あなたにとって人事とは?第6回 すべての人の可能性を信じ、開花する場をつくる

ギャップジャパンの黎明期から人事チームをリードしてきた志水静香さん。ダイバシティーという言葉が世の中に浸透する以前から、多様な価値観を生かす人事制度基盤を築いてきました。人事プロフェッショナルの情報交換や学びの機会創出にも積極的で、アドバイザーとして他社に招かれることもあります。今回は、「志のある人事」を体現する彼女に、これまでの軌跡と、人事として大切にしている価値観や姿勢について聞きました。

PROFILE
志水 静香(しみず しずか)氏
西南学院大学文学部卒業。新卒で日系ソフトウェア・サービス会社に入社し渡米。エンジニアのサポート業務全般を約3年経験後に帰国。数社の外資系企業を経て、某外資系自動車メーカーの人事部で活躍。その後、ギャップジャパン入社。人事部門のリーダーとして組織基盤を整備し、2011年より現職のシニア・ディレクターに就任。


新卒1年目に渡米し「意識の違い」に愕然

開口一番、「みなさんが思っているよりも破天荒なキャリアを歩んできました」と話す志水さん。その破天荒なキャリアは就職活動からはじまる。学生に人気の有名企業の内定を蹴り、あえて中小規模のソフトウェア・サービス会社に入社した。

「当時は若くて鼻っ柱も強かったんです。上昇志向が強く、早く昇進するには、小規模な組織でいろいろ経験した方がいいと考えていました」

内定をもらった有名企業に断りを入れると、「あなた、自分のしていることの意味が分かっているの?」と驚かれたそうだ。

志水さんが入社したソフトウェア・サービス会社では、アメリカ最大の電話会社のシステムを日本に展開するプロジェクトが動いており、現地で働ける社員を募っていた。「昔から、出合った機会は断らないんです」という志水さんは、すかさず手を挙げて渡米。バックオフィスのメンバーとして、ビザ手続き代行やコミュニケーション支援など、エンジニアのサポート全般を一人で担当した。

「米国勤務での一番の収穫は、自分の至らなさを痛感できたこと。向こうはみんな、若いうちから自分の仕事を通してどのような付加価値を生み出すのか、真剣に考えて行動していました。一方の私はといえば、学生時代は友達と何を食べよう、明日は何を着ていこうとか、そういうことしか考えてなかった。彼らとの違いに愕然としました」

米国で奮起した志水さんは、貪欲に学び、働いた。そして新卒から3年後、帰国して退職を決意する。

昼は契約社員、夜は進学塾講師

帰国後、自分の殻を破るには、シビアな状況下で自分を追い込むことが必要だと考えた志水さんは、あえて外資系企業で非正規社員として働く道を選んだ。

「ダメなら切られる。その緊張感のなかで働きたかったんです」

正社員から非正規社員になり、収入が減ってしまったため、昼はオフィスワーク、夜は進学塾講師の二足の草鞋を履いていた。それでも大変とは思わず、日々エネルギッシュに邁進し、活躍する志水さんだが、心に引っ掛かるものもあった。

「正社員に負けないくらい会社を愛していて、事業にコミットしていても、非正規社員というだけでスポットライトが当たらない人がいる。それでいいのかなって思っていました」

やがて、非正規社員だった彼女の能力を見抜き、引き上げる人物が現れた。某外資系自動車メーカーのアジア地域を統括していた人事のエグゼクティブ(当時)である。

「その方はアメリカ人の女性リーダーで、当時は40代前半くらい。毎日お昼ご飯を抜いて時間を捻出し、お子さんのために17時に帰っていたのが印象的でした。私に『残業はカッコ悪い』という価値観を植えつけたのは彼女です。また、ご自身より上の立場の人には厳しく意見する一方で、下の立場の人たちに対しては思いやりがあり優しい人でした。しかも、正規・非正規問わず、能力のある人を引き上げるのが得意な人でもあったのです。人事の専門知識のみならず彼女からはたくさんのことを学びました。仕事に対する姿勢やプロ意識の形成に大きな影響を与えたのも彼女です。素晴らしいリーダーにこの時期に出会えたことは非常にラッキーでした」

