IT Management Journey vol.3 組織の力を高めるために、
どのような評価・処遇を行うか?

伸び盛りのIT・ネット系企業の人事の方々は、同じような悩みや課題をもっているのではないか。それなら、悩みを打ち明け合い、解決策を共有するとよいのではないか。こうした仮説のもと、私たちは2016年8月からIT・ネット系企業と共に人・組織を考える研究会“IT Management Journey”をスタートしました。毎回、参加する人事の皆さんが気になっているテーマについて話し合っています。本記事では、「組織の力を高めるために、どのような評価・処遇を行うのか?」について議論した内容の一部をご紹介します。


企業が急成長するなか、
等級・評価・処遇はどうあるべきなのか

組織と社員をつなぐ、重要な仕組みである人事評価。企業は、何を軸に人材を評価していくべきなのでしょうか。特に、組織が急拡大していくなかで、「静的」な特徴をもつ制度が、どこまで対応できるのか、また制度と社員をつなぐ存在であるマネジャーの経験が浅いなか、どのように運用していくべきなのか。一部分ではありますが、当日の議論の内容をお伝えします。会場は、アイスタイルさんの本社会議室をお借りしました。
〈今回の参加者〉 ※五十音順
大日方誠さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ グループマネジャー)
久佐野悠さん(株式会社アイスタイル ヒューマンリソース部 部長)
坪谷邦生さん(株式会社アカツキ 組織・人事グループ 人事企画室長)
服部穂住さん(株式会社マネーフォワード 社長室 人事部長)

〈弊社メンバー〉
荒井理江(組織行動研究所 主任研究員)
奥野康太郎(ソリューションプランナー マネジャー)
齋藤悠介(コンサルティング部 マネジャー) ※今回のファシリテーター

〈会場〉
アイスタイル本社

評価の軸―等級制度はどうしているか?

齋藤:今日は、評価と処遇をテーマにお話ししたいと思います。人事制度の根幹となる「等級制度」の全体像についてごく簡単に説明します。
図表1は、一般的な等級制度の基準を分類したもので、「人/仕事」「過去/現在/将来」という基軸をもとに考えられています。歴史的に見ると、長期雇用・年功序列の時代は「人基準×過去」に基づく考え方が主流でしたが、2000年前後から徐々に「仕事基準×現在・将来」を重視する企業が増えてきています。
さて、皆さんの会社は、どれに当てはまるでしょうか。

坪谷:アカツキは「人基準×現在」の「発揮能力」に近いですね。私たちは「貢献価値(バリュー)」と呼んでいます。バリューごとに8段階の「ステージ」を定義しています。なぜ「人基準」かというと、事業スピードの速さから、役割の変化が定常であり「仕事基準」では機能しない現状があるためです。そして、個々人のカラフルな個性と成長を何より大事にするというアカツキの哲学が根底にあります。

久佐野:アイスタイルは、現在は「人基準×現在」の発揮能力の等級に近いです。ただ、発揮できるかどうかは、どうしても「今どのような役割を担っているかどうか」に少なからず影響されてしまう部分があると思っています。今後は、もう少し等級制度からもメッセージが伝わるように経営陣と議論している最中です。アカツキさんと同様、等級制度により会社としての戦略的組織構築と個人としての自己実現やチャレンジを実現していきたいと考えているからです。

服部:異動・配置をしやすくしたいということで、マネーフォワードも現在は、「人基準×現在」の「発揮能力」です。
能力のスケールは2種類あります。職種ごとの発揮能力を示す「ジョブグレード」と組織への影響力やマネジメントスキルを示す「組織貢献力グレード」がそれぞれ8段階あり、全社員が「8×8」のどこかにプロットされるようになっています(図表2)。これには理由があって、例えば仮に、マネジメント志向がなくてジョブスキルを向上させたいという社員でも、職種として求められる能力を向上させれば、ジョブスキルが高いということで、グレードを高くできる(図表2内★)。エンジニアやデザイナーというものづくりに関わるメンバーのなかにはスペシャリスト志向をもつ方が多く、その実態に少しでも応えたいと思い、生まれた形です。ちなみに「組織貢献力グレード」に関しては、「トランジション・デザイン・モデル」 を参考にしています。
荒井:ちなみに、弊社が行った企業調査の結果では、一般社員層は「人基準×現在」である「発揮能力(職能)」中心、管理職層の評価基準は「仕事基準×現在」である「職務」または「能力と職務の両要素」がメインという結果でした(図表3)。一般職は、柔軟な人材配置と長期的な人材育成の観点から職能的な管理を行い、管理職相当になったあたりから、役割や職務等級に移行していくという流れをとることが多いわけです。
しかし、お話にあったとおり、急成長中の企業においては、組織の急激な拡大・変化により、そのような流れをくむのが現実的に難しい。当面「発揮能力」(職能)をベースにしながら、事業や組織の成熟度とあわせて職務・役割等級の導入を検討していくことが有効なのでしょうね。

どのように評価し、処遇しているのか?

