動かない部下を動かす技術 マネジャーの理想と現実 〜現実を動かすヒント〜
3つの一貫性
部下からの信頼を得るための具体的な取り組みの基本原則は、マネジャー自身の「一貫性」です。ここでは、私たちが特に重要だと考える3つの一貫性の原則をご紹介します。
第1の原則は、「日常場面での一貫性」です。
この原則を言い換えると、日常で部下への興味や関心を一貫して持ち続けることです。例えば「部下の健康状態を気にして声をかける」「部下が何を思って仕事をしているのかを気にする」などが挙げられます。
この際に、部下の仕事、仕事の進め方、仕事の感じ方、職場での人間関係などについて、興味を持って率直にコミュニケーションを繰り返すことが重要になります。なぜなら、日常のコミュニケーションの繰り返しによって、マネジャーが大切にしている考えが部下に伝わるだけでなく、マネジャーへの「親しみ」が生まれるからです。そして、この「親しみ」は信頼を培う第一歩になります。
第2の原則は、「重要場面での一貫性」です。
この重要場面とは、例えば「評価フィードバック」「目標設定」「メンバーの仕事の成功あるいは失敗」など、仕事上において部下の関心や意識が集中するような場面を指します。これらの場面におけるマネジャーの発言・判断・行動は、部下の記憶に強く刻み込まれます。重要場面においても、マネジャーが一貫した判断をしたり、行動をとったりすることが、部下からの信頼につながります。
第3の原則は、「まさかの場面での一貫性」です。
この原則は、“その局面だったら、判断基準を曲げても仕方がない”と誰もが思うところで曲げないことの重要性をあらわしています。

以前に、私たちがある企業のお手伝いをしている中で出会った若手社員が、次のようなエピソードを話してくれました。
「私たちの部署では、お客様と長期的な信頼関係をつくり継続的なお取引を頂くことを重視しています。あるとき、お客様に対して、私は取り返しのつかないミスをしてしまい、大変な迷惑をかけてしまいました。下手をしたら取引停止にもなりかねない状況でした。お客様からは部長宛に担当を替えてほしいと、お叱りがあったそうです。その後、直属の上司であるAさんと一緒に先方に謝罪にうかがいました。私はことの重大さと申し訳なさでとても動揺していましたが、Aさんは謝罪と説明を踏まえて、“もう一度こいつにチャンスをください”と言ってくれたのです。正直、驚きました。」
まさかの場面での一貫性は、「驚き・奇跡」を生みます。そして「驚き・奇跡」は一瞬で信頼を確立します。このことから言えば、信頼づくりは時間がかかるとは限りません。