あなたにとって人事とは? 第1回 “Go Bold”既存の枠組みを超え、やれることを全部やる

フリーマーケットアプリ「メルカリ」が大ヒットし、日米で快進撃を続ける株式会社メルカリ。同社で「リファラル採用」にはじまる新しい採用手法や、産休・育休あわせて約8カ月分の給与を100%保障する「merci box(メルシーボックス)」など、人事施策の仕掛け人として活躍しているのが石黒卓弥さんです。前職のNTTドコモ時代から人事に関わってきた石黒さんの軌跡を追いながら「人事に求められる力」を探ります。

[ PROFILE ]
石黒 卓弥(いしぐろ たかや)氏
株式会社メルカリ のHRグループにて採用と人事企画を担当。前職NTTドコモでは営業、人事、事業会社立上げ、新規事業企画を担当。3児の父であり2ヶ月の育休取得経験あり。メルカリ入社後は「リファラル採用」やビジネス系SNSを活用した採用手法で注目を集めている。


通勤中に読む本の選び方

石黒さんの朝は早い。6時からキッチンに向かい、家族の朝食を用意する。

その後、小学校と保育園の送り迎えをし、先生たちと話をするのが日課だ。「送り迎えは、子どもを運ぶことが目的になると面白くない。僕は子どもの保育園での様子を聞くことが目的だと思っているので、楽しいです」と石黒さんは言う。

子どもを預けたら最寄り駅へ。通勤の30分が貴重なインプットの時間。読書に充てたいと思いつつ、速報性の高いスマホでのインプットも大切にしている。
「読むのは、いわゆるベストセラーや友人知人にからすすめられたもの。仕事柄『ワーク・ルールズ!』など人事系の本が多いですね。代表の山田がブログですすめている本もキャッチアップしています」

経営の関心や興味を知ることは、コミュニケーションのきっかけや業務に直接つながることも多い。同社代表の山田進太郎氏が読んだ本を選ぶのはそのためだ。

NTTドコモで自ら人事を希望

採用広報に力を入れ、さまざまなメディアに登場している石黒さん。2015年1月にメルカリに入る前は、NTTドコモで活躍していた。

人事に興味をもったのは、元々チームや組織に関心があったから。そして就職活動中に出会った、人事や人材系ビジネスを手がける方々の熱量に惹かれたから。NTTドコモを選んだ決め手は、いつでも誰もが手に持っているもので、数千万人のユーザーにダイレクトに伝わる「C向け」のインパクトだったという。

「電子情報工学科出身だったので、そこでの学びをiモードをはじめとしたインターネットサービスの営業で生かしたいとアピールしました。そして、ゆくゆくは人事という立場から組織に関わりたいと話したのを覚えています」

人事希望者の多くは新卒採用をやりたがる。ただし、採用は人事の仕事のごく一部でしかない。

「新卒採用の仕事が人事に興味をもつきっかけだったのは僕も同じ。でも、それぞれだけでなく、研修や育成、評価制度そして労務にも関心があると伝えました。そういう社員は珍しかったと思います」

「外の空気を吸ってこい」と背中で語る上司

前職時代には、新入社員研修、若手向けの研修、中途採用、障害者雇用、管理職の評価、服務制度など、さまざまな経験を通じて、人事のイロハを吸収してきた。

尊敬する上司との出会いもあった。今でも常に意識していることの1つに、その上司からの「2つ上の立場で考えろ」というアドバイスがある。

定時に部下を残し、「お疲れ!」と言って颯爽と会社を出る。そして、翌朝8時半にさらっと「昨日、社外の講演を聞いてきたよ」と、ある大手有名社長の講演レポートを送ってくる……石黒さんが尊敬する上司は、そんな人だった。

「当時、上司は30代後半くらいだったと思うのですが、社内より社外を見ている時間が多く、会社の枠を超えるようなことを、当たり前のようにできる方でした。社外の空気を吸ってこいよと、背中で語っていた」

外の空気を吸ってみたい。そんな想いから自ら異動希望を伝え、石黒さんは新規事業の子会社に飛び込んだ。挑戦を後押ししたのは、やはりその上司だった。事業会社立ち上げ期の混沌のなかでこそ人は大きく成長することを、身をもって知っていた。

出向先では、人材の獲得をはじめ、オフィスの移転、出資交渉など、何でもやった。10名で立ち上げた会社が4年で350名を超える規模になった。ここでの経験は今でも生きているという。

次に異動したのは、新規事業のアプリのプロデュース。競合は少数精鋭のスタートアップ企業。石黒さんはそのスピード感に圧倒されたという。

「競合のアプリはユーザビリティが高く、かつ次々と改善されていった。店舗開拓の営業は企業の信頼もあり、なんとか戦っていましたが、競合ながら純粋に尊敬できるチームでした。彼らのような勢いを、もっと吸収したい、と思っていました」

転職を意識したことはなかったが、人事を経験したことで自身のキャリアについては定期的に向き合う必要があると常々考えていた。刺激を受けていた矢先、メルカリ取締役の小泉文明氏と出会うことになる。

ドコモとメルカリでは全く異なる「採用」への向き合い方

「さまざまなインターネット媒体に出ていて、スタートアップの支援経験も豊富な人とじっくり話してみたい、くらいの気持ちで会ったんです。もちろん、会うにあたって最低限必要な準備はしていきました。実際行ってみると、想像をはるかに超える面白さで、当初約束していた時間をかなり超過してしまったことを覚えています。小泉の『中途半端なものじゃなく大きな成功をしたいんだ』という言葉に心から共感しました」

