人材育成に必要な視点とは何か。 2つの「目」を通して育成を見る

執筆者情報
ビジネスフロンティア部
主任研究員
岩下 広武

企業において、人材育成は日々当たり前のように行われています。
しかし一方で、普段の仕事を通じて職場で進められることの多い人材育成は、ともすると「相手が目の前にいるからとにかく何かやらなければ」といった近視眼的な考えで行われがちです。

人材育成に必要な視点とは何か。
それを考える上で、まず、教育者の大村はま氏による以下の文章をお読みください。

「教師になると何か幸せになったような気持ち、子どもを愛しながらものを教えていく、何かとても幸福な世界へはいったような気持ちがしてくるのです。(中略)私は、自分の幸福感の中に浸ってばかりいないで、きちっと立ち上がって自分の本職は何かという目で、温かいけれども非常にきびしい目で、子どもたちを見ることができなければならないと思います。また、子どもはいつまでも小さいままでいるわけではなく、いつまでも『先生、先生』と私たちのそばにまつわりついているのではなくて、結局はきびしい世の中に、たった一人で生きていかなければならないのです。その将来、何十年か先をじっと見通して、子ども時代の今日この日に、しなければならないことがあるのです。ぜひとも鍛えなければならないことがあるのです。」
(出典:『新編 教えるということ』(ちくま学芸文庫))

人生の大半を現役教師であり続けた大村氏の言葉からは、穏やかながらプロフェッショナルとしての矜持を感じます。
そして、文中の「温かいけれども非常にきびしい目」というのは、企業における人材育成においても重要なキーワードではないでしょうか。


温かい目が、安心感や信頼感を生み出す

では、企業において「温かい目を持つ」とはどういうことでしょうか。

それは、新人や若手メンバーを「同じ組織の一員」として認めることです。
「自分の存在が認められた」と感じた新人や若手は、周囲に対して安心感や信頼感を持つことができます。
特に、最近の新人・若手は、少子化や携帯電話・メール等のコミュニケーションツールの変化により、さまざまな立場の人と関わる経験が相対的に減少しており、自ら周囲との関係を築くのが苦手だといわれています。
ともすると、いつの間にか周囲から孤立しかねません。
ですから、対人面で苦手意識を持つ新人・若手にとって、自分が周囲から受け入れられている・理解されていると感じられることは、安心して働く上でとても重要な要素なのです。

また、関わるためには一人ひとりのことをよく知り、彼/彼女の「個性」をつかんでいる必要があります。
それは、まず相手に関心を持つことから始まります。

「彼/彼女は、どうしてこの会社に入ったのだろうか」
「彼/彼女は、今どんなことに興味を持っているのだろうか」
「彼/彼女は、どんなときに喜怒哀楽を感じるのだろうか」
「彼/彼女は……」

レオナルド・ダ・ヴィンチも「知ることが少なければ愛することも少ない」と言っています。
まずは、「温かい目」で、新人や若手のことをよく知り、その存在を認めることが重要です。

きびしい目が、育成の機会を生み出す

次に、「きびしい目」とは一体どのようなものでしょうか。

これは、組織づくり・事業推進という視点から、彼/彼女に要望することです。
具体的には、まず組織としてのビジョンを定義します。そのビジョンを実現するためには、当然必要となる人材がいます。一方でメンバーの現状(成長段階)を見ると、必ずしも現有戦力で十分ではないことも多く、そこにギャップが発生します。
そこで、一人ひとりに期待役割や目標を設定し、成長することを要望するのです。
言い換えると、「きびしい目」は「事業や組織にとって必要な人材を育てる」ために必要なのです。

究極的には、本人自身が組織や事業に貢献するべく、自らの目標を設定し、自分で成長課題をとらえて学ぶのが理想です。
しかし新人や若手にとって、これはなかなか難しいことです。ですから、周囲にいる上司や先輩が、彼/彼女に乗り越えてほしい壁・もう一段上がってほしい階段を示してあげることが大切なのです。

