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2030年の「働く」を考える

リクルートマネジメントソリューションズ RMS message LIVE 2014 2030年「働く」環境と課題-人事の備えるべき視点-第1部 LIVE REPORT

 2014年2月7日(金)に、「RMS message LIVE 2014」を開催いたしました。今回は、「2030年「働く」環境と課題 ~人事の備えるべき視点~」と題して、近未来である2030年に焦点をあて、「働く」を考えるための情報を提供し、人事が直面しうる課題について、議論を深めました。第1部では、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員 入江崇介による"2030年の「働く」を取り巻く環境"、同研究員 荒井理江による"個人の「働く」はどうなるか"と題した2つの問題提起に続き、山田久氏・柳川範之氏の講演を行いました。その後、第2部では、山田氏、柳川氏に加えて、ファシリテーターに野田稔氏、パネリストに日置政克氏を迎え、パネルディスカッションと質疑応答を実施いたしました。ここでは、第1部の講演の内容をご紹介いたします。 (第2部の模様はこちら。

経済・産業構造の変化が促す働き方改革

山田久氏 (株式会社日本総合研究所 調査部長 チーフエコノミスト)

新興国が、単なる生産拠点から魅力的な「販売拠点」に変わりつつあります

写真1 山田氏 (詳しいプロフィールはこちら

 今回は日本の「働き方改革」についてお話ししますが、その前に、前提として日本経済を取り巻く環境の変化を簡単にご説明します。
 1990年代に先進国から新興国への生産シフトにより誕生した「グローバル経済」は、21世紀に入って先進国と新興国の間で成長率格差が拡大しました。しかし、リーマンショック以降は先進国がダメージを調整する一方で新興国は堅調に成長。そして現在は、先進国と新興国の成長率格差が縮まる局面に入っています。
 特に注目すべきは、新興国経済の成熟が進み、新興国に富裕層が増えていることです。すでに中国などは、投資主導から消費主導へと経済成長のシフトが起こりつつあります。これによって新興国の消費マーケットが拡大し、新興国が単なる生産拠点から「販売拠点」として魅力ある場所になってきています。この傾向はさらに進みますから、消費マーケットのさらなる成長を見込んで先進国の多くの企業がすでに販売網を広げています。日本企業も例外ではありません。
 ただし、新興国マーケットは先進国とは性格が異なりますから、日本や欧米などで採用してきた戦略ではうまくいかない場合がほとんどです。現地に進出し、現地のニーズを直に研究して、各地に適した商品を生み出すことが成功の鍵となっています。例えば、韓国企業がインドで「鍵つき冷蔵庫」を売り出して大ヒットしています。現在のインドでは経済格差が大きいため、メイドや使用人が家主の冷蔵庫から盗みを働くことがあるということが背景にあります。現地ニーズの研究なくして生まれ得なかったアイデアの好例でしょう。

