現代に起こる「新人教育」の事態と対応策 ツイてない時代の新人教育

時節柄、新人教育のご相談がひきもきりません。2009年4月の新卒入社者の多くは、採用売り手市場の恩恵にあずかった最後の世代、といえるでしょうか。しかし、そんな恩恵もすでに過去のものになりつつあります。
「米国金融危機の影響は微弱」としたデカップリング論はどこへやら・・・日本経済は一転急減速し、容易には成果を出しづらい、成功体験を積みづらいであろう状況が新人を待っています。
「ツイてない」新人世代――そんな風に名づけられかねない、どうにも気にかかる世代に思えるのです。

最近、人材開発責任者の方から、これまであまり耳にしなかったご相談をいただくようになりました。
「新人への体験学習の効果が芳しくない。受講者がお互いに遠慮して、深い体験にならない」
「失敗してもいいように現場のOJT制度を整えたのに、最初から正解探しをする」
「体験学習の実施」と「OJTの仕組みづくり」という、多くの企業で効果ありと認められた施策を実施しても、「どうも想定した効果があがらない」というのです。

本コラムでは、こうした事態の背景を探り、対応策についても考えていきたいと思います。少しでもみなさまのご参考になれば幸いです。
(*なお、本コラムでいう「新人教育」とは、入社日から正式配属までの3ヵ月〜1年程度の期間、担当職務の遂行に必要な能力開発を行うために、新入社員に対してOJT・OFF‐JT施策を集中して実施することを指します)


新人教育の幹 「体験学習」

体験学習は導入企業も数多く、長らく新人教育の幹だったといえるでしょう。人事専門誌の新人教育特集(『労政時報』第3710号、『企業と人材』No.898、909、932号)には、「シミュレーション」「ゲーム」「仕事体験」といった数多くのプログラム形式が数多く紹介されており、各社各様の思いやこだわりが誌面から伝わってきます。

一方で、その内容には共通点が多くあります。
とりわけ、【1】学習に必要となる経験を提供する、【2】経験した事項を行動事実の観察や内省、他者との議論を通じてふり返る、【3】ふり返った内容を整理・一般化する、【4】現実場面でより望ましい行動をとるためのアクションプランを作成する、というステップを踏む点です。

また、学習テーマとしては、「企業および事業構造の理解」「ビジネスマナーや社会人としての基本姿勢の習得」「業務遂行の基本(P-D-S、報・連・相など)の習得」「自己理解、および啓発課題の設定」といったものが大半を占めています。

「学生から社会人へ」という意識や行動の変容を目的に、読書や講義にとどまらず、「まずやってみて、そこから学ぶ」育成施策として行われています。

並行して進められた「OJTの仕組みづくり」

こうした体験学習と同時に、育成担当制度を導入する企業が急増しています。「チューター制度」「OJTリーダー制度」など企業により呼称はさまざまですが、職場の若手・中堅社員を育成担当として任命し、半年〜1年程度の期間、新人のOJTの主担当となる仕組みです。
新人の定着・戦力化や早期離職防止のみならず、OJT担当の若手〜中堅社員やマネジャー自身の育成につながることも導入増の理由といえるでしょう。


充実したOFF‐JT施策を受講した新入社員が、学習内容を実務に応用しさらに学びを深められるよう、また、担当職務や職場の人間関係に無理なく適応・定着できるよう、OJTの仕組みづくりは進められてきました。

しかし、ここに来て前述した「想定した効果があがらない」というご相談が急増しているのです。この背景を、新入社員の特徴の変化から考えてみたいと思います。

率直なコミュニケーションを避けたがる新人

新人について最近よく指摘されるのは、「場の空気を読んで、周囲の期待に過剰適応しようとする」というコミュニケーション上の特徴です。これは、体験学習にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
そもそも体験学習という手法は、プログラムで体験した状況や自分の言動をふり返ることで、自身の行動特徴や思考特徴に気づき、現実にも適用できるよう知見を一般化することが重要です。すなわち、学習のP-D-Sを回すことで、はじめて効果が得られるのです。

