あなたにとって人事とは? 第2回 社員の成長につながる「最初の一歩」をつくる

全国に2万3000台以上のATMを設置し、590社以上の提携金融機関などのカードに対応するなど、「新しい銀行形態・サービス」を実現してきたセブン銀行。そんな“変化を生み出す組織”の人事トップを務めるのが竹田正俊さんです。長く現場で活躍し、40代になり初めて人事を担うという金融業界では少し珍しいキャリアと、そこからえられた学び、そして後輩たちへの助言から「人事に求められる力」を探っていきます。

PROFILE
竹田 正俊(たけだ まさとし)氏
株式会社セブン銀行で商品開発、有人店舗開発、法人営業に従事した後、人事部へ異動。現在は人事部長を務めている。人事異動の仕組みの整備や人事制度改革で手腕を発揮。前職はメガバンクで、法人営業、産業調査、リテール商品開発などを経験。大学時代、漕艇部(ボート部)で汗を流した経験が今も生きているという。


社会人としての基礎を徹底的に鍛えてくれた3人の上司

「銀行の人事部長」と聞くと、厳格な人物を思い浮かべるかもしれない。しかし、セブン銀行の竹田部長は、とても気さくで腰が低い。穏やかな語り口で、これまでの歩みを話し出す。

「僕が就職したのはバブルの頃。『銀行や生保がいいぞ』って先輩から聞かされていて、就職活動は金融機関を中心に回っていました。前職のリクルーターの方とお会いしたときのことがとても印象的で、時間に遅れてきたうえに違う人の履歴書を持ってきて取りに戻るという、銀行員らしくない人でした。『やっちゃった!ごめんごめん』と謝っていらして。こういうフランクな人がいる銀行は、懐が広いんじゃないかと思ったんです」
ここで竹田さんは、社会人人生の土台を築くうえで、多大な影響を受ける上司と出会うことになった。
1人目の上司とは、都内の支店に配属され、法人営業として中小企業を担当していたときに出会う。

「普段はゆったりとしているけれど、本当に困ったときに先陣に立って守ってくれる上司だったんです。いつもは僕らを信頼して仕事を任せてくれているんですが、いざお客さまの会社が倒産しそうとか、売った商品で損失を出したとか、そういうときに力になってくれる。ピンチでも決して逃げない。自分の社会人としての基礎になったと感じています」

「限界的な境地での振る舞いこそ勝負の分かれ目」

「2人目の上司からは『普段から一生懸命働くのは当たり前。本当に困ったとき、最後の最後まで力を振り絞ってコトをなせるかどうか、が勝負の分かれ目。ここが限界と感じてからもう一歩頑張ってみよう』と言われていました。もちろん、僕の性格や力量を把握したうえでの助言であって、しっかりとしたフォローもあったのですが、当時はむちゃ言うなあと思いました。けれどそうした上司の言葉は、40歳を過ぎた頃になってからその本当の意味が分かってきた気がします」

支店の法人営業から本店の調査部に異動。最も苦しんだのはこの時期だという。ここで竹田さんは、目の前にあえて高い壁をつくる上司とも出会った。

「考えることに対しての限度がないんです。調査レポートをつくっても、『なぜ? こういう場合はどうなるの? こういう可能性はないの?』という具合にあらゆる角度から指摘が入る。上司が求めるレベルの仕事ができず苦しかったのが、この頃です。それでも、あのときの経験があったから今の僕がいる。僕のことをよく理解したうえで、あえて高いハードルを与えてくれた上司には、今も頭が上がりません」

苦しいとき、竹田さんの心の支えになっていたのは、一緒に頑張っていた仲間と、大学時代の漕艇部での経験だった。
「ボートを漕いでいる間はめちゃくちゃ苦しいんですよ。でも、自分が苦しいときはクルー全員が苦しいときであり、それを乗り越えると景色がガラッと変わる。8人がオールをバシッと合わせないとスピードが乗らないから、練習も大変なんです。だけど、クルー全員が同じ目標をもって各々が工夫を凝らし頑張れば、どこかで合ってくる。そして8人のオールが合ったとき、艇が最高のパフォーマンスを発揮する。これがものすごく気持ちいい。こうした経験があったことも僕にとっては良かったと思います」

苦労した調査レポートが仕上がったときは、思い入れも深く、自分の「作品」に思えたそうだ。当時の経験が、竹田さんの基盤になっている。

38歳で“とがっている”セブン銀行へ

調査部からリテール商品の開発部門に異動し、またイチから新しいことを学ぶことになった竹田さん。投資信託に興味があっての異動だったが、ほとんど関わることができなかった。それでも前向きに受けとめ、仕事に没頭した。

「異動のたびに自分で調べたり、知っている人に聞いたりして、仕事をモノにしていきました。これまでずっとその繰り返しで、今では新しいことを学んでいないと不安な体質になってしまいましたね」

セブン銀行に転職したのは、新しい形態の銀行ということで、「とがった存在」に見えたからだという。
「面接に行ったら、面接官が銀行っぽくないラフな感じだったんです。でも、言葉はすごく丁寧で、『あなたはいろんな経験を積んできている。ここにきたら私の部下になってしまいますけどいいですか?』とおっしゃった。そのギャップに惹かれまして。新しい銀行で商品開発分野で役に立てることがたくさんあるだろうし、こういう人がいる会社に入ったら面白いだろうなって思ったんです」

人事部への異動は、青天の霹靂

セブン銀行でのキャリアは商品開発からスタート。入社して半年ほどで、有人店舗の立ち上げをおこなう部署への異動を打診される。そこから2年間、自分たちで自由に創る仕事にチャレンジし、その後7ヶ月ほど法人営業に携わったのち、人事部への異動の話がきた。それはまさに青天の霹靂だった。

