グローバル企業へと成長した日東電工を紐解く 「攻め」と「守り」の人事で次々とイノベーションを起こす

シートやフィルムなどで使われる粘着技術をベースに、グローバル企業へと成長した日東電工。彼らはなぜ、次々と新分野に乗り出し、イノベーションを起こし続けることができるのか。専務執行役員 CIO 経営インフラ統括部門長の表 利彦氏にお話を伺った。


三新活動の精神を今に受け継ぐ

「人事の仕事には大きく分けて『攻め』と『守り』の2種類あります」と、日東電工専務の表利彦氏は説明する。「例えば労務・労政、これは守りに相当します。いわば会社の立て付けになりますから、ここはとても重要です。しかし、人事には戦略的な組織・人材の配置や育成など、攻めの部分もなくてはなりません。日本の人事はもともと守りが強い。しかし、やがて間違いなく、攻めの重要性も認知されてくると思います」

大事なのは「攻め」と「守り」のバランスをどうとるか。それが経営を安定させつつ、継続的にイノベーションを生み出すことのできる組織力を高めていくという。

グローバル・ニッチ・トップを合言葉に、自動車や住宅、電子機器、医療などで使われる新製品を次々と開発し続ける日東電工にはもともと、挑戦する人材を応援する文化がある。企業の製品戦略を分類した経営学のフレームワークに「アンゾフのマトリクス」があるが、実は、これが発表される3年前の1954年、すでに同様の考え方を「三新活動」という言葉で提唱していたのが、日東電工だ。

三新活動は大きく4つの象限に分かれている(図表1)。そして、この4つの象限にしたがって人と事業を戦略的に配置していく。

「右上の新需要創出とはつまり、これまで経験したことのない市場へ、これまでにない技術で攻めよう、という部分です。既存事業から見れば、これは異文化。異文化を担う組織を、むやみに既存の組織のなかに入れても育ちません。そこで私たちは、新規事業が、既存事業の市場や顧客と、どの程度異なるかという『距離』に応じて、組織マネジメントの仕方を工夫し、目的のために必要な経験と知識をもったふさわしい人をアサインしています」

一方で、ビジネスのグローバル化に伴い、組織は拡大している。売上高・エリア別従業員、いずれの比率を見ても、すでに7割以上を海外が占める。そんななか、さまざまな「違い」を許容しながら、自由な新需要創出の力にしていかなくてはならない。その際に、重要なよりどころとなるのが経営理念を支える「The Nitto Way」と名付けたNittoグループ全体の共通の考え方だ。

経営理念をフェアウェイに 余計なルールは作らない

「これからのイノベーションは、言語も国籍も育った文化もまったく違うメンバーが一緒になって、全世界のお客様にどんな価値を提供できるのか、を考えながら実現していく。その際に、やはり日東電工として共通の価値観を言葉にしたものが必要で、それがThe Nitto Wayなのです」

The Nitto Wayの根幹にあるのは「Innovation for Customers」、つまり「顧客のために」という使命感だ。具体的にはベースとなる考え方として7項目あり、その根幹をなしているのが「変化の先取り」「新しい価値創造へのチャレンジ」「スピーディーに動き、やると決めたらやりきる覚悟」など、イノベーションを奨励する価値観である。

日東電工では、この経営理念を十分に理解した上で、それを行動に移せる人材を「Nitto Person」と呼ぶ。Nitto Personがこれからの経営を担っていくという考え方に基づき、人事自身も戦略的に新たな挑戦が必要になる。その1つが人材気質に応じた適所適材配置だ。研究開発部門を対象に、人材をその気質に応じて「クリエーター型」「ベンチャー型」「スペシャリスト型」「マネジメント型」の4タイプを意識して構成。前者2つのタイプが主に価値の創造部分を担い、後者2つのタイプが既存の仕組みを運用していく。いずれの人材も組織には重要な役回りがある。こうした仕組みには、エンジニア出身である表氏自身の「人事はもっと科学できるはずだ」という考え方が、大きく影響している。

とはいえ、実際にアイディアをどう実現するかの具体的な方法に関しては、これといった1つの方法論では語れない多様なプロセスがあるので、基本的にメンバー一人ひとりが楽しんで考え抜くことが重要だ。よって、それぞれの現場に基本的には任せていく。指示されることが少ない職場環境が、必然的に社員の創造と自律を促し、成長させる。「だから、中途採用で来た人は最初、随分と戸惑います。簡単なオリエンテーションがある以外、初日から何も指示されませんから。自分で考えて動けるエンジニアでないと、うちには合わない」

役員のローテーション人事で意思決定にも複眼思考を

新規事業が既存事業と摩擦を起こす大きな原因の1つは、両者が向き合っている時間軸の違いだ。日東電工の場合、素材から開発して市場に送り出し、それが製品となって利益を生むまでには、どうしても10年単位の時間がかかる。その間、実際に利益を生み出し続けている既存事業との摩擦を最小限に抑えつつ、連携を強めていけるかどうかが、大きな鍵を握る。そのために、事業軸、エリア軸、そして機能軸を複数箇所経験した人材が役員になっている。これによって、1つの部署の利益のみを代弁することなく、複数の視点をもちながら、全社最適観点で意思決定できるようになる。

「目先の業績を確実に上げたければ、将来への投資を減らせばいい。しかし、それではいつか必ず行き詰まる。企業が100年後も生き続けるためには、継続的にイノベーションが起こるような打ち手と将来へのバランスの良い投資を考える必要があるでしょう」と、表氏は言う。

イノベーションに必要なのは「オープン・フェア・ベスト」だという。「良いことも悪いこともすべてをオープンにし、議論を尽くした上で方向性を決める。決まったら、実現に向け全員がベストを尽くす」。人事も、それを実現するため攻め続けている。

【text:曲沼 美恵】

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.40特集1「新しい価値を生み出す人・組織づくり」より抜粋・一部修正したものである。

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