日本でアイデアを生み出し、海外に展開する「日本型・投資立国モデル」のススメ

図表1

図表1 海外生産比率のシミュレーション

図表2

図表2 「日本型・投資立国モデル」
による成長シナリオ

 このような環境変化のなかで、現在、日本企業がどのような戦略をとっており、今後どの方向に進むのがよいか、私の思うところをお話しします。
 長期的に考えると、新興国の賃金が上がっているために日本国内の賃金も下げ止まり、上昇へ向かうことが考えられます。ですから、国内でも海外でも、賃金を下げることによる雇用維持・低収益事業の温存という戦略は早晩限界を迎えるでしょう。製造コストをこれ以上抑えられないのですから、研究開発やサービスを強化しなければ競争には勝てません。デフレを脱却して、"よいものを安く多く"から"ユニークなものを適切な価格で"に移行していくことが肝要です。また、適切な賃上げを行いながら、グローバル展開を加速する必要があります。事実、すでに日本企業の海外生産比率は高まっており、2020年には、海外進出企業の海外生産比率が50%を超えることが予想されます(図表1)。特にアジア新興国への進出がその牽引役となるでしょう。
 そこで私が提案するのは、「日本型・投資立国モデル」です。本社機能を日本国内に置き、先端技術の研究開発を日本本社で行って、それをグローバルで各地のニーズに合わせて製造・販売していく戦略です。また、海外拠点のリーダー層などに対して日本本社で研修などを行います。このモデルの優位性は、日本が「課題先進国」であるところから生まれます。例えば、少子高齢化は実は世界中で進行しており、その先頭に立っているのが日本です。ご存じのとおり、日本国内は総人口が減少して高齢化が進んでおり、2030年には夫婦と子で構成される"標準世帯"が標準ではなくなります。現在、この少子高齢化によって日本が直面しているさまざまな課題は、これから世界中が直面する課題なのです。また、環境問題などでも、アジアの新興国に比べれば日本には一日の長があります。その課題解決アイデアを日本で生み出し、海外に展開することで、日本型・投資立国モデルの実現が可能だと私は考えています。
 日本型・投資立国モデルが確立できれば、日本企業の海外事業が拡大するほど、その富が日本に還流されます(図表2)。また高収益性を追求できますから、価格引き上げ・賃金引き上げの余裕も生まれます。結果として国内の家計所得が増え、消費が活性化するでしょう。なお、日本型投資立国モデルでは、製造業が日本に富をもたらす産業として重要な位置を占めますが、国内の製造・販売比率は減りますから、製造業自体の雇用吸収力は低下します。代わりに国内雇用の受け皿になると考えられるのは、メーカーの高度な本社機能を支援する法務・会計・人事などのプロフェッショナルサービス業や、消費の活性化によって拡大すると考えられる医療・教育などの公共的人的サービス業です。

これからは、"サラリーマン的働き方"から脱却することが求められます

図表3

図表3 公的年金の支給開始年齢

 このような日本経済や社会の変化を受けて、雇用はどのように変わっていくでしょうか。まず、確実に起こると思われる変化がいくつかあります。1つ目に、労働力の高齢化が進み、働く女性の力もより一層重要になっていきますから、従来型のマネジメントでは難しくなります。次にピーター・ドラッカーの予言どおり、知識労働者とサービス労働者が増え、中間的な労働者が減ります。雇用形態としては、正規雇用と非正規雇用の中間形態が増加するでしょう。若者の非正規率上昇は定着してしまう可能性が大きいと考えられます。脱年功賃金化が進み、40歳以降の賃金カーブがフラット化するでしょう。結果的に共働きが当たり前になるはずです。全体的に、雇用と所得の不安定性が増していくとも予想できます。
 また、年金支給開始年齢はいずれ引き上げられるでしょう。実は、欧米先進各国でも引き上げが始まっています(図表3)。最速で少子高齢化が進む日本でも、引き上げがなされて当然です。
 このような状況下で、日本で働く人々に求められるのは"サラリーマン的働き方"からの脱却です。先ほどもお話ししたとおり、"標準世帯"は標準ではなくなります。さらに共働きが当たり前になるわけですから、今までのように会社に依存した働き方では家庭生活がうまく回らないという人が増えるはずです。それから、年金支給開始年齢の引き上げと定年の後ろ倒しによって、職業人生が長くなる一方で、企業の寿命は30年あるいはそれよりも短くなっています。1社を勤め上げられる可能性は確実に下がります。これからの世の中では、会社に依存していてはリスクが上がるといえましょう。

「働き方ポートフォリオ」の実現で、長く生き生きと働ける人生を

図表3

図表4 ライフステージに応じた
「働き方ポートフォリオ」
のイメージ図

 そこでお勧めしたいのは、「働き方ポートフォリオ」(図表4)の実現です。これにはいくつかの前提があります。1つは、欧米的な「ジョブ型」の雇用パターンを本格的に導入し、従来日本企業がとってきた「就社型」とプラクティカルに組み合わせてキャリア・ルートを形成することです。就社型は従来型の「正社員」、ジョブ型は「限定型正社員」であり、ライフステージに応じて就社型とジョブ型を使い分けていきます。そうすることで、時と場合に応じてさまざまな選択肢から働き方を考えていくことができ、結果として1社に依存しなくともよくなると考えます。
 もう1つは、派遣・アルバイトなどの非正規雇用の正社員化です。現代社会では非正規雇用を使わざるを得ませんが、今の日本社会の問題は、非正規社員がずっと非正規のままで、正規社員になれないことにあります。これでは格差が広がるばかりですし、能力育成が進まないため、結果的に日本企業のビジネスにも悪影響を及ぼしています。ヨーロッパでは、非正規雇用の正規化の動きが活発です。同様に、日本でも非正規雇用の正規化を進めていくべきです。しかし、正規雇用化を進めるだけだと雇用コストが上がりますから、一方で限定型正社員制度の導入も含めて人件費調整の自由度を上げることが企業には欠かせません。
 こうして「働き方ポートフォリオ」を実現できれば、個人が社会の変化や転職などにも柔軟に対応し、自らを成長させながら、家庭生活と両立して長期化する職業人生を生き生きと続けていけるのではないでしょうか。

