マネジャー候補となる現場の中核層に焦点を 将来を切り拓く中堅社員の育て方・人材育成方法
これからの中堅社員育成のポイント(2)
3.意味づけと機会づくりのマネジメントを強化する
3つ目のポイントは、意味づけと機会づくりのマネジメントの強化です。ここでは、中堅社員の上司であるミドルマネジメントが大きな影響力をもちます。ここまで述べてきたようなビジネスパーソンとしての役割転換モデルやキャリア形成プロセスについて、上司も理解しておく必要があります。
意味づけと機会づくりのマネジメントでは、上司は大きく3つのことを意識的に行う必要があります。1つは中堅社員に「期待される役割行動とキャリア形成との繋がりを示す」こと、つぎに「可能性を共に考える」こと、最後に「可能性に繋がる機会を作り出す」ことです。
「期待される役割行動とキャリア形成との繋がりを示す」とは、ここまで述べてきたようなビジネスパーソンとしての成長段階とキャリア形成の全体像から、中堅社員のステージをしっかりと乗り越えることの重要性とメリットを理解させることであり、その文脈から彼/彼女が現在やっている仕事を意味づけることです。
「可能性を共に考える」とは、彼/彼女がこれまでの経験からどのような能力を蓄積できているのかを自覚化させ、それらの能力が転用あるいは応用できる可能性のある仕事やポジションのアイディアを広げる支援をすることです。ここでは、蓄積されている能力を仕事固有のレベルではなく汎用的なレベルで捉えることが大切になってきます。
例えば法人営業であれば、「経営を見る目」「多様な利害関係を調整するスキル」「WIN-WINの関係を構築する交渉スキル」などが蓄積されるでしょうし、「不確実性への耐性」や「ストレスやスランプへの対処の仕方」なども身につくはずです。そしてこれらは、法人営業に限らずどのようなビジネスでも有効なキャリア上の資産になります。
可能性を共に考えるなかでの上司の役割は、中堅社員が捉えている視界よりもさらに上の視界から彼/彼女の“持ち物”を相対化することです。そこには、中堅社員として蓄積しているべきなのに、できていない能力のフィードバックも含まれます。
最後の「可能性に繋がる機会を作り出す」とは、中堅社員(主力)のステージで乗り越えるべきことをしっかりと乗り越え、経験の幅を広げ、キャリアの将来展望を広げることに繋がるようなチャレンジの機会を仕事上で作り出すことです。
ビジネスパーソンの「成長を促す経験」に関する研究からは、成長する経験の70%は現実の仕事のなかでのチャレンジであり、20%は周囲の人々との相互作用であることがわかっています。研修に代表される公式のトレーニングは、成長を促す経験のわずか10%にしかすぎません。
上司は、一人ひとりの状況を見ながら、どのような仕事や役割を割り当てるか、誰と仕事をさせるか(あるいは、誰と接触せざるを得ないような仕事をさせるか)に知恵を絞る必要があります。
●最後に
今日の中堅社員の特徴とそれを踏まえた育成施策のポイントとなる考え方を述べてきました。これらは、私たちが企業の研修などを通じてここ数年感じてきている、30代中堅社員の変化に関する議論からのひとつの見解です。
中堅社員というステージで経験しておくべきこととその意義を当事者である中堅社員自身に気付いてもらい、現実の仕事のなかでのチャレンジに一歩踏み出してもらうことがその要諦になります。
そこでの上司であるミドルマネジメントの役割は重要ですが、その手腕に頼るだけでは限界があります。チャレンジングな仕事の割り当てにはシニアマネジメント層の巻き込みも必要になるでしょうし、組織のなかでの成長のロードマップについては人事も現場も共通の目線をもつ必要があるでしょう。
どのような経験がどのような能力開発に繋がるのかといったことを調査するのも有効かもしれません。キャリア研修の内容を含めた教育体系やCDP、評価や面談のしくみなどのチューニングも必要かもしれません。今後は、こうしたトータルな育成のしくみのデザインについて研究を進めていきたいと考えています。