マネジメント経験で本人の視野を拡大 全日本空輸 ミドルマネジャーの醍醐味は人財育成にこそある

カスタマーエクスペリエンス(CE)の向上を目指し、「業務の変革」や「働き方改革」を進めている全日本空輸。グループ全体で3万人を超える従業員を抱える企業のミドルマネジャーには、どのような役割が求められているのだろうか。また、その醍醐味はどこにあるのか。全日本空輸株式会社 取締役執行役員 人財戦略室長 兼 ANA人財大学長の國分裕之氏に伺った。


ミドルマネジャーの2つの役割 組織運営と人財育成

全日本空輸のミドルマネジャーには、大きく2つの役割が求められている。1つは組織運営、もう1つは人財育成だ。

「当社のミドルマネジャーは、社内的には『リーダー』と呼んでいます。一般的には課長クラスで、担当組織をもち、マネジメントする立場の人財です」

主体的に実務を担うのは、リーダー一歩手前のマネジャー以下。地上職の2割を占めるリーダーには、実務より、部下個々人と向き合い、その能力や適性を正確に把握し、育成を支援することで組織を活性化したり、変革の推進力となることが期待される。

「リーダーになればミッションをもった担当組織の運営を任せられますから、当然、やりがいも大きくなります。われわれはよく『個を掴む』と言っていますが、リーダーが仕組みを動かすことばかりに懸命になってしまうと、構成員一人ひとりを生かすことがおろそ
かになってしまい、結局は組織としての力も十分に発揮できない。例えば、ダイバーシティ・マネジメントをやろうと思ったら、個々人の家庭環境や家族の健康状態などもある程度、把握しておかないといけませんし、そのためには部下とのコミュニケーションも欠かせないでしょう」

聞く耳を持たない上司には、部下も本音を打ち明けにくい。逆に、親身になってくれる上司のもとでなら、難しいことに挑戦する意欲も湧いてくる。

「リーダーに対しては日頃から、部下の得意・不得意を知った上で、仕事に行き詰まっていないかどうか、家族を含めて体調はどうかなど、一人ひとりの状況をきっちりと把握し、部長に伝えてほしいと言っています。あるいは、面談を通じて個々の評価を伝えるだけではなく、どこをどう頑張ればもっと成長できるかなどのアドバイスも含めたフィードバックもしてほしい。当社におけるリーダーの醍醐味もまた、このような人財育成を通じ、組織としてのミッションを遂行していく部分にあるといえるでしょう」

管理職コースを2つに分け行き来を促す

グループ内には総務や経理などの事務職系もいれば、整備や技術などのエンジニア系、キャビンアテンダントやパイロットなどの専門職もいる。経営管理職候補として入社している「総合職」に関しては、「リーダーをやりたくない」という人は、ほとんどいない。

そのなかでも、「専門性を極めたい」という理由から、リーダーになることには消極的な人が比較的多かったのはエンジニアや専門職だ。会社としては、そのような人財にも管理職を任せたい場合もあるため、2010年、リーダーに挑戦しやすいよう人事制度を変更した(図表)。

「通常の組織長系である『L型(リーダー型)管理職』と専門職系の『E型(エキスパート型)管理職』という2つのコースを設けています。このことで、エンジニア出身者や専門職系の人たちにも、積極的に管理職ポストに挑戦してもらう土台ができました」

加えて、この4月から、課長職手前にE3という等級を設け、その該当者から、上司との面談でマネジメントにも挑戦したい意向のある者をポストに指名していく形をとっている。

「これまでは手挙げチャレンジ方式をとっていましたが、それだと、なかなかリーダーに挑戦したいという専門職系人財が出てきませんでした。ただ、マネジメントに挑戦してもらう上では、基本的には本人の意向を大事にしたい。そこで、より丁寧な面談を行うこととしたのです」

「専門性を高めたいからリーダー職は希望しない」というエンジニアがいれば、何を期待し、どのような経験を積んで成長してほしいかを丁寧に伝え意見交換をする。また、「自分には荷が重すぎる」と管理職になることを躊躇する女性がいれば、上司が「背中を押す」などの働きかけもする。

そうした運用面でのきめ細かな対応の成果もあり、E型から管理職になる人や、E型から一度L型に移行してマネジメントに挑戦し、その後再びE型へ戻ってキャリアを積むという人も出てきた。具体的には、エンジニアが航空機を買うなどの調達部門に異動し、マネジメントを経験した上で元いた部署に戻るなどだ。もちろん、マネジメント能力を発揮して、そのままL型で昇進していくケースもある。いずれにせよ、分野を横断することで、本人にとっても大きな成長の機会となり、異動先の部署にしても、これまでなかった専門的な視点を得られることで組織が活性化するメリットがあるという。

「 同じ部門に長くいると、どうしても思考の幅が狭くなりがちで、全体における自分の立ち位置も見えにくくなってしまいます。L型となって一度組織長を経験することにより、本人のキャリアパスも広がりますし、会社全体、グループ全体を俯瞰できるようにもなります。そのようなねらいもあり、今後はできるだけ多くのE型人財にL型を経験してほしいと考えています」

新任課長研修を通じてグループ全体に視野を広げる

E型・L型を問わず、新たに課長レベルのポストに就いた者に対しては、会社として「新任課長研修」を実施している。ここでのポイントは、これを単体ではなくグループ全体、同じプログラムで実施する点にあるという。

「課長レベルになれば、E型かL型かにかかわらず、グループ全体にまで視野を広げてほしいと思っています。これはよくいわれることですが、管理職になると1つか2つ上の階層がもつ目線をもたないと、成長できない。新任課長研修ではまず、この目線を上げることを1つの目的にしています」

管理職にはいずれ経営層を目指してほしいという考えも、もちろんある。ステップアップする重要な条件は「グループ内他社」と「海外」を経験し、指示命令ではない本質的なリーダーシップを身につけることだという。

「グループ各社に出て、そこで力を発揮して戻るのと、海外で現地の人たちに認められ、そこでANAらしさを発揮して帰ってくるというのは、同じくらい重要な経験だと考えています。今後は、この2つを経験していないとグループ全体を牽引していくことは難しいでしょう。したがって、リーダーには是非、それを踏まえた上で上を目指してほしいという話をしています」

特にリーダーに取り組んでほしいのは、CE(CS:顧客満足)を向上させるための従業員満足(ES)の向上に必要不可欠な働き方の改革だ。業績は同じでも、労働時間の短縮など生産性向上が認められれば、それだけ評価は高くなる。リーダーが個々のメンバーと向き合う時間もとりやすくなり、組織運営にもプラスになる。

「エアラインですから、安全性の確保など守るべきところはしっかり守った上で、新たな発想でイノベーティブに仕事をしようということを呼びかけています。そのためにも、リーダーが個をしっかり把握して部長に伝えるということは大事だと思っています」

【text:曲沼美恵】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.42 特集1「伝えたい マネジャーの醍醐味」より抜粋・一部修正したものである。
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