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オピニオン#27 石山先生 2015/9/7 楽しく学び、キャリアを自分ゴト化できるパラレルキャリアは、今後も広まるでしょう 法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴氏

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個人視点パラレルキャリアには、キャリアの変化対応力などを高め、見方を柔軟にする効果があります。
企業視点パラレルキャリアのメリットを理解し、社員育成に取り入れる企業が出てきています。
社会視点近い将来、キャリアは個別化、多様化し、フレキシブルになっていくでしょう。

「本業×本業以外」の複数キャリアを同時に実践するのが、パラレルキャリアです

パラレルキャリアの簡単な定義からお願いします。

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 「パラレルキャリア」とは、本業と本業以外の社会活動という複数のキャリアを同時に実践することで、対義語は「シングルキャリア」です。プロボノ(職業上のスキルを活かしたボランティア活動)、ボランティア、ワークショップ、SOHOなど、営利・非営利にかかわらず多種多様な形態があります。本業以外の社会活動なら、何でもパラレルキャリアといえるのです。

 パラレルキャリアは決して敷居の高いものではありません。例えば、プロボノは週5~10時間、3~6カ月程度で終了するプロジェクトが多く、そのほとんどはスキマ時間を利用して場所を選ばずに活動できるため、本業への負担は少なく、気軽に始めることができます。「ボランティアを始めたいけれど、ずっと関わり続けなければならないと思うと、少し気が重い」という方が多いようですが、実際は辞めることも、別のコミュニティに移ることも、複数コミュニティへの参加も簡単にできます。

 なお、ビジネスパーソンだけでなく、子育て中の方や学生なども、パラレルキャリアを実践できます。この点は誤解されがちですが、主夫・主婦や学生なども立派な本業ですから、本業以外のことを行えばパラレルキャリアになるのです。

社員に多様な価値観を取り入れるチャンスを提供するため、
プロボノを研修に使っている会社があります

もう少し詳しく、パラレルキャリアの仕組みを教えてください。

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 プロボノやボランティアの場合、「中間支援団体」を介して行うのが一般的です。NPOと個人を橋渡しする団体で、NPOの依頼に対してプロジェクトチームを結成し、フォローするのが役割。プロボノなら〈サービスグラント〉や〈プロボネット〉〈二枚目の名刺〉などが有名です。パラレルキャリアを行いたい個人は、まずこういった団体に登録します。すると、NPOから団体に依頼されたプロジェクトが紹介されますから、自分のキャリアが活かせそうで、かつチャレンジしたいものに手を挙げる。そこで結成されたプロジェクトチームが、NPOの社会活動をサポートするという仕組みになっています。チームは5~6名が平均で、もちろんほとんどの場合は全員初対面。メンバー全員がリーダーシップをもち、ゼロベースで考え、意見を言い合い、試行錯誤しながら物事を進めていくのが、プロボノの醍醐味です。

 面白い事例として、〈二枚目の名刺〉とNTTデータシステム技術(NST)の共同プロジェクトがあります。NSTは、金融システムの構築、維持、保守を行う会社。そのため、安定的なシステムの稼働を実現することが第一で、新しい挑戦をする機会が少なくなってしまうことや、どうしても同質的な考え方になってしまうことが人事上の課題となっていました。そこで、社外の多様な価値観を知り、取り入れるチャンスを作るため、プロボノを中堅社員向けリーダーシップ研修の一環として利用し、社員をいくつかのプロジェクトに送り込んでいるのです。実際、社員の方々は、多様なメンバーと対等な立場でチームを組み、皆で意見を言い合いながら軌道修正する、正解がなく羅針盤もない世界を経験したことが本業にも役立っているといいます。

