部長に求められる役割を考える
〜経営人材として活躍できるために部長職で求められるチャレンジ〜

部長昇格時に直面するチャレンジ

私たちが行った日本の代表的な製造業6社計23名の執行役員・事業部長(グローバルレベルのマネジメント経験者9名を含む)へのインタビュー調査、ならびにその後の製造・非製造業7社への定量調査(64名の現役部長と17名の現役事業部長)から、経営人材として活躍するリーダーの多くが部長職昇格時にマネジャーとしての大きな変化に直面したと感じていることが分かっています。
《参照》研究レポート「Transition(マネジメント階層への移行)」にともなう変化と成長(第2回)

調査結果をもとに、部長昇格に伴って直面する変化を要約すると次の3点にまとめることができます。


1.管轄組織の規模が広がり、責任のレベルが格段に上がる

部長昇格にともなって管轄することになった組織規模は11〜50名が44%と最も多く、次いで51〜100名(27%)、101〜300名(13%)と続きます。課長昇格時では60%が10名以下であることを踏まえると、格段に規模の大きな組織を管轄する立場となることが分かります。多くの場合、組織内に複数の異なる職能組織(例えば営業とSEなど)が存在します。同時に、担当組織が担う業績責任が全社、あるいは事業部に及ぼす影響も大きくなります。それはときに担当組織の業績が事業計画を左右するレベルのものです。また、特定の機能組織の最高責任者として、組織が担う機能の中長期戦略に関与することとなり、対外的な説明責任も発生します。

調査では、昇格時に直面し、かつ対処が困難だったこととして、「利益・コストなど業績達成に対する上位者からのプレッシャーが急に強まった」「現場の最高責任者として対外的な矢面に立つことが増えた」といった項目が上位にあがっています。


2.事業経営の当事者として意思決定しなければならない

部長は、管轄する機能組織の最終的な意思決定者となります。課長時代と大きく異なるのは、判断にあたって上司に相談できる機会というのはきわめて少なくなること、そして部下から判断を求められたときにその場で自ら判断しなければならない場面が増えるということです。さらに、意思決定の結果がもたらす影響は広範囲に及ぶため、考慮すべき変数はきわめて複雑、かつ不確実性の高いものになります。多くの場合、意思決定すべき事柄には利害の対立やトレードオフ(二律背反)が含まれています。

「上司に相談することなく、自分で意思決定しなければならないことが増えた」「事業戦略や経営戦略を理解・考慮しなければ、判断の難しい事柄が増えた」「スタッフとライン、経営と現場、自社と顧客など、利害が対立する場面やトレードオフの状況での意思決定が増えた」などは、昇格時に多くの部長が「困難だった」としているチャレンジです。


3.個人ではなく「組織」を動かさなければならない

課長時代には、現場の一人ひとりと直接コミュニケーションをとって動かしていくことができましたが、部長になるとそれは困難になります。部下である課長層を通じて部という組織全体を動かしていかなければなりません。この「組織を動かす」というのも部長のステージで直面するチャレンジです。ここでも部署間の利害対立や資源の制約が内在します。また、短期的な業績達成だけでなく、管轄する機能組織に求められる中長期の課題も推進しなければなりません。現場に無理を承知で要望しなければならない場面も増えてきます。

「たとえ抵抗があっても、必要なことは進めていく強さが求められるようになった」「自組織の将来を考えて、課長層や核となる従業員の再配置を行う必要に迫られた」「社内の他部門と折衝し、各部門を動かしたり、自ら資源調達をしなければならないことが増えた」などは調査で上位にあがったチャレンジです。ここでは、ある意味現場の目線から離れることが求められます。「現場とともに喜んだり悩んだりすることからは一歩引いて、3年先、5年先を見て判断していかなければならない」というのは、インタビューからも多く聞かれたコメントです。また、自組織だけでなく他部門を動かすのも部長の直面するチャレンジであることが分かります。

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