しかし、こうしたプログラムには、受講者間の率直なコミュニケーションが必要不可欠です。
例えば、「場の空気を読んで、周囲の期待に過剰適応しようとする」といった傾向が強いと、他者の良いところを認め、褒めることはできても、気になる面や改善が必要な面にまで踏み込んで指摘する、という言動にはつながりにくくなります。結果として、職場で再現できるほどの深い気づきや学びには至らず、「去年は効果があったが、今年の新人には・・・」「Aグループは活性化したが、Bグループは・・・」ということにもなりかねません。

指示やセオリーを求めがちな新人

また、同様に指摘されているのは「失敗することを恐れる」という心理的傾向です。「まずやってみて、そこから学ぶ」ことを前提としている体験学習では、この心理的傾向は望ましい影響を与えません。一言でいえば、プログラム設計が意味をなさなくなる可能性があります。
例えば「セッション1ではあえて失敗させ、その内容をふり返ることで気づきを提供する」「その気づきを言葉にし、セッション2以降では実践できるかを問う」といったプログラム設計をしていたとします。
しかし、指示されたセッション1のワークをまずやってみないことには何も始まらず、始まったとしても、失敗を恐れてワークに本腰が入らなければ、いくら時間があっても足りません。
こうした心理的傾向が及ぼす影響を前提に、プログラムを設計する必要があるのです。

好事例として、とある電機メーカーA社での取り組みをご紹介します。
A社ではこうした心理的傾向を逆手にとり、「失敗したくない」という不安をeラーニングによる学習で和らげた上で、4月の集合研修で体験学習による意識と行動の変容を図っています。
下図のように、弊社のeラーニングメニューである Webフォロープログラム を活用し、入社に向けた不安の緩和と体験学習への備えの同時実現を目指すのが狙いです。新入社員の特徴の変化を踏まえ、今後はこうした体系的な施策展開がより一層求められるようになると考えています。

「学びたい」「知りたい」・・・新人の強みに着目したeラーニング

一方で、「授業出席率は90%以上、成長意欲が高く自己啓発にも関心がある」、といった新入社員のポジティブな特徴を生かすeラーニングの導入が進んでいます。
以前はビジネスマナーやPCリテラシー・語学・コンプライアンスといった、汎用的な知識・スキルの学習が大半でしたが、最近では階層別教育のテーマと対応させ、下記のように幅広いメニューを提供する場合もあります。

eラーニングサービス「Net College」での階層別メニュー提供の一例
(ビジネススキルライブラリシリーズより)

「現場に分かりやすいロールモデルがおらず、何を目標にどんなテーマで能力開発を考えればよいのか・・・」
「(上司の立場からも)環境変化が激しく、これをやっておけば大丈夫だ、と明確な指針を示しづらい」
との声が多い中で、能力開発の指針をeラーニングメニュー一覧という形で示すことで、新人の能力開発への不安や悩みを和らげ、自学自習を促すきっかけにもなります。
前項の事例にあった電機メーカーをはじめ、サービス業や金融業など、新人へのeラーニングメニューを充実させている企業は少なくありません。集合研修とくらべ、比較的安価にラインナップをそろえられることもメリットの一つでしょう。

新人の特徴に合わせた手法への転換を

昨今の景況感から、能力開発施策の要・不要が厳しく精査されています。新人教育予算は「聖域」、とされていたのも過去の話です。経営からの要請により、教育予算や施策の見直しを求められる傾向はさらに強まるでしょう。
加えて、今回触れた「新人の変化」があります。新人教育の担当であれば、目をつむり、頭を抱えたくもなります。効果のあがらない原因を、新人のせいにもしたくなります。
しかし、新人の特徴の変化にあわせ、適合する手法へ転換を図っていくことが必要です。

「今まで受講した中で、一番記憶に残っているのは新人時代の研修」――人材開発の仕事、とくに新人教育に携わる方なら、いつかそんな回顧の言葉を耳にしたいものです。
そんな受講者が一人でも増えるよう、筆者も微力ながらご支援し続けていきたいと思っています。

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