職場に活かす心理学 第4回 集団で活動すると人は力を発揮するか?

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

人はもともと生き残りをかけて集団で生活を営んでいた社会的動物です。また、生き残り自体がさほど難しくなくなった後も、私たちは個人では行えないような大規模な、あるいは複雑な仕事を行うために、他者と協力し合って物事を進めてきました。古くはピラミッドの建設から、今日の宇宙開発まで、人類が集団で成し遂げた多くのことを考えると、私たちにとって集団での活動がいかに重要であるかは言うまでもありません。

私たちが日々活動を行う組織も大きな集団ですが、そのなかにはいくつかの小集団があります。企業の場合、それは部や課だったり、プロジェクトチームだったり、役員会のような会議体であったりします。非公式な趣味の会や、同好会を除いて考えると、これらの集団には集団で担うべき役割や達成すべき目標が定められています。

ちなみに私たちは社会的動物ですが、日々の活動を考えてみると、集団活動は必ずしもうまくいくときばかりではありません。新しく編成されたプロジェクトチームでは、メンバーの気が合わずに、協力する雰囲気ができていないことはさほど珍しい話ではありません。ある営業課では、メンバーはとても仲良しでプライベートで一緒に出かけたりもするものの、肝心の営業成績となると他の営業課と比べて低いレベルに甘んじている、というようなこともあります。

今回は集団活動について、心理学で行われた研究についてご紹介します。一般的な集団活動に関しては社会心理学のなかで研究が行われてきました。また、企業内の集団活動に関しては、産業組織心理学のなかでもチームに関する研究が行われています。これらの研究結果を企業の集団活動に適用すると、どのようなことがいえるのかについて考えてみたいと思います。


集団のパフォーマンスは、
個人のパフォーマンスよりも優れているか

集団の研究においては、「集団のパフォーマンスは個人のパフォーマンスよりも優れているか」といったテーマがよく扱われます。何をもって優れているとするかの基準によって、結果はまちまちです。例えば、個人のパフォーマンスを合算したものと、集合での全体のパフォーマンスを比較するものがあります。コールセンターからかける電話の件数について、センターの要員5名が別々に電話をした場合の件数の合計と、集団として5名が同じ場所から電話をかけたときの総件数を比較する場合がこれにあたります。後者の数のほうが多いときに、集団のパフォーマンスは個人のパフォーマンスよりも優れていると考えることができます。また、問題の解法を見つける課題の場合は、集団の最も優れた個人の解法と、集団で話し合った場合の解法の比較をすることもあります。

集団の研究においては、課題の内容や個人のパフォーマンスとの比較基準の違い以外にも、集団の規模や活動の期間、メンバー間の課題の関連性の強さ、構成メンバーの特徴など、非常に多くの要因が関与しています。ただし前述したように、企業における集団は何らかの機能や役割をもっているため、ここではこれらに着目して話を進めていきます。

企業内の集団の機能や役割を考えると、大きく2つに分類できます。1つは、基本的にメンバーには同様の役割が求められる場合です。例えば営業課であれば、担当顧客の性質などによって緩やかに役割が異なるものの、どのメンバーも会社の商品やサービスを顧客に売り込むという仕事を分担して行っています。コールセンターについても同様です。同様の役割を担う人を集めて企業内の課や部は編成されますが、この集団はどちらかと言えば、管理側の都合を考慮して作られたと考えられます。もう1つは、異なる強みや専門性を持ったメンバーで構成される集団です。例えば、部門横断のプロジェクトチームや、医療現場のクルーがこれにあたります。この場合、メンバー一人ひとりには異なる役割が求められます。前者のような集団を、同質役割集団、後者を異質役割集団と便宜上呼ぶことにして、それぞれについて考えてみたいと思います。

同質役割集団ではパフォーマンスは低下する?

まず、同質役割集団において、集団であることの強みはどこにあるでしょう。営業課の場合、原則個人の営業成績の合算が課の成績になります。このような場合、集団でいることの利点の1つは、成績の良くない個人がいても他の余裕のあるメンバーがそれをカバーできることです。また、成績の良くない個人はもっとがんばろうと思うようになるかもしれません。メンバー間で成績に差がない場合でも、ある人は自分よりできるメンバーを見て、もっと良い成績をあげたいと競争心を湧き立たせるかもしれません。

しかし、残念ながら、先行研究では同質役割集団の場合、集団での活動によってパフォーマンスは低下すること(「集団の損失」)が示されてきました。古典的な研究になりますが、Lataneら(1979)は、大声で叫ぶという単純な課題を用いて、他者と一緒に叫ぶ場合には1人のときと比べてあまり声を出さなくなることを示しました(図表01)。さらにこの研究では、本当に他者と協働で活動を行う場合(「本当の集団」)と、他者がいると思い込まされているものの実際に他者との協働ではない場合(「偽りの集団」)を用いて、個人のパフォーマンスの低下が他者がいることで手抜きをすること(「社会的手抜き」)によるものであることを示しました。

図表01 集団の大きさが個人のパフォーマンスに及ぼす影響

出所:Lataneら(1979)をもとに作成

前述のような「集団の損失」を起こさないためには、以下のような対策が考えられます。まず、個人の貢献を目に見える形にすることです。それによって「社会的手抜き」は起こりにくくなりますし、他者との比較によって自分を鼓舞することもあるでしょう。また、集団全体の目標に着目させることや、その意義を強く感じさせることでも、手抜きは起こりにくくなることが分かっています。その後の研究で、アジアの人は欧米の人と比べると、「社会的手抜き」が起こりにくいことが示されています。しかし、いずれにしても他者と協調することで「集団の損失」は生じる可能性があるため、管理のしやすさ以外に集団で活動することの機能を特定することは重要です。

