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2014年ASTD国際大会レポートより 世界の人材開発の潮流を読み解く

公開日:2014/08/04
更新日:2017/11/08

成長を促す人間関係とマインドセット

「70:20:10フレームワーク」で20%を占める「他者との社会的なかかわり」、つまりソーシャルな学習機会をどのように増やしていくかを扱ったセッションもいくつか見られました。「研究に基づいたソーシャル学習戦略(With Help From Our Friends: Research-Based Social Learning Strategies)」というセッションはその代表例で、学習と成長を促す人間関係がどのような条件と過程のもとに形成されるかというテーマでの研究結果が紹介されました。

米国企業の多くがメンタリング制度を導入していますが、メンターとメンティ間でどのようにして育成的な人間関係を形成するかは関心のある問題のようです。今大会ではPersonal learning network(個人的な学習人脈)という言葉もしばしば登場しました。

組織のなかに、成長を促す人間関係を構築することは個人の知識・スキルの開発だけでなく人間的な成長にとっても重要なものであるとの認識が広く普及しつつあります。

リーダーシップの著名な研究者であるJack Zenger氏の今年のセッションはリーダーシップとフィードバックに関するものでした。2万人以上に上るリーダー対象の調査によると、効果的なフィードバックは、「リーダーシップの効果性」「従業員のエンゲージメント」「リテンション(定着)」のすべてに有効な影響を及ぼし、特に自らフィードバックを求めるリーダーほど良い影響を及ぼしているとのことです。

セッションでは、いかにして組織のなかでフィードバックの機会を増やせるか、そして効果的なフィードバックはどうあるべきかについていくつかの知見が紹介されましたが、特に、「ポジティブなフィードバックは、相手の『能力』ではなく『努力』に対して行え」という点は興味深いものでした。

これは昨今話題となっている、スタンフォード大学のCarol S. Dweck教授らの研究結果からの知見です。同教授の著書“Mindset”(邦題『「やればできる!」の研究』草思社)では、才能や能力をほめる行為は、相手の「Fixed Mindset(=能力は固定化されているという見方)」を強化する危険なほめ方であり、成長に必要な「Growth Mindset(=能力は伸ばせるという見方)」を強化するには、努力やがんばりに対するポジティブなフィードバックをすべきであることが紹介されています。

Growth Mindsetは変化への対応においても重要な考え方として他のセッションでも取り上げられていました。Fixed Mindsetが、変化に対して「失敗したくない」「悪い評価を得たくない」といった反応を引き起こし、抵抗の要因となるのに対して、Growth Mindsetは、「失敗してもいい」「学びたい」という推進力を提供します。すなわち、変化への対応力を高めるには人々のGrowth Mindsetを開発する必要があるというものです。

■持続させるデザイン
今大会では学習の持続性を高めるためのデザインに関するセッションも多かったように感じます。「Habit Design(習慣のデザイン)で持続的な行動変容を設計する(Designing Sustainable Behavior-Change With Habit Design)」はその代表的なものです。

ここでは、行動の変化を持続させるには、モチベーションや意志の力ではなく、日々の習慣を変えることが有効であるとされていました。習慣とは無意識に繰り返してしまう行動を指しますが、そのメカニズムは、「Cue, Routine, Reward(合図、ルーチン=所定の動作、報酬)」という3つの要素によって構成される刺激−反応のサイクルであり、これらの要素を再構成することで望ましい行動様式を定着させようというものです。

Habit Designは「小さな成功の科学」と呼ばれ、その起源は行動分析学の創始者スキナー(B.F. Skinner, 1904〜1990)のオペラント条件付けモデルにさかのぼるようですが、スタンフォード大学を中心とした行動科学、神経科学に関する過去20年間にわたる臨床研究から行動改善手法として体系化されたとのことです(関連書籍:『習慣の力 The Power of Habit』講談社)。

継続的な行動変容のポイントとしては、定量的なゴールをセットしないこと、ルーチンは小さく簡単にできるものであること、時間を決めないことなどのいくつかが科学的な実験結果とともに提示されました。

いずれも「目標を決めて、その達成に向けたアクションをステップ・バイ・ステップで計画的に実行する」という従来の学習デザインの有効性に疑問を投げかけるもので、示唆に富む内容でした。

学習をより短くしようとする動きも見られました。「キンバリークラーク社におけるグローバル・ダイバーシティとインクルージョンをイノベーションへ変える試み(Transforming Global Diversity and Inclusion Into Innovation at Kimberly-Clark」というセッションでは、同社が、従業員のエンゲージメントとインクルージョン(社会的一体性)を促進する取り組みとして、小さな学習コンテンツ(Small chunk)をつくり、従業員が短い時間で継続的にそれらの学習機会に触れられるような環境づくりをした事例が紹介されました。

5分程度の動画やPodcast、スクライブビデオ(手書きのイラスト動画)などで作成された十数個の学習コンテンツがストーリーをもって構成されており、少しずつ、長期間にわたって学習が行われるデザインとなっています。また、トランス・メディア・ストーリーテリングという手法(ブログ、動画、ツイッター、ポスターなどバーチャル、リアルを含む複数のプラットフォームでストーリーを紹介する手法)がとられ、学習の継続と拡散が図られているものでした。

Eラーニングの領域でも、人の集中力は2分程度しかもたないといった研究から学習コンテンツを短くしようとする動きがすでに始まっており、日常のなかで継続できる小さな学習機会を長期間にわたって設計するという考え方は今後広がってくるのではないかと推測します。

また、学習時間や学習メディアを含めて、学習者主体の環境設計になってきているのも昨今の特徴といえます。全員一律の学習環境ではなく、各自が必要や関心、好みに応じて、コンテンツやメディアを選択できる環境のほうが、個人の学習や人々のつながりを拡張しやすいということでしょう。

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