ビジョンやあるべき姿を描くことができるか 人が人を評価する、ということについて

執筆者情報
人材開発トレーナー
柘植 英紀

私がトレーナーという職についてから早いものでもう25年になります。この間、アセスメント領域の研修プログラムを主に担当してきました。私たちが定義するアセスメントとは、「組織において、人を配置・育成・登用する際に、その人の適性や能力を、事前に発見・評価する手法」です。私という“ひと”が、受講者という“ひと”を評価する。その難しさや意義を考え続けてきた25年でもあったような気がします。トレーナーとして、ときにアセッサー(評価者)として、私が感じてきたこと、感じていることを綴ってみたいと思います。


「正しいかどうか」ではなく、「どうあるべきか」「どうしたいのか」を考える

パソコン抜きでの仕事が考えにくい昨今、新しいソフトウェアをマスターしようと必死になっている人をよく見かけます。でも、「何のために覚えているんですか?」と聞くと、答えられない人が意外と多い。変化の時代に生きるマネジャーたちにも、実は同じようなことが言えます。

変化の時代とは、ルールや仕切りがめまぐるしく変わっていくことであり、先の見えない、正解がない時代ということができます。こうした時代において、組織を牽引するマネジャーには、目の前で起こっている問題を処理していくだけではなく、自ら進んで課題を見つけて創造的に解決していける資質が強く求められるようになってきています。しかし、企業の現状を見ると、まだまだ課題処理型のマネジャーが多いというのが偽らざる実感です。彼らは与えられた目標の達成には非常に熱心ですし、事象の分析や物事の本質を理解することもできる。客観的な事実を積み重ねて、「正しいこと」を追求していくのは得意です。しかし、そんな彼らに「この目標を何のために達成したいのですか」「あなたはそれによって何を実現したいのですか」と尋ねると口をつぐんでしまう。変化の時代に必要なのは、まさに彼らが口をつぐんでしまう部分、「自分がこうしたい」という意思から生まれてくるビジョンやあるべき姿を打ち出せるマネジャーです。こういう志向や資質がないと、今日の組織が直面している複雑で多様な課題に立ち向かっていくことは困難ですし、解決するために必要な他の部門や社会に影響を与えていくこともできません。

ビジョンやあるべき姿を描くことができれば、そのために自分には何が足りていて、何が足りていないかを知ることができます。ここが、評価の出発点であり、おそらくは私たちが提供する研修プログラムのゴールでもあります。なぜなら、ビジョンやあるべき姿を描ける人ならどんな変化の時代にも対応していけるからです。

現在、過去、未来、業績、人間関係、すべてはつながっている

私が担当しているR&CIという商品は、上で述べた課題解決型リーダー育成のための評価・育成プログラムです。3日間の研修で、受講者は自分の能力を棚卸しし、課題解決のための基本的なプロセスを学んでいきます。この研修を通して、私が受講者にいつも持ち帰ってほしいと思っているのは、「自分の思考特徴への気づき」です。例えば、課題解決のために行う情報収集のプロセスで、うまく情報を収集できないとします。情報を集められないのはどうしてなんだろうと、まず気づく。次に、なるほど自分は関心領域がこんなに狭いから集めることができないんだと、気づく。あるいは営業やマーケティング、人事といった職域ならではの収集傾向に気づくこともあります。こうした自分の思考の特徴に気づくことは、自分を変えていくきっかけになってくれます。

さらに、場面、場面での気づきを、ぜひつなげていってほしいと思っています。最近は受験勉強の影響なのかどうかフレーム思考が強くなり、一つのフレームだけで完結させてしまう人が非常に多い。上司との関係、部下との関係は別、といったように。でも、そんなことはありえません。人間のやることはすべてつながっています。個人的な経験で恐縮ですが、今でも思い出すことがあります。トレーナーになったばかりの頃、ある研修をオブザーブ(見学)した帰りに、先輩から言われました。「君は、結構わがままなオブザーブだったよね」そう言われると、たしかに自分の見たいところだけを見ていた身勝手なオブザーブだったなぁ・・・。そう思った瞬間、過去のいろんなことが引きずり出されてきた。大学の先輩に「おまえ、そのやり方はちょっとまずいんじゃない?」と言われたこと、会社時代の後輩に「先輩にはついていけません」と言われたこと。「わがまま」という一言に触発されて、全部つながっていった。私は自分でもわからないまま、涙を流していました。私の中の何かがそのときからきっと生まれ変わったのだと思います。

データの活かし方で、見えなかった世界が見えてくる

アセスメントデータは、個人のキャリア形成のみだけでなく、企業経営の様々な場面で活用されています。私は時々中小企業のオーナーに「マネジャーの見本作りをしませんか」という提案をしますが、これもその一つです。中小企業では、大手企業と違って課題解決型のマネジャーが内部から育ちにくい環境にあります。とくにオーナー系は、むづかしい。オーナーはマネジャーの見本にはなりませんし、オーナー以下はみな同じ従業員なのです。優秀な社員ほど「社内に目指す人はいません。」と答えます。こうした企業での課題解決型のマネジャー育成は、オーナーを巻き込んで、意図的に見本作りをしてかないと非常に難しい。そこで社員に公開コースの「R&CI」を受講していただき、アセスメントデータを活用して、見本候補を見つけ出していくわけです。見本が本物になれば、他の社員はその人を見習います。さらに見本候補となる人はそもそも能力が高く努力しているので、さらに伸び、いい循環が生まれていきます。アセスメントデータを使った人材の見本作りは、中小企業に活性化をもたらす非常に有効な手段なのです。

これまで述べてきたことと矛盾しているようですが、人の能力を見極めることは不可能です。そんな大それたことは神のみぞ知る領域。従って、私たちの仕事は、人の能力は見極められないという前提をもとに、どこまで評価できるかの挑戦なのだと思っています。それは何によって可能となるか。研修期間中の行動の一つ一つ、ワークシート類に書かれた一言一句をおろそかにはせず、自分の全身全霊を傾けてやるしかない。受講者と対峙する瞬間、瞬間が真剣勝負。しかも習熟することはありえない仕事です。しんどいと思う反面、たまらなく充実している自分がいます。だからこそ、25年間も熱く、この仕事を続けてこられたのかもしれませんね。

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