※山田氏のオピニオン記事はこちら

★前編/オピニオン#2
雇用システムの改革が、日本の経済を軌道修正する第一歩になります
★後編/オピニオン#4
サステナブルな社会を実現するために、できるだけ早く舵を取るべきです

これからの働き方をいかに作っていくか

柳川範之氏(東京大学大学院 教授)

企業に頼らない新しいシステムを用意しなくてはなりません

写真2 柳川氏 (詳しいプロフィールはこちら

 ご存じのとおり、日本では着実に少子高齢化と人口減少、なかでも生産年齢人口の減少が進行しています。このままでは、現在の社会保障水準、企業の収益構造を支えることは不可能です。ですが、少子化対策をしても、しばらくは生産年齢人口が上昇に転じることはありません。移民によって人口を増やすのは、社会的な軋轢が大きく難しいでしょう。現実的な解決策はただ1つ、既存の人材を活用して生産性が落ちないようにするしかありません。幸い、若者、女性、高齢者、失業者など、日本社会が十分に活用できていない人的リソースは多数存在します。
 生産性を高めるには、できるだけ個人の能力を高め、適切な場所で働けるようにすればよいのですが、今後はこの2つが難しくなります。なぜなら、日本人の寿命が延びて働く年数も増えているにもかかわらず、産業構造の変化が激しいために能力の陳腐化が急速に進み、多くの人々が次々に新たな能力を獲得しなくてはならないからです。おそらく今後、かつてのタイピストや駅の切符を切る職員のように、突然ある職種がまるごとなくなるという事態が増えるでしょう。産業ごと、企業ごとなくなってしまうことも十分に考えられます。
 そのような事態に備えて、多種多様な個人が変化に対応する能力を身につけると共に、能力の陳腐化が起きても働ける社会を作らなくてはなりません。
 これまで日本の大企業は、このような産業構造の変化を自社内で調整し、社員たちに新たなスキルを磨く場と新たな職を与えて、雇用を維持してきました。しかし、それは変化のスピードが遅く、かつ経済成長を前提にした方法です。今やほとんどの企業には自社内で産業構造を調整する力はなく、変化が激しければ、リストラせざるを得ない状況です。また、企業はイノベーションを起こし続けるために、常に失敗のリスクを抱えています。どのような企業に勤めていても、リストラや倒産の憂き目に遭う可能性はあるのです。
 つまり、ほとんどの企業はもう実質的に長期的な雇用保障ができないのです。終身雇用はすでに崩壊しています。多くの中高年社員がリストラの不安を抱えながら働き、よい仕事を得られない若年者が増えているのが現実です。企業に頼らない新しい雇用システムを構築する必要があります。

例えば、「40歳定年制」という方法があります

写真3

 新しい雇用システムでは、産業構造の調整や労働移動を企業に頼らずに行えるようにするだけでなく、技能習得・知識習得・再教育を企業にとどまらない形で行えるようにする必要もあります。そのシステムを導入することで、個人が1つの企業に縛られることなく「複線的な働き方」を実践し、いくつになってもさまざまなチャレンジを行い、各自に適した働き方、働く場を見つけられる社会を実現するのです。
 そのための1つのアイデアとして、私は「40歳定年制」を提案しています。詳しく説明すると、「期限の定めのない雇用契約については、20年の雇用契約とみなすことにする」という制度です。決して40歳でリタイアさせるのではなく、むしろ75歳まで働けるようにするための制度と考えてください。40歳・60歳と大きく2つの区切りを設けることで、"人生三毛作"で75歳まで生き生きと働けるように促すことが目的です。
 もちろん、この制度は40歳以降の継続雇用契約も可能で、現実的には多くが雇用延長することを想定しています。ただし、20年で雇用契約が切れた際に、企業も個人もその後の雇用について考える機会をもち、できればここで多くの方に社会人大学院などで再教育を受けていただきたいと思っています。そしてその後は、個人が自らの希望に沿って、多様な雇用形態をとっていけるよう社会を整備するのです。
 「40歳定年制」の導入にあたっては、前提として、大学・大学院などを活用した再教育システムの十分な整備・構築が必須です。また、労働市場の整備なども欠かせません。ですから、今すぐには導入できません。無理に導入すれば、大きな社会不安を招く恐れがあります。

