調査・レポート 2030年の「働く」を考えるヒントとなる、さまざまな調査・レポートを掲載していきます。

2030年の「働く」を考える

2030年、実に人口の1/3近くが65歳以上の高齢者になる

2010年と2030年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所の推計による。)

2010年と2030年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所の推計による。)

図1 2010年と2030年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所の推計による。)

 2030年の「働く」を考えるにあたって、まず初めに、日本国内の人口推移予測が労働環境にどのように影響するかを考えてみたい。人口推移は、中長期の未来を考える際、最も予測が立てやすく、予測幅の小さい事象の1つである。しかも、経済環境や労働環境への影響は大きい。2030年の「働く」を考える上で欠かせない要素である。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった日本の人口は、2030年には1億1600万人あまりに減少する(出生中位・死亡中位の場合/平成24年1月推計)。

年齢3区分別人口:1884~2060年
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「図2-2 年齢3区分別人口:1884~2060年」による。

図2 年齢3区分別人口:1884~2060年
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「図2-2 年齢3区分別人口:1884~2060年」による。

主要国の65歳以上人口割合別到達年次とその倍加年数
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「表2-18 主要国の65歳以上人口割合別到達年次とその倍加年数」による。

図3 主要国の65歳以上人口割合別到達年次とその倍加年数
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「表2-18 主要国の65歳以上人口割合別到達年次とその倍加年数」による。

 また、年齢ごとの人口数を年齢順に表した人口ピラミッドは、上が大きく下が小い「逆三角形型」への傾向が絶えず強まる(図1)。また、年齢区分別の人口を見ると、減るのは64歳までで、65歳以上の高齢者は人口減少にもかかわらずしばらく増え続ける(図2)。
 このような日本の人口構成の変化スピードは、世界屈指である。人口学では、65歳以上の高齢者率が人口全体の7%を超えると「高齢化社会」、14%超を「高齢社会」と呼ぶが、日本が高齢化社会になったのは1970年、高齢社会を迎えたのは1994年だ。たった24年しかかかっていない。
 ドイツは40年、イギリスは46年、アメリカは72年、フランスは126年かかっている。韓国(18年)や中国(25年)は日本より速いかあるいは同程度だが、どちらも2010年の時点では14%を超えておらず、問題は表面化していない。先進国のほとんどは高齢者が増える傾向にあるが、その先頭を突き進んでいるのが日本なのである。2010年、日本の高齢者率は20%を超えており、早くも2024年には30%の大台に乗ると予測されている。(以上、図3)

問題は、年々、老人を支える働き手世代の割合が減っていくこと

 このような急速な人口減少と高齢者増加の大きな要因は、第1次・第2次ベビーブームと、第1次ベビーブームの後に行われた大規模な産児制限にある。すなわち、人口の急峻な「山」のすぐ下に「谷」が来て、また山が来て谷が来る、という日本特有の人口構造によるところが大きい(図1参照)。なお、高齢化が進む国では出生率もおおむね下がる傾向にあるし、「昭和の初めからすでに80年以上にわたり、一貫して、かつほぼ同じ速度で低下してきた」(※1・P6)出生率が、今後大きく改善するとは考えにくい。それも踏まえると、日本の人口が減り、高齢者率が上がり続ける状況は避けられないと思われる。(以上、※1・P31~40)

将来推計人口の年齢構造に関する指標:2010~60年
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「表2-8 将来推計人口の年齢構造に関する指標:2010~60年」による

図4 将来推計人口の年齢構造に関する指標:2010~60年
国立社会保障・人口問題研究所 人口統計資料集(2013)
Ⅱ.年齢別人口「表2-8 将来推計人口の年齢構造に関する指標:2010~60年」による

 人口推移のうち、経済・労働環境を考える上で特に問題になるのは、「生産年齢人口(15~64歳の人口)」である。2010年には8000万人以上の生産年齢人口は、2030年に6700万人ほどになり、「生産年齢人口率」は63.8%(2010年)から58.1%(2030年)に下がる。つまり、人口の減少以上に、生産年齢人口が大幅に減るのである。これに伴い、老年人口指数は36.1(2010年)から54.4(2030年)に上がる。(以上、図4)この指数は、老年人口を生産年齢人口で割って100をかけたものである。2010年には生産労働人口約2.8人で高齢者1人を扶養する計算になるが、2030年には約1.8人で1人を扶養することになることを意味している。つまり、年々、高齢者を支える働き手世代の割合が減っていくのだ。

