンゲージメントの強化に置くならば、そのための一つの道筋として、「会社への共感」、「成長実感」を社員が認識できることを目的に、親和欲求および承認欲求を満たす施策を実行に移すことであると本調査結果からは結論づけることができます。

ここ10年の間に、成果主義の導入による報酬体系の見直しやキャリア支援の動きなど、「個」の処遇や支援に関する取り組みに力を入れてきた企業は多いと思います。これらの取り組みは、「個」と「個」との結びつきを通した相互の共感や承認の「場」を意図的に設けることも視野に入れることで、社員のエンゲージメントは高まり、社員が会社に対してもたらす成果はさらに大きなものになる可能性があります。もっと身近な足元の部分に、企業の現在抱えている悩みを解決するヒントが見つかるかもしれません。

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