 こうしたプロジェクトを進めるときやワークショップを行うときは、メンバーが気軽に集まれる居心地のよい場が必要です。それが「サードプレイス」で、コミュニティカフェ、社会人大学院、フューチャーセンター、コワーキングスペースなどがあります。企業、商店会、自治体など、サードプレイスの運営元はさまざまで、特徴もいろいろ。例えば、東京駅至近の〈3×3Labo〉は、エリアの持続可能なまちづくりを推進するエコッツェリア協会(大丸有環境共生型まちづくり推進協会)が開設した、2016年3月末までの期間限定の登録制オープンスペース。生きた地球の姿をリアルタイムに感じられるデジタル地球儀「触れる地球」が置いてある面白い場所です。神奈川県のコミュニティカフェ〈港南台タウンカフェ〉は地域を想う個人が始めたサードプレイスで、自分が作ったアクセサリーや小物などを小さなスペースで販売できる「小箱ショップ」が人気。これなど、主婦の方々がごく簡単に始められるパラレルキャリアの好例です。富士通ラーニングメディアの〈CO☆PIT〉など、企業が運営する「対話とイノベーションの空間」も次々に出現しています。こうした場が、日本全国に増えてきています。

 なお、2015年7月に出版した『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)ダイヤモンド・オンラインの連載記事にも、中間支援団体や場、事例などを詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。

パラレルキャリアを経験すると、仕事でも本質を考えるようになる

なぜ今、パラレルキャリアが盛んになってきたのでしょうか。

 理由はいくつかあると思いますが、そもそもパラレルキャリアとは、ドラッカーが『明日を支配するもの』という著書で予言したものです。ドラッカーが非営利組織のマネジメントを重視していたことからも分かるとおり、アメリカでは早くからNPOなどが発達。日本社会もようやく成熟し、NPOなどの組織が増えてきました。その影響の一端が、パラレルキャリアの流行として表れているという見方ができます。

 知識労働化社会で「イノベーション」を起こすために、パラレルキャリアが有効だということも理由の1つでしょう。さまざまな情報、刺激を外部から積極的に取り入れることが、イノベーションを起こす上で重要なことは、多くの組織が理解しています。その一手法として、パラレルキャリアが注目されている側面があります。

 「デザイン思考」の隆盛も、パラレルキャリアを後押ししています。業務が確立され、専門化が進んだ部署では、プロトタイピング(アイデアを早期から試行して、失敗と検証を繰り返しながら、商品やサービスを形にしていくプロセス)を行うのは難しいのが現状です。円滑な業務運営が重要な部署では、失敗を容認できなくなってきているからです。一方、プロボノは全体像が曖昧な時点でプロトタイプを作り、失敗しながら進めていくプロジェクトが多い。デザイン思考を実践的に学ぶ場としても有益なのです。

 日本の雇用システム上の問題も、要因として数えられるでしょう。欧米では、ギャップイヤーをはじめ、キャリアの一時中断は普通のことで、多様な働き方が認められています。対して日本では、いまだにキャリアの中断はネガティブに捉えられることが多い。しかし、一方で多様な働き方を実現したいニーズは確実に増えています。そこで、キャリアを中断せずに、他のキャリアを経験できるパラレルキャリアが流行しているのです。

 中原淳先生が提唱する「固定的パースペクティブの変容」(※1)、つまり固定的な見方や思い込みを変える効果が大きいことも、パラレルキャリアの利点です。例えば、プロボノでは未知のメンバーと新たな取り組みを行いますから、プロジェクトの「本質」について対話するプロセスが欠かせません。しかし、本業では「そもそも論」がしにくい雰囲気があり、業務の本質など考える必要がないと思い込んでいる方も多くいらっしゃいます。そういった方々が、プロボノで他のメンバーの本質を追究する姿勢にショックを受け、本業でも「そもそも論」を始めるケースが珍しくありません。パラレルキャリアを経験すると、無意識に信じてきた「暗黙の準拠枠(判断の枠組み)」を問い直せるのです。先ほどご紹介したNSTの社員研修は、まさに固定的パースペクティブの変容をねらった施策といえます。

※1:中原淳(2015)「異業種5社による「地域課題解決研修」の効果とは何か?-アクションリサーチによる研修企画と評価」『名古屋高等教育研究』,Vol15,pp.241-266.

