マネジャーとして視座を転換する秘訣 三井化学 上が変わると下は思う「自分も管理職になりたい」

マネジャーにはなりたくない、昇進しても面倒くさいだけ、スタッフの方が気軽でいい……。そんな若手が増えているという。これが三井化学では異なる。マネジャー同士の横の連帯も強い。鍵を握っているのが、リーダーシップ研修。その中身やいかに。
三井化学株式会社 人事部 人材開発グループ サブグループリーダーの飯田正信氏にお話を伺った。


ほとんどの若手はミドルマネジャーになりたいと思っている

まず同社の職制から見ていく。下から一般社員、管理職スタッフ、チームリーダー(TL)、グループリーダー(GL)、部長、役員となっている。

いわゆる課長に相当するミドルマネジャーはGLと一部のTLだ。同社人事部 人材開発グループ サブグループリーダーの飯田正信氏が解説する。「GLはある1つの製品の製造から販売、研究開発をすべて束ねる社長のような役割を果たします。その下につくTLは社長の命を受けて動く実行部隊長です。GLの下にはTLが2〜3人つくので、GLは総勢10名ほどの会社を率いるイメージです」。年齢でいえば、GLは40代後半から50代前半、TLは30代後半から40代前半だという。

GLは全社で約300名、TLはその3倍ほどいる。同社の従業員数は1万4000名だから、かなりの「選抜人材」といえる。

そもそもGLやTLになりたいと若手は思っているのか。「例えば本社の事業部で考えると、ほとんどの若手がなりたいと思っているはずです。もともと当社は少数精鋭での採用を行っているため、逆にそれくらいの野心はもっていただきたいと思っています」

視座の転換ができないと部下の成功を喜べない

プレイヤーとして高い実績を残した人材でなければTLにはなれない。当然、その上のGLもそうだ。その背景には、自らの仕事をうまく管理できない人材に部下の管理ができるはずがない、という考えがある。一流プレイヤーしかマネジャーになれないわけだが、結果、こういうことが起きる。

海外の重要顧客が妻同伴で来日したので、著名な観光地に連れて行った。接待役は英語に堪能な若手社員。計画どおりにうまく行き、完璧な采配に感激した顧客は帰り際、「こんなもてなしを受けたのは生涯初めてだ」とわざわざ握手を求めたほどだった。

ところが若手の上司であるGLは面白くなかった。影ながら部下をサポートしていたのは自分だったのにその労が報われない。握手を求められるのは自分のはずだと。「マネジャーは自分が直接手を下さずとも、部下を通じて成果をあげなければならない。視座を変えなければいけないわけですが、そこに苦労する人が結構います」

その視座転換をスムーズに行わせ、マネジャーとしての能力を向上させるために、2013年度から導入されているのが、LDP(リーダーシップ・デベロッピング・プログラム)という新任GL向けの研修だ。

具体的には、半年間かけて行われる5回のセッションで構成される。初回は1泊2日の合宿。GLの役割を改めて確認してもらうと共に、事前課題として出された、職場の同僚、部下、上司による各人の360度評価を持ち込み、議論する。多くのGLの評価は想定外に低く、目にした瞬間、「撃沈する」のだという。

若いときに受けたかった グループコーチング

そこから内省の時間だ。日々の仕事を振り返り、なぜそういう評価がついたのかを考えるのだ。仲間同士の議論も経て、今度は各自がGLにふさわしい行動様式を考え、それに移行できるよう、1カ月の計画を立てる。

1カ月後、研修講師と共に4〜5名のグループごとに集まり、成果を発表する。仲間や講師からも意見をもらう。いわばグループコーチングだ。これを1カ月ごとに3回繰り返す。

しかも毎回職場に計画を持ち帰り、自分はここをこう直す、と部下の前で宣言しなければならない。最終回は人事部長同席のもと、全員がそれぞれの成果を発表する、という流れだ。

この研修は受講者の評価が非常に高い。若いときに同じような研修を受けていたら、仕事のパフォーマンスがもっと上がったのに、という声もあるほどだ。卒業生たちが自主的に飲み会を開き、その後の様子を定期的に報告し合うという動きも出ている。

この研修のどこが受講生に刺さるのか。飯田氏が言う。「自分の価値観を掘り下げて考えるところではないでしょうか」

それは最初のセッションで行われる。例えば、部下に厳しく指導したいと思ったが、言葉が出ない。なぜ言えないかを掘り下げて考えると、部下に嫌われたくない、いい人だと思われたいという価値観が自分のなかに根強いことを発見する。

逆に、いつも部下の意見に口を出してしまうようなら、どんな場面においても「自分が一番でありたい」というお山の大将的価値観をもっているのだ。

自分というOS のバージョンを上げていく

「日々の行動を価値観という観点で振り返ると、自分が目指すべきマネジャー像が浮かび上がってくるんです。自分がこう変わった方が部下が成長する。部下が成長すれば、もっと大きな仕事を任され、自分自身も成長できると。研修では、そうやって自分というOSのバージョンを上げていきましょうと呼びかけます」

自分の改善すべき点を部下に報告し、フィードバックも受けるので、変えざるを得ない。実際に変わったら、部下から変わりましたね、となるので、それがまたモチベーションアップにつながる。マネジャーとしてどんどん皮がむけていくのだ。

本当は実務を通じてできればいいが、なかなか難しい。このLDPは、いわばマネジャーになる醍醐味を仲間と共に味わってもらう研修といえるだろう。

そうやって上司が良い方向に変わっていくのを目の当たりにしたら、若手も「出世したくない」とは思わないはずだ。マネジャーになったら、成長できる。その見本が目の前にいるのだから。

問題はGLのみにこういった研修を行っても、彼らの上司に意義を理解してもらわないと、せっかくの火が消されてしまうことだ。

ところが、同社の人事は手を打っている。2015年度から部長ならびに役員に対して個別コーチングを実施しているのだ。「仕事が抜群にできるものの、部下に任せられない部長がいたんです。このスタイルを続けていくと、部下の数が増えた場合、仕事が回らなくなることに気づき悩んでいたそうですが、コーチングを受けた途端、人が変わり、部下の話をよく聞くようになり、職場の雰囲気も一変したと。今では役員として活躍しています」

部下の成長によって自分も成長する。そんなマネジャーの役割を明確にし、意義を仲間と共に実感させる。マネジャー育成にも「急がば回れ」が大切なのだ。

【text:荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.42 特集1「伝えたい マネジャーの醍醐味」より抜粋・一部修正したものです。
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