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2030年の「働く」を考える

オピニオン#12 酒井氏 2014/1/14 「群れのルール」から外れることが、課題解決能力を磨く第一歩です 株式会社BOLBOP 代表取締役 CEO 酒井穣氏

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社会視点お金以上に、信頼関係や仲間が「資産」となる社会になります。
社会視点優れた価値を生み出せる人が、モテる時代がやってきます。
社会視点テクノロジーが、社会を激変させる可能性があります。

脱中心化、脱東京が間違いなく進んでいきます

『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』など多くの著作があり、さまざまな顔をもつ酒井さんに、本日は2030年の「働く」についてお話を伺いにまいりました。

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 世界の変化は「非連続」で突発的な事件が常に起きますから、2030年の世界と日本がどうなっているか、もちろんほとんど当てることはできません。ですが、現状から読み取れる傾向や予想はいくつかあります。
 私が確実に進むと考えているのは、「脱中心化」です。歴史上、集中と分散はさまざまなスケールで繰り返されています。これまでは集中の時代でした。しかし、今後は分散が進むというのが私の予想です。例えば、「脱東京」が起こり、地方が力をもつようになるでしょう。「脱マスコミ」も進むだろうと思います。石倉洋子先生がおっしゃっている「個が輝く時代」というのも、脱中心化の1つの表れでしょう。室町時代、応仁の乱によって京都一極集中が解消され、知や文化のコミュニティが地方に散らばっていったのですが、それと同様のことがこれから起きるはずです。
 私は、「脱中心化」は決して悪いことだとは思いません。そもそも集中には、古来、さまざまな争いごとの準備段階という側面があります。それが解消されることが、悪いわけがありません。また、大都市は人を機能的存在として扱います。人を「使える」「使えない」で判断し、十分に機能を果たせない人を切り捨てていきます。昨今話題になっている「追い出し部屋」などというのは機能主義の行きすぎです。そこには、人間の尊厳がありません。あるのは「次は自分の番かもしれない」という恐怖だけです。脱中心化は、人の尊厳を取り戻す第一歩にもなるはずです。

2つのキーテクノロジーが世の中を一変させるのではないかと思います

「脱中心化」が進む理由は、何なのでしょうか。

 脱中心化を進めるのは、「テクノロジー」です。
 実はもうすでに、テクノロジーによる脱中心化はかなり進んでいます。一番分かりやすいのは、国家と企業と個人の関係です。インターネットや輸送技術など、さまざまなテクノロジーの進化によって、企業のグローバル化はもはや当たり前となりました。そのために、国家と企業の結びつきは確実に弱まりました。同様にインターネットの進化によって、企業と個人の結びつきも以前よりずっと弱くなっています。
 結果として今、「国の物語」と「企業の物語」と「個人の物語」の接続がおかしくなっていることを、多くの人が感じているはずです。以前の日本では、国や企業に従っていれば良い人生を送れると考える人が多かったと思います。しかし、今は決してそうではありません。国家や企業の統治能力が弱まっているのです。これは、戦後、国も企業も個人も一致団結して集中し、豊かな国を作る必要があった時代が終わったということでもあります。