当時、人事部長のアシスタントをしていた志水さんは、彼女からこんなことを言われた。「あなたの仕事は10年後にはなくなるわよ。人事を基礎から教えるからやってみない?」と。はじめ、志水さんはその誘いを断った。

「そのころはまだ人事の仕事の全体像をつかめていなかったのです。給与計算のようなトランザクション処理が多いのかなって思っていました。渋る私に対して彼女はこう言いました。『経営を担う社長に影響を与え、間違ったときに叱れるのは私たち人事だけよ』と。その言葉を聞き、はっとしました。人事という仕事の可能性、重要性に気づき、心が動いたんです」

こうして志水さんは人事として専門性を深めていくことを決めた。

黎明期のギャップジャパンでスタートアップを経験

志水さんの勤めていた自動車会社は、アメリカで生まれたのち、さまざまな国の自動車ブランドと合流しながら拡大した企業である。多様な価値観を受け入れる土壌があり、グローバルな人事プラットフォームや、人材教育の仕組みも整っていた。その環境下で志水さんは、エグゼクティブクラスを対象とした報酬や評価、福利厚生などの人事制度づくりを経験していった。その後、ある元同僚の誘いがきっかけで、ギャップジャパンへ入社することとなる。

「『志水さんはまだ人事の仕事の全体像を把握できていない。社会保険や給与とか、非正規雇用管理とか、包括的にマクロで人事を学びたいならリテールの会社に入るべきだよ』と言われて。確かにそうかもと思いました。それに当時、日本に進出したばかりのギャップで、ブランドスタートアップの経験をしてみたかったんです。でも実際に入ってみると『これでも会社って回るんだ』って思ってしまうくらい何もなくて驚きました(笑)。前職はさまざまな制度が十分に整っていたので、余計にそう感じたのかもしれません」と志水さんは振り返る。

同社でまず着手したのは人事戦略、そしてプラットフォームづくり。弁護士や社労士など、専門家の力を借りて、就業規則を作成し、給与・福利厚生を整備した。混沌としていた環境を少しずつ整理する、いわばベンチャー企業の人事のような経験を重ねて知見を広げていった。

「この人たちのために、絶対にいい会社にしよう」

ギャップジャパンに入社後から今に至るまで、目まぐるしく変化する日々を笑顔で駆け抜けてきた志水さん。時には疲れて心が沈むこともあったという。

「元気がないときや少し疲れたときは、いつも店舗に足を運んでスタッフの笑顔や情熱に触れ、勇気とエネルギーを分けてもらいました。みなさんブランドに誇りを感じていて、目の前にいらっしゃるお客様のために一生懸命に働いているんです。その様子を見て『この人たちを笑顔にするために、絶対にいい会社にしよう』と心から誓いました。その想いが、今の私の原点であり、モチベーションの源です」

店舗スタッフとの会話から新しい人事制度が生まれることもあった。例えば正社員登用。今でこそ非正規社員からの正社員登用を積極的に行っているが、当時は中途・新卒採用が中心でその制度はなかった。ある日、現場から「僕らパートタイム社員は正社員になるチャンスはないのですか?」という声をもらったという。それがインスピレーションをかきたてた。

「まさに灯台下暗しで、非正規社員から正社員に登用する仕組みがなかったんです。『いいね、それ、やってみよう』と新しい制度をつくりました。今では非正規から正社員に登用された数は数千名を超えています」

登用制度をつくると決めたら、すぐに実現に向けてアクションできるのが同社の強み。これは他の人事制度にも共通して言えることだが、完成度8割の段階で仕組みを導入して、現場のリーダーや社員の意見を取り入れながら柔軟に対応するアジャイル型で進めている。会社全体に「フィードバックの文化」があるからできることである。例えば志水さんが全社員のまえや会議で話をする。その後、「今日の私の説明は、どうだった? このプログラムは意義がある?」と尋ねる。それに対してどんな立場であろうが、良かったところ、悪かったところを聞かれた社員は率直に教えてくれる。これが普通なのである。