それからほどなく、メルカリに入社。

「人事の知識や経験は、どんな会社でも使えるポータブルスキルだと思っています。ただし、同じ人事といっても、メルカリに入ってからその向き合い方は大きく変わりました」

以前は評価調整や異動調整などが業務の多くを占めたが、今はほとんどの時間を採用に割いているという。

「小泉が常々言っているのは10人エントリーがあり、10人採用できるのが一番美しいということ。そのために採用広報に注力してきました」

ねらっているのは、欲しい人だけに強烈に突き刺さる、採用ブランディング。取材やプレゼンなどでも、メルカリの3つのバリューに沿った強いメッセージを発信していくことで、メルカリに高い共感をもった人が集まる、というわけだ。

そして、今注力しているのが、リファラル採用である。社員の人脈からつながっていくという意味で、いわゆる縁故採用とは異なる。

「採用会食」という、会食の費用を会社が負担する仕組みもある。社員がメルカリに来てほしい人を食事に誘い、その費用を会社が負担するというシンプルな試み。メルカリでは社員全員が採用担当なのである。

「ミートアップ」というリアルイベントで人を集め、メルカリのファンを作ることにも取り組んでいる。一般的にミートアップイベントといえばエンジニアを対象にしたものが多いが、「デザイナー」や「マーケティング」「カスタマーサポート」など毎回テーマを絞り実施している。来場者との距離感を大切にしており、1回あたりは基本的に20名程度。大きめのものだと150名規模の開催実績もある。これまでにのべ1500名以上と「新しい出会い」を作ってきた。

ディテールにこだわって言葉を選び、相手への興味の深さを伝える

自ら人をメルカリに誘う際に意識するのは、人に寄り添うことだという。そのうえで会社と自分に関心をもってもらうために、言葉を慎重に選ぶ。「人に寄り添う力」が結果を左右する。

「人事経験者だったら『このときの退職交渉、労務側としての対応は本当に大変だったでしょう』とか、エンジニアなら『〇〇という機能を作られたんですね。あれ便利ですよね』など、その人が力を入れた(であろう)ことを真剣に聞きます。ディテールにこだわって言葉を選ぶと、相手に興味をもっていることをよりはっきりと伝えることができます」

メルカリの面接や面談には、魅力的な社員を惜しみなくアサインしている。現場の社員や担当役員が会うことで、自然と「この人と働きたい」と思ってもらえるようになっていく。
それでも、「現職の同じ部署の先輩が辞めたばかりで……」、「特殊な仕事なので引き継げないんです」などと、転職できない理由を説明されることもあるという。そんなときは候補者に寄り添うだけでなく、過去に入社を決意したメンバーの話をしたり、視点を変えて「◯◯さんがいなくなることで、次の世代のリーダーにチャンスを回せると考えてみては?」という具合に、メルカリを選ばない理由を、一つひとつ丁寧に潰していく。

優秀な人は、どの会社だって欲しがる。採用は自由競争。従来のやり方にとらわれていたら、すぐに思考停止に陥る。常に「どうやったらいいか」を考え、時にはなりふり構わずアプローチしていく。メルカリのバリュー「Go Bold(大胆にやろう)」そのままに、やれることは全部やる。

未来の仲間にメルカリの情報を届け続ける

「リファラル採用」「採用会食」「ミートアップ」「ビジネス系SNS」など、今取り組んでいることを自身のブログ等で惜しみなく世の中に発信している石黒さんは「発信する力」も重要だと語る。

「発端は、育休取得中にブログを書いたこと。そのブログに影響されて『僕も育休取りました』という人が出てきたんです。世の中に影響を与えるのは面白いなぁと」

メディアを通じて発信することで、社会的信用も高まる。そして、強いメッセージが常に発信されていれば、SNSを通じて、将来仲間になる人がいつもメルカリに触れている状態にできる。

「今どき『SNSが苦手』とか言っている場合じゃないと思います。どんどん発信して、外にさらされて、時には反対意見をもらうことも必要。発信した内容がどう捉えられているかは常に意識しています」

「話を聞かせてほしい」という声が、石黒さんのもとに届くようになってきた。「ミートアップってどうやるんですか?」と「やり方」を聞かれることも多い。

「でも、まずは自分でやってみて、と。失敗しなきゃ分からないと思います。まずはやってみてから、何がうまくいかなかったかを教えてくださいと言うこともある。僕だってミートアップのテーマをハズすことも何度もありました。どうしたらうまくいくかをいくら考えたところで、実際にやってみないと分からない。自分なりに考え抜いて、手数を重ねることが大事だと思うんです」

他の仕事と同様、うまくいくことをやるのではなく、うまくいくまでやり続けるという、「継続する力」が人事にも求められるということだ。

人事の枠組みを取っ払って、やれることを全部やりたい

「人に寄り添う力」と「発信する力」、そして「継続する力」… これら3つは、石黒さんが大切にしている人事力だ。持ち前の人事力を、これからどのように生かしていくのか。その問いに対して、意外な言葉が返ってきた。


「ちょっと語弊があるかもしれないですが、僕は自分のことを人事だと思っていません。経営陣をはじめとするメルカリメンバーが、やりたいことを実現しやすい環境を作りたいだけ。根っこにあるのは、家族の朝ご飯を作るのと同じ気持ちです」

人事の世界のなかで、数々の新たな取り組みに挑戦しようとしている石黒さん。彼を動かしているのは、メルカリで働く人たちが力を発揮できる環境を作るために、できることは大胆に何でもやるという、シンプルで強い想いだった。


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