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企業の組織風土と業績の関連をデータで探る |
主任研究員:内藤 淳
今回は、小社とリクルートで共同開発・提供しているサーベイの152社のデータを用いて行った分析結果をご紹介します。これは、組織風土の一般的なタイプ分類を行い、そのタイプと企業業績の関係を実証的に確認したものです。業績をあげている組織の風土・文化を客観的に語るひとつの試みとして意義をもつものと考えています。
組織文化・風土をとらえる2つのアプローチと課題
企業の組織文化や組織風土は、1980年代以降、企業の経営者やコンサルタント、研究者の大きな関心の的であり、その状況は今も変わっていません。組織文化や組織風土に対するアプローチとしては、2つの大きな方向性があります。企業業績との関係や組織の変革に主な関心を向けるもの(業績志向アプローチ)と、企業文化の普遍的な分類や測定に焦点をあてるもの(分類的アプローチ)です。
1つ目の業績志向アプローチは、「優良な企業文化が好業績を生む」という仮説に基づくもので、「好業績を維持するには、環境変化に合わせて企業文化を適切にマネジメントしていくべき」という組織開発的な考えにつながります。財務的な好業績を長期に渡ってあげ続けている企業を調べてみたら、確固たる企業理念に支えられた「強い企業文化」が会社の隅々に至るまで浸透していることがわかったというものです。このアプローチは、実際の企業の事例をベースにしているため説得力があります。一方で、企業文化の内容については個々の企業ごとにさまざまであり、企業文化・風土をとらえるフレームの提示にまではなかなか至りません。結局、「好業績企業には強い文化があった」という指摘にとどまりがちな傾向があります(図表1)。
図表1 企業の組織文化・風土への業績志向アプローチ
| 書籍(米国における出版年) | 著 者 | 概 要 |
|---|---|---|
| 『エクセレント・カンパニー』(1982年) | ピーターズ,ウォーターマン | 過去20年に渡り突出した地位を保持してきた6業界43社を調べて抽出した8つの共通特性の背後には、各企業独自の思考・行動様式というべき企業文化が存在していた。 |
| 『シンボリック・マネジャー』(1982年) (原題はCorporate Culture) |
ディール,ケネディ | 80社を対象に企業の持続的成功と企業理念との関係について調査を行った。「明確に表現された意味的信念」を有していた18社はすべて、一貫して目覚ましい業績をあげていた。 |
| 『企業文化が好業績を生む』(1992年) | コッター,ヘスケット | 企業文化の強さと性格に関する大規模な調査を実施し、企業文化と長期的業績の関連を分析した。 |
| 『ビジョナリー・カンパニー』(1994年) | コリンズ,ポラス | 業界で卓越した企業18社を調べた結果、「組織の土台となっている基本的方針である基本理念を維持し、進歩を促す」のが共通の法則であることが明らかになった。 |
一方、2つ目の分類的アプローチは、企業の組織文化や組織風土の全体的な性格を普遍的な軸や尺度、タイプ分類を用いて把握しようとするものです(図表2)。
図表2 企業の組織文化・風土への分類的アプローチ
| 分類者(発表年) | 概 要 |
|---|---|
| ハンディ(1978年) | 「目標の達成と組織の存続」「限定と無限定」の2軸に基づく4分類 |
| ディール=ケネディ(1982年) | 「リスクの大小」「成果実現の速度」の2軸に基づく4分類 |
| ホステッド(1984年) | 社会に通底する基本的価値である「権力格差」「不確実性の回避」「個人主義化」「男性性」の4軸に基づく分類 |
これは、組織文化・風土を個別企業によらない共通の枠組みを用いてとらえることができるという点に大きな意義があります。しかし、組織文化・風土のタイプが業績にどのように結びつくかという関係については明確には示されないことが多いため、分類あるいは測定された結果の有用性という点では、物足りなさを感じさせる面があります。
つまり、これまでの組織文化・風土に対するアプローチは、業績との関連を示しつつ、かつ汎用的であるもの、つまり「どの企業に対しても実質的な意義のあるもの」が少なかったのではないかと考えられます。
152社のデータから抽出された組織風土の4タイプ
小社は、業績志向アプローチと分類的アプローチをつなぐひとつの試みとして、組織風土に関する152社のサーベイ結果に基づく分析を行いました。このサーベイは、2005年の3月〜10月にかけて実施されたもので、各企業の従業員に「情熱的な」「石橋をたたいて渡る」「論理的な」など160のキーワード(形容詞やフレーズ)について、その特徴が自社にあてはまるかどうかをチェックしてもらう形式のものです。組織風土は、160のキーワードをもとにした12尺度によって特徴づけられ、「創造・開拓←→完遂・探求」、「協調・親和←→競争・自立」をそれぞれ縦軸・横軸にしたレーダーチャートによって表されます。
この12尺度の得点をもとに、企業の組織文化・風土をタイプ分けし導かれたのが、次の「パイオニア風土」「チャレンジャー風土」「オフィサー風土」「コーディネーター風土」の4つの典型的な組織風土タイプです(図表3)。
図表3 企業の組織風土の4タイプ
| パイオニア風土: 開放的でコミュニケーションが活発であり、意志と理想をもってポジティブに変化を生み出していく風土である。情熱的に新たな市場を開拓していくイメージがある。 |
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【特徴的なワード】 熱い 情熱的な 喜びを分かち合う フランクな 思い切りのよい モチベーションの高い スピード感あふれる バイタリティにあふれた ポジティブな エネルギッシュな |
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| チャレンジャー風土: 厳しい競争環境のなかで互いに切磋琢磨しながら、環境の変化に合わせて迅速にかつ大胆に決断していく風土である。競争に挑み、より高い目標をハングリーに追い求めていくイメージがある。 |
