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2030年の「働く」を考える

オピニオン#19 吉田氏 2014/9/29 来るべき「人中心社会」「共感経済」の入り口の1つが、クラウドソーシングです 株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田浩一郎氏

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個人視点クラウドソーシングは、個人の社会的な力を強めます。
社会視点クラウドワークスが、個人の社会保障も担いたいと思っています。
企業・個人視点企業もユーザーも、クラウドソーシングを上手に使いこなすでしょう。

クラウドソーシングとは、
メーカーよりユーザーが力をもつ時代の「新しいワークスタイル」です

クラウドワークスは、日本のクラウドソーシングサービスのリーディングカンパニーとして、創業以来、急成長を遂げています。本日は、その創業者である吉田社長に、クラウドソーシングを通して見える"2030年の「働く」"について伺いたいと思います。

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 クラウドソーシングについて、まず簡単にご説明します。この言葉を初めて使ったマーク・ロビンソンとジェフ・ハウは、クラウドソーシングを次のように定義しました。「従業員によって行われている機能を、ウェブ上に開かれた外部ネットワークを通して、世界中の群衆(クラウド)へ委託(ソーシング)すること」。つまり、クラウドソーシングとはインターネットを活用したアウトソーシングです。インターネット上のプラットフォームを介して、クライアント(発注者)とワーカー(ユーザー)が直接結びつき、クライアントが発注する仕事をワーカーが行う仕組みです。さらに詳しい説明は、クラウドワークスのサイトのトップページ最下部にもありますので、興味のある方はぜひお読みいただけたらと思います。
 私自身は、クラウドソーシングとは何かと聞かれたら、「21世紀の新しいワークスタイルだ」と答えてきました。クラウドソーシングを利用するワーカーは、1日何時間働くか、月にいくら稼ぐか、どこに住んで、どこで仕事をするか、一人ひとりが自分の意識で働き方や年収を決められます。会社・労働時間・勤務場所などに縛られてきた20世紀のワークスタイルとは明らかに違う、新しい働き方が登場したのです。
 別の見方をすれば、クラウドソーシングは「ワーカー=ユーザー側が力をもつ働き方」ともいえます。実をいえば、今の社会では全体的にユーザーの力が増しています。例えば、HuluSpotifyなどのコンテンツ定額制サービスやAmazonの隆盛、コンビニエンスストアのプライベートブランドなどを見ても分かるとおり、現在は、メーカーよりもユーザーに近い流通サービスが圧倒的な力をもち、世の中を動かしています。流通がユーザーの動向・意見・要望に従って価格を決め、商品・サービスを開発し、新たなアイデアや価値を生み出し、メーカーに物申す世界になっているのです。
 ユーザーの力が増しているのは、主にインターネットによって情報革命が起きたためです。20世紀の社会は情報的に不均衡で、ものやサービスを生み出す大企業に情報が偏在していました。だからこそ、メーカーが流通やユーザーを牽引してきたのです。ところが、インターネットを通じて、今や誰もが多くの情報を入手できます。ユーザーが賢くなり、メーカーに対抗できるようになったのです。ユーザーの求めるものをメーカーが作る傾向は、今後さらに顕著になるでしょう。クラウドソーシングもまた、このような潮流に乗っているユーザー視点のビジネスです。

