事業部主導の研修で組織変革を達成 クレハ 結果主義からプロセス重視へ組織は研修でよみがえった

B to B事業が中心の化学メーカー、クレハのなかで、釣糸部門(シーガー)と並んで消費者向け事業を展開しているのが家庭用品事業部だ。
主力商品はNEWクレラップ。ここ十数年、小売業の価格競争に直面していた同事業部が研修を梃子に、変革を遂げつつある。
同社 執行役員 管理本部長 改革推進プロジェクト 山田文彦氏にお話を伺った。


十数年、小売業の価格競争に直面

2013年4月、現・執行役員管理本部長の山田文彦氏が事業部長に就任すると、さっそく改革に乗り出した。本人が話す。「NEWクレラップのほかに、食材の調理や保存、台所の衛生管理に使う『キチントさんシリーズ』と呼ぶ一連の商品があるんですが、残念ながら認知度が低く、売上も満足のいく水準にはほど遠い。NEWクレラップもチラシの目玉になりやすい商品であることから、小売業界では常に値引きを要請され、利益減が避けられないという悪循環に陥っており、何とかしたいと考えました」

山田氏は外部に協力を依頼する。事業部の規模は社内で最大。大きな変革を引き起こすには自社の人間だけでは到底足りない。外部の知恵と力を借りるに如くはない、と山田氏は判断した。

課題をぶつけると、部長向けの2泊3日の合宿研修の実施を提案された。 2013年5月に初回、10月に2回目を実施した。出席者は営業部長(東日本、西日本、広域各担当)3名、業務部長、開発部長、それに統括部長の6名だ。

結果ではなくプロセスを見る

「目的は部門間連携の強化、つまり部長間の風通しをよくすることです。それまではプライベートを含め、表面的な話しかしていなかった様子でした。それでは仕事がうまく行くわけがありません。研修では腹を割った話ができ、 6人の距離感がぐっと縮まりました」

その結果、まず戦略の決め方が変わった。「営業戦略は、それまでは事業部長である私と統括部長が話し合って決め、各部に下ろすのが通例でしたが、研修をきっかけに営業部長3名が本音の会話をするようになったので、彼らに発想してもらうことにしました」

その後も、開発部員が営業に同行して商品の機能説明をしたり、営業部門同士の情報交換が進むといった成果が生まれる。こうやって部門間の連携が密になっていくなか、かねてより大きな課題と考えていた上司・部下の関係変革に着手した。

問題の本質は、上司が部下の仕事のプロセスではなく、結果だけを見る評価慣行にあった。「周囲の競合店より安く売りたいから10円でも安く仕入れたい、そういうチェーンのバイヤーが相手ですから、売り場を大きくとって自社商品の露出を高めようと交渉すると当然仕入れ条件をどこまで下げられるかの話になります。売上が大きく伸びれば10円のマイナス分を挽回して営業成績も上がる。でもその期はよくても、次の期は競合も値段を下げてきます。3年も経つと、利益が出ないところまで追い詰められてしまう。これを何とかしたいというのが私の思いでした」

取引額が多い3つの量販店に、クレハの営業についてヒアリングを実施したところ、「御社の営業は自社の売上拡大しか考えていないが、競合社は売り場全体の拡大策を提案してくれる」という言葉が返ってきた。「衝撃でした。当社の社員も得意先企業の売上拡大を考え、提案してきたつもりなのに、そうは評価されていない。早急に改めなければ、と思いました」

部長以下のライン管理者にこのヒアリング結果を提示し、どうすべきかを議論させたなかで出てきたのが「カテゴリー(売り場)の売上利益を上げる」「バイヤーが欲しい情報をタイムリーに入れる」という2つの基本方針。予算の売上、利益達成の前に、この2つの行動を第一の課題とする。そのために営業マネジャー向けに、部下の営業プロセスに積極的に関与するワークショップ形式のマネジメント研修を毎月実施することにした。

研修は回を重ねるごとに営業会議さながらとなった。「売り場の利益を上げるには、関連食品とのクロス・マーチャンダイジングが有効ですが、小売業では食品部門は別組織なので実現のハードルは高い。このハードルをどうやって超えていくか、これこそ上司が部下の営業プロセスをしっかり見て、うまく支援しなければできないことです」

値上げという異例の戦略

2014年7月、山田氏は重要な経営判断を行う。NEWクレラップの値上げを決めたのだ。円安、原料高が採算を圧迫していたとはいえ、トップシェア商品を差し置いてのことで、二番手がとる戦略としては極めて異例だ。「研修を始めて1年少し経ち、メンバーにだいぶ力がついてきた。ぜひそれを実戦で試してみたい、と思ったのです」

まず部長が動き、作戦を自ら検討した。以前なら考えられなかったことだった。全国レベルのテレビ会議が招集され、罵声が飛び交うほどの侃々諤々の議論が起こった。「こんなに真剣な会議は初めてです。しめしめと思いました」

8月1日、方針が全国の客先に伝達される。値上げは3カ月後からだ。予想通りの反発が客先からあった。競合の値下げも重なり、一時は大幅に売上が低迷した。しかし、研修やワークショップをきっかけに培ってきた、値上げを自分事と捉え事態を打開していこうという姿勢やカテゴリー提案力を生かした粘り強い取り組みが行われ、ついに2016年からはV字回復基調を実現した。

なかには「二度とうちの玄関をまたぐな」と言われた若手もいたが、年末までに関係修復に成功した。「会社に入れないんだったら外で会えばいいと、得意先のマネジャーが店舗に出かけたときにつかまえたり、また要所要所で部長や代理店の上司を連れていったり、つまり、担当者が『できることは何か』を徹底的に考え抜いた結果です」

こうして、家庭用品事業部に大きな効果を及ぼした研修だが、一般的にはその効果に疑問を投げかける声も大きい。「研修やワークショップを実施するたびに、何が進み、残す課題は何なのか、議論を重ねたことが奏功しました。外部のコンサルタントや講師も、メンバーの名前と顔はもちろん、それぞれの性格まで熟知し、こういう場面ではこの人はこんな発言をしそうだ、ということまで把握して、どうすれば目指す方向に一歩踏み出せるのかを一緒に考え、結果を追求していきました」

その前提として、改革の旗を掲げた山田氏の存在は大きい。「家庭用品事業部には純粋培養で外の世界を知らない人間が多かったんです。能力は高いのに何ともったいないことか。彼らを変えたいという気持ちが強かった」

何事も、その成否を決めるのは最高責任者の思いの強さではないか。

【text:荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.43 特集1「研修効果を高める─実践につながる研修デザイン」より抜粋・一部修正したものです。
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