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【特徴的なワード】 熱い 変化の激しい スピード感あふれる 情熱的な 決断の速い 攻める エネルギッシュな がむしゃらな 刺激しあう ハードな |
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| オフィサー風土: まじめで誠実さをもち、物事の筋道を大切にしながら堅実に課題に取り組む風土である。社会のルールに従いつつ、余裕をもって正攻法で事業を進めていく守りの強さのイメージがある。 |
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【特徴的なワード】 石橋をたたいて渡る 用意周到な 勤勉な 堅実な 誠実な 真面目な 物の筋道を重視する 論理的な 秩序だった 懐が深い |
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| コーディネーター風土: 温かくアットホームな雰囲気のなかで、現状を安定的に維持していこうとする風土である。お互いを尊重し、コミュニケーションを親密にとりながら仕事を進めていく家族的なイメージがある。 |
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【特徴的なワード】 寛容な のんびりとした 温かい やさしい フランクな あいまいさを残す 居心地のいい 和気あいあいとした なごやかな 保守的な |
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組織風土の4タイプと業績(成長性、収益性)との関係
企業業績をとらえる考え方や指標はさまざまですが、今回は最も一般的な指標である売上と利益に注目します。上記4タイプの典型的な組織風土をもつ上場企業32社を対象に、有価証券報告書を用いて、過去5年の売上高の対前年伸び率(成長性)と売上高総利益率(収益性)についてタイプごとに比較を行ったところ、以下の傾向が確認されました(図表4、図表5)。
図表4 組織風土の4タイプと業績の関係
| 組織風土タイプ | 成長性 | 収益性 | 特 徴 |
|---|---|---|---|
| パイオニア風土 | ○ | ○ | 市場におけるマーケットリーダー的な企業が多く、成長性、収益性とも安定して高い水準を維持していた。収益性については4タイプのなかで最も高い。 |
| チャレンジャー風土 | ◎ | ○〜△ | 市場のシェアを積極的に伸ばしていこうとする攻めの姿勢の比較的若い企業が多く、成長性は4タイプのなかで最高である一方、収益性については年度ごとの変動が大きく、平均するとパイオニア風土と比べ、やや低い水準にある(収益性の変動は、必要に応じて大きな投資を行うことが一因であると推測される)。 |
| オフィサー風土 | △ | △ | 歴史のある、業界におけるトップ企業が多く、パイオニア風土と比べると率はやや低めなものの、安定した成長性、収益性を示している。 |
| コーディネーター風土 | ▲ | ▲ | 歴史のある、業界における2番手、3番手の企業が多く、成長性、収益性ともに他のタイプと比べて低い水準にある。 |
図表5 収益性と成長性からみた模式

「熱い」「情熱的な」「喜びを分かち合う」といった特徴をもつパイオニア風土は、成長性、収益性とも高い水準となっています。「熱い」「変化の激しい」「スピード感あふれる」といった特徴をもつチャレンジャー風土は、成長性が特に高いのが特徴です。「石橋をたたいて渡る」「用意周到な」「勤勉な」といった特徴をもつオフィサー風土は、パイオニア風土ほどではないですが、安定した成長性・収益性を維持しています。「寛容な」「のんびりとした」「温かい」といった特徴をもつコーディネーター風土は、他に比べると成長性・収益性ともに低めです。
この結果は、組織風土のタイプが成長性、収益性という企業業績と関係していることを示しています。汎用的なフレームをもつサーベイを用いて企業風土と業績の関係を明らかにしたという点で、業績志向アプローチと分類的アプローチをつないだ新しい試みといえます。
サーベイで自社の組織風土をつかむことの有効性
今回の分析では、サーベイを用いて組織風土を4つのタイプに分類し、タイプと企業業績との間に関連があることが示唆されました。しかし結果の解釈にあたっては、以下のような注意も必要です。
- 組織文化・風土は、表層的なレベルから潜在的なレベルまで階層をなしているという指摘があるように、インタビューなど定性的な手法によってしかとらえられない側面があることも確かです。サーベイで把握できるのは組織文化・風土の一部分であることを十分に意識しておく必要があります。
- 組織文化・風土と企業業績のどちらが原因でどちらが結果なのかについては、今回のデータからは断言できません。
- 今回、業績との関係性分析に用いたデータは32社と数が少ないため、成長性、収益性については業種による偏りの影響が含まれている可能性があります。
- 4タイプで成長性、収益性に傾向の違いが確認されましたが、このことと組織風土の優劣を単純に結びつけるのは適切ではありません。組織風土の優劣は、事業戦略との整合性によって語られるべきでしょう。
今後はデータの蓄積をさらに重ねて、上のような課題について引き続き検証を重ねていく予定です。
多くの企業は事業発展に向け、自社独自の戦略・方向性を構想し、日々現場はその実行に取り組んでいます。戦略推進の担い手である現場は、そもそもどんな特徴を有しているのか、どんな“常識”に基づいて行動しているのか・・・・・・。目には見えませんが、現場の行動や判断を、いい意味でも悪い意味でも方向づけているものが組織文化・風土だといえます。
組織文化・風土とは、中にいる人間には空気のような存在で、自然かつ当然のものですが、外から見るとそれぞれ独特で個性的な面をいくつももっているものです。一度、客観的な視点から自社の組織文化・風土を眺めてみることで、事業の成長に向けた次のステップへのヒントが見えてくるかもしれません。