2030年に向けては、どのようなテクノロジーが出てくるのでしょうか。

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 今後の世の中を大きく変えるテクノロジーとして、私が想定しているものは2つあり、その1つは「電脳メガネ」です。仮想現実を映し出すメガネで、Google Glassをはじめとして開発はすでにかなり進んでおり、2030年には必ず普及しているだろうと思います。電脳メガネが何を引き起こすかといえば、「場所からの解放」です。これが広まれば、ミーティングやインタビューなどは仮想空間で行えばいいわけで、ほとんどの場合、直接会う必要がなくなります。多くの仕事が、どこに住んでいてもできるようになるでしょう。
 大都市の課題の1つは、地代家賃の高さです。どこでも仕事ができるなら、多くの企業はオフィスを必要としなくなり、人々は家賃の安い地方に住むようになるはずです。通勤ラッシュから解放され、より快適に働けるようにもなります。
 もう1つ、こちらは2030年に完成しているかどうか分かりませんが、もし人の会話をほぼ完璧に、しかも素早く翻訳できる「自動翻訳機」が広まったら、世界は激変します。言葉の壁が一気になくなり、国というものが何だか分からなくなってしまうでしょう。それと共に、日本をはじめとする多くの先進国の人々が、世界に仕事を奪われてしまいます。何しろ、インドや中国やアフリカといった人件費の極端に安い国々に暮らす人々が、簡単に日本語や各国語に対応できるようになるわけですから。
 これらのテクノロジーの進化のおおもとにあるのは、「コンピューティングパワーの進化スピードの速さ」です。ムーアの法則は今も健在で、コンピューティングパワーは18~24カ月で倍になっています。2011年にアメリカのクイズ王に勝ったIBM社の人工知能「ワトソン」は、世界中の論文を瞬時に読むことができる抜群の能力を活かして、すでに医療支援などのさまざまな用途に応用されようとしています。この調子で人工知能が発達すれば、いずれは専門性を活かしつつ、知識の非対称性で儲けを出すビジネスモデルはすべて成立しなくなるでしょう。また、アメリカではロボット調剤が進んでおり、職を失う薬剤師も増えているそうです。ロボットなら調合ミスを確実に減らせるなど、メリットが大きいのです。
 現代は、室町時代の戦の代わりに、テクノロジーが脱中心化をどんどん進めています。同時に、私たちの仕事のあり方も大きく変わります。

食料と資源をめぐる争いが、里山資本主義の時代をもたらすかもしれません

人々の仕事環境に強く影響する変化は、他には何か起こらないのでしょうか。

 忘れてはいけないのは、「地球のサステナビリティ」の問題です。地球の人口がだいたい40億人以上になると、全員に十分に食料が行き渡らなくなるといわれています。エネルギーの場合はさらに少なくて30億人です。本来、地球はそれ以上の人類を支えることができません。ですが、現在の全世界の人口は70億人を超え、100億人に迫る勢いで増えています。それを踏まえれば、食料と資源をめぐる争いは、今後間違いなく激化するでしょう。私たち日本人も、決して他人事ではありません。尖閣諸島や竹島の問題も、そうした視点から捉える必要があるでしょう。
 食料や資源をめぐる戦争の危機に対して、私たちがどう対応すればよいか。解決策の1つとして、「里山資本主義」というものがあります。地方や町の単位で食料やエネルギーを地産地消し、さらにお金への依存を減らすようなサブシステムを作って、そこに属する人々が少ない現金収入でいかに幸せに暮らせるかを追求するのです。できるだけ多くの人が低コストで食料や資源を確保できるようにするには、脱中心化とあわせて、このようなローカルコミュニティの強化が欠かせないと思います。食料や資源をめぐる戦争が本格的に起こりはじめた場合、多くの人が里山資本主義に頼る時代がやってくるかもしれません。

