2014年ASTD国際大会レポートより 世界の人材開発の潮流を読み解く
見直される「学習の機会」
「学習の機会」をイベントとして捉えるのではなく、継続的なプロセスとして捉えようとする傾向が今大会ではさらに強くなった印象です。
学習機会を考えるガイドラインとして、「70:20:10フレームワーク」が多くのセッションで言及、引用され、これまで以上に定着してきています。人の学習機会に関する研究から導きだされたこの枠組みは、
・学習の70%は、「実際の仕事経験(Experiential learning)」によって起こる
・学習の20%は、「他者との社会的なかかわり(Social learning)」によって起こる
・学習の10%は、「公的な学習機会(Formal learning)」によって起こる
というもので、クラスルームでの学習=10%のみの「公的な学習機会」を中心に考えるのではなく、「実際の仕事経験」と「他者との社会的なかかわり」を含むトータルな枠組みから統合的に学習をデザインしていかなければならないという考え方は新たなスタンダードとなりつつあります。
例えば、「70:20:10フレームワークの効果的な実施(Effective Implementation of the 70:20:10 Framework)」というセッションでは、この枠組みを活用して日常のなかにどのように学習機会を増やしていくかが提案されていました。
知識労働の比率が高まるなかで重要なのは文脈を伴った学習であり、この枠組みを活用した学習デザインの導入にあたってL&Dに新たに求められる能力についての言及がありました。
また、学習デザインの専門家として著名なMarc J. Rosenberg氏は、「最良のトレーニングはトレーニングをしないこと(The Best Training Is No Training)」というセッションで、同様のメッセージを発しました。
Rosenberg氏は、今日の学習について、「Formal, Classroom, Learning(公式・教室・学習)」というパラダイムから、「Informal, Workplace, Doing(非公式・職場・行為)」のパラダイムにシフトしており、学習をより仕事に近づけることの必要性を強調しました。
これらのセッションに共通して流れているのは、「学習は仕事のなかにある」という考え方です。

研修の効果測定で最も一般的なカークパトリック・モデルについても、新しいモデルが紹介されていました。「The New world Kirkpatrick model」と呼ばれる新しいモデルは、従来の静的な4段階モデルではなく、動的なプロセスモデルに変わっており、次の評価指標が追加されています。
レベル1(反応):「参加者の満足度」+「エンゲージメント(心からの関与)」「参加者にとっての妥当性」
レベル2(学習):「知識・スキル・態度の習得度」+「自信」「コミットメント」
レベル3(行動):参加者の「行動変容」+「行動を促進するシステム(観察・調整・勇気付け)」
レベル4(成果):「期待成果」+「先行指標」
カークパトリック・モデルの変貌も、測定という手法を用いた日常の仕事のなかでの学習機会の促進を意識したものと見ることができます。