言いたいことを言い合いながら、メンバーと仲良くなるプロセスが楽しい

先生ご自身もパラレルキャリアを実践されているとのこと。感想を聞かせてください。

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 パラレルキャリアは、とにかく楽しい。流行する最大の要因は、楽しいからだろうと思うほどです。ぐるなびの人事責任者・田中潤さんは、パラレルキャリアを「週末の草野球みたいなもの」「大人の文化祭」だとおっしゃっていますが、私も同感です。田中さんはいくつもの肩書きをもっていますが、その1つ、経営学習研究所ではさまざまなワークショップを開催しており、そのなかの「酒場学習論」には、私も幹事として参加しました。初対面の方々と力を合わせて準備するのも、赤羽の有名なせんべろ(1000円でべろべろに酔える居酒屋)の2階で行ったワークショップも、楽しくて仕方ありませんでした。こういった体験から、私自身も、おおげさにいえば「アイデンティティが変わっていく」経験をしました。未知のメンバーと対話して、他の会社や大学がいかに違う世界なのかを知るだけでも気分が楽になります。

 パラレルキャリアが楽しい要因の1つに、「シェアド・リーダーシップ」があります。会社と違い、プロボノなどでは全員がリーダーシップをもち、状況に合わせて誰がリーダーになってもよいのです。実際に、20代、30代の方がリーダーとなり、50代、60代と一緒にプロジェクトを進めていくシーンもよく見られます。また、皆が言いたいことを言い合うのも大きな特徴。当然、意見の衝突も日常茶飯事で、人間関係やお金などで揉めることもありますが、振り返ればその経験こそが楽しく、学びや気付きがたくさんあるのです。本業は、皆生活がかかっていますから、どうしても本気では衝突しにくい。本業ではできない経験が、パラレルキャリアなら実現できるのです。

 プロボノで揉めごとが起きたとき、フォロー役に回るのはたいがいシニアの方々。実は、パラレルキャリアにはシニア層も多く、リーダーというよりメンターとして活躍されています。今、企業でも権限に基づくリーダーシップの限界がいわれ始めており、「マトリックス組織」「オープンイノベーション」「プロジェクト化」が進むなかで、新たなリーダーシップの重要性が唱えられています。若手・中堅のみならず、シニア層がこうした新たなリーダーシップ、新たな役割を知る場としても、パラレルキャリアは有用です。

 なお、「パラレルキャリアは、社交的な人がやるもの」と誤解している方がいらっしゃるかもしれませんが、実は私は相当の人見知りで、パーティーでは壁の花になるタイプ。ワークショップなども知り合いに連れて行ってもらうことがほとんどです。しかし、ワールドカフェなどを利用したワークショップは、人見知りでも話しやすい工夫がされており、私はどの場も楽しく過ごすことができました。パラレルキャリアは、誰でも楽しく学べる生き方だと感じます。

日本型雇用には良いところがたくさんあるけれど、
他の働き方もいろいろとあってよいのでは

パラレルキャリアの課題を教えてください。

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 いくつかありますが、1つ目に「逃避問題」があります。「パラレルキャリアは、本業からの逃避ではないか。本業を疎かにしているのではないか」という批判があるのです。実際、社会人大学院への通学を会社に秘密にしている学生もいます。会社に明かしている学生たちにインタビューすると、経営幹部など上位上司は頑張れと言ってくれるが、直属の上司や同僚の目線は厳しく、「何だよ、忙しいのに」などと言われるという声を多く耳にします。しかし、私は、逃避問題は、問題ではないと考えています。パラレルキャリアは一時的な逃避であってよいのです。外の世界を知ることで、本業に向き合う余裕を取り戻し、必要なスキルを得るケースもあるでしょうし、パラレルキャリアをきっかけに転職することだって悪くないはずです。価値観が大きく変わる今、逃避問題が出てくるのは当然ですが、本質的な議論ではありません。