生産年齢人口が減少すれば、GDPも低下する可能性が高い

日本の名目労働生産性の推移
公益財団法人 日本生産性本部「日本の労働生産性の動向 2012年版」による。

図5 日本の名目労働生産性の推移
公益財団法人 日本生産性本部「日本の労働生産性の動向 2012年版」による。

 当然ながら、15歳から64歳の働き手の減少は経済規模や労働市場の縮小に直結する。その影響を、具体的にGDP(国内総生産)で考えてみたい。
 GDPとは国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計数のことで、大雑把には「労働力人口×労働時間×労働生産性」と考えることができる。つまり、労働者が増えるか、労働時間が増えるか、労働生産性が増えればGDPは上がる。逆に減れば、GDPは減少する。
 これまでの予測から生産年齢人口が大幅に減るのは確実であり、対策がないままでは、労働力人口も減ると考えるのが自然である。さらに言えば、生産年齢人口率が減るのだから、人口減の割合以上にGDPが下がってもおかしくない状況だ。また、労働時間については世界的に減少しており、日本も減っているという資料(※2)もあれば、1986年と2006年では「日本人の有業者1人当たりの週当たり平均労働時間は統計的にみて有意に異ならない」という報告(※3)もあり、一概には判断できないが、増えるという見方は少ないようだ。
 そうすると、GDPを現状のまま維持するためには、労働生産性の上昇が欠かせないだろう。しかし、日本の名目労働生産性は1995年度からほとんど変わっておらず、2008年度以降はむしろ減少している(図5)。この資料を見る限り、今後も労働生産性が大幅に上昇するとはなかなか考えにくい。
 以上を鑑みると、今後の日本はGDPの現状維持すら難しい状況で、経済成長が続くとは考えにくい。その大きな原因は、生産年齢人口の減少にある。

労働力人口の減少を和らげるには、女性や高齢者の活用などが必要

 このような労働力人口の減少に対する方策は、すでにさまざまなところで議論されている。最も盛んに議論されているのは、少子化対策、出産・育児で職場を離れる30~40代女性の活用、高齢者の活用、そして外国からの移民の受け入れである。
 まず少子化対策は、総人口を増やすために今後間違いなく必要だが、出産適齢期の女性が減っていくことが予想されるなか(20~44歳女性人口 2010年/2020万人→2030年/1457万人)、さまざまな施策を講じたとしても、今後数十年で子どもが急速に増えるとは考えにくい。

女性の年齢階級別労働力率の推移
内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成25年版」による。

図6 女性の年齢階級別労働力率の推移
内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 平成25年版」による。

 女性の活用に関しては内閣府でもすでに議論され、対策も行われてきている。その結果、図6のように女性の労働力率は高まる傾向にある。たとえば、30~34歳の女性では、労働力率は平成7年(1995年)の53.7%から平成24年(2012年)は68.6%に上昇。仕事と家庭の両立支援施策によって、この率をさらに高めることもできるだろうが、ここから先、女性活用が劇的に労働力人口を増やすと考えるのは難しい。
 今後の施策として有力なのは、高齢者の活用である。高齢者そのものの定義を変えてしまい、65歳ではなく70歳、あるいはそれ以上に引き上げることで、労働力人口を増やすことができるだろう。またこの施策は、労働力人口対策だけでなく、年金支給額を減らし、さらに仕事による生きがいづくりから医療・介護費を減らす効果まで見込める。平均寿命が延び続けている現代社会では、高齢者の上限が上がるのも決して不自然ではないはずだ。実際、すでに団塊の世代の多くが高齢者を70歳以上とイメージしており、彼らのうち50%を超える人々が65歳以降も働きたいと考えている(※4)ことを踏まえると、十分に現実的な施策だと思われる。
 高齢者の再定義は、国の医療費や年金給付の削減にも波及する問題であるので、簡単には行えない。しかし、人口推移や国の財政状況などを踏まえれば、いずれは避けられなくなるのではないだろうか。またこのことは、2013年4月に始まった厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げが、中長期的に見て、さらに延びる可能性も示唆している。
 外国からの移民受け入れについては、他の先進国がすでに行っている施策だが、賃金の低下、失業の問題、治安の問題などがあり、すぐに答えが出せるテーマではない。

※1 松谷明彦『「人口減少経済」の新しい公式』(日本経済新聞出版社・日経ビジネス人文庫)による。
※2 OECD Factbook 2013「Average hours actually worked」によれば、日本の1年間あたりの平均労働時間は、1999年には1810時間だったが、2011年は1728時間となっており、同様に減少傾向にある国が多い。
※3 黒田祥子「日本人の労働時間」(独立行政法人 経済産業研究所)による。
※4 内閣府の「団塊の世代の意識に関する調査(平成24年)」によれば、「あなたは一般的に高齢者とは何歳以上だと思いますか。」という質問に対して、計80%以上の人が「70歳以上/75歳以上/80歳以上/85歳以上」のいずれかに回答している。また、「あなたが今後も働くとき、何歳まで働きたいと思いますか。」という質問で、50%を超える人々が、「70歳まで/75歳まで/80歳まで/働けるうちはいつまでも」のいずれかに回答している。

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