あなたにとって人事とは? 第4回 いい人事の条件は強い心とバランス感覚、そして志

コスモエネルギーホールディングス株式会社の取締役専務執行役員であり、人事部門のトップを務める大江靖氏。新卒で同社の前身にあたる大協石油に入社し、第二次オイルショック以降の業界の変遷を見つめてきた人物です。現在は、役員という立場から、「人事」という役割と向き合っています。さまざまな部門で活躍してきたご自身の経験に重ねながら、人事に必要な力を語っていただきました。

PROFILE
大江 靖(おおえ やすし)氏
コスモエネルギーホールディングス株式会社取締役専務執行役員、CSR統括部・法務部・人事総務部・ダイバーシティ推進室担当。1979年に新卒で大協石油株式会社(当時)に入社し、情報システム部門からキャリアをスタート。その後、合併準備担当を経て、誕生したコスモ石油株式会社で販売計画、需給計画、人事、海外駐在などさまざまな経験を積んで今に至る。趣味はウォーキング。


人事部への配属理由は「ストレス耐性の高さ」

大江さんが最初に人事に携わったのは2000年のこと。配属の決め手は「ストレス耐性があるから」と当時の人事部長に冗談を交えて言われたそうだ。

「ちょうどそのころは、山一證券が破綻したり、企業のリストラがあったりなど、日本全体がバブルの後遺症に苦しんでいた時代でした。当社も例外ではなく、2度の早期退職を実施。人事部にも課題が多い時代でした」

3度目の早期退職を募るかどうか、また、新卒採用をストップするかどうか、という判断もあったという。

「私は早期退職には反対で、『リストラをしたら優秀な人もいなくなります』と上司に進言していました。新卒採用を凍結する話もありましたが、新卒採用を1度でもやめたら学生にそっぽを向かれてしまう。だから、『絶対に、新卒採用をやめてはだめです』と強く主張しました。結果、10名と少ない数ですが新卒者を採用。そのときのメンバーは今、当社の中堅として頑張ってくれています。彼らの活躍を見ると、踏ん張って採用を続けて本当によかったと思いますね」

最も苦しんだのは「人事異動」の判断

2000年代初頭は、年功序列から実力主義へのシフトが進んでいた時代。日本全体で人事制度の見直しがおこなわれていた。もちろんそれは、コスモ石油も同じ。給与体系を見直し実績主義の要素を入れるなど、新しい人事制度を構築した。

「人事制度改革は、必要なことだと思っていました。時代の転換期でしたし、若い社員がより活躍できる環境を作りたかった。むしろ、悩ましいと思ったのは人事異動ですね。社員はもちろん、その家族の生活にも影響を与えるし、人生を左右する転換点になり得る重大な決定だからです」

人事異動は、会社の立場から見たときの適材適所と、個人の事情のどちらも鑑みる必要がある。神経をすり減らす仕事だ。

「この人には、こんな部署でこんな経験を積んで成長してほしい、という会社の希望がある一方で、子供の受験を控えているとか、家族の介護があるとか、個人の事情もあるわけです。考えれば考えるほど分からなくなり、思考が袋小路に入ってしまうこともありました。そんなときは、自宅の周辺でウォーキングをしていたんです。悩みの大きさや数に比例して、歩く距離がどんどん長くなっていました(笑)」

一定のリズムで歩いていると、不思議と思考の絡まりがほどけて、ふっと答えが浮かんでくるのだという。ウォーキングは今も続く習慣である。

合併準備をしながら社内人脈を築く

大江さんが異動に神経をつかうのは、自身が異動を重ねており、キャリア形成に大きな影響があったという実感があるからである。

「1979年に入社したとき、今でいうシステム部門に配属されたんです。そこで4年働いたあと、『計画推進部』というところに異動。計画とは、当時水面下で動いていた大協石油と丸善石油の合併計画のことです。その部署には、現在の会長、社長も所属していました。若手が集まって、会社の将来のあり方を検討していたのです」

それまでの部署とは全く仕事の内容が異なるため、見るもの聞くものすべてが初めてだった大江さん。とにかく一生懸命勉強するのが日々の中心だった。分からないことを聞くと、先輩が丁寧に答えてくれる。違う部署の社員も親切に教えてくれたという。

「例えば、為替について。円とドルの金利差によって、円安・円高に振れることなどをやさしく教えてくれるわけです。すごく勉強になりましたし、いろんな人に質問をさせてもらったおかげで、社内人脈ができました。『このことだったらあの人に聞いてみよう』という具合に、ピンとくるようになったんです。この経験は大きかったですね」