 2つ目に、「パラレルキャリアが終わると、元に戻ってしまう」という問題があります。本業だけの日常に戻ると、パラレルキャリアの経験を忘れて元に戻ってしまう、あるいは本業でパラレルキャリアの学びを持ち込んだところ、思わぬ反発を浴びるケースなどがあります。これを防ぐには、パラレルキャリアを継続的に行い、常に自分を問い直し、一歩を踏み出し続ける必要があります。特に今後、企業研修で活用する場合には、継続の仕組みを考えなくてはなりません。

 3つ目に、日本型雇用の厚い壁があります。私は、日本型雇用には強い経営、安定長期雇用など優れた点が山ほどあると考えています。しかし現在は、日本型雇用の規範があまりにも強すぎます。日本型雇用に重きを置いている組織では、パラレルキャリアは否定的に捉えられることが多く、ワールドカフェなども何度か試した上で、効果がないと判断されるケースがあると聞きます。しかし、私は、日本型雇用にとっても、パラレルキャリアは有用だと考えています。

 特に日本型雇用で、今後問題となってくるのは、「キャリアを自分ゴト化できないシステム」です。従来、キャリアは職業理解と自己理解を深めた上でマッチングするものと考えられてきましたが、これは右肩上がりの時代に適した理論。替わって、現在は、マーク・サビカスの「キャリア・アダプタビリティ」に注目が集まっています。社会が一層大きく変化していく今後は、変化対応力こそが最も大事なのです。サビカスは、ごく簡単にいえば、「キャリアを自分ゴト化し、自分でコントロールしていけば、自然とキャリア適応できる」と述べています。しかし、現在の日本型雇用では、キャリアを自分でコントロールできる余地は少ない。シングルキャリアが多いままでは、多くの日本人が十分にキャリア・アダプタビリティを身につけられないでしょう。そこで、キャリアを自分ゴト化する手っ取り早い方法が、パラレルキャリアです。自分で手を挙げ、自分のやりたいことに携わる。キャリアを自律的に考える格好のチャンスなのです。

近い将来、キャリアは個別化、多様化し、フレキシブルになっていくでしょう

パラレルキャリアは、将来どのようになっていくと思われますか。

 おそらく企業は徐々にパラレルキャリアを許容していくようになり、キャリアは個別化、多様化し、フレキシブルになり、キャリアの中断も当たり前になるでしょう。すでに、「地域正社員」、「短時間正社員」など、柔軟な働き方の事例はいくつもありますし、部署によっては在宅勤務が認められる会社も増えています。この傾向はこれから強まるでしょう。〈SOHO CITYみたか〉のような取り組みが広まれば、フリーエージェントやインディペンデント・コントラクター(個人事業主)も増えると思います。

 パラレルキャリアは、増えることはあっても、減ることはないはずです。なぜなら、やはり楽しいからです。プロボノの世界には、「ウラボノ」という言葉があります。プロボノのプロジェクトでとことん言い合い、結束を強めたメンバーたちが、飲み会やバーベキューなどを頻繁に行っているのです。言い合えるからこそ、仲良くなれる。こうした人間関係を作れるメリットこそ、特筆すべきことではないかと感じています。

インタビュー:岩下広武 テキスト:米川青馬 写真:伊藤誠

石山恒貴氏プロフィール
法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GEにおいて、一貫して人事労務関係を担当、米系ヘルスケア会社執行役員人事総務部長を経て、現職。人的資源管理と雇用が研究領域。ATDインターナショナルネットワークジャパン理事、タレントマネジメント委員会委員長。NPOキャリア権推進ネットワーク研究部会所属。著書に『時間と場所を選ばない パラレルキャリアを始めよう!』『キャリア採用のプロたちが教える後悔しない転職7つの法則』(共にダイヤモンド社)、『組織内専門人材のキャリアと学習』(日本生産性本部生産性労働情報センター)などがある。

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