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2030年の「働く」を考える

オピニオン#8 渡邉氏(後編) 2013/12/16 「日本人メリット」がこれからのあなたの身を助けます 株式会社MyNewsJapan 代表取締役社長 編集長 ジャーナリスト 渡邉正裕氏

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個人視点「重力の世界」に属する人の前途は、より一層厳しくなります。
個人視点「日本人メリット」がある職種は、重宝されます。
個人視点「夢のあるブラック労働」を嫌がっていると、損をします。

2030年も、日本のタクシーのほとんどは、日本人が運転しているでしょう

それでは、ここからは渡邉さんの著書『10年後に食える仕事 食えない仕事』のなかにある「グローバル時代の職業マップ」(図表1)の「4つの世界」を参考にしながら、2030年の「働く」について、より具体的なお話をお聞かせ願えればと思います。

図表1

図表1 グローバル化時代の職業マップ

図表2

図表2 「重力の世界」の職業群

図表3

図表3 「無国籍ジャングル」の職業群

 まずは「重力の世界」(図表2)からお話しします。日本人であるメリットを活かすことのできない技能集約的な仕事群です。「重力の世界」については、『10年後に食える仕事 食えない仕事』では規制がない世界の究極の姿を示しており、そういった世界では、これらの仕事は主に移民の仕事になっていくわけですが、現実的には、おそらく日本は、外国人の移民を今後もほぼ受け入れることはないだろうと思います。移民政策をとっていたヨーロッパ諸国では、今、その失敗が問題になっており、移民を増やす方向には進んでいません。そのような先例も踏まえると、制度改革の難しい日本で日本人の職を奪うような移民政策が遂行されるとは考えにくい。実際に現在、日本政府は移民政策の議論すら行っていません。
 移民を受けいれない限り、「国内に残る職種」はこれからも変わらず、基本的には日本人の仕事となるはずです。ただし、財政破綻後は職を失った高齢者や中高年が「重力の世界」にどっと流れ込み、給与水準が一層下がることが予想されます。これらの仕事に就く人の前途が厳しいことに変わりはありません。なお、「国境を越える職種」はすでに外国人に置き換わりつつあり、さらに進む傾向にあります。
 2つ目は、日本人であるメリットが少なく、知能集約的な「無国籍ジャングル」(図表3)ですが、この領域では、本でも書いたとおり「人類70億人との仁義なき戦い」が行われます。これらの職種に就く人の土俵はあくまでもグローバルですから、日本の財政が破綻してもあまり影響は受けません。この世界で腕に自信のある人は、どんどん世界へ出ていき、チャレンジしてほしいと思います。リスクが高い代わりに、返ってくるものも大きいでしょう。いや、むしろ「世界就職」や「世界転職」した方が、日本に残るよりかえってリスクは低いかもしれません。

「日本人メリット+手に職」の組み合わせがあれば、世界のどこでも食べていけます

ここまでが「日本人メリット」のない人たちのゾーンですね。では、残りの2枠についても解説をお願いします。

図表4

図表4 「ジャパンプレミアム」の職業群

 次は「ジャパンプレミアム」(図表4)です。これらの職種は日本文化や日本語に慣れ親しんだ人でないと難しく、たとえ移民を受け入れたとしても、外国人が増えるとは考えにくい。このことを私は「日本人メリット」と呼んでいます。日本人メリットのある仕事のうち、技能集約的なものが「ジャパンプレミアム」。公務員・教員・自衛官は別として、他の職種は、財政破綻後もそれなりに重宝されるでしょう。
 なかでも今後有利なのは、美容師や料理人などの「手に職」をもった人たちです。たとえ財政破綻がなくても、これからは日本人が世界中に飛び立っていく時代。「日本人メリット+手に職」をもつ人々は、日本人の多く住む地域で店を開けばよく、世界のどこでも食べていけるチャンスがあります。今、日本食は世界的なブームで健康的でおいしいと評判になっており、板前やすし職人などには特に大きな可能性があります。
 また、財政破綻によって急激な円安が起こったら、間違いなく外国人観光客が増えます。「日本観光ブーム」がやってくる可能性も十分にあるでしょう。「おもてなし」を得意とする旅館などのサービス業にも追い風が吹きそうです。

