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2030年の「働く」を考える

オピニオン#6 石倉教授(後編) 2013/12/2 これからは「個が輝く時代」あまり考え込まずに、どんどん挑戦すべきです 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授 博士(経営学) 石倉洋子氏

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個人視点挑戦と実践こそ、これからを生き抜くために最も効果的な策です。
個人視点「divide(断絶)をconnect(つながり)へ」変えることが大切です。
社会視点近い将来、オンライン・エデュケーションが確実に普及します。

これから最も求められるようになるのは、「学び続ける力」です

では、そのような世界の動向を受けて、一人ひとりは何に気を付け、どのように行動するのがよいでしょうか。

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 1つ目に、「学校で学ぶ→社会に出て働く→引退して余生を過ごす」という人生の流れは一般的でなくなるでしょう。その流れに取って代わるのは、「ライフ・ロング・ラーニング」という考え方です。つまり、社会に出てからも常に学び続ける人生が普通になります。世界の変化が速い以上、この変化は必然です。
 また、そのために「オンライン・エデュケーション」が普及することは間違いありません。これまでも企業はe-ラーニングを活用してきましたが、大学や社会人教育の世界にも本格的に広まります。日本はかなり遅れているので実感がないかもしれませんが、実はすでに海外ではオンライン・エデュケーションが急速に発展しています。
 たとえばCourseraはスタンフォード大学の教授たちが始めた団体で、世界中の大学と提携し、さまざまな大学のコースを無料で提供しています。言語の壁さえクリアできれば、このような手軽に利用できる優れたオンライン・エデュケーション・コースを、私たちも今すぐ利用できるのです。実は今、私自身Courseraのサービスを利用して、ロジカルシンキングの勉強をしています。そもそもはビッグデータにものすごく大きな可能性を予感し、統計学を深く学びたいと考えたときに最善策として選んだのがいつでもどこでも学べるCourseraでした。統計学はずいぶん前に学んだだけでソフトの使い方がわからず、ついていけなくなって挫折してしまいましたが、ロジカルシンキングは苦労しながらも何とかコースを終えようと続けています。
 オンライン・エデュケーションが隆盛ななか、一部では、大学の学位の意味はまだあるのか、今後大学が果たす社会における役割は何か、という議論も進んでいます。いずれにしても、教育の世界は今後大きく変わることでしょう。日本でも同様の現象が起きるのは時間の問題です。

「オープン型人材育成」と「双方向メンタリング」の面白い試み

それでは、対面授業はなくなってしまうのでしょうか。

 いえ、そうではありません。1人で学び続けるのはなかなか難しいものです。ですから、仮にオンライン・エデュケーションが主な学習手段になったとしても、時に「みんなで学ぶ」ことは必要だと考えています。定期的に集まって、皆で話し合いながらオンライン・エデュケーションを受ける場を設ければ、確実に続けやすくなるはずです。特に今、団塊世代の方々には学びの場があまり用意されていません。人材ギャップ解消の切り札として、オンラインも含めて彼らの学習環境を整えることが急務だと思います。
 中高年の学びの場としては、1つ大変面白い例があります。東京大学の藤本隆宏教授が中心となって、今、「ものづくりインストラクター(R)」を日本全国で養成しています。長年生産現場でものづくりに携わってきた人たちに、汎用性の高い「ものづくり知識・技術」を学んでもらい、さまざまな企業で現場改善に当たってもらうのです。どこでも役に立てる「オープン型」人材の育成です。定年後の方もたくさんいらっしゃるそうで、高齢者活用の取り組みとしても優れています。
 現場改善の際は3人ほどでチームを組みますが、できるだけベテランと比較的若いメンバーを交ぜるのだそうです。年上のメンバーにはより豊かな経験の蓄積があり、年少メンバーには新たなテクノロジーのノウハウがあります。彼らが互いに得意技を教え合いながらプロジェクトを完遂する。私はこれを「双方向メンタリング」と呼んでおり、今後このような教え合いがとても重要になると考えています。
 「ものづくりインストラクター(R)」は、多様な学びの場を実践の場と組み合わせながら構成している事例として大変興味深いものです。

組織のなかに縮こまっている場合ではありません、自分が主役なのですから

「学び続ける」こと以外には、これから個人が生き抜いていくために何が大切になるのでしょうか。

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 何よりも、「個人でどんどんチャレンジすること」です。確かに学びは必要ですが、実践なしにはリーダーシップもイノベーティブな能力も決して身につくことはありません。失敗にもへこたれずに前へ進む。海外にも恐れず出ていく。面白い人に会ったら積極的に働きかける。新たなことを学ぶために古いものを捨てる。このような姿勢がこれからの皆さんの身を助けるにちがいありません。
 もはや組織に頼っている場合ではありません。特に日本企業は30年前からグローバル人材の育成が急務といっていながら、いまだに多くの企業が成功していません。なぜか。どうしても変化を恐れ、なかなか改革を進められないからです。そのような組織のなかで縮こまっているくらいなら、思い切って飛び出した方が絶対によいと思います。飛び出すことで、自分のスキルがどこでどのように役立つのか、これから自分が何を活かして生きていけばよいか、いろいろと見えてくるはずです。「個が輝く時代」の主役は組織ではなく、あくまでも個人。そのことを忘れないでください。
 チャレンジする際のコツは、「あまり深く考えないこと」です。考えすぎると動けなくなるからです。先にもお話ししたとおり、時代は変わりました。1人で熟考して完璧に作り込むのではなく、情報をオープンにして皆で完成させていくのが、これからの時代の仕事のあり方として主流になるでしょう。考え込むより動くこと、さまざまな人や情報を「つなげる」ことが一番のポイントです。私は「divide(断絶)をconnect(つながり)へ」とよく言うのですが、現代には実にさまざまな断絶があります。これを上手につなげると価値が生まれる。また、自分の能力も多様につなげてみると、そこから新たな価値を生み出せるユニークなスキルが生まれます。私は今、絶えず行動して多様なつながりを生み出せる人を育てる活動を行っています。ぜひ皆さんも、つなげる人を目指してください。

インタビュー:古野庸一

石倉洋子氏プロフィール
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授 博士(経営学)
上智大学外国語学部英語学科卒業後、フリーの通訳などとして活躍。1980年、バージニア・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)、1985年にはハーバード・ビジネス・スクールにて経営学博士(DBA)取得。1985年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーにて、日本の大企業の戦略・組織・企業革新のコンサルティングに従事。1992年から青山学院大学国際政治経済学部教授。2000年から一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。2011年4月から現職。著書に『グローバルキャリア』『世界級キャリアのつくり方』(共著)などがある。

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