日本型マネジメントが上手くいく国と、いかない国 グローバル時代の2つの必修科目

執筆者情報
組織行動研究所
客員研究員
吉川 克彦

急速な企業のグローバル進出に伴い、人材のグローバル化が叫ばれている昨今。しかし海外赴任したマネジャーが「海外で苦労している」「現地の人材を活かしきれない」という話や、日本企業の考え方が「労働市場と合わない」という話をよく耳にします。ではなぜこのような問題が起こり、私たちはどのように対処したらよいのでしょうか。本コラムでは、イギリスの大学院で異文化経営論や、国際比較人事論を学んだ弊社コンサルタント吉川が、グローバル企業が学ぶべき2つの必修科目について考えます。


日本人がイライラする鉄道と、安心する鉄道

「次の駅は、プラットフォームが混雑していて危険なので、停車しません。次の駅は飛ばして、チャリング・クロス駅に停車します」

これは、私が2010年にロンドンに留学していた際に、地下鉄の車内で耳にし、驚愕したアナウンスである。ちなみに、ロンドンの地下鉄は、原則的に各駅停車である。にもかかわらず、ラッシュアワー時には混雑を理由に、突如駅を飛ばすことが日常的に行われている。そして、列車に乗る段階では、それを予想しようがないのだ・・・。

次に、別の国で聞いた、長距離列車の中でのアナウンスをご紹介しよう。

「大雪のため、列車が遅れて大変申し訳ありません。○○駅には×分遅れで△時△分に到着予定、○○駅には×分遅れで、△時△分に到着予定です。変更があった場合には、またアナウンスいたします」

お断りしておくが、これは日本での出来事ではない。
この国は、ドイツである。当時のヨーロッパは大雪で、空、陸の交通は大混乱しており、あらゆる交通機関がいつ復旧できるかさえ、発表できない状況であった。しかし、ドイツのケルンからブレーメンに向かう長距離列車では、整然と先の見通しをアップデートしつつ乗客に知らせ、列車が運行されていたのである。

この違いはいったい何なのだろうか。明らかに日本人にとっては、ドイツの鉄道のほうが性に合う。これくらいの確実性を、鉄道に期待したくなるし、それに慣れている。そしてイギリスの鉄道のあり方は、正直性に合わない。慣れるまでは、私もかなりイライラしたものだ。しかし一方で、ロンドンの人たちが自分たちの鉄道のありように不満を感じているかというと、どうもそうではない。地下鉄で駅を飛ばされても「アポイントに遅れるじゃないか!」とイライラしたり、あわててメールを打ったりする人は、見当たらないのである。

日本型マネジメントが上手くいく国と、いかない国

実は、ビジネスの世界でも同じようなことが起こっている。私は、5年ほど前に、当時コンサルティングをお手伝いしていた2社の企業の方から、「アメリカやイギリス、中国は日本人赴任者がマネジメントに非常に苦労する。しかし、大陸ヨーロッパやASEAN諸国はマネジメントが行いやすい」というお話を、異口同音に伺ったことがあるのだ。言い換えれば、日本型マネジメントがその国の人々の性に合う国と、合わない国がある、ということだ。

この話はよく考えると不思議である。イギリスとドイツは海を挟んですぐ近くに位置しており、共にプロテスタントが主流の国である。日本と中国は、同じく海を挟んだ隣国であり、例えば儒教など、さまざまな文化的交流を歴史的に持っている。むしろタイのほうが、よほど日本から見れば距離も離れているし、文字だって漢字とは似ても似つかないではないか。

しかし、お客様は、日本のマネジメント手法は、タイとドイツでは比較的上手くいき、中国とイギリスでは機能しづらい、というのだ。これはいったい何なのだろうか。当時の私には、疑問でならなかった。

経済を動かす二つの力 − 「文化」と「制度」

私は、この問題意識をきっかけに、2010年から1年間イギリスに留学し、大学院で異文化経営論や、国際比較人事論を学んだ。そして、このように「日本型マネジメントが通用しやすい国と、通用しにくい国がある」ことは、当たり前のことなのだ、と思うようになった。背景にあるのは、「文化」と「制度」の違いである。

経済学者Oliver Williamsonは、2000年の論文において、「市場における効率的、効果的な経済活動や契約行為のあり方は、その市場に存在する“公式な制度(Formal Institutions)”と、“非公式な制度(Informal Institutions)”によって決まる」と述べている。前者は、法律や規制など、市場参加者が従うべき明示的なルールのことを指し、後者は、慣行や文化、風習といった、暗黙的に従っているものを指す。つまり、彼の主張を私たちになじんだ表現で言い換えれば、「市場のあり方は制度や文化によって違う」ということだ。もちろん、ここでいう市場には企業が従業員と雇用契約を結び、労働と対価を取引する「労働市場」も含まれる。では労働市場において、制度や文化の違いは、具体的にどのように影響するのだろうか。