一方で、課や部のような、仕事そのものは緩やかな関係性しかもたない同質集団の利点は、学習機能にこそあると思われます。成績の悪い個人は、他のメンバーがどのように行動するかを観察したり、他のメンバーに相談したりすることで、学習が促進されるでしょう。また、新しい営業のやり方を考える際にも、同質の役割を担う他者からの情報は重要なヒントを与えてくれるでしょう。同質の役割を担う他者は良い社会的モデルであり、まさに社会的学習理論(※注)といわれるものが促進される環境が整っているのです。

※注:社会的学習理論・・・カナダの心理学者バンデューラによって確立された学習理論。自分が行動して何らかの報酬を得ることによって学習するといったそれまでの学習理論に対して、自らの行動でなくても、周囲の人を観察することによって学習することができるというもの。

異質役割集団におけるパフォーマンス向上のカギ

次に、もう1つの組織内集団である異質役割集団は、いわゆるプロジェクトチームに代表される異なる立場や専門性をもつメンバーで構成される集団です。ビジネス環境の変化に伴って、近年こちらの集団の活用が増えてきているように思われます。異質役割集団の場合、集団としての意義はより明確です。また各個人の役割が異なるため、「社会的手抜き」も起こりにくいと思われます。このような集団において典型的に起こりうる問題とは、どのようなものでしょうか。それを考えるために都合がいいのが、チームのプロセスモデルです。

Illgenら(2005)は、組織におけるチームの研究をレビューするにあたり、チームの形成過程、実行過程、終了過程の3つに分け、それぞれの過程の下にチームメンバーの情緒的側面、行動的側面、認知的側面についてどのようなことが起こるかをまとめています(図表02)。欧米における先行研究では医療チームや軍隊のチームといった異質役割集団を対象としたものが多いため、このプロセスモデルは異質役割集団について考えるときに適したものになっています。

図表02 チームの発達プロセスとチームを捉える3つの側面

出所: Illgen,D.R., J.R.Hollenbech, M.Johnson, & D.Jundt(2005)をもとに作成

異質役割集団の場合、特に形成過程が重要だと一般には考えられることが多くなっています。比較的短期間で特定のミッションを負って、それまで異なる仕事をしていたメンバーが集まって集団を形成するため、集団の立ち上がりまでには、同質役割集団と比較して多くの障害が生じると予想されるためです。その際、特に重要なことは、メンバー間の情報の共有と集団活動の方向性の決定であると考えられます。異なる専門性をもつ人間を集団に組み入れる理由は、それぞれのメンバーがユニークに有している専門的な情報を集団活動に反映させるためです。どうすれば必要な情報の共有を行えるか、そして葛藤が生じた際には、何を基準として異なる意見をすり合わせていくかが重要なポイントになります。

例えば、私は以前採用テストの開発を行っていましたが、テストの精度を上げるために一定の項目数を必要とすることと、顧客企業の使い勝手を考えて項目数を減らすことは、よく意見がぶつかるポイントでした。また、新しい商品の開発に向けて、事前の精度確認を綿密に行うことと、市場のスピードに遅れないように早く商品をデビューさせることの葛藤にも直面しました。いずれの場合も、テスト受検者の利益を重視することを基準として現実的な妥協点を話し合いました。つまり、集団が重視する価値観や基準について、ある種の同意が形成される必要があるのです。

また1点目のポイントである必要な情報の共有についても、あまり楽観できないことを示唆する研究があります。図表03はGigone & Hastie(1993)が行った実験の結果です。大学生が3人のグループを作り、与えられた情報をもとにして36名の大学生の成績を予測するという課題に取り組みました。与えられた情報には、共通学力テストの結果や高校のときの成績、授業への出席率の他に、授業を楽しいと思う程度や、学業への不安などを自己評価した結果などが含まれます。この実験の結果、話し合いの前にメンバーに共有されていた情報ほど、成績の予測に影響したことが示されました。すでにみんなが知っている情報ほど、話題に上りやすく、意思決定に用いられやすくなるのです。一説には、みんなが知っていることを話す人物ほど、集団のなかで中心的な人物であって、集団の意思決定に影響力をもつため、このような行動をとるとの議論があります(Kameda, Ohtsubo, Takezawa, 1997)。

図表03 情報を共有するメンバーの数が成績の予測に及ぼす影響

出所:Gigone & Hastie(1993)をもとに作成

異質役割集団の場合、各メンバーは他のメンバーが知らないユニークな情報をもっていて、それを共有することの重要性が十分認識されていれば、上記のようなことは起こりにくいと思われます。しかし、集団のなかでの影響力の発揮を目指すことがメンバーにとって重要であれば、情報共有後の交渉場面において集団の目的とは合致しない方向に議論が向かう可能性があることには注意が必要です。

近年の新しい集団研究のなかでは、進化的な視点での集団活動に関する議論も行われていますが、そこでも集団メンバーが情報を共有することが環境適応に効果的で、社会的生活を営む上で重要であることが指摘されています。組織におけるチームについても、メンバー間の情報共有がうまくいっているとパフォーマンスが向上することが、多くの研究で共通して示されています。同質役割集団であっても異質役割集団であっても、どのような情報を、どのようにメンバー間で広く、効果的に共有するかに、チームのパフォーマンス向上のヒントが隠されているのかもしれません。

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