齋藤:では、皆さんは具体的に、どのような評価体系を採っているのでしょうか。

服部:マネーフォワードは、CEOの辻が「従業員の成長を支援するために評価がある」という思想をもっており、評価体系は「MFグロースシステム」と名づけています。「目標管理」(MBO)を導入していますが、従業員と上長の対話の頻度を多くし、目標をこまめにチューニングしています。具体的には、先ほどお伝えした「8×8」の枠組みに基づき、目標設定シートを作成したあとは、従業員は月に1回、上長と「何をしたいのか?」を対話し、「この半期、何をするのか?」を随時アップグレードしていくわけです。さらに、皆の目標は全社で公開して、誰がどのような目標達成を目指して頑張っているのかを見えるようにしています。また、今後は、上長がメンバーの長期的なキャリアも踏まえながら、期の目標を対話する点を強化していきたいと思っています。
久佐野:アイスタイルは現在、先ほど少し触れた等級制度も含めて、評価体系をブラッシュアップしている最中ですが、「成果」「成長」「姿勢」の3軸で評価する点は、今後も変わらないだろうと思います。
姿勢に関していえば、私たちは昔から「7つのi」という行動指針を大事にしています。「imagination」「intelligence」「innovation」「inspire」「infinity」「interesting」そして「i(私)」の7つです。一人ひとりの従業員に対して、上長とのコミュニケーションのなかで、半年に1度このなかから1つを選んで目標を定め、評価をしていきます。
また「成果」については、OKR(Objective & Key Result、目標と主な結果)に近い形でMBO(目標管理)を導入して評価し、結果は賞与に反映しています。「成長」については、今後はより会社からのメッセージがより伝わる成長ステップを示していけたら、と思っています。
坪谷:アカツキも、アイスタイルさんにとても近い形です。「成果(Performance Goal)」「成長(Growth Goal)」「姿勢(Akatsuki Style 360度評価)」で評価しています。成果は目標管理(MBO)で評価されますが、特徴的なのは目標の立て方です。アカツキには「コミット目標」と「やんちゃな目標」の2つの目標があり、前者は必ず達成するべき目標、後者は「そこまでやれるの?」と周囲が驚くようなまさに「やんちゃ」な目標です。「コミットでは8000万円ですが、やんちゃでは1億目指します!」というように自ら高い目標を立てる文化があります。
高いハードルにチャレンジしたときにこそ、人は「成長」するとアカツキでは考えています。

制度の賞味期限は?

齋藤:みなさんのお話を伺っていて興味をもったのですが、成長期の企業においては、組織の形は常に拡大・変化していくかと思います。皆さんはどのくらいで等級や評価の制度を大きく作り直していますか?

久佐野:私は、感覚的には5年程度ではないかと思います。そのくらいで、組織規模の拡大、海外進出や多角化・・・・・……など組織としての変革期がやってくると感じています。

坪谷:「中期経営計画に沿って制度を変える」というのが模範解答かもしれませんが、実際には、規模の拡大や事業統合などに伴う変化によって、必要になってきたときに変えるというのが現実だと思います。
大日方:しかし、毎回変更を加える必要は、どの程度あるのでしょうか。仮に制度をあまり細かく決めないとどうなるのでしょう?私は個人的に、枠組みとしての制度は必要かと思いますが、制度はあまり作り込まないほうがよい、と考えています。制度に余白を残しておいて、その部分をマネジメント層に任せることで、制度の本質を外さない範疇で、一定の柔軟性をもたせて評価するという状態がベターだと考えているのです。
奥野:マネジメント層に能力があれば、大きな問題は起きないと思います。しかし、評価制度が甘く、かつマネジャー層の能力が十分でない場合、「組織的に崩壊する企業」が出てきます。具体的にいうと、マネジャーがメンバーを十分に見ておらず、頑張っているメンバーがまったく評価されなかったり、逆に全然成果をあげていないメンバーも含めて、全員がA評価になったりする。頑張っても報われない、分かってもらえないとなれば、離職にもつながります。

評価の納得感を生み出すのは、制度か、人か?