言葉にすると当たり前のことのように思われるかもしれませんが、実際に目の前にいる新人・若手に接するうちに、ともすると彼/彼女から慕われ尊敬されることに満足してしまい、この「きびしい目」を閉ざしてしまうことも多いのです。
また、新人や若手が日々不満なく過ごしているとそれだけで安心してしまい、組織づくりや事業推進という視点から要望することを忘れがちです。
しかしそれでは、新人や若手が将来にわたって組織で生き抜いていく力をつける機会を奪ってしまうことになります。
上司や先輩は、「きびしい目」をしっかり開いて、この罠に陥らないようにする必要があります。

人が育つマネジャーの特徴とは

「最近、職場で人を育てる力が弱まってきたのではないか」という問題意識をお持ちのお客様がいらっしゃいました。
背景には、育成の担い手である中堅以上の人材が次々に流出してしまい、昔ながらの「徒弟制度」が機能しなくなっていたことがありました。
そこで弊社にお声がけをいただき、「職場でのOJTを復活させること」を目的にプロジェクトを行いました。その中で、人を育てるのが上手だといわれる数名のマネジャーにインタビューを実施しました。

その結果、「人を育て、業績を向上させている職場のマネジャー」に共通する特徴が二つ明らかになったのです。

一つは、「組織のビジョンを描き、そこから人材育成を考え始めていること」でした。
そしてもう一つが「メンバーが自立できるよう関わっていること」でした。

あるマネジャーは、新しく着任した組織で、まず自分の言葉で目指す組織の姿を描き、メンバーと共有しました。
その上で、「これを実現するためには、個々人は何ができないといけない、こういう人になってもらわないといけない、できるようになってもらいます」ということを宣言しました。
その際、「もし迷った挙句、自分を活かせるのはこの会社ではないというのなら、卒業した方がいい」というところまで踏み込んで、メンバーに自分を変えることを要望したといいます。

一方、メンバーが自立するよう、常に自己決定することを意識付けていました。

「自分はどうなりたいのかを会社は決めません。私も決めません。誰が決めるか。それは自分で決めるしかない」と話をして、それぞれがどうなりたいかということを引き出し具体化させていきました。
そして、少しずつ仕事を任せていきました。意思決定が必要な場面では常に「あなたはどうしたいのか」と聞き、「自分で決めていいんだよ」と言い続けたといいます。

ただし、一方的に任せるだけでは単なる「放置」です。
そこで心がけていたのは「本人の状況や得意・不得意をつかんだ上で任せる」ということでした。
そのために、メンバーとはよく話をしたそうです。会話を通して、メンバーのスキルや経験、志向をつかみました。その上で、「やり方を含めて考えてみろ」というのがいいのか、「やり方は一緒に考えてみよう、そこからは頼む」というのがいいのか、相手に合わせた関わりを考えたといいます。
また、メンバーがいつでも相談しやすいように「いつも暇そうに見えるようにしていた」とおっしゃっていました。それによって、任された方が安心感を持てるよう配慮したといいます。

このように、「温かさ」と「厳しさ」のバランスをとることが、育成という行為を通じて人に関わる上では非常に大切であることを、このお客様の例は示しています。

育成を担う者としての覚悟を持つ

人材育成とは、育成対象である彼/彼女に、将来に渡って組織(あるいは社会)で活躍することを期待し、自らを変えていくのを支援することにその本質があります。
その実現には、個人に対する「温かい目」と、事業や組織という視界を持った「きびしい目」の両方をバランスよく持つことが必要になります。
これは口で言うほど簡単なことではありません。

しかし、人材育成が個と組織の未来を創る営みであるならば、育成を担う者として、その難しさまでも負う覚悟が必要となるのです。
冒頭の大村氏の言葉は、そう、我々に伝えようとしているのではないでしょうか。
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