デジタル化できない製造技術は、引き続き日本の独壇場となるでしょう

最後に紹介されるのは「グローカル」ですね。

図表5

図表5 「グローカル」の職業群

 『10年後に食える仕事 食えない仕事』にも書きましたが、やはり日本に残って働くのなら、日本人メリットがある知能集約的職種群「グローカル」(図表5)をお勧めします。もちろん財政破綻の影響は受けるでしょうが、その後も引き続き必要とされる職種ばかりです。
 特に2030年に有望なのは、復活する製造業の開発技術者や営業などでしょう。ただし、デジタル化が進む技術は早晩グローバル化の波に飲み込まれてしまいます。そうではなく、日本独自の「すりあわせ」の強みを発揮できる技術、つまり一部にアナログのプロセスが残っていく分野は、今後も日本人の独壇場であり続けるはずです。
 日本人は、製造業に最適化された民族です。この特徴はそう簡単には変わらないでしょう。2030年になっても、依然として製造業中心の経済構造が維持されるのではないかと思います。

「夢のあるブラック労働」こそ、日本の強みの源泉ではないでしょうか

最後に、特に2030年の主役となる今の若者たちに向けて、何かアドバイスをいただけないでしょうか。

写真2

 今、「ブラック企業」という言葉が流布しています。確かにブラック企業およびブラック労働は存在しますが、それらは「夢があるかどうか」でかなり種類が違うと思います。夢や未来のないブラック企業やブラック労働は大問題です。しかし、「夢のあるブラック労働」は、むしろ日本の強みの源泉になっているのではないかと私は思っています。
 例えば、日本の誇るマンガやアニメの制作現場、特に下積み中の若手制作者たちの職場環境は、労働時間や給与の観点から見れば、間違いなくブラックの部類に入ります。しかし、話を聞いてみると、彼らの多くは自分の将来のために喜んで働いている。他にもゲーム開発者、日本料理の料理人、お笑い芸人など、同様に過酷な「修業期間」のある職種は数多くあります。これらを「夢のないブラック労働」と一括りにするのは問題です。その大変な期間を乗り越えるからこそ一人前になれるわけで、ブラックといって敬遠していては十分な技術が身につきません。
 実は、これらの職種はいずれも「日本人メリット」のあるものばかり。夢を見据えたブラック労働による修業システムこそが日本の強みを支える差別化ポイントだというのは、決して言いすぎではないと思います。やりたいことがあるのなら、まずは修業の現場に飛び込むことです。そこでの経験が、後に「日本人メリット」として、きっと自分の身を助けるはずです。
 逆に、私は「ホワイト企業」への就職はお勧めしません。これまでお話ししてきたように、公務員ですら今後は決して安泰ではないのです。どんなに安定していると思える企業に入っても、一寸先は闇。それなら、ホワイト企業で安穏としているよりも、自分の興味に従って夢のあるブラック企業で自らを鍛えた方が、確実に将来のためになります。

※『10年後に食える仕事 食えない仕事』の詳細についてはこちらをご覧ください。

インタビュー:古野庸一

渡邉正裕氏プロフィール
株式会社MyNewsJapan 代表取締役社長 編集長 ジャーナリスト
慶應義塾大学(SFC)卒。日本経済新聞記者、日本アイ・ビー・エムのコンサルタントを経て、2004年、ジャーナリズムに特化したインターネット新聞社MyNewsJapanを創業。自らもジャーナリストとして雇用・労働問題を中心に"企業ミシュラン"シリーズの執筆を続ける。著書に『若者はなぜ「会社選び」に失敗するのか』『トヨタの闇』『35歳までに読むキャリアの教科書』などがある。

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