労働市場の公式な制度の例としては、「解雇規制」が挙げられる。解雇が制限されている国(例えば日本)と、許容されている国(例えばアメリカ)では、企業がとる合理的な行動は大きく異なる。前者においては、解雇が難しいため、採用時の評価は非常に慎重に行われる。また、解雇が少ないので、転職市場は育たず、企業内部を中心にキャリア形成が行われる。人が辞めないため、企業は比較的、育成投資に積極的になる。個人の側も、転職市場が未成熟で、最初に就職する会社が重要なため、新卒での就職活動に懸命になるし、転職するよりも、社内で機会を探すことを優先するだろう。

一方、後者においては、業績の変動に応じた機動的な採用と解雇が行われる。景気が悪くなれば人を減らせる一方、それだけに、思い切った採用も行いやすいからだ。そのため、転職市場が発達しやすい。一方、育成投資をしても、転職されてしまっては元も子もないため、企業は育成に及び腰になり、既に経験やスキルを持つ人を外から採用するほうが、好まれる。個人の側はといえば、一つ一つの仕事でいかに学び、次の機会に活かすか、また、社内外を問わずいかに自分のキャリア形成上、有利な機会を見つけるか、に強い関心を払うようになるだろう。

また、非公式制度≒「文化」の一つの側面としては、集団主義 vs. 個人主義が挙げられる。集団主義の社会では、人々は自分が属する集団の利害に関心を持ち、集団のゴールを皆で協働して達成することにモチベーションを抱きやすい。一方、個人主義の社会では、人々は個人の利害に関心を持ち、自分のゴールを達成することにモチベーションを抱きやすい。

前者の文化の中では、例えば、ジョブディスクリプション(職務記述書)を明確に記述する必要性は低いだろう。従業員は企業に帰属意識を持つかぎり、組織の利益に関心を払い、自ら「三遊間のゴロ」を拾いに行く可能性が高いからだ。逆に、「あなたの仕事の範囲はこうですよ」と明確にしないほうが、管理職にとっては便利かもしれない。

これに対し、後者の文化においては、個人の役割を明確にしておかないと、従業員、管理職双方にとって面倒が増える。例えば、従業員にとっては、どこまでが評価される範囲か分からないので、「自分が正当に評価されないかもしれない」と心配になる。また、管理職からすれば、職務として定義されておらず、評価や報酬の対象にならない仕事を従業員はやりたがらないため、期待する業務を明確に示しておくほうが、組織としても成果が出やすいのである。そう考えれば、ジョブディスクリプションを明確にしておくのは、至極当然の行動である。

新たな教養科目の必要性

このように、その国、社会における文化や制度のありようは、企業や従業員の振る舞いに大きく影響する。大雑把さを承知で簡略化して言えば、文化や制度が日本のものと大きく違えば、それだけ、日本型のマネジメントは当てはまりにくい。

冒頭の鉄道の話に戻ると、ドイツと日本に共通するのは、「不確実性に対する許容度」がかなり低い、という文化的特性である。こうした社会の人々は、概してきっちり計画を立て、先を見通せることを好むし、組織においても、そうしたことができる管理職が好かれる傾向がある。一方、イギリスは逆に、不確実性が平気な文化的特性があり、あまり細かく計画を立てるよりも、臨機応変に対応する管理職のほうが好まれる。

今日のグローバル化において、人材マネジメント、あるいは組織運営にかかわる人にとって、このような、「文化」と「制度」について学ぶことは、「必修の教養科目」だと私は考える。幸い、少ないながらも、研究者がこの分野に関する著作を発表、あるいは、欧米の書籍を翻訳してくれている。(ビジネスパーソン向けのものがほとんどなく、難解なものが多い点は残念ではあるが。)
例えば制度に関しては、スタンフォード大学の青木昌彦氏の比較制度論に関する著作や、私の恩師David Marsden氏の雇用システムの多様性に関する著作、Peter A. Hall氏とDavid Soskice氏の資本主義の多様性に関する著作などが、示唆に富む。また、文化論に関しては、この分野の創始者の一人Geert Hofstede氏の著作が分かりやすいだろう。英語でチャレンジしてみよう、という方には、Trompenaars氏の著作をお勧めする。

海外赴任したマネジャーが「海外で苦労している」「現地の人材を活かしきれない」という話や、日本企業の人事の考え方が「労働市場と合わない」という話を聞く機会は多い。しかし、「困ったな…」で留まるのではなく、「なぜそうした問題が起きるのか」「どう対処すればいいのか」を考えるための武器が、我々には必要である。日本企業がますます海外の市場に成長を依存するようになっていく中、文化や制度について知らないという状況では、もはや済まされなくなっている。そして、そうした教養を学ぶには、ただ、旅行や出張で外国を短期間訪れることでは足りないのだ。
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