そして、「優れた価値を生み出せる人が勝つ時代」「良い人が勝つ時代」がやってきます

そのような激動の時代に、私たちはどう生きたらよいのでしょう。そして、どのように働けばよいのでしょうか。

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 まず、多くの人は継続的に財産を築き、守ることはできないと覚悟した方がいいと思います。経済的な成功者は一握りとなり、大多数は平均以下の収入で生きることとなるはずです。成功者のほとんどは、新薬開発や新テクノロジー開発などに携わる人々です。
 そしてこれからは、「優れた価値を生み出せる人がモテる時代」になります。近代以来長らく、他の人よりも優れた物を多く消費する人がモテはやされてきましたが、そのトレンドがついに変わります。消費能力より生産能力が重視されるようになるのです。もちろん、何でも生産すればよいということではありません。何か人々の悩みを解決できるものを生み出せる力が問われるのです。つまり、広い意味での「課題解決能力」がものをいう世の中になります。
 これは、ようやく「良い人がモテる時代」が来るということでもあります。課題解決能力には大きく2種類あって、1つは優れた物やサービスを自らの手で創り出す力です。もう1つは、課題解決のためにチームを作る力です。周囲を明るくできる力や、多くの人に好かれる力は、それだけで資産となるのです。また、お金を持っているとか学歴が高いことではなく、困難を一緒に乗り越えていけること、互いに励まし合いながら歩んでいけることが、結婚相手や仕事仲間として何より大切だと考えられるようになるでしょう。
 格好のよさ、見かけのよさは20代をピークに減衰していきますが、こうした課題解決能力は逆で、本人次第では継続的に高めていくことができます。これからは、課題解決能力を高める競争が起こっていくのではないでしょうか。

一見自分で決めているようでいて、実は「群れのルール」に従っていることがよくあります

急に未来が明るい世の中に見えてきました。
では、酒井さんのおっしゃる「課題解決能力」を磨くにはどうしたらよいのでしょうか。

 もう1つ、脱中心化にとって重要なキーワードがあります。「群れのルール」というものです。
 イワシやムクドリ、イナゴなどの群れは、群れそのものが知能を持っているかのような複雑で統一された動きをします。この背景には、実は、「他の個体との衝突を避ける」「近隣の個体群が向かう方向の平均、つまり中央へと向かう」「近隣の個体群と同じ速さを保つ」という3つの簡単なルールのもとで各個体が行動しているということがわかっています。
 人間もまた、群れのルールに従っていることがよくあります。例えば、通勤ラッシュなどで多くの人が同じ方向へ向かっているとき、皆は群れのルールに従っています。それだけではありません。より偏差値の高い大学に入ろうとすること、人気ランキング上位の会社に入ろうとすること、会社の中で出世を目指すこと、流行を追いかけること、ブランド品を買うこと、そういったことはすべて自分で決断を下しているのではなく、群れのルールに従って動いているだけだと考えることが可能です。
 これからの時代は、群れの中心に向かうこと、すなわち常識に従って生きることは非常に危険になっていきます。ですから、まずは群れのルールから外れる勇気を持つことが重要です。アメリカのリーダーシップ教育では、群れのルールから逸脱して、本当に自分で考え決断する力を徹底的に磨いていきます。私たちも、同じことをすべきです。
 これは決して、今すぐ大企業を辞めなさいといったメッセージではありません。ただ漫然と群れに属するのではなく、自分が群れの中にいることを自覚して、必要時には群れのルールに従わない選択を取るべきだということです。群れのルールから外れるには勇気がいりますが、群れに従っていれば安全ということは決してありません。たとえば、人がどうしても長期的な利益を取ることができず、目の前の誘惑に負けてしまうことを意味する「双曲割引」という行動経済学の概念があります。群れは必ず双曲割引の虜になります。短期的な利益ばかりを追いかけ続けて、全員で崖から落ちてしまう可能性も大きいのです。沈み行くタイタニック号の中で、スイートルームをめぐる争いをしてもしかたがないと思いませんか?

