部長に求められる役割を考える
〜経営人材として活躍できるために部長職で求められるチャレンジ〜

経営人材への入り口としての部長

以上、述べてきたような「部長昇格に伴って直面するチャレンジ」から、私たちは部長職の役割には二つの側面があると考えます。一つは「組織管理の側面」。もう一つは「事業経営の側面」です。「組織管理の側面」は担当組織の業績責任の達成に向けて、方針、計画を徹底し、成員を実行に向かわせるという組織を統制する役割です。「事業経営の側面」とは所属事業の将来を見据え、中長期的な戦略の実現に向けて関係者を巻き込み、現状を変えていくという組織を変革する役割をさします。


【部長の2つの役割】

部長の2つの役割

ミドル・マネジャーがどちらかというと当面の業績達成に向けた実行管理を担うのに対し、シニア・マネジャーである部長は当面の業績達成に加えて、事業の中長期課題の実現とそのための現状変革の責任も同時に担うことになるわけです。そして、部長のステージでのチャレンジの多くは、「事業経営の側面」に関するものです。この側面の役割は部長職になって初めて現実的なものとして登場し、マネジャーとしての意識と視点をそれまでとは異なるレベルへ引き上げることを要求します。このステージで、「事業経営の側面」の役割行動を開発することが、次期経営人材としての活躍の道を開きます。反対に「組織管理の側面」のみにとどまってしまうと、いわゆる“大課長”的な状態に陥ってしまうことになります。この点で部長職は、次期経営人材としての能力を開発できるかどうかの分岐点となるステージであると考えることができるのです。

部長職が、今後の経営人材を輩出する上で重要なステージであると考えられるにも関わらず、一般に部長に求められる役割行動や能力は必ずしも明確になっていません。関連する研究や書籍も、ミドル(課長層)の役割行動や能力に比べてわが国ではきわめて少ないのが実態です。また、任用時の能力開発支援についても同様のことがいえます。弊社が2009年に実施した、従業員1000名以上の企業160社への調査では、部長任用後に役割・能力開発研修を実施している企業は56.4%であり、課長の任用後研修の実施率83.3%に比べて大きな差があります(「昇進・昇格実態調査2009」より)。

では、部長層に求められる役割行動はどのように表現できるのでしょうか。特に、次期経営人材として活躍できるために重要な「事業経営の側面」はどのような経験から開発されるのでしょうか。次項では、私たちが現時点で考えている3つの活動について紹介します。

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