本社と現場の板挟みになりながら、自らの責任で仕事を進める

石油元売りの心臓部と言われる供給部門の経験もある。産油国の政情の変化や天候などの影響があっても、安定的にエネルギーを供給し続けなければならない仕事だ。

「どんな事情があっても販売が途切れることは許されません。また、当時石油の元売りは90日間分の備蓄が義務付けられていたのですが、生産側でトラブルが起こると確保が難しくなる。『明日報告だ』というときに、在庫が足りず、冷や汗をかいたこともありました。日本に向かってくる原油タンカーも、領海に入っていれば備蓄にカウントできるので、備蓄の報告のために海上のタンカーに直接連絡して緯度経度を確認したこともあるんですよ」

その後、営業企画部を経て東京支店に配属される。そこでは、卸価格管理など支店全般の統括・管理業務をおこなっていた。ちょうど1990年の湾岸危機が始まったころである。

「原油が上がれば本社は卸価格を見直します。でも、特約店はすぐには店頭の価格を上げられないなど、本社と現場の思惑がぶつかるわけです。しかも私は、しょっちゅう現場に行けるわけではなく、担当社員の声を集めて判断しなければならなかった。支店という場所にいながら現場の実態が見えず、もどかしさを感じていました」

本社からも現場からもさまざまな要望があがってくる。大江さんはその間に立って、調整をおこなった。

「本社から言われたことをそのままやれば、現場にとって最善ではないこともあります。だから、叱られることを覚悟して、自分の責任で本社の方針とは違う対応をしたこともありました。読み違えたこともあるし、うまくいったこともありました。このとき、本社と現場の仲介役となって、自分の裁量で仕事を進めることを覚えましたね」

誰に対しても自らの考えを率直に話す

やがて国内の重油の需要が頭打ちになると、コスモ石油にも大きな転換点がやってきた。生産施設の稼働率を落とさずに、生産量と国内価格を安定させるため、輸出の必要性が出てきたのだ。大江さんは輸出に向けたプロジェクトを立ち上げて、社内に強くアピールした。

「ところが役員から反対されまして。日本が輸出を始めたら海外の市況が壊れて、国内市場も影響を受けると言うのです。たしかに理論的にはあり得る話だけれど、われわれは理論で仕事をしていない。だから役員に対しても率直に意見を述べていました」

会社にとってメリットがあると感じたときは、誰に対しても率直に伝える。大江さんは若手のころから変わらず、同じ姿勢を貫いてきた。

「規模で及ばなくても人で勝つ」そんな組織を作りたい

今後、石油業界は再編が進む。そのなかで競合2社と比べれば、コスモエネルギーグループは規模では及ばない。

「資本力では競合にかなわないかもしれませんが、石油開発の面では他社に負けない自負があります。そして、私たちは、『人』で勝負をしていきたい。そのためには、社員一人ひとりが能力を発揮できる環境が必要です」

社員教育はもちろんのこと、やはり異動も社員の能力開発のきっかけになる。

「よくも悪くも、異動が人生に与える影響は大きい。私の場合はプラスに働いたが、人によってはマイナスになり、目標に対して遠回りになることもあるかもしれません」

一番大切なのは、異動した本人がいきいきと働けることである。人事部長などの要職を経て役員となった今は、会社全体を俯瞰しながら、理想の組織を思い描いている。

「私が理想と考えているのは、年齢に関係なく若々しい組織。少数精鋭で、素早く動いて、マーケットにきめ細かく対応することで、大手と違う戦い方ができる。若い社員にも大きな仕事を任せて、成長を促したいと思っています」

若々しい組織のなかで、一人ひとりが能力を存分に発揮する。その間に立ち、環境を整えるのが人事の役目なのである。大江さんは今日も、理想とする組織づくりに励み、挑戦する社員の背中を押している。

見えない頂上を目指して、登り続けるのが人事の仕事

大江さんが考える「人事に必要な力」は、以下の3つ。豊富なビジネス経験を通じて重要であると実感したものだという。

「人事の仕事は電卓を叩けば答えが出てくるようなものではありません。絶対の正解はないし、社員が異動先で活躍しても人事が褒められるわけではない。それでも、社員が活躍し組織が活性化するために人事は悩み、行動し続けるわけです。頂上が見えなくても、ひたすら山を登り続けるような仕事ですね。『年齢に関係なく若々しい組織』を目指して、自分が正しいと信じた道を、ひたすら歩き続けたいと思います」

いくら登っても、頂上は永遠にやってこない。完璧な組織は、この世に存在しないからである。しかし、あるときふと振り返ると、ずいぶんと登山口が遠くに見え、高みにきたことに気付く。人事の喜びは、そういうところにあるのではないだろうか。

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