自分は何に怒りを感じるのか、見定めることが大切です

具体的に、群れのルールからの外れ方を教えてください。

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 先ほどから課題解決能力のことをお話ししていますが、その際、特に重要なのは課題設定です。いくら能力が高くても、取り組む課題が間違っていてはどうしようもありません。何に取り組むか、しっかりと考えなくてはいけません。
 自分が取り組むべき課題を見つけるためには、何より自らの「基本的情動」に敏感であることが求められます。基本的情動とは、好き嫌いや喜怒哀楽など、物事に対する最初の感情的反応のこと。なかでも特に重要なのは、何に「怒り」を感じるのかをきちんと見定めることです。
 その対象が、本気になって取り組める「自分の課題」となるでしょう。ただし、このときの「怒り」の主題は「自分が不当に扱われている」といった「自分のこと」ではなく、「他者が不当に扱われている」といった「他者のこと」であるべきです。この点は注意してください。
 またこのとき、「二次的情動」に振り回されてはいけません。二次的情動とは、基本的情動に対して二次的に反応する情動のこと。大人なのだから怒ってはいけないとか、そこで喜ぶのは恥ずかしいとか、そういった感情はすべて二次的情動です。二次的情動は、いわば群れのルールです。社会生活を送る上では必要ですが、本当に自分が関わるべき課題を決める際には邪魔になるだけです。つまり、常識や建前を横において、子どものように純粋に、何に怒りを感じるかで「自分の課題」を決めればよいのです。
 ただし、そのためには多くの勉強が必要ですし、時にはさまざまなところに足を運ぶことも大切です。問題に触れてみないことには、情動は起きませんから。以前、中原淳先生(東京大学)と対談したときに先生がおっしゃっていた「カラフルな出会いや体験」が、自分の課題を発見する際には欠かせないと思っています。良いも悪いも、酸いも甘いも知ってはじめて、自分の進む道を決められるのです。

誰かに期待するのではなく、一人ひとりが自分で考えて行動するときです

最後に、改めて皆さんにこれからを生きる上でのメッセージをいただけたらと思います。

 アフリカゾウは、動物園では20年足らずしか生きませんが、アフリカの野生個体には60年近く生きるものもいるそうです。動物園では決まった時間に食事が与えられ、獣医さんもいて、快適な環境が与えられているのですから、これは不思議なことです。
 実は、世界中の神話や物語には、ある共通した構造があります。主人公が途方もない困難に出合い、それを乗り越えることで成長するという「英雄物語」ばかりが好まれるということです。つまり、動物も人間も、成長を重ねてよく生きるには、危機や困難が必要だということです。
 これからは大変な変化と危機の時代ですが、それはある面から見れば、一人ひとりが主人公として、活き活きと生きることのできる絶好のチャンスでもあります。それに、このくらいの危機は、過去38億年の生命の歴史の上ではたいしたことではありません。私たちは皆、先祖たちが恐ろしい困難を生き抜いてつなげてきた遺伝子というバトンを持っているのですから、多少の困難に臆することはないのです。
 人は「群れのルール」に反することのできる唯一の動物です。そろそろ権力や組織に頼るのではなく、誰かに期待するのでもなく、一人ひとりが自分で考えて行動するときではないでしょうか。その際に最も重要な財産は、「誰が仲間であるか」や「誰に仲間だと思われているか」だと思います。危機を存分に楽しみ、常に状況を受け入れ、仲間を作りながら、自分なりに価値を生み出す人生は、きっと刺激的な面白いものになるでしょう。

インタビュー:岩下広武

酒井穣氏プロフィール
株式会社BOLBOP 代表取締役CEO
フリービット株式会社 非常勤取締役(人材戦略研究所・所長)、認定特定非営利活動法人NPOカタリバ 理事、事業構想大学院大学・客員教授(人的資源管理論)も務める。1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TiasNimbas ビジネス・スクール経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発、台湾向け精密機械の輸出営業などに従事。その後、オランダの精密機械メーカーにエンジニアとして転職し、2000年にオランダに移住する。特許訴訟を機に知的財産権部に異動。2006年末に各種ウェブ・アプリケーションを開発するベンチャー企業を創業し、最高財務責任者(CFO)として活動を開始。人事制度の構築、採用、人材育成なども担当。2008年には、母校TiasNimbasビジネス・スクールのMBAプログラムにて臨時講義を受け持つ。2009年4月、8年8カ月間暮らしたオランダから帰国。2013年、株式会社 BOLBOP を設立し代表取締役CEOに就任。

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