「バーチャルカンパニー」で起業や転職を一度試してみませんか

 しかし、「40歳定年制」が実現するまで待てないという方も多いと思います。そういった方には、今すぐ「複線的な働き方」を実践する方法として、サブの仕事をいくつか作ることをお勧めします。あるいは「バーチャルカンパニー」を提案します。
 バーチャルカンパニーを始めるにはまず、起業や転職に興味のある仲間を集めます。このようなことは、一人ではなかなか始めにくいもの。どうしても日々の忙しさにかまけて挫折しがちです。また、一人だと客観的な評価もしにくい。仲間がいるとお互いに踏み出しやすいのです。バーチャルカンパニーとは、ここで組んだチームを企業に見立てたものです。メンバーの能力や市場性を客観的に見つめ直して、このチームで何ができるかを考え、起業を目指してみるのです。実際に名刺を作るとよいでしょう。SNSを利用するのも面白いかもしれません。必要に応じてさらに仲間も増やしていきます。
 準備ができたら、自分たちの能力を開発し、事業計画を立てます。自らの能力がそのまま通用するとは考えず、1~2年かけてしっかりと能力を磨いていくことをお勧めします。このときに大事なのは、現在勤めている企業の価値基準を捨てること。企業の評価と自分の能力は必ずしも結びついていません。そういったことは横に置いて、まずは自分の能力を見つめ直しましょう。必要があると思えば、大学・大学院を積極的に利用すべきです。学問は、社会で得た経験を一般化・抽象化して体系づけるのに極めて役に立ちます。特に経済学は、社会でさまざまな経験を積んだ上で学ぶと、自分の経験を通して腑に落ちることが多いはずです。
 十分に可能だと思えるようになったら、実際に起業してみましょう。メインの仕事はすぐに辞める必要はありません。見込みが出てきたら、徐々にシフトしていけばいいのです。

企業は、バーチャルカンパニーや副業や転職を後押しする仕組みを作るべきです

写真4

 さらに、バーチャルカンパニーごと転職することもありえるでしょう。日本企業はチームプレイが基本なのに、転職だけは個人で行います。よく考えると、これは不自然ではないでしょうか。チームごと会社間を移動してもよいと思います。ただし、バーチャルカンパニーを本当に起業や転職につなげるには、「1+1=3」になるチームでなくては難しいでしょう。もたれ合いではなく、相乗効果を生み出すために切磋琢磨するチームづくりが大切です。40代・50代もまだまだこれから何十年も働く時代。会社にしがみつかず、もう先が見えたなどとは考えないで、ぜひこのような試みをしていただけたらと思います。
 一方、企業はバーチャルカンパニーを積極的にサポートすべきです。終身雇用が維持できない以上、社員が外に出ていける能力を磨くことは雇用側の責務ですし、その能力が本業でも大きくプラスになる可能性も十分にあり、決して企業にとって損ではないはずです。バーチャルカンパニーだけでなく、副業やNPOも奨励していただきたい。もちろん秘密情報の漏洩や利益相反につながるものはいけませんが、すべてを企業に捧げなければ怠けているとみなすのは、もはや古い考え方のように思います。
 それから大企業には、前向きな転職が起こりやすくなる仕掛けをぜひ考えていただきたい。今、大企業の中高年層に雇用のミスマッチが多いことが問題になっていますが、辞めるリスクが大きいためになかなか転職が増えない現実があります。中堅・中小企業には大企業の人材を求めている会社がたくさんあるわけで、大企業が流動性を高める意義は大きいのです。能力再開発支援、多様な契約形態、出向先企業のストックオプションが得られる制度など、さまざまな仕掛けが考えられます。いずれも人事制度の大幅な改変が欠かせませんが、中長期的にはいずれ大幅な変更が必要になるでしょうから、今から試行錯誤するのも無駄ではないはずです。

※山田氏のオピニオン記事はこちら

★前編/オピニオン#1
75歳まで活躍できる社会を作るために、「40歳定年制」を提案します
★後編/オピニオン#3
"人生三毛作"と考えて、何度も学び直しとスキルの再構成を行いましょう

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