「僕は部門の次長を任されていたので、部下の異動の話かなと思ったんです。だから、上司から『人事です』と言われたあと、次の言葉をじっと待っていたんですが、上司は(分かってないな……)という目をしていて。『人事部へ異動だよ、君がね』って言われました」

竹田さんはそれまで人事のキャリアはゼロ。人事部としては新しい風を入れたいというねらいがあった。

「異動は成長のきっかけになる」 人事異動の仕組みを整備

突然の人事部への異動話に、竹田さんは戸惑いがなかったわけではない。しかし、自分に何が求められているのか、また、自分にできることは何かを考え、新しい取り組みに着手していく。

「やればなんとかなる、というのはこれまでの経験上、分かっていました。ひとまず、社会保険労務士の勉強を始めつつ、別部門から異動してきたので、社員の目線から人事の仕事について考えることもできました」

当時のセブン銀行は、会社として立ち上がり、業務を作り込む段階を経て、次の成長を見据える時期に差しかかっていた。そのため、それまでは社員の異動はほとんどなかったという。各部門の業務が定まりつつあり、「もうそろそろ人材の異動があってもいいのでは」と客観的に感じていた竹田さんは、人事異動の仕組み作りに着手する。

「実際、僕自身、何度か異動を経験し、その都度成長を感じてきました。だからセブン銀行も人事異動が当たり前になることが必要だと思ったのです。まずは現場の状況を把握するため、個別に交流のあった現場の部門長に、人事異動の構想について話をしていきました。そうしたら、たまたま、異動させてあげたいという話が出てきた。最初はシステム企画と総務部だったんですけど、お互いにニーズがあったんです。それで当時の人事部長に話をすると、『じゃあやってみなよ』と」
異動した社員は、見事活躍した。そして、異動の運用が本格に始まったのである。

人事異動は、各部門の部門長と交渉しながらおこなう。成長してもらうための異動だから、社員が異動先で馴染めるように、異動先の部門長とは事前にしっかりと話し合う。前職を含めた経歴や、得意分野、また異動先の上司とそりが合いそうかどうかも判断材料にしているという。

「なるべく新しい挑戦を応援したいけれど、うまくいかなかったらその人の人生を変えることもある。判断は慎重になりますよね。本人が自分の強みや異動先での仕事を勘違いしていないかとか、一人ひとりを丁寧に見ることに尽きると思います」

優れたチームワークと行動を高く評価する制度をつくる

2016年からは人事制度改革をスタートさせた。そこにも、竹田さんのこだわりがある。

「会社が急激に成長しているときは、社員個人が頑張れば、それが成果につながった。しかし、業績が安定してくると、個人の頑張りだけでは成果は出にくい。それに、チームとして結束を強化したい思いもありました。そこで、個人の業績だけでなく、チームごとの目標とその評価、そして、行動を評価する仕組みへと変えたのです」

評価にチームとしての達成が優先される価値観を織り込むこと。そして、チームワークを円滑にし、成果につながる行動を評価する、ということだ。

「人事制度は今も試行錯誤中です。それと、もう1つやりたいのが上司と部下の対話を増やすこと。評価も、対話のきっかけの1つにしてほしいです。僕自身、上司が作ってくれた高い壁が自分を成長させてくれた。だから、上司との対話が社員の成長につながる環境をつくりたいと思っています」

大切なのは、小さな一歩を踏み出すこと

人事の経験ゼロから、セブン銀行の人事部長を任されるまでになった竹田さん。新しい環境に飛び込み、成長してきた経験から、「一歩目を踏み出す」ことの大切さを語る。

「新しいことや変化に踏み出すことは怖いものです。でも、とにかく小さな一歩を踏み出してみる。偉業を成し遂げた人も、きっと最初の一歩は小さかったと思うんです。でも、一歩一歩夢中になって進んでいくと、次第に大きく踏み出せるようになる。そして、振り返るとスタート地点がかなり遠くに見えるはず、と考えています」

道の先に壁が立ちはだかっていることもある。竹田さんも責任のある仕事をしているため、悩みは尽きない。社員一人ひとりをしっかり見ることができているのか、一方で情に流されすぎていないか、自問することも多いのだという。

「マイナス思考になっているときは、高校や大学時代の友人や、社会人になってから気が合うようになった知り合いなど、社外の元気な人に会いに行きます。気になる人の講演会に行くこともあります。そうすると、『みんな元気に見えるけれど、本当は悩んでいるんだ。俺だって大丈夫じゃないか』と思えるようになるんです」

悩んだり、落ち込んだりしたときこそ、外に出て人と会う。これは人事だけではなく、すべての社会人に通じるアドバイスといえるかもしれない。

「動機善なりや、私心なかりしか」と問う

竹田さんは最後に、これまでの経験を振り返り、人事として大切だと考える3つの力を教えてくれた。

「人事は社員の幸せに直結する仕事。人の喜びや葛藤に共感できない人に幸せは判断できないと思います。『動機善なりや、私心なかりしか』は、人事をするうえでぜひ大切にしてほしい言葉。邪な動機ではなく、みんなにとってやった方がいいことを進めるべき。そして、一生懸命に取り組むこと。やはりそこから信頼が生まれると思います」

人事は人を伸ばすことができるが、一歩間違えればその人の良さを消してしまうこともある。だからこそ、相手を想い、利他を問い、真摯に一生懸命取り組むことが、人事には欠かせないのだ。

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