「正直、耳が痛いこともたくさんあります。だけど、フィードバックは自分を成長させるギフトだと私たちは考えています」

この「フィードバックの文化」を誰よりも大切にしているのが志水さんなのである。誰に対しても真剣に耳を傾け、その声を尊重し、行動する姿勢は、「社員から信頼される人事チーム」を築く上でもっとも重要な価値観だという。

誰もが笑顔で楽しく働ける「社会」にしたい

ギャップジャパンに入社して十数年が過ぎ、多くの成果を残してきた一方で、「快適な居場所に安住してしまっている」と感じていた志水さん。2013年、自分を追い込んでストレッチするため大学院に入学し、視野を社会へと広げた。

「“Do more than selling clothes”はこの会社の創業者夫妻の言葉ですが、私も社会の課題を解決する力になりたいと考えるようになりました。法政大学大学院では、非正規労働者や女性、マイノリティの雇用政策と人的資源管理を研究しました」

日本の雇用政策を選んだのは、志水さんが非正規社員として働いているときに感じていた違和感が根っこにある。ギャップは性別・国籍などの属性に関係なく、能力がある人に公平な機会が与えられるグローバル企業。日本でも一人ひとりの個性を尊重し認め合う風土が醸成されてきた。次に変えるべきは日本社会。そう感じた志水さんは自身の大義(やらなければ)に導かれ、NPOとのコラボレーションで社会課題の解決と向き合うなど、利他的な活動にすすんで参画している。先進的なギャップジャパンの取り組みを積極的に紹介し、課題解決に向けて組織の枠を超えて一緒に取り組みたいという。

「意欲とポテンシャルのある人々が、雇用形態などの制約で開花できないのは、日本社会の由々しき問題。私は誰もが素晴らしい可能性を秘めていると信じています。それを開花させる場をつくるのが私の役目。誰もが楽しく働ける社会をつくって、ハッピーな人をもっと増やしたいと本気で考えています。会社が好きで、仲間が好きで、お客様、そして商品やサービスが好き。学びや成長があるから会社に行く。わくわく、いきいき楽しく働く。そんな人が増えれば、社会はもっともっと豊かになる。もちろん、自分のやりたいことを達成するためにハードワークを厭わないことが前提ですけれどね」

右は、GAPの日本1号店である銀座店のレリーフ。このブルーを見ると初心に戻り、気が引き締まる。「私の体にはGAPブルーの血が流れています」と志水さん。
左は、事業部長を集めて行ったワークショップで作ったもの。志水さんがどんな人か参加者がコメントを寄せている。落ち込んだときに見ると、「私だって強みあるじゃない!」と前向きな気持ちになれる。

組織と人を動かす最初の一歩は「Why?」

人事に必要な力を3つ挙げるとしたら……? 質問に対して志水さんは少し間をおいて、答えを導き出した。その答えは、どんな業界の人事にも通じる「ゴールデンルール」ではなかろうか。

志水さんは2008年からダイバシティーを実現するための人事制度をつくり上げ、他企業の人事から相談されることも多い人事の世界で注目される人物の一人である。しかし、自分の力だけでは、ここまで来られなかったと強調する。

「誰にも声をかけられなかったら、私は今も非正規のままだったかもしれません。規格外のキャリアの私もここまで来られました。私だからできたのではありません。どんな人でも自分を信じて努力すれば、道は開けると信じています。あらゆる人が自分の可能性を発揮できるようにお手伝いをしたい」

志水さんは「人は、自分自身すら気づいていない可能性を秘めている」と信じている。可能性を見つけ、もし妨げているものがあればそれを取り除き、花を咲かせる場所を耕す。季節はめぐりギャップジャパンは百花繚乱の会社になった。そして、その花の種は、少しずつ社会へと広がり、今、春の芽吹きを待っている。

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