クラウドソーシングは今後、
「個人の与信インフラ」として個人の社会的な力を強めます

今後、クラウドソーシングはどのように発展していくと考えていますか。

 実は最近、クラウドソーシングの定義について、私たちのなかではより明確な結論が出ました。クラウドソーシングは、一言でいえば「個人の与信インフラ」なのです。単に人々のワークスタイルを変えるだけでなく、個人が働くために必要な社会インフラとなる。これが、今後のクラウドソーシングの使命だと考えています。
 Facebook、Twitter、LinkedInなどのSNSが「いいね」ボタンなどを作った結果、世界で初めて、個人への共感や感動やワクワクが広く"定量化"されるようになりました。同様に、クラウドワークスではワーカーの一つひとつの仕事に対するクライアントの評価が"定量化"され、蓄積されています。クライアントは評価を見た上で仕事を発注できますから、評価の高いワーカーに自然と仕事が集まります。最近では、上位評価のワーカーの方々が企業からスカウトされたり、直接クライアントと単価交渉をすることも増えてきました。
 20世紀は企業が人事部で個人の業務の格付けを行っていたため、個人の与信データはかろうじて履歴書しかありませんでした。しかも、履歴書は自称ですから効力が弱く、それだけでは企業は決断できませんでした。ところが、クラウドワークスの評価は、クライアントが発注を決断できるほど信頼の置ける客観的データです。ですから、クラウドソーシングが広まれば、その与信データによって、個人は社会的弱者ではなくなり、社会的信用が得られるようになり、人の働く選択肢が格段に広がるでしょう。評価の高いワーカーは、例えば現在の弁護士や税理士のように、複数社と中長期的な顧問契約を交わすことなどもできるようになるでしょう。実際すでにクラウドワークスでも、エクセルのマクロを組める事務経験者が、1社月2万円ほどで、5社程度とマクロ顧問契約を交わしている例があります。これもまたユーザーが力を増した結果、起こっていることです。

人には、人や社会とつながる喜びを得ることが必要だと痛感して、
このビジネスを始めました

では、クライアント側がクラウドソーシングを利用するメリットは何でしょうか。

 クライアントの主なメリットは、「速い」「安い」「質が高い」の3点です。システム開発やデザインなどの案件をお願いしたいと思ったら、ネット上からすぐに依頼して、ワーカーを見つけることができ、格安で質の高いアウトプットを得ることができます。

しかし、「速い」「安い」「質が高い」は、ワーカーにとっては仕事量当たりの収入が減ることを意味するのではないでしょうか。

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 おっしゃるとおり、「速い」「安い」「質が高い」だけを追求すれば、価格競争になってしまいます。それでは、日本社会にもクラウドソーシングにも未来がないことはよく分かっています。ですから、少なくともクラウドワークスは単なる価格競争を目指してはいません。
 そもそもクラウドワークスを始めたきっかけは、私自身があるとき、人とつながることの大切さを思い知ったからです。実は一度、起業して失敗した経験があります。ある日、部下が大事なお客様の仕事をもって、会社を去ったのです。今から思えば、その頃はお金や名誉のことばかり考えて人を見ていませんでした。また、最初の起業で取り組んだのはコモディティな事業でしたから、社長の私もまた取り替え可能だったのです。その結果、ある部下が独立して、他の部下は離れていき、孤独な日々に陥ってしまいました。
 年末、途方に暮れていたところ、あるお客様からお歳暮が届きました。ささやかなものでしたが、贈ってくれた気持ちがとても嬉しかった。そのときに気が付いたのです。私は何よりも孤独が嫌なのだ。人との関係が断ち切れることが、最も辛く苦しいのだ。お金よりも、誰かに貢献して、「ありがとう」と言われることの方が大事だと考えているのだ、と。このことに気付いてから、第二の起業、クラウドワークスの立ち上げまでは一直線でした。
 その思いから、私は会社のスローガンを"「働く」を通して人々に笑顔を"に決めました。スローガン実践の一環として、クラウドワークスでは、仕事相手に感謝の思いを伝える「ありがとうボタン」を用意し、「思ったより速かった」「優れたアウトプットだった」「困っていたので助かった」などと感じたら、ぜひありがとうボタンを押してくださいとクライアントに勧めています。
 現在、ありがとうボタンは年100万回ほども押されています。ありがとうと言われるのは、誰でも嬉しいものです。多くの人が、お金だけでなく、同時に人や社会とつながる喜びを求めて働いています。ですから、感謝の心は相手を確実に少し幸せにします。ありがとうボタンなどの施策によって、人の気持ちを結びつけることもまた私たちの大事な使命です。
 私は、これからの世界は、人のつながりが何よりも重視される「人中心社会」、共感や感謝の気持ちを主体とした「共感経済」に進化していくと考えています。2030年頃が、ちょうどその分水嶺になるのではないでしょうか。そして私たちクラウドワークスは、クラウドソーシングを、人中心社会・共感経済を形づくっていく入り口と位置づけています。

「人中心社会」「共感経済」とはどのようなものでしょうか。もう少し詳しく説明してください。

 今、商品やサービスはコモディティ化が急速に進んでいます。また、日常では一律で平均的なものやサービスがあれば十分という人が増えています。ものづくりの典型といえる自動車ですら、おそらく今後は自動で走行するロボットカーが普及して、早晩オートマチック車すら趣味の乗り物になるでしょう。
 商品・サービスのコモディティ化が進んだ世界では、商品・サービスから「ワクワク」がなくなっていきます。どこにでもあるものを買っても、人の心は弾みません。その代わりに、一度きりの「体験」の価値が高まっていきます。例えば、ミュージシャンは、CDよりライブが主な収入源となっていくでしょう。また、ライブなどの体験の場では、共感・感動・ワクワクした分だけお金を払う仕組みができるのではないかと思います。近い将来、CoineySquareなどの決済サービスがGoogle Glassなどと結びついたら、共感・感動・ワクワクに対して、気軽にボタン1つで10円や100円が支払えるようになるでしょう。そうなれば、クラウドファンディング的な経済の敷居が下がり、共感と経済が今よりずっと簡単に結びつくはずです。これが共感経済で起こる現象の一例です。

いずれは、クラウドワークスが個人の社会保障も担いたいと思っています

一方で、やはり共感よりもお金が大切だと思う人もいなくならないのではないかと思います。
その点はどのように考えていますか。

写真3

 今お話しした例は、世界がフラットにつながっていくという話ですが、実は一方で、国の境界・区分の力が弱まったために、現在は個人の側から境界の再構築が始まっています。まさに「人中心社会」ができつつあるのです。そして、社会は再度、いくつかの閉じられた世界やコミュニティに分かれていくと私は考えています。
 例えば、クラウドワークスには現在約21万人のワーカーが登録していますが、彼らの多くは互いに共感し合っています。オフ会を開くと、一度も会ったことのない人たちがすぐに意気投合します。クラウドワークスの中に、1つの「共感コミュニティ」が出来上がりつつあるのです。それから、最近話題のマイルドヤンキーなどはすでに閉じられた世界に生きていますし、2ちゃんねるやオンラインゲームの中にも1つの「分散型の国」ができている印象があります。これからは社会の中に、このようなコミュニティがいくつも立ち上がるのではないでしょうか。
 私が生まれたのは首都圏郊外のニュータウンです。ニュータウンもまた、1つのコミュニティです。その中心にはコープ(生協)があり、共済を通してニュータウンに住む多くの人々の社会保障も担っています。これはまだ夢想している段階ですが、クラウドワークスにも共済のような仕組みを導入できないだろうかと考えています。クラウドワークス・コミュニティの人々が互いに助け合うことで、社会保障を担保したいのです。また、同じことが2ちゃんねるやオンラインゲームなどの世界にも起こってほしいと思います。
 このようなコミュニティ内の互助が今後は大事になってくるでしょう。貧困などは、そのコミュニティがみんなで解決すればよいのです。やはりお金以上に、人・コミュニティ・社会とのつながりや共感が大きな意味・価値をもってくるというのが私の考えです。
 なお、国はこのようなコミュニティや制度の構築には介入しない方がよいでしょう。ティム・オライリーが提唱した「ガバメント2.0」などの潮流を踏まえても、国はさまざまな機能・事業を民間に任せていく時代が来ています。職業斡旋もコミュニティ構築も社会保障も、人々の共感やつながりがベースになるのが今後の本流です。

2030年には、企業もユーザーも、
クラウドソーシングを上手に使いこなしているでしょう

それでは、2030年には、クラウドソーシングはどのように利用されていると思われますか。

 クラウドソーシングが正社員制度など、現在のワークスタイルを瓦解させてしまうのではないかとおっしゃる方もいますが、そのようなことは起こらないと思います。なぜなら、日本に人材派遣制度が導入された40年ほど前、この新しい制度が日本企業の雇用の仕組みを破壊するといわれましたが、現在、そのようなことにはなっておらず、人材派遣は他と上手に使い分けられています。ですから2030年には、やはりクラウドソーシングもまた上手に使い分けられているのではないでしょうか。
 一方、ワーカーもクラウドソーシングを上手に使いこなしていくでしょう。その兆候はすでに見られていて、特にいくつかのタイプの方々とは、クラウドソーシングは相思相愛の関係にあります。例えば、私たちは今、株式会社ベネッセコーポレーションと提携して、主婦を中心とした女性の口コミサイト「ウィメンズパーク」で情報提供を行っていますが、彼女たちの多くは空き時間で月2万~3万円を手軽に稼ぎ、夕食のおかずを1品増やしたいといったモチベーションで働きたいと考えています。このような方々にはクラウドソーシングが最も合っています。
 また、高齢者の働くインフラとしてもクラウドソーシングが有効です。先日、ダイヤル・サービスの今野由梨社長とお話ししました。40年以上前から女性起業家として第一線で活躍されてきた方です。今野社長は、日本は「未病」を各地で促進してきた結果、元気なお年寄りが増えているが、未病の先を提示できていないのが現在の問題だとおっしゃっていました。未病の先とは、やはり「働く」ことです。働いて、人や社会とつながることが元気な高齢者の生きがいにつながります。現在、クラウドワークス登録者の最高齢は85歳。70代の利用者の方はたくさんいらっしゃいます。高齢者の方々にとって、家から出ず、働きたいときに働きたいだけ働き、その結果として相手が「ありがとう」と言ってくれるクラウドソーシングは、収入だけでなく生きがいを得るためにも便利な仕組みなのです。
 それから、今後確実に増えるのは、高齢者を介護しながら働きたいというニーズで、このような方々にもクラウドソーシングは有益なサービスとなり得ます。

現在はエンジニア・デザイナーなど、一部の職種の仕事が大多数ですが、今後、職種は増えていくのでしょうか。

 エンジニア・デザイナー以外にも、ライターやテープ起こし、事務など、今も職種は増えています。例えば事務なら、先ほども少しお話ししましたが、エクセルのマクロが使える人が重宝されるなどの傾向も分かってきており、これまでのデータからキャリアアップ・収入アップの具体的なマイルストーンの提示も可能になりつつあります。
 また今、新たな職種候補の1つとして考えているのは、スキルがなくてもちょっとした空き時間で働けるサービスです。例えば、「家事サービス」「お使いサービス」などの案件が世界のクラウドソーシングにはけっこうあります。日本にも、昔は近所の人に子守りをお願いする、お使いに行ってもらうというコミュニケーションがありましたが、今は少なくなってしまいました。このようなやり取りを復活させる意味でも、「家事サービス」「お使いサービス」をクラウドワークスで一般化したいと考えています。現在すでに、配車サービスUberや宿泊施設コミュニティー・マーケットプレイスAirbnbを使えば、ハイヤーや宿泊施設の空き枠をリアルタイムでチェックして予約できます。同様に、働き手の空き枠の最適化が実現できる日も、それほど遠いことではないでしょう。「家事サービス」「お使いサービス」を、すぐに多くの人が利用したいと思うかどうかは分かりませんが、将来的にはきっと普及します。そうすれば、クラウドソーシングの使い道もぐんと広がるでしょう。このように、クラウドソーシングはまだまだ大きな可能性を秘めています。

インタビュー:古野庸一

吉田浩一郎氏プロフィール
株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO
1974年兵庫県神戸市生まれ。東京学芸大学卒業後、パイオニア、リードエグジビジョンジャパンなどを経て、ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験した後に独立。事業をベトナムへ展開し、日本とベトナムを行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目、2011年11月に株式会社クラウドワークスを創業する。
翌年3月にサービスを開始したクラウドソーシングサービス『クラウドワークス』は、「21 世紀のワークスタイルを提供する」をミッションとして「地域活性化」「女性の新しい働き方を支援する」「海外展開」という3つのテーマで事業を展開。これまでに登録された仕事の予算総額は150億円を突破しており、日本最大の月間契約金額を達成。登録会員は21万人、利用企業は上場企業をはじめとして40,000社にのぼる。
2012年には「IVS 2012 Spring Launch Pad」で優勝、日経ビジネス「日本を救う次世代ベンチャー100」選出。自治体や企業とも積極的に協力体制を結んでおり、2012年には岐阜県と提携、2013 年には福島県南相馬市と連携した他、ヤフー株式会社、株式会社ベネッセコーポレーション、株式会社テレビ東京などと提携を開始。電通グループや伊藤忠グループ、サイバーエージェント、リクルートホールディングスなどから15億円の出資を受けており、厚生労働省をはじめとした全国各地でクラウドソーシング・クラウドワーキングの導入提案のための講演・セミナーなども積極的に展開している。著書に『クラウドソーシングでビジネスはこう変わる』(ダイヤモンド社)、『世界の働き方を変えよう』(総合法令出版)がある。

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