荒井:組織行動研究所が行った調査結果によれば、評価に関して不満をもつ社員の方が約半数と多いことが分かっています(図表5)。不満の主な理由は「何をがんばったら評価されるのかがあいまいだから」「評価基準があいまいだから」です。
齋藤:これらを画一的に解消するのは難しいのでしょう。たとえ評価基準が完全に公開されていても、評価者の恣意が混じっていると見なされれば、やはり不満は溜まりますから。組織の状況を見ながら、仕組みで担保する部分と現場の運用に任せる部分のバランスを見極めていくことが重要だといえます。

服部:最悪なパターンは、評価者であるマネジャーが、メンバーの評価について、人事や人事の作った制度が決めたことだ、と「他人事」になってしまうことだと思います。

久佐野:評価ではなく処遇の話にそれてしまうのですが、アイスタイルでもだいぶ昔、メンバーの評価や処遇が現場で「他人事」になってしまうという問題がありました。その要因の1つには、人事が評価や処遇のロジックを詳細に作りこんだものの、現場のマネジメントラインがその内容を把握しきれないことにありました。認知や理解を徹底するという判断と対応もありますが、現在は、処遇については大きく権限委譲をするという方向に転換を行いました。具体的には、各本部に処遇原資を分配し、各部門の責任でメンバーへの分配を決めてもらうのです。現場のメンバーへの説明責任が発生しますので、現場のマネジメントラインが、メンバーの処遇について主体的に考えてくれるようになりました。

齋藤:現場で混乱などはなかったですか?

久佐野:もちろん、分配を各部で決めることは簡単なことではありませんが、妥当性を担保するためのルールを設け、権限範囲を明確にすることでポジティブなフィードバックをもらっています。

奥野
:すごい。ダイナミックな権限委譲ですね。

大日方:評価の話でいえば、私は今こそ、評価者へのトレーニングを重視すべきではないかと考えています。なぜかといえば、今後はフリーランスなど、多様な働き方の従業員がますます増えてくるからです。極論をいえば、人の数だけ人事制度があるような状態になってくることが予想できます。そのため、中長期的には制度の納得感は薄れてくるでしょう。そのときに大切にしたいのは、被評価者の納得感であり、評価者の説得力は重要だと考えます。そのため、私は評価者の成長が重要だと考えているのですが、皆さんはどう思いますか?

奥野
:私も同じ意見です。評価をめぐる良質なコミュニケーションが、信頼を作ると思っています。
坪谷:現場のマネジャーを育てていくことはとても重要ですよね。以前ご紹介した、人事がマネジャーを個別に直接支援する「軍師」の取り組みのなかでも、マネジャーが、実際にメンバーをどのように評価し、メンバーとどのような対話をしていけるといいのか、相談に乗ることが多々あります。

ただ私は、マネジャー自身の成長や努力に頼るだけでなく、やはり制度によって担保すべき部分もあると考えています。だからこそ、「良い制度=良い武器」をマネジャーたちに渡していくことが人事の仕事だと思います。その場合も、画一的な武器ではなく、多様な状況に合わせた武器があると使いやすいはず。サイボウズさんは「100人、100通りの人事制度」とおっしゃっています。

※サイボウズさんの記事はこちらでも紹介しています

齋藤:その点、女性従業員の多いアイスタイルさんは、どのように多様性を捉えているのでしょうか。
久佐野:アイスタイルは、女性が多いからこそ、逆に女性優遇の思想がありません。ただ、女性も男性も隔たりなく働きがいを感じられる仕組みを作ることは大切だと考えています。「Diversity×Flexibility」をコンセプトにおいたセミクラウドソーシングスタイルで形成したISパートナーズというグループ会社があるのですが、柔軟な働き方のトライを同社で行い、ISパートナーズでうまくいった制度をアイスタイルグループ全体に導入するという方式でも検討を進めています。

齋藤:仕組み・制度はある程度「静的」なものと捉えられがちですが、成長企業における人・組織は非常に「動的」なものだからこそ、その時々の状況や少し先を見据えた上で、常に進化を模索しているのですね。
さて、時間になってしまいました。本日もあっという間でしたね。次回は「内発的動機」をテーマに議論してみたいと思います。今回もありがとうございました。

おわりに―最終回は「個人の意欲をどのように組織の力に転換するか?」を議論

組織の力を高めるための「評価・処遇」の議論、いかがでしたか。
次回はいよいよ最終回、「個人の意欲をどのように組織の力に転換するか?」をテーマに議論した内容をお届けします。

[バックナンバーはこちら]
IT Management Journey vol.1
組織拡大に伴いマネジャーをいかに立ち上げるか?


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