NPO法人 ファザーリング・ジャパン 理事 川島高之氏 越境での経験がマネジメント力を高める

「イクボス」の先駆者として大手商社に勤務し、関連企業の社長も経験した川島高之氏。効率的に仕事の成果をあげる方法やマネジメントのスキルは、越境生活で養われたという。
具体的に何をどう工夫しながら、仕事・家庭・地域という3つの場所を行き来していたのだろうか。


指示待ちではなく自分で落とし所を考え動いた

「私のビジネススキルを高めてくれたのは、越境生活でした」と川島高之氏は言う。大手商社の関連企業で社長を務めた後、2016年に独立。現在は会社経営をしながら、NPO法人「コヂカラ・ニッポン」代表やNPO法人「ファザーリング・ジャパン」理事として、「イクボス」や「ワーク・ライフ・バランス」などをテーマに、年間200本以上の講演をしている。

最近でこそ男性が育児に参加することは珍しくなくなったが、川島氏は18年前、自身がまだ30代の一般社員だった頃から無駄な残業をせず、育児のために人より早く退社していた。

「帰る際には『すみません』とひとこと挨拶してから帰るなど、周囲への気遣いはしていました。労働時間を分母、その成果を分子とすれば、他の人が分母1のときに自分は0.6くらいになってしまう。それで1の成果を出しても、おそらくは認められないだろう。短い労働時間でも1.2倍の成果を出すためには、仕事の効率を2倍にしなければならないと考えていました」

まず工夫したのは、上司に言われる前から自分で交渉の落とし所を探り、主体的に動くことだったという。

「例えば、100円の商品を営業しに行ったとしましょう。取引先から90円にまけてくれと言われ、会社に戻って上司と相談し、『なんとか95円で納得してもらえ』と指示された後、再び顧客の元へと足を運ぶ。これが一般的ですが、それだと時間もかかり非効率です。できるだけ1回の交渉で契約までもっていくことを心がけていました」

権限を越えた勇み足にならないよう、ギリギリのバランスを見極めた。社内稟議も「1度で通す」と決めていた。通らない場合でも、具体的に誰が反対しているのかまで突き止め、直接会って交渉した。事前に十分考えた上での落とし所であれば、多くの場合はそれで解決したという。

具体的な目標・職責を明確にしてから取りかかる

鉄鋼分野から比較的出張の少ない金融分野への異動を願い出たのも、子どもと過ごす時間を十分にとるためだった。労働時間が短くても十分な成果を出すため、年度初めや月の初めには、職責について上司と徹底的に話し合い、「いついつまでにどんなアクションを起こし、具体的にどのような成果を出すか」の目標を明らかにした上で、仕事に取りかかっていた。

「後に自分が上司になり、部下を育成しなければならない立場に立ったとき、部下に対してもやはり同じように要求しました。交渉ごとはできるだけ1回で済ませること。そのためには自分であらかじめ結論を考え、主体的に動くこと。会議をする場合でも事前に資料を配布させ、ダラダラしないようにしました。そうすることでチーム全体の生産性も上がり、皆が仕事以外の時間や居場所をもてるようにもなりました」

社長として上場企業を率いた際にも、過去の経験を生かし、仕事を効率化して短時間で成果をあげる仕組みや風土を推進、業績も向上した。

そんな川島氏だが、そのマネジメント力が最も鍛えられたのは、小中学校のPTA会長を経験したときだったともいう。

「PTAの会議には、地域の長老や学校の先生、主婦など世代も立場も異なるメンバーが集まってきます。価値観も違えば、物事を進める際の時間軸も違う。共通言語もない。そのなかで議題を提案し、議論をし、合意形成し、物事を前に進ませるのは想像以上に大変でした」

1年目は、無意識のうちに会社と同じようなスピード感で物事を動かそうとして、メンバーの反発に遭った。

「例えば、ある無駄な作業があって、それをやめさせたいとします。会社であれば簡単です。皆が一応、同じような基盤をもち、共通言語もある。最後は数字がモノをいう世界ですし、どうしても動かない場合は、権限を振りかざすこともできます。しかし、 PTAだとそうはいきません。数字目標のない世界では、無駄を省こうと言っても、それだけで人は納得してくれませんし、動いてもくれませんでした」

会社とPTAの違いに気づいてからは、伝え方を工夫するようになった。頭ごなしに否定するのではなく、まずは相手がしてきたそれまでの努力を肯定してから「よりいい方向に改善するためにはどうしたらいいか」を、一緒になって考えるようになった。

「考えてみたら、これって部下や取引先に接する際の考え方と同じなんです。まずは相手を許容し、認め、その上で改善してほしいポイントを指摘する。これはマネジメントに必要な基本動作の1つだと思いますが、頭で理解していたつもりでも、実はできていなかったのかもしれません。PTAを経験しなかったら、もっと独裁的な上司になっていたでしょう」

越境で自分の常識を手放せばより強靭になれる

最近は労働生産性を上げるために時短促進を謳う企業も多いが、「それだけでは個人が腹落ちする意味として乏しいのではないか」と、川島氏は指摘する。越境生活最大の効果は労働生産性が上がることではなく、「自分自身の内面をダイバーシティ化できることにある」と考えているからだ。

「よく混じり気のない種は滅びるといいますが、会社員の多くは日本人だけ、男性だけの社会で生きている。PTAでも地域活動でもNPOでもなんでもいいと思いますが、一度、自分たちの常識が通用しない世界を経験すると、価値観が洗われ、視野が広がり、1人の人間としてよりしなやかで強靭になれる。個人の人生を豊かに楽しいものにするためにこそ、越境生活は有効だと思います」

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.44 特集1「「越境」の効能